2つ目の霊圧地点も何だか厳かな建物だったが、さっき石田と出会った建物に比べると途轍もなく大きい。
それどころか、大小2つの建物が繋がっているようだった。
「何じゃこれは・・・、やはり瀞霊廷や現世とは全く違うのう」
「歴史の授業で似たようなの見たことあるなぁ・・・」
夜一と井上がざっくばらんに感想を呟いている横で、隼人は霊圧が放出されている正確な地点を見つけ出す。大きい建物の奥の方にあった。
だが、
「どっから入るんだコレ・・・?」
「ですよね・・・。ドアも何もないただの壁だから、下手に空間移動してコンクリートにめり込んだら一発で死にますよ」
「じゃあ、隣の小さい建物から入る必要があるんでしょうか・・・」
勇音の指差した建物も、最初の石田と遭遇した聖堂に比べると明らかに大きいが、それすらも凌ぐ目の前の建物の大きさは、圧巻の一言だ。
周囲を歩き回るだけで30分以上かかるだろう。隣の建物まで移動することすら億劫に感じる。
「あっちこそ入れんだろうな・・・?入口無かったらどうすんだよ・・・」
「でも、こういう時って大体あっちから入れるのがゲームの定番だよね~」
「ゲーム基準で考えてんのかよ!」
一護の友人にもRPGを数日でクリアした猛者がいるが、いくらゲームが好きでも思考回路までもがゲームに毒されているわけではないため、今の隼人の発言は中々に心配させてしまうものだ。
ゲームで起こる事を現実のように捉えている部分が言葉の断片から窺えてしまうため、うるさいあの友人がマシに思えてくる。
そもそも隼人は現世のゲームを基にして自分の技を作ったりしている時点で、かなりゲームに毒されていた。
一護のツッコミから隼人は一層目を輝かせ、ついつい早口になってしまう。オタクそのものだ。
「そうそう!今の僕たちってさ、何かゲームのパーティーみたいだよね!主人公は一護くんにして、拳西さんと茶渡くんと、ネル?さんと、・・・・・・誰?」
「志波岩鳶ですゥーーーーーーー!!!」
「あ・・・、ああ、分かる分かる!この4人が、パワー系のダメージ要員で、夜一さんが先手を取れる素早さ担当で、勇音さんと井上さんが回復要員で、僕が魔法アタッカーでバランス取れていいなぁーって思ってたんだよ!今の状態もラスボス前のダンジョンって感じですげぇ興奮するんだけど!」
「「「・・・・・・・・・、」」」
一護や岩鷲はドン引きし、勇音と井上は苦笑い。寒い空気が一気に流れ込んでくる。
何を言ってるのか分からないネリエルなどはきょとんとしていた。
冷静な小言が毎度の如く飛んでくる。
「それ以上言うのは止めといた方がいいぞ」
「・・・自重します」
こういった感じで暴走した時は、毎回顰蹙を買っているのである。
*****
小さな聖堂へと向かって行くと、2人程度しか入れない程の小さな入口を見つけた。
建物の割に入口が小さいのが気になる。肩幅が広いと1人しか入れない。
「前に入った建物って、どんな感じだったんだ?」
「うーんと、海外の、宗教の施設?みたいな建物だったよー」
「へぇー、まんま歴史の建物だな・・・」
「でもこんな入口狭くなかったんだけど―――――――」
一護と喋りながら中に入った瞬間、思わず言葉を失った。
建物の中は、壁と天井一面に、見たことも無いような美しい絵画が描かれていたのだ。
敵が創り上げたものであるにもかかわらず、あまりの美麗さに息を呑み、目を離さずにはいられない。
「すっげぇ・・・」
「何だこれ、ユーハバッハの人生か・・・?」
連作でユーハバッハの生涯が天井に描かれており、やや端に寄った部分には他の滅却師が描かれている。
星十字騎士団の面々も描かれており、見たことある顔がちらほら描かれていた。
生まれて間もない赤子の時から、最後は全世界の王にでもなるのか、まるで西洋神のような存在となっていた。
天井画を見ていた勇音が、ボソッと呟く。
「さっきの歌・・・この絵のことを言ってるのかな・・・」
「言われてみりゃあそうだな・・・」
「9日間・・・!」
ラスト2つの場面は黒装束の死神を滅却師が無残にも蹂躙する様が描かれており、”The Last 9 Days, We shall regain the world.”と英文で記されている。
意味を理解した一護は、怒りで眉間に深い皺を寄せる。
「世界を取り戻すだと・・・?元々テメェのモンだってつもりかよ・・・!」
