ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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白打

「えっ・・・ちょっと、そんなに、怒らなく、ても」

「もうちょっとやり方考えろよ!!!」

「あはは・・・ごもっともです・・・」

 

 

血気盛んな一護相手に口で止めることは出来ないだろうという先入観があったため、強行突破で体当たりしてナックルヴァールの攻撃から一護を護ったのだが、全体重が横からのしかかってくるのは途轍もない衝撃で、最悪どこか骨が折れてもおかしくない。

むしろ、一護だから無事で済んでいる。

 

 

「敵の攻撃受ける前に味方にやられる所だったぞ!雑すぎんだろ!!」

「返す言葉もございません・・・」

「せめて口で指示出してくれよ!俺だって避けろって言われたら避けられたぞ!」

 

 

という一護の言葉に対しては、間をあけた後にしっかり疑義を示した。

 

 

「・・・え~?それは本当かな~?僕が指示して止まらなくて、あの攻撃喰らって毒にやられて地べたにビターッて倒れたりしない?」

「絶対ねえよ!!普通ありえねえだろ!」

「絶対?普通?そんなのアテになんないよ」

「なっ・・・」

「そういう決めつけ本気にしたら、いつかすごい後悔するよ」

 

 

冷めた目をした隼人の姿を見て、一護は何も言い返せなくなる。

昔一度喋った時、尸魂界でお礼を言われた時や、今日会ってからしばらくの会話の中でも、全く見せなかった表情だ。

失ったことを不必要に受け入れすぎたが故に作られた、怖さも怒りも全く見られない澄み切った諦めの目に見えた。

投げ捨てるような言い方からは、温かみなど微塵も無い。

 

固まってしまった一護に、今度は隼人が慌てた。

 

 

「って、変なこと言ってごめんね!力確かに強すぎたよな、もうちょっと僕も考えればよかったよ!」

「あぁ、いや・・・」

「でも」

 

 

耳の穴をほじってぼーっと空を見るナックルヴァールを一瞥してから、振り返って一護に事情を説明した上で頼みを入れた。

 

 

「あいつとは一回戦って見事に負けてるから、どんな力使うかは分かるんだ。むやみやたらに近づいたら確実に死ぬ。経験的に一護くんより僕の方が相手を知ってる。だから、ここは一旦預けてくれよ。・・・井上さん人質に取られてコノヤローって怒る気持ちも受け取ってあげてもいいんだよ?」

「ッ・・・うるせえよ」

 

 

ちょっと顔を赤くした一護の姿は他の面々には見られていないが、ビクッ!とはしたため夜一あたりにツッコまれるだろう。

思わず吹き出しそうになったが、ニッと笑うに留めて一護の肩を叩き、「あとは全部任せてよ」と言ってナックルヴァールと改めて向き合う。

 

 

「お?一人で背負って立ち向かうってか?カッコイイねェ」

「本気で思ってんの?顔からしてそう見えないんだけど」

 

 

一護からの説明を受けた現世組(と数名の死神)は、そのまま隼人を置いてグリムジョー探しと真世界城へ走っていく。

頑なに残りそうな拳西がそのまま置いていったのはちょっと意外だったが、残られるとナックルヴァールとは相性的に最悪なので、むしろこの場にいない方がいい。

だが、相対するナックルヴァールは、以前使った毒入りプール(ギフト・バート)を使えば全員一網打尽にできた筈なのにそれを使わず、現在の状況を楽しんでいるように見えた。

蜘蛛の巣に捕らわれた虫をゆっくりと食す蜘蛛のように、獲物を捕らえた顔だ。

 

 

「まァ、誰にも見られねェ所で一人静かに死ねるだけ、有難いと思えよ?」

「えぇ~・・・出来れば誰かに看取られたいな・・・」

 

 

と、若干気の抜けた事を口走る余裕は、突然襲い掛かった()()によって無くなってしまう。

空が暗くなり、両者共に動きが止まってしまった。

 

(これって・・・京楽隊長・・・)

 

悪寒のように体に纏わりついて離れない寒気と同様に身体に伝わってくるのは、総隊長の霊圧だ。

感じたことの無い、不気味な霊圧。きっと昔だったら別人の霊圧と勘違いしていただろう。

急に暗くなってしまったため、却って安易に手を出せず膠着してしまう。

こちらから鬼道で攻撃してしまえば、霊圧のジャミングをしていても相手に正確な居場所を知られてしまうからだ。

むしろ、空が開けた瞬間が攻撃の合図と思い身構えていた。

しかし。

 

 

「何をお主はボーっと突っ立っておるんじゃ。今が一番の好機じゃろうに」

「えっ」

 

 

真後ろから夜一の声が聞こえたと思い振り返れば、そこには真っ暗な空間しかない。

そしてナックルヴァールがいた場所では、既に暗所の中で白打による格闘戦が始まっていた。

突如襲い掛かる攻撃にナックルヴァールは圧倒され、見えない白打によっていたぶられる音が向こうから聞こえてくる。

 

(何か・・・出番無くね・・・?)

 

真っ暗なため、変に身構えたポーズで静止する姿を誰にも見られずに済むのは安心だが、暗所での戦闘が苦手であるせいで迂闊に手を出せない。

かといって止まっているのは非常にモヤモヤさせられるが、残念ながら更に身動きが取れなくなってしまうことになった。

 

猛スピードで後ろから二つの霊圧が過ぎ去り、夜一とナックルヴァールの戦闘に乱入する。

3対1で戦うことになり、遠くからの鬼道がむしろ邪魔でしかなくなった。

あらゆる方向から殴る、蹴るをされているのは最早リンチに近く、時間が掛からずとも敵が戦闘不能になるのは目に見えていた。

 

 

「離れろ!!」

「「はい!」」

 

 

夜一の号令で共闘していた二人の死神はすぐさま後ろに下がり、棒立ち状態の隼人を引っ張って安全な場所へと置く。

「ぐえぇっ」と貧相な呻き声を上げてから前を向くと、夜一の肩に強烈な雷の力が迸っていた。

雷鼓から生み出される雷が夜一の髪をも跳ねさせ、強い霊圧となって身体から放出されていた。

 

莫大な霊圧が夜一の眼前へと降り注ぎ、周辺にあった建物全てを完膚なきまでに打ち壊す。

リンチみたいな攻撃の後にこんな強烈な技を喰らってしまえば、命を保っている方がおかしいくらいだった。

彼女の技と偶然にも同じタイミングで闇が晴れたため、誰が自分を引っ張り上げたのかをすぐに確認する。

 

 

「ごめんなさい!こうするしか無かったんです・・・」

「・・・他人の扱いの雑っぷりはお姉さん譲りなんだね・・・」

「姉さまに・・・似ているんですか・・・!?恐縮です!!」

「褒めてないよ・・・」

 

 

身体を掴まれる時の感覚が夜一そっくりな上に、離れろと言ったのが夜一であるため、そうなった以上弟の夕四郎以外選択肢は無い。

そしてもう一人は、夜一の攻撃に難なくついていける死神であり、彼女に最も近いタイプの戦闘をする砕蜂だった。

 

 

「貴様・・・!夜一様の弟君に何て口を!!隊長になったからと言って認めるわけにはいかん!!」

「無茶苦茶だ・・・人権が欲しいよ・・・」

「あっ、あの、どうやって運べばよろしいでしょうか」

「安全に運んで下さい・・・」

 

 

更に夕四郎が割り込んできてしっちゃかめっちゃかになりかけるが、とにかく夜一の所に行きたいと夕四郎が強く主張するため、彼の案に素直に従って三人は一瞬で夜一と合流した。

相変わらず運ばれ方には不満しかなかった。

 

 

「巻き込まれんで何よりじゃ。して・・・何じゃお主は、情けないのう」

「安全にとは言ったけどさ・・・お姫様抱っこはちょっと・・・」

「えっ、まずかったですか!?申し訳御座いません!!やり易くて・・・」

「古傷が・・・いや、何でもない・・・下ろして・・・」

 

 

そんなに身長低いかと言いたくなるし、むしろ自分より低い死神はたくさんいるというのに、何故男の中で自分だけこんな事をさせられるのだろうか。ムカつくが、ここで色々言うと墓穴を掘りそうだ。

 

 

「それはそうと・・・砕蜂、夕四郎、何故お主らは此処に来た?」

「はいっ!ねえさまをお助けするために、遠路はるばるやって参りました!」

「私は、夜一様と共闘させて頂きたく、参りました!」

「ほう・・・」

 

 

夕四郎は満面の笑みで夜一に向き合い、砕蜂は敬愛する元上官に向かって深く頭を下げる。

ところが。

 

 

「わしを・・・助けるじゃと・・・?少し見ぬ間に随分と強くなった様じゃのう・・・!」

 

 

明らかにナメられ発言をされた夜一は怒り心頭で、それを分かっているからか砕蜂はお辞儀をしてから一切顔を上げようとしない。

あわわわわと、わたわた焦る隼人だったが、夕四郎は強心臓なのか世間知らずなのか、臆することなく夜一の言葉を文字通り受け取ってしまった。

 

 

「はい!わかって頂けてうれしいです!!夕四郎は・・・夕四郎は強くな゛りばしたっ・・・!!!」

「・・・・・・」

「うわ~~~」

 

 

無言の後盛大にため息をついた夜一を見て、彼女の気苦労を自分事のように感じてしまう。

こういう時に何も言わない砕蜂からも、彼の取り扱いの大変さが伝わってくるのだ。

四楓院家の当主は、色々な意味で貴族連中にとって取り扱い辛い死神だと言えるだろう。

 

 

「敵の霊圧を見る限りお主一人では厳しいと思っておったが、大した事も無かったわ。これならお主にやらせても良かったな」

「ほ・・・本当ですか・・・。格が違う・・・」

「行くぞ、ユーハバッハを倒「オイオイオイオイ」

「「「「!!」」」」

 

 

「お取込み中悪いんだが、良かったら俺も話の輪に入れてくれねェか?」

 

 

条件反射のように俊敏な速さで夕四郎はナックルヴァールへと向かい、瞬閧の力を開放して腹を一突きする。

しかし、殴られた筈のナックルヴァールは、びくともしなかった。

 

 

「悪りィな、あんたの免疫は、もう獲得済みだ」

 

 

夕四郎の背中の中心に3つの神聖滅矢が刺さり、そのまま支えを失ったかのように一気に倒れ込む。

 

 

「夕四郎!!」

 

 

砕蜂と共に彼の許へ駆け寄り、彼の身体を介抱する。

 

 

「残念だが、その矢は嬢ちゃんの脊髄に撃ったから、ちゃんとした治療するまで動けねェぞ」

「ッ・・・!姑息な手を使いおる・・・!」

「あと、あんたら2人もたくさん俺を殴ってくれたから免疫獲得済みだ。残念だが、もう傷は付けられねェよ」

「貴様・・・!」

「砕蜂!!」

 

 

ナックルヴァールが夕四郎を女性と間違えているのは置いといて、夜一が引き止めたことで、砕蜂は何とか気持ちを留められた。

だが、ここからどうすればいいのか、彼女達には見当もつかなくなってしまう。

“もう傷は付けられない”という言葉は俄に信じ難いが、夕四郎の技が全く通用しないのを見ると簡単には否定できない。

 

 

「何を企もうが、もう手遅れだ。敵の能力のことを考えねェで、後先考えず徒に攻撃したツケが回ってきちまったか。致命的だぜ、四楓院夜一」

 

 

そして、ナックルヴァールの言葉が終わると同時に、突然遠くから何かが巨大化する気配を感じ取る。

まるで巨大怪獣のような大きさになったのは、剣と盾を持った滅却師だ。

 

 

「お・・・・・・おおお~~~・・・ついにジェラルドさんも聖文字(シュリフト)を使ったかァ・・・」

「・・・ならばお主も使えばよかろう?」

「使うまでも無いね」

 

 

と言った瞬間に神聖弓を取り出し、6本の神聖滅矢を同時に射出する。

 

 

「「!!」」

「縛道の八十一 断空!」

 

 

夕四郎を介抱する2人を護るように鬼道の障壁が一瞬で形成され、ナックルヴァールの矢は壁にぶつかると同時に折れて消失する。

 

はずだった。

 

(!?)

 

神聖滅矢は鬼道の障壁を()()()()、そのまま夜一と砕蜂に向かって飛び続ける。

障壁に触れる寸前から違和感に気付いていた2人は瞬歩で避けようとしたが、夕四郎を介抱していた夜一がこのタイミングで足をもつれてしまった。

 

(! まずい!)

 

弟を守るように身体を一回転させ、尚且つ急所を突かれないように矢を受ける覚悟を一瞬で決める。

夕四郎の苦しみから、途轍もない毒が体中を回っているのは既に分かっていた。

 

(情けないが、後は―――)

 

と考えていると、突然軽い衝撃が身体に伝わり、夜一はそのまま床に転げ回る。

さっき石田と戦ったときのような、身体を矢で射抜かれた感覚は無い。

 

(まさか!)

 

と思い起き上がってさっきまでいた方向に振り返ると、夜一の思った通り、砕蜂が身代わりになっていた。

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