ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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離反

「・・・そろそろ、両手の戒めを外して私をこの椅子から解放してほしいのだが」

「残念だけど、それはできない」

 

 

藍染に使うことの許された封印の鍵は、口・左目、足首だけで、それ以外の封印を外で解くことは許されていない。

中央四十六室の裁定で決まったものの、京楽自身も多くて3つだろうと考えていたし、むしろかなり寛大な処置と思ってもおかしくなかった。

3つを超えた場合、何よりも護廷十三隊の面々が反発してしまうだろう。今でさえ一悶着あったのだ。

せめてもの死神側への配慮として、これ以上封印を解くのは危険すぎた。

 

 

「君なら座ったままでも、この目玉の化物を()()()()でしょ?」

「今の私に、そんな力は無い」

「いや、君はやり遂げるよ。だって、君がただの小さな化物に何もせずにむざむざと自分の身体を齧られるのを、黙って見ているとは思えないって話さ」

 

 

その時には、既に藍染の上に洪水のような大量の目玉の化物が襲い掛かろうとしていた。

今までのようにちまちまと刀で払うなんて、到底不可能だ。

「あんなに大量に・・・!」と呟く声が聞こえたが、一副隊長の危惧など気にも留めず藍染は化け物の洪水を霊圧で撥ねつける。

 

 

「―――全く、やりにくい男だ」

「光栄だね、――――――――!」

 

 

総隊長として余裕を崩さなかった京楽は、異変に気付いた途端にハッシュヴァルトにも見せなかった形相で叫ぶ。

藍染の些細な霊圧の動きから、後に生まれる莫大な力の動きを読み取ったのだ。

それは、瀞霊廷で狛村を打ち倒した時と、本物の空座町にいた時に、一護に向けて放ったあの鬼道だった。

 

 

「逃げろ!研究室へ下がれ!」

「――――――破道の九十 黒棺」

 

 

皆一様に瞬歩の準備をしていたが、同じく藍染の霊圧の動きを察知した隼人により、研究室の外に出た隊長格全員が室内への空間移動(テレポート)で安全に逃れることが出来た。

天に空いた穴から、藍染の黒棺が重力によって時空を圧し潰している様子をまざまざと見せつけられるのは、非常に心臓に悪い。

その力を見て、改めて藍染を無間から解き放ったことに不信を抱くのは当然だった。

 

 

「―――わかっているのか、京楽。藍染を解き放った兄の行いは、我々への侮辱だ。藍染によって、誇りを奪われて尸魂界にいられなくなった者、精神を壊された者、・・・穴を空けられて殺されかけた者が此処にいる。・・・先刻の説明で、皆を納得させることは出来ぬ」

 

 

藍染が現れた直後は何も言わなかった白哉が、ここに来て京楽をきつく詰る。

自身の妹が殺されかけた経験がある以上、少しでも熱くなるのは仕方のないことといえる。

勿論、100年前のようではなく、先ほどの隼人のように怒りで荒れ狂うわけではないが。

 

 

「・・・わかってるさ。後で幾らでもブン殴ってくれ。瀞霊廷を護れたらさ」

「――――、・・・・・・」

 

 

白哉の言葉を聞いていた最中も、ずっと鋭い眼光で睨む隼人に、若干の当惑を見せながらも京楽は歩み寄り、被っていた笠をわざわざ取って声を掛けた。

 

 

「キミには、理解するのに時間が必要かもしれない、いや・・・・・・、わかりたくないのかもしれない。でも、これがボクのやり方さ。()()()()()()()()()()()()()()

「・・・・・・、分かってます。分かってるからこそ、悔しいし苛々するんです。僕の力だけじゃ、崩玉持ちの藍染の足元にすら及ばない・・・!」

 

 

卍解の杖を強く握る拳は痛々しく、霊圧も普段に比べて相当に乱れている。

殆どの者が初めて見る一人の死神の怒り方に近しい者ですら声を掛けづらいままでいたが、唯一その状況に納得する者もいた。

 

 

「――・・・あの時と、同じ・・・」

「・・・?あの時って?」

 

 

隣にいた七緒の疑問に、小声で彼女は答えた。

 

 

「清浄塔居林で、卯ノ花隊長と一緒に藍染と対峙した時です・・・。あの時、平子隊長達がいなくなった事情とか全部藍染の口から告げられて、口囃子さん、かなり堪えてたみたいで・・・」

 

 

100年もの間ずっと自分を押し殺し続けていた同期の死神が突然怒り狂ったのは、あまりにも衝撃的で勇音は簡単に忘れるなど出来る筈はなかった。

だからこそ、勇音は今の隼人があの時そっくりに危険な精神状態に陥っているのを遠くから見ているだけで感じ取った。

昔は卯ノ花の一喝でどうにかなったが、彼女は今いない。かといってそのまま放っておくのはメンタルケア上まずいため、丁度今話をしている京楽が何とかするのを願うしかなかった。

同期の自分が変に出しゃばるより、原因を作った本人がどうにかすべきというやや冷たい考えでもあるが、話しているうちに目つきは落ち着いてきたように見えるため、いつも通りに戻るのに時間は掛からないだろう。

悪い意味で安直で流されやすい隼人の性格は、この時に限って役立った。

 

大理石が割れるような音が上空から聞こえてきたと同時に、藍染の黒棺は周囲の漆黒を全て消し払った。

研究室から出てきた隊長格の面々は、皆一様な反応だった。

瓦礫すら跡形もなく圧し潰して消した藍染の圧倒的な力に、言葉も出ない。

浦原の言葉が、死神達に重くのしかかってきた。

 

 

「詠唱破棄の黒棺でこの威力・・・・・・、黒崎サンと戦った時よりも力が増しているかもしれません・・・」

「!・・・無間に捕われてる間にも強くなってやがんのかよ・・・・・・バケモノが・・・・・・」

 

 

身体から離れることの出来なくなった崩玉の影響か、藍染の力は無間で一切の身動きが取れない状態でも、飛躍的に上昇していた。

そして藍染はすぐさま次の行動に移す。

 

 

「今の黒棺の重力で天蓋に亀裂を入れた。君達が呑気に作る門とやらも、必要無い。霊王宮に用があるのなら・・・・・・、私が撃ち落してやろう」

 

 

藍染の身体を中心に霊圧の渦が巻き起こり、天に向かい鋭い形を作らんとする。

卍解での天蓋の破壊を目論んでいた砕蜂は驚愕し、藍染を見るしかできなかった。

今まで作っていた霊王宮への門は破壊され、完全に散ってしまった。

 

居てもたってもいられず止めに入ろうとしたルキアは、京楽によって止められたが、他の副隊長もそれを見て益々不信感を強める。

藍染の力は指数関数的に増大し、既に先ほどの黒棺に相当する霊圧が銃弾の形となって天を向く。

しかし藍染の霊圧はある点を超えた瞬間、黒棺が割れた時と全く同じ音を立てて四散してしまった。

想定外の事象に一番驚いたのは、言うまでもなく藍染本人だった。

 

 

「無理だよ。自分で言ってたろう?その拘束具は霊圧を消すんじゃなくて、近くに留めておく事しかできない。ただ、その“留めておく力”は、途轍もなく強い。これは尸魂界の技術力の結晶さ。嘗めてもらっちゃあ困る。だよね?涅隊長」

「・・・・・・フン」

 

 

そこからえらく饒舌になったマユリの説明が始まったが、対する藍染は聞いているのかどうなのかよく分からない表情をしていた。さして興味が無いのか、目を向けようともしない。

にもかかわらず、マユリの言葉に区切りがついたと思うや否や、藍染は再び莫大の霊圧を生成し、すぐに巨大なエネルギーを再生産する。

 

 

「ならば、君の技術と私の力、どちらが上か比べるのが筋ではないか?今のままでは拘束具が壊れるぞ。・・・・・・どうした、私に負ける事に怖気づいたか」

「・・・・・・、」

 

 

一切返答しないマユリを一瞥してすぐに、藍染の力は別次元へと達する。

霊圧が生み出す余波に耐え切れず、外にいた副隊長は全員研究室内に避難せざるをえなかった。

隊長であっても、普段通り立てる者は殆どおらず、腕で顔に当たる風を防いだり様々な防衛行動を取っていた。

 

だが、いよいよ霊圧の塊が射出されようとした瞬間、藍染の身体に異変が起きた。

 

 

「!!・・・この感覚・・・!」

 

 

藍染の意に反し、生み出された霊圧はあっという間に力を失って塵と化して全て消えてしまう。

マユリの作った拘束具による反応ではない。藍染の身体に直接、第三者が介入して力の生成を妨害された。

空座町で味わったほんの僅かな感覚が、特大のものとなって襲い掛かってきた。

 

今まで自分から殆ど見向きしなかった相手に、顔を歪めて強い敵意を向ける。

封印される前に、藍染が浦原にぶつけた怒りの眼と全く同じ眼をしていた。

ほんの一瞬の、明らかな動揺に気付いたのは浦原だけだった。

 

 

「生憎だけど、万が一尸魂界の技術力の結晶が壊されようと、君に霊王宮を落とすのは無理だ。分かるだろう?君がどれ程の力を使おうが、口囃子隊長にかかれば君の霊力に干渉し、一時的に技を消すことが出来る。それは()()()()()()()()()()()()

「・・・ああ、戒めが無ければ、今すぐにでも殺していたさ」

「・・・これでいいかい?隼人クン」

 

 

かねてからずっと望んでいた藍染への復讐。

崩玉のせいで殺すことは出来ず、ましてや打ち倒すなんてことも力の差が開きすぎていて不可能だ。

だからこそ、藍染のやろうとした目論見を妨げることしかちゃんとした復讐にはならない。

そもそもこれが復讐になるのかは分からない。

 

それでも、一瞬だけ藍染の表情が大いに崩れたのを見ただけで、何だか今まで復讐に執着していた自分が馬鹿らしく感じてしまった。

変えられない過去に囚われて、その存在に心を惑わす事が、どれだけ虚しいことなのか。

どんなに苦しみ、怒ろうが、藍染は無間で生き続ける。嫌だからという理由で、消すことは出来ない。

マユリと藍染が話していた時に、京楽から次に藍染が攻撃の意思を見せた時に復讐ついでに妨害してくれと言われて、内心出来るかどうか不安だったが、いざ成功すると復讐を果たした気分になってしまった。

何より、藍染の表情を崩した姿を一瞬自分の眼で見た瞬間、これ以上の復讐は出来ないと分かってしまったのが大きいだろう。

 

 

「・・・はい。今後一切、藍染惣右介に干渉する気はありません。何だか、つまらなかったです」

「・・・つまらないだと?私を―――――」

 

 

藍染の言葉は、突然飛んできた霊子の銃弾と、U字型の霊子の圧力によって押さえつけられてしまう。

霊圧からして滅却師のものであることは明らかで、全員が飛んできた方向に目を向ける。

 

 

「おっとォ!あんたの霊圧は十分観察させてもらった・・・」

 

 

特徴的な歯の滅却師は、確か拳西にふっ飛ばしてもらった筈だが、仕留め損なったようだった。

体内の霊圧を爆発させたにもかかわらず、生き延びていたのは余程の生命力があるように見える。

ちょっと間の悪い顔をする拳西を心の中で笑いつつ、ナジャークープが大声で喋っているのをお構いなしに、再び彼の体内を流れる霊圧を麻痺させた。

 

 

「その穴を、突いて拡げッ、―――――!」

「!!」

 

 

だが、ナジャークープが動きを止めた瞬間、やや後ろに控えていたロバートが拳銃で数発彼の身体を撃ち抜いてしまった。

突然の仲間割れに、死神全員訳も分からず足を止める。

戦闘態勢を作ろうとした京楽は刀から手を離し、ここにいる者を代表して疑義を向ける。

 

 

「・・・どういう事だい?」

 

 

拳銃をしまったロバートの後ろから、更に3名の星十字騎士団が姿を現すが、全員から少し前までの敵意を感じられなかった。

ロバート、バズビー、リルトット、ジゼル、全員が武器を持たず、丸腰の状態である事からも、今のところ彼らが戦うつもりではないように見える。

ナジャークープを撃ち、一度は京楽とも戦ったロバートが、滅却師側でも最も年長者であったため、代表して口を開いた。

 

 

「手を貸しましょう」

「・・・・・・!」

「理由は簡単です。私達と貴方達の利害が一致したから。“見えざる帝国”は瀞霊廷の影の中に存在する以上、瀞霊廷の崩壊は私達の国の崩壊にも繋がります」

「それの何処が、我々の利害と一致するのかネ?今の滅却師の親玉ならば、一つの国が壊れようと、数分あれば復元する力がある筈だヨ。俄には信じ難いネ」

 

 

マユリの糾弾に対しては、後ろにいたバズビーが前に出てロバートに比べると粗暴な語り口で答えた。

 

 

「俺達は信じろとも一方的に協力するとも言ってねえ。見返りをよこせって言ってんだ。俺達は、霊王宮への門を造るのに協力する。その見返りに、俺達も霊王宮へ連れて行け。俺らを見捨てたユーハバッハを、ブチ殺しに行くんだよ」

「・・・・・・成程ね。・・・みんなァ、いいかい?」

 

 

京楽の呼びかけに対して、何とも言えない張り詰めた空気が流れる。

数刻前まで戦っていた相手との呉越同舟は、嫌な死神にとっては地獄に等しいだろう。

誰かが言うのを探るようにしていたら、

 

 

「何だい、誰も何にも言わないの?じゃあボク達死神に一切危害を加えないという条件付きでもいいかい?」

「オレ達を上に連れてくれんなら何でもいいぜ。ジジはオレが見てるから大丈夫だ。誰もゾンビにはしねえよ」

「えっ、ちょっと、リル聞いてな」

「ならば私も異存は無いヨ。勝手に血液を付着されてゾンビ娘の傀儡となるなんてお断りだヨ。まぁ私のような高潔な精神の持ち主であれば、下らんゾンビになる事など決して無いがネ」

「・・・・・・じゃあ、試してみよっか?」

「止めておけ、時間が惜しい」

 

 

柔軟な京楽の取り計らいによって、死神達の有無を言わせずに滅却師と手を組む事になった。

少々問題がありそうな所もあるが、ここに来て相手の素性は関係ない。勝つために、使える力はとことん使うしか無かった。

 




原作ではロバートは聖別に完全にやられますが、今回は光が身体に直撃せずに生き残りました。
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