「でも、これが滅却師のボスの人の予言だとしたら、本当に実現させちゃうのかな・・・?」
「させねえよ・・・、ユーハバッハの思い通りになんかさせるかよ・・・!」
「黒崎くん・・・」
ユーハバッハに強い敵意を見せる一護が、隼人にとってはまるで数年前の自分に見えてしまう。
その時の隼人に比べれば今の一護はまだまだ落ち着いてはいるので落ち着かせる必要は無いが、今からずっと張り詰めていては敵との戦いの前に精神面で疲れてしまう。
「そうだね・・・、でも一護くん、大丈夫だよ。皆がいるから。現世の仲間もいるし、護廷十三隊もいる。背中を任せられる仲間がいるとね、すっごく気持ちが楽になるよ」
あの時たった独りで藍染とタイマンしたのを今思い出してみると、必要以上に心を締め付けたせいで相手の実力を見誤り、鏡花水月に嵌って殺されかけてしまったように見えた。
こんな破滅の道は、絶対一護が歩んではいけない。
一人で思い詰めるのではなく、仲間と共に立ち向かっていくのであれば、自分みたいな事にはならずに済むのではないかと思ったのだ。
「だから、今一緒にいる仲間をもーう滅茶苦茶大事にしよう!弱音だって吐きたいときは吐いちまえ!僕なんかもう、ねぇ!うん!」
「いや気になるじゃねえか!」
とは言ったが、一護もそれ以上詮索するつもりはない。
今現在隊長羽織を着ていることが、狛村や射場の死を遠回しに示すことになっているため、下手に触れて一回目の戦いの後みたいな状態になられると大変だ。箝口令みたいなものだ。
えへへーと笑っているが、心中では苦しい気持ちを無理矢理押し殺している可能性だってある。
「困ったことがあるんなら、僕だって頼っていいからね?溜まった鬱憤を晴らす壁になら喜んでなってあげるよ!」
励ます言葉でありながら、まるでSOSを求めているかのようにも見える。
心からの笑顔が、以前拳西の背中で号泣していた姿に何故か投影されてしまい、簡単に撥ねつけてはいけないような気分になった。
「わかったよ。嫌だっつったらうるさそうだしな」
「・・・・・・君も結構言うようになったね」
「うーーーっ!?何だその顔!」
「さあ、何でしょうねぇ~?じゃ!」
と言った隼人はそのまま奥へと走っていき、大理石でできた低い柵を不良高校生みたいに越えて奥の祭壇へと向かって行った。
柵から飛び降りる時に着地に失敗して情けない悲鳴を上げていたのはどうかしてほしいが、さっき僅かに映った泣き苦しむ姿は消えており、それだけでこっちが安心した。
「迷惑かけて悪いな、一護」
「別に構わねえよ、お父さ「ぶん殴るぞ」
「・・・止めてくれ」
ゴリラみたいな筋肉の持ち主に殴られた場合ひとたまりも無いだろうなぁとぼんやり考えていたら、向こうで動きがあった。忙しない。
「あぁ~~!!階段が出てきた!地下通路だ!マジでゲームみたいじゃんやっば!!!」
どうやら祭壇から僅かに霊圧反応があったらしく、波長に合わせて霊圧を注入してみたら、隠し通路に繋がる階段が出てきたようだった。
何となくやってみたら上手くいったらしい。こんないい加減なやり方は後々不安になってしまう。
「行ってみましょう!」
「大丈夫かよオイ・・・」
「罠の可能性を考えておるのか?隼坊」
死神の年長組2人からあまりにも怪しさ全開の通路を懸念されるが、この状況で戻るという方が馬鹿だろう。
石田が自分で止めた霊圧地点と同種の霊圧は通路の先から感じられるため、罠があろうと乗り越え、霊脈を取り戻さねばならない。獲物は近くにある上に、最強の死神代行がいる以上、引き下がるのは勿体ない。
「罠なんて、拳西さんに夜一さん、一護くんがいれば余裕じゃないですか」
「わしらを口で使おうとは・・・お主もなかなか肝が据わっておるのう」
「出来ないんですか?」
「誰に向かって言っておる!一護、行くぞ!」
「ぐえぇっ!!!襟引っ張んなっつってんだろうが!」
お得意の瞬歩で夜一が先陣をきったおかげで、他の面々は特別前を警戒せずに済んだ。
夜一と引っ張られた一護が先頭にいるため、名指しされた拳西は巻き込まれるのを恐れて下手に動かずにいた。
突き刺さる視線を感じる。
「・・・何が言いてぇんだ」
「そこは、『俺も行くぜ!』的な感じ出さないんですか?」
「面倒事は御免だ。つーか夜一だけで十分に決まってんだろ」
「まぁ、そうですけど・・・一護くん苦しそう・・・」
思いっきり襟を引っ張られていたため、首は相当締まっていた。あの細腕で一護の身体を摘まんで引っ張り出せる夜一は流石としか言いようがない。
そして、罠は何も無かったぞ!!と夜一の凛とした大声が聞こえてきたため、残っていた死神達は全員安心して最奥まで進み、地下通路から途轍もなく広い聖堂の内部に出ることができた。
「うおぉ~~・・・広いなぁ」
発した些細な声すら広い空間に響き渡り、草履の擦れる小さな音ですら増幅されて耳に入る。
言うまでも無く今まで見てきた中で一番大きい建物に入っており、瀞霊廷の平屋の建物とは全く違う豪華な宮殿みたいな内装だ。
丸天井やガラスの窓から光が差し込み、中にある彫刻や絵画などこれまた美しい美術品が照らされている。
「大前田が欲しがりそうだな」
「チョチョイのチョイで買いそうですよねぇ。拳西さんはどうですか?筋トレの道具になりそうですよ?」
「買うわけねぇだろ・・・こういうのは夜一が買うモンだ」
「わしの趣味には合わん。誰にでもくれてやるわ」
「太っ腹ですね~」
三人の世間話も聖堂中に響き渡り、気持ち悪いような気味が悪いような、不思議な感覚だ。
見慣れない建物に、全員がきょろきょろして周囲を見渡すのも滑稽である。
敵がいないのが幸いだ。
「あ!霊圧出してるやつ見つけましたよ!」
そして、またまた聖堂の最奥にある祭壇に白い像を見つけ、隼人は一人で走っていく。
像の両側に3つずつ蝋燭が立っており、1本だけ火が消えている。
手で強く風を起こしても全く消えないため、きっと霊圧がエネルギーになっているのだろう。
消えた1本はおそらく石田の聖堂を指しているため、ここの霊圧を止めても蝋燭は一つしか消えない筈だ。
「さっきと同じですね。でも、口囃子さんはどうやって止めるんですか?」
「・・・霊圧で操作して止まればいいんだけど・・・」
「あぁ?口囃子さん、1つ止めたっつってたから同じやり方でいいんじゃねえのか?」
「さっきはね、い――――・・・、えっと、まあ、時間掛けて何とかした!」
危うく石田の名前を出してしまい、彼からの言いつけを破る所だった。
そうでなくとも、滅却師側についた石田と会ったと言ってしまえば、現世の面々が気まずい空気になるのは目に見えている。一護あたりは、何処にいるんだと恐ろしい剣幕で詰めてくるだろう。
あぁ、ヤバい。不審な目で見られている。今の石田の居場所なんか知らねえよ。調べれば一発で出てくるけれど。
隠し事が下手な自分がこの上なく憎い。
「なあ、口囃子さんなんか隠し「時間無えからやるぞ隼人」
「あぁっ、はい、そうですね。時間無いですね!」
一瞬だけ一護の顔を見たら明らかに睨んでいたが、ごめんよと心の中で詫びを入れて大理石の像へと向き直る。
卍解の宝珠杵を取り出し、さっきの石田のようにまるで祈りを捧げるような姿勢をしつつ、霊圧を調整し始めた。
(やっぱ死神がやると難しいのか・・・?)
思った通り、滅却師の作り上げた特殊な霊圧は身体に合わず、上手く波長が合わずに苦戦する。
今までに読み取った滅却師の霊圧を思い起こして合わせてみたが、どうやら彼らの霊圧とも若干違うことが分かり、更なる微調整が必要だ。
針の穴に糸を通すような非常に細かい作業が求められ、イライラしながら何度も挑戦する。
「おい、まだかかんのか?」
「あとちょっと!でもこれが難しいんですよ・・・!」
うーーとかあーー!とか唸ったり叫んだりしながら何度も再挑戦を続け、10分近く経過。
遂に我慢の限界を迎えた夜一が、暴挙に出てしまった。
「もう我慢ならん!!こうすればええんじゃ!!!」
「えっ、ちょっと!」
隼人を横に力強く押しのけた夜一は、そのまま右脚を蹴り上げて大理石像を一瞬で粉々にしてしまった。
せっかちの域を優に超えたとんでもない行動に、その場にいた全員が固まり、冷や汗を流す。
「あ・・・あぁぁ~~~~!!!!!」
「変な儀式など要らぬ。こんな石像はぶち壊してしまえばいいんじゃ。のう、一護――――」
まるでストレス発散をしてスカッとした調子で夜一が振り向いた瞬間、彼女はすぐさま戦闘態勢を取る。
つられて全員が夜一と同じく後ろを見ると、その先には何故か
大きな建物はバチカンのサン・ピエトロ大聖堂で、小さな建物は隣接するシスティーナ礼拝堂がモチーフになっています。あの天井画とかのやつです。指のやつです。