祭壇壁に浮かび上がった銀色の文字は、滅却師の国なのに日本語で記されていた。
星十字騎士団の面々も何故か日本語を喋っていたので分からなくもないが、石田の扱う技は浦原曰くドイツとかいう西国の言語であるため、そっちの言葉でないことは意外に映った。
だが、彼らの目を引いたのはその内容だった。
「“封じられし滅却師の王は 900年を経て鼓動を取り戻し 90年を経て理知を取り戻し 9年を経て力を取り戻し 9日間を以て世界を取り戻す”」
「滅却師の王って、下でパイン頭が言ってたユーハバッハの事ですよね・・・?」
「・・・、まぁ、そうだろうな」
「この最後の9日間が、丁度今ってことなんでしょうか・・・」
「じゃあ、予言ってこと・・・?」
一気に謎解きモードに入ったが、頭脳メンは誰もいないため結論は何も浮かばず、ずるずると時間を無駄にしてしまっている。
何が何だかさっぱり分からないため、無鉄砲にも再び壁に霊圧を籠めることにした。
すると。
「なっ、何でしょう・・・?白い像・・・?」
壁の一部が横にスライドして穴が生まれ、奥から現世にある観音様の像が出てきた。
右手には滅却十字を持っており、両肩の布地にも同じ物が刻まれているようだ。
西洋の聖堂だったり、観音様が出てきたり、混沌としていて理解が追い付かない。
だが唯一分かったのは、これが奇妙な霊圧を発する物体である事だ。
「この像の力を無力化すれば、霊王宮は元に戻るかも・・・?」
「だったら一気に壊すか?どうする?」
「目立たないようにやっちゃいます?」
「うん、そうしましょう!どちらがやりま「何をしている?」
「「「!」」」
反射的に背後に障壁を展開し、力を注いだまま一気に振り返る。
両隣の拳西と勇音も、臨戦態勢を一瞬で整えて振り返る。
少し距離を取って立っていたのは、現世の高校生達と袂を分かった石田雨竜だった。
だが、それにしては以前のような敵意は感じられない。
霊子兵装も持っておらず、見た限りでは丸腰同然だった。
突然の声にもビックリさせられたが、そこまでとげとげしくないのもあり、作り上げた鬼道の壁を一旦打ち消した。
「こっから変な霊圧出てるから消しに来たんだけど」
直球ストレートで目的を伝えたが、石田の顔は特に変化を見せない。
それどころか、丸腰で歩み寄ってくるではないか。
「えっ、ちょ、何!?」と思わず言いながら手を前に出したが、無視して石田は白の大理石像の前で止まった。
跪いてから、石田は鬼道の詠唱のように言葉を唱え始める。
「なっ、何でしょうか・・・?」
「さぁ・・・僕にはさっぱりわからん・・・」
日本語なので言葉自体は分かるが、突然現れた男が呪文を唱えるという変な状況は、ついていくのも難しい。
勇音も拳西も、困惑した顔で石田を見ていた。
そして詠唱が終わると同時に、大理石像から一切の霊圧が失われた。
「これでいいんだろう?今すぐこの場から離れてくれないか」
「ちょっと待ってよ。事情説明してくれない?僕達何にも分かってないんだけど。ねえ、滅却師側についてるんじゃないの?」
物凄く嫌そうな顔を向けてきたが、仕方ないと言って一旦盛大にため息をついてから石田の事情説明が始まった。
「君の言う通り、この像の力を無くせばいずれ霊王宮は元に戻る」
「!! じゃあ、あと5つの場所に行けば!」
「でもそれだけでは無理だ」
「・・・結局、何がどうなってんだよ」
いつになく眉間に皺を寄せた拳西を見ても、怯むことなく石田は事情を説明した。
曰く、5つの地点を潰そうとも、大元のユーハバッハを倒さない限りは霊王宮が完全に元に戻る可能性は低い。こればかりは仕方ないだろう。何せ街を丸ごと作り上げたのがユーハバッハだし。
また、今の場所を含めて6つある霊圧地点は、石田雨竜、ハッシュヴァルト、4人の
死神達が現在いる場所は
「死神がこの像に気付いて無力化すれば、像に対応した滅却師は重大なダメージを受ける筈だ。僕は護廷十三隊がこの地点に降り立ったのを知って真っ先にここに来て、自ら霊王宮からの力を捨てる事を選んだんだ」
「霊王宮からの、力・・・?」
「尸魂界とは別に、霊王宮にも独自の霊脈が流れている。ユーハバッハはそれを掌握して霊王宮の霊子を操り、君達は霊子を自由に扱えなくなっているんだ」
死神からの力の干渉でなく、滅却師が自分で操作をすれば害も無く霊脈との繋がりを断ち切れるが、死神に力を止められた場合、石田の予想では体内の臓器がいくつか潰れる程のダメージを受けると見ているようだ。
重大な霊脈の力をそのまま滅却師に繋ぎ合わせているため、力を強引に断ち切られた時の攻撃力が凄まじいものになるのは隼人にも納得がいった。
現在、石田と無理矢理繋がっていた霊圧は存在を失っているため、2番枝街に限って霊脈の状態は元に戻っているようだ。
他の霊圧地点も無力化していけば、霊王宮の状態は以前のものに戻っていき、最終的に真世界城は崩壊する・・・と石田は考えている。
しかし、それはかなり物事を楽観的にみた希望的観測であるらしい。
霊子を分解・拡散する小さなチップを真世界城だけでなく、霊王宮中に撒き散らすことで、元々空に浮かんでいた零番離殿以外の構成物質を全て崩壊させるつもりだった。
「霊王宮を崩壊させるっつってるけどな、零番離殿がそのまま残る保証はあるのかよ?」
「それは・・・・・・、元々空中に浮かんでいた物体が、一度霊子分解した所で完全に落ちるとは思えない」
「保証はあんのか?お前一人の策のせいで、霊王宮だけじゃねえ、瀞霊廷も全部崩壊する可能性があるんだぞ?」
「なら君達は、霊王のいた場所が滅却師一人の小道具で簡単に落とされると思うのか?」
どちらの言い分も間違っている訳では無く、これ以上言い合いを続けていると埒があかなくなる。
石田も意見を簡単に曲げるようには見えないため、言葉に詰まる拳西に止めましょうと言って一先ずこの話を強引に終わらせた。
今の石田の言葉に無理に反論しては、死神の面子が丸潰れになる予感がした。
「じゃあ、一護くん達に・・・は、自分の口から言った方がいいか」
「くれぐれも、僕がここにいた事は内密に頼むよ。他の滅却師にもね」
「うん。僕達はここで会わなかった、それでいい?」
「ああ。だから今すぐ立ち去って次の場所にでも行ってくれ。ここにはもう二度と足を踏み入れるな」
結局追い出されるような形で、死神3名は聖堂を後にした。
*****
「次は・・・、時計回りに行きましょう。一護くん達と合流できそうです」
「本当ですか!それなら安心できそうですね」
さっき石田に見つかってしまった以上、このまま3人で行動する事に無駄なリスクを負う事になってしまった。
あのような言葉を喋っていたが、こちらに近付くフリをして実は滅却師に密告しているかもしれない。
それに、高濃度の霊圧の持ち主があまり同じ場所に留まるのはどちらにせよ良くない。
目ざとい滅却師に見つかれば、嫌な展開が待ち受けるだろう。
「違法行為ですが・・・手っ取り早く空間移動しましょう」
「慣れたモンだな」
「止めて下さい手癖悪いみたいな言い方!」
そんなこんなで不満を言いつつテレポートした先では、まさに一護達がグリムジョーを完全に見失って途方に暮れていた。ナイスタイミング。
「うぉっ!!!口囃子さん!?に拳西も!!」
「俺はついでかよ!!」
「あ!勇音さん!お久し振りでーす!」
「織姫ちゃん!久しぶりだね!」
一護から存在をいい加減にされがちな拳西はまたも怒り、久々の邂逅に勇音と井上は喜色を浮かべる。女子高生同士の会話みたいだ。片方は現役だが。
藍染との戦いの後に四番隊の手伝いを積極的にしていた井上は、治癒能力の高さから花太郎よりも勇音と関わる機会が多く、四番隊では彼女が一番素のままで話せる存在となっていた。
電子書簡越しでの会話が殆どだが、それでもルキアに会いに行った時は毎回顔をだしているようだった。
「突然勇音さんが現れてビックリしちゃったよ~!でも何で?」
「ム・・・、まるで、テレポートだったな・・・」
「あ、それはえーっと、・・・口囃子さんから説明してもらいましょう!」
「面倒臭がったでしょ勇音さん・・・」
え~~・・・とは言ったが、拳西からの無言の圧力もありかくかくしかじか説明する。
石田から得た詳しい情報は伝えず、隼人があらかじめ考えていた推測を伝えたため反応はイマイチだったが、「どうかついてきてもらえないでしょうかぁぁっ!」と深く頭を下げたら、夜一の独断で彼らも同行することになった。
「わしらも護廷十三隊と同じでそのままユーハバッハを倒しに行くつもりじゃからな。準備が必要ならやるに越したことはない」
「ついでにグリムジョーも探すか。ったくあいつ何処行ったんだよ!」
「ごめんね一護、グリムジョーったらほんと野生動物みたいっていうか・・・」
「そうだなぁ、ネルもあいつの面倒見るの大変だな」
「そうなんだよ!いっつも一人で勝手にどっか行っちゃうの!」
「・・・・・・・・・、」
一護達の前に移動してきた時から気付いていたが、現世組の面々に一人だけ、破面が混じっていた。彼女はどうやら一護の味方であり、藍染戦の後に見た破面のデータからも、死神側に全くもって敵意を抱いていないことは分かっていたため、こちらからも交戦するつもりは毛頭ない。
だが、彼女が一護に向ける視線は、女の子が普通に男友達に向けるものではない。
積極的で果敢にアタックする女性破面の目から、一護を深く慕っているのはすぐに分かってしまった。
同じことに気付いた勇音は、「大変だね、織姫ちゃん・・・」と小声で耳打ちしている。井上の目は言うまでもない。普段の性格から考えられない、何してくれてんだテメェというような憎しみの目を向けている。
ちゃっかりネリエルと仲良く話す一護は、天然の女たらしなのだろうか。
その様子まで見た隼人は、一護に向かって失望の目を向ける。
たかが18の甘ちゃん男に、人生経験で完敗した。
「――――――、って、どうした?口囃子さん」
「・・・・・・・・・消えればいいのに」
「ん?何だよ?よく聞こえなかったぜ?」
「いや、何でもないよ!思い違いしていただけ。ほら行こう行こう!夜一さんも行きますよ!」
快活な調子で場を盛り上げたにもかかわらず、いざ向かっている最中はずっと脇に避けていた拳西の隣で落ち込んでいた。
石田の霊圧地点の建物は、長崎のキリスト教会をモチーフにしています。国宝か世界遺産か何かの建物だったはずです。