ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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ダミー

「砕「砕蜂隊長!!」

 

 

夜一よりも先に隼人が駆け寄り、矢の霊子を消すと同時に身体に開いた穴へと回道をかける。

しかし、動揺してしまうせいで霊圧がまとまらず、今の砕蜂に最適効果の生み出せる回道を練り上げるのに失敗してしまう。

その動揺は、本人にも伝わっていた。

 

 

「案ずるな・・・貴様の治療など、必要無い」

「そんな!でも・・・、!!」

 

 

改めて砕蜂の体内にある毒の霊圧を調べてみると、ほんの一瞬読み取るだけで、簡単に解毒するのが不可能な程複雑性を持ったものだと分かった。

身体に循環する速度も常軌を逸しており、すぐに砕蜂は立ち上がる事も出来なくなってしまう。

このままでは、毒にやられて夕四郎も砕蜂もあっという間に死んでしまう。

それを避けるには、禁術を使うしか無かった。

 

(あのおじさんから裏破道使っていいって言われてるし、禁術もいいよね・・・)

 

不安はあるが、命を救うためにはやるしかない。

 

 

「夜一さん、今から砕蜂隊長と夕四郎くんに時間停止をかけます。それが終わったら、皆さんを空間移動で安全な場所に飛ばします。万が一があったら困るので、どこかの建物の中に隊長達を匿ってもらえますか?」

「・・・分かった。奴の理論ではもうわしの攻撃は通用せん。勝てるか?」

「・・・どうでしょうね。でも、努力はします」

「後で援護する。それまでお主に任せるぞ」

 

 

夜一の言葉に頷いてから、隼人は怪我人に手際よく時間停止をかけてこれ以上の毒の浸蝕を一旦停止させ、夜一ごと遠くに空間移動させる。

別の場所では巨人と死神の戦いが繰り広げられており、途轍もない地響きがたまに伝わってくる。

だが、喫緊の課題が目の前の滅却師であるのは、言うまでもなかった。

 

 

「やっとあんたとサシで戦えるな」

「・・・その前に一つ聞かせてよ」

「ん?いいぜ。何でも答えてやるよ」

 

 

心待ちにしていた時が訪れたかのように上機嫌なナックルヴァールは、両手を広げて再び交戦の意思を消す。

その言葉に甘えて少しだけ警戒心を解き、敵との短い対話を始める。

長くすれば必ず足元を掬われるからだ。

 

 

「何で貴方の矢は僕の鬼道の壁をすり抜けたの?」

「あァ?ってオイ、そんなんでいいのかよ?」

「確認みたいなものだからね」

「ふ~ん、なるほど、確認ねェ」

 

 

考える素振りも見せず、ナックルヴァールは言葉を続ける。

 

 

「あんたの免疫も獲得済みって事をかァ?」

「うん」

「白旗でも上げるってか?」

 

 

という問いには返事をせずに、隼人は卍解を宝珠杵に変える。

自身の霊圧にいつもより強く干渉しながら、少しばかりキツイ表情も見せた。

 

 

「白旗なんか・・・上げねえよ。そんなモン、見せてたまるかってんだ」

 

 

漸く答えた返事に対して、ナックルヴァールは失望する。

結局こうなるか、と思い、気怠そうに戦闘準備を再び整える。

 

 

「悪りィ、やっぱあんたつまんねェわ。期待してたけど無駄だった「代わりにいいモン見せてあげようか?卍解使った僕の本気」

「あぁ~そういうのもういいって」

「裏破道・四の道 (りん)鏡線(きょうせん)

「だから効かねェって・・・、!!」

 

 

変化を察知した瞬間に横へと移動したが、隼人の発射した光線の方が速かったせいで右脚だけ喰らってしまい、俊敏な動きに支障をきたす。

脚は瞬間的に焼かれ、重度の火傷みたいな状態だった。

 

琳鏡線は、空中に形成された地面に垂直の巨大霊圧陣から、極太のレーザー砲のような霊圧を放つ技だった。直線上にあった物体全てが有象無象問わず完全に吹き飛ばされており、一部形を失った建物が直線上にある奇妙な光景が生まれていた。その並外れた強力さの代償として、術名を唱えてから技が発動されるまで時間差が生まれるため、闇討ちだったり気を抜いた敵にしか当てられないのが悩みだが、今のナックルヴァールは完全に後者だったため、身体の一部が当たってしまった。

 

しかし、本来なら隼人の攻撃は効かない筈だ。にもかかわらずナックルヴァールは一瞬で躱す動作を行い、部分的なダメージに留めている。

 

(何でだ・・・!?何であいつ、霊圧が完全に変わったんだ・・・!?)

 

技を発動させるほんの0.3秒前くらいに、隼人の霊圧は完全に別のものへと変化する。

持ち主はきっと、どこかの死神の霊圧だろう。急いで解析し、自分でも驚く程のスピードで免疫を作り上げる。

空中を移動していると、再び攻撃が飛んできた。

最初にわざと軽く喰らって免疫を作った時と同じ技であり、巨大な霊圧の刃が立て続けに向かってくる。

 

(あんな技ブッ放した後すぐに別の技かよ!化物が!)

 

脳内で不満を独り言ちりながら躱していき、まだ痛む足をおして立て直しに入る。

タイミングよく、攻撃が止んだ。

罠の可能性もしっかり考慮に入れつつ、変化した霊圧のある場所へと飛廉脚で一気に向かう。

姿を見つけ次第一定距離まで踏み込み、毒入りプール(ギフト・バート)で問答無用に動きを止める。

完聖体をしない状態で最大威力のものを当てるつもりだ。霊子、窒素、酸素、保険として二酸化炭素を入れるのがいいだろう。敢えて自分の血を飲み、血液の致死量を下げることも必要だ。

そうまでしないと、危険すぎる。

 

(結局、力対力の戦いになっちまうのか・・・?イヤだなァ・・・)

 

気乗りしない中で隼人のいる場所へと一気に辿り着いたが、すぐに異変に気付いた。

 

(あいつ・・・!霊圧だけ置いて行きやがった!)

 

既に姿は無く、ナックルヴァールが今現在感じているのは、隼人の置いて行ったダミーの霊圧だ。

そして同じ霊圧をサーチすれば、遠近問わず大量の場所に同じものが設置されている。

この一瞬で、ここまでやるか。思わず呟き、頭を抱えて天を仰ぐ。

 

(何でこんな、メンドクセェ男になっちまったんだ・・・)

 

全部が振りだしに戻ったような感覚で再び霊圧を探す。すると。

 

(ん・・・?)

 

一つだけ、妙に動いている霊圧がある。

こちらから距離を取り、逃げているかのようだ。

さっきまでの隼人の霊圧とは完全に別物だが、また新たに変化した可能性もある。

 

(とにかく何でも追うしかねェ、か・・・。致命的なミスだな