震動が止まってから清音と小椿によって浮竹の神掛に関する説明があった。最中、浮竹は霊王の依り代となり、頭部全体から霊王の右手を動かす根となっていた。
脈が震えるように身体全体をビクッと震わせている様は、目に入れるのも辛かった。
だが、自分の命をまさに削って尸魂界を護っている浮竹の行いは。決して無下にしてはいけない。
今こそ急いで門を作り、霊王宮のユーハバッハを止めないと。
「オラ喜助ェ!死覇装着てきたったで!ウチらの球早よよこさんかい!」
「皆さん・・・!」
仮面の軍勢が死覇装を着て戻ってきたところに加え、崩壊した天井からも声が聞こえてきた。
「フム・・・、招集があったから覗いてみれば、他人の研究室で随分と勝手な真似をしてくれている様だネ」
「涅隊長・・・!」
そのまま降りてきたマユリは技術開発局のキーボードへと向かい、浦原に対する不満をネチネチ言いながら厳重に閉ざされた壁を開いていく。
中にあったのは、何と霊圧の増幅器だった。
「口囃子隊長の力を無駄に消耗させるぐらいなら、此方を使う方がはるかに有益だヨ。何故霊圧の増幅器を用意しない?」
「そんなモノがあるなら教えといて下さいよ・・・」
「こんな事態になるとは予想もしてなかったものでネ」
十二番隊も結集して便利な道具が使えるようになったおかげで、門を創り出す速度も僅かに速くなった。
浮竹がいなくなったことで大きな損失が生まれる所だったが、機械に頼ることで死神側の消耗が減り、より効率的に門が作られていく。
「外形が出来ました!ここからは球の中央に霊圧を集中させて下さい!」
そう幸先が良くなったと皆が安心した瞬間。
再び震動が始まった。
「震動がまた・・・!」
「何が・・・何が起きているんだ・・・!」
ローズや浦原の声と同時に、霊圧探査に敏感な隊長格は別の力の流れを感じ取っていた。
上空から、浮竹に向かって更に強い力の流れが押し寄せていた。
「浮竹隊長!!危な――――」
隼人が振り向いた時は、丁度浮竹の顔面で霊圧が弾けた瞬間であり、そのまま浮竹は後ろへと倒れてしまう。
清音と小椿が支える浮竹から、霊圧が剥ぎ取られていく。
漆黒の霊王の力は、完全に浮竹の身体から離れてしまった。
霊王の右腕が、何かに吸い取られている。
霊圧の移動の仕方が、あまりにも不自然であったため、そう結論するしかなかった。
そして、瀞霊廷はほんの瞬きにも満たない時間で、闇に包まれることになってしまった。
*****
「暗い・・・まるで夜だ・・・何が起こったんだ・・・」
「何がも糞も無い、滅却師の仕業に決まっている」
浮竹の持っていた霊王の右腕は、一護が迂闊にも(といっても仕方ない)作ってしまった遮魂膜の穴を通っていったため、むしろ滅却師側が真逆の方向へと力を入れるだけで、浮竹への攻撃は容易だった。
そして今も、滅却師側からすれば、格好の標的だ。
だからこそ、砕蜂は動き出した。
突然作られた真っ黒な天蓋を破壊し、予期せぬ攻撃への備えを確実なものにするために。
「卍解 雀蜂――――――」
しかしその目論見も、敵方の妨害により止めるしかなかった。
四足歩行の小さな異形が、イナゴの群れのように上空から襲い掛かってきた。
「何だこいつらは・・・!」
命を持った煤のような生命体が、数億体もの群れとなって瀞霊廷へと舞い降り、死神に掴みかかって身体を噛み千切ろうとしているようだ。
一つ一つは足で踏みつぶせば簡単に死んでしまう程度のものだが、それが荒れた大海の波のようにうねって襲いかかってくれば、簡単には対処できない。
主に直接戦闘系の斬魄刀を持った死神が前線に出て、霊王の力の奔流を止めるしかなかった。
砕蜂、ローズ、朽木兄妹、阿散井、拳西、修兵が一度研究室から外に出て、機械の破壊を防ぐために一気に片付けようとする。
金沙羅や断風で生み出した爆発や、千本桜の凄まじい刃の流れである程度一掃できても、ちょっと時間を置けばまた黒い目玉の化物は襲い掛かってくる。
「これじゃあキリが無えぞ!」
上で聞こえた拳西の声に、居ても立っても居られず隼人は研究室から外に出て着地した、その瞬間。
忘れもしない、藍染惣右介の霊圧を感じてしまった。
*****
煤みたいな目玉の化物が霊圧によって圧し潰され、中の白い体液が飛び出していく。
異常事態に全員がそちらへ振り向くと同時に、因縁の声が耳に伝わってきた。
「滑稽だな。何をちまちまと刀で払っているのだ」
「・・・馬鹿な・・・・・・、お前は・・・!」
暗闇でうすぼんやりとしか見えなかった姿が、じわじわとこちらに近付いてくることによって明らかとなる。
「霊圧で一息に、圧し潰せば済むものを」
「貴様は・・・!藍染・・・!!」
無間で数万年投獄の罪に着せられた藍染が、何故か牢獄から出て瀞霊廷に現れた。
椅子に座り、拘束されているに代わりないものの、何をするか分からない最悪に危険な男が現れ、全員最大級に警戒する。
「久し振りだ、朽木ルキア。とは言え、護廷隊を離反して後、君と語らった記憶は殆ど無いのだが。ひとまず、副隊長昇格おめでとう。我々との戦いでの功績が認められて――――」
藍染の言葉は、突如彼の目の前に現れた死神によって打ち止められる。
「ルキアちゃんよりも先に挨拶すべき奴がいんじゃねえのか?」
「・・・・・・」
朽木ルキアに対しては興味を示し自ら皮肉るように昇進を褒めた一方、口囃子隼人が藍染の真正面に立ち、視界を塞いだ瞬間、藍染の表情は完全に消える。
それから一切表情を変えず、何も興味を示さない藍染に、隼人は尚も詰めていく。
「ほら、僕もう隊長だぞ。三席から隊長に飛び級。・・・右手に持った卍解だって、数日かけて会得した・・・」
「テメェが僕を殺してでも使おうとした卍解をな!!!!!!!」
ロッドを持った右手は真っ赤に染まり、強い力で握るあまり血がダラダラと零れていたが、そんな事に気付けない程に、今の隼人は身を焦がしてしまう程の怒りで占有されてしまっていた。
他の者が口を挟むことすら許さない程に、凄まじい剣幕で藍染への怒り、恨みを吐き捨てる。
「一体何しに瀞霊廷に戻ってきたんだよ!!!これから崩壊する世界を見て嗤いにでも来たのか!?今更のこのこ無間から出て護廷十三隊でも潰すつもりか!?」
「・・・・・・」
相変わらず機械のように口を閉ざし、隼人の方に目もくれない藍染に、少しでも動揺を生ませようと追い打ちをかけていく。
「知ってんだぞ!!!!あの時もし僕が卍解していれば、テメェは僕を殺して力だけ奪っていた事を!!羨ましいんだろ!?僕の卍解が喉から手が出る程欲しいんだろ!?」
空座町での戦いの時の目的を隼人が知っていた事に対し、藍染はぴくりと表情を動かした。
市丸含め、誰にも話していなかったものだが、きっと勘の鋭い斬魄刀が自身を狙っていることに勘づいたのだろう。
あの浦原ですらはっきりと知らなかったため、研究室の中からわざわざ外に出てきたくらいだ。
そして遂に、藍染は隼人にも言葉を向けたが、
「死人の卍解になど、私は興味無い」
まるで自分が既に殺したとでも言いたげな口ぶりに、怒りは更に激しいものとなった。
隊長格の誰もが初めて見る途轍もない怒り方に、止められる者はいなかった。
「ッ!!もっぺん言ってみろ!!!!あの時卍解について聞いてきたクセに興味無いだと!?ふざけんじゃねえよテメェ!!!!」
「止すんだ!」
だが、そうなる事を見越していた者も勿論いる。
藍染惣右介を無間から解き放った張本人・総隊長の京楽春水だ。
藍染の後ろから現れた京楽は、隼人の怒りを宥めることはしなかった。
止める京楽が理解できず、思わず眼を震わせて呼吸速度が上昇する。裏切られたというより、見捨てられたような気分だった。
隼人が訊いた事に、ありのままの事実が返ってきた。
「京楽隊長・・・貴方が藍染を解放したんですか・・・?」
「そうだよ。何故と訊くだろうから先に言うけど、彼の力が必要だと判断したからだ」
「な・・・!しかし!」
他の副隊長が口を挟もうとしたが、間髪入れず隼人の怒りは吐き散らされる。
「認められるわけ無いでしょう!?!?こんな奴の力を借りるなんて誰が納得するんだよ!!こいつと足並み揃えて霊王宮に突入ってか!?馬鹿な事言わないで下さい!!ここにいる死神ほぼ全員、藍染に一度は殺されかけてるんですよ!?」
「そうだね。ボクも藍染には歯が立たなかった。でも、霊王すら護り通せなかったキミ達が、今のままで敵さんを倒しきれると思うのかい?
「無理だよ。今のままじゃ護廷は護れない」
「でも、だからと言って藍染を解放するのは話が別です!!」
「そうだね。でも必要なんだよ。物分かりのいいキミなら分かると思っていたんだけどね・・・」
一呼吸置いてから、京楽は揺るぎない自身の考えを真正面からぶつけた。
「君は、いつまでも面子にこだわっているね。でも、面子じゃ世界は護れない。悪を倒すのに悪を利用する事を、ボクは悪だと思わないね」
「――――・・・、・・・・・・・・・」
心のどこかで、きっと京楽に言われた事を理解してしまっていたからこそ、隼人は反論出来なくなってしまう。
藍染という、絶対的な敵だった死神が解放されたから、どうしても認められない。
他の罪人であれば、力が必要とあらば納得するまで時間はかかるものの、ここまで反駁しないだろう。
そうして言葉に詰まった隼人に、藍染は以前のように、強い敵意を露にして声を発する。
「君はやはり、肝心な所で一歩核心に及ばないな」
「・・・今更何なんだよ」
「確かに私は君の力を欲していた。その為に破面を改造し、死体から生前と同じ力を生成して行使する術を編み出した。」
藍染の言葉から、白と戦っていた子どものような破面・ワンダーワイスの存在を拳西は思い出す。
確かに白はワンダーワイスを一度殺していたものの、死体となっても山本前総隊長の流刃若火の炎を全て吸収し、一気に破裂させた事で深手を負わせていたのだ。
既にその時は他の死神諸共藍染に斬られて地に伏していたが、総隊長と藍染の戦いは見ていたため、白の戦いは意味が無かったのかと舌打ちしたのを覚えていた。
「私は君を殺した後に破面の改造術を応用し、死体から引き出した卍解の力を使うつもりだった。今の君よりも最大限に有効活用して」
「・・・何を言いたいんだ」
「君はまだ、自分の可能性に気付いていないようだ」
そこから藍染は、今までの研究成果を明らかにするように、長々と話し続ける。
その内容は、その場にいた全ての死神を震撼させるに値する、衝撃的なものだった。
「他人の霊力に干渉し、自由自在に制御出来るのであれば、まず力の与奪、複製を行うだろう。好きな死神に好きな強さの能力を与え、敵が現れると問答無用でその力を奪い尽くしてから殺す事が出来る。自分の都合で隊長格相当の霊力の持ち主を増産し、不要な能力は一瞬で廃棄する。存在しない新たな能力を生み出す事もいずれ可能になる筈だ。能力を複数与え、一人で複数の斬魄刀を使いこなすことも出来るだろう。一人の死神に虚、滅却師、完現術師の霊圧を基に作った力を与え、混合すれば、
「君の力が開花すれば、真央霊術院は存在意義を失うだろう。それどころか、護廷十三隊ですら必要性を失う。君一人が、能力だけで尸魂界を象徴する死神となるのだ」
言葉を続けようとしたが、「そこまでだよ藍染」と打ち切ったことで藍染による能力考察がこれ以上明らかにはならなかった。
あまりの内容に簡単には理解できず、周囲にいた隊長格は皆黙るしかない。
大体こんな力だろうと想像していた隊長達にとっても、隼人の力は想定外の領域に入っていた。
一人の死神が易々と持つべきではない力。更木剣八とは違う意味で危険すぎる。
皆が黙り静寂に包まれていたが、打ち破ったのは隼人だった。
「・・・残念だけど、僕はそんな傍若無人な力の使い方はしない。この力は、皆を護る為に使う」
「君は、自身の力による瀞霊廷の発展を拒むか・・・・・・、到底、許し難いな」
「それで結構。昔の死神の廃れた講釈に惑わされて従う程にヤワじゃねえから。勝手に一人で怒ってろクソ野郎」
再び藍染が表情を無くすと同時に、藍染の目の前にいた隼人も瞬歩で後ろに下がり、皆のいた場所へと留まった。
尚も放たれる強い霊圧を感じ取った周囲の隊長格は、しばらく誰も隼人に声をかけられず、そっとしておくしかなかった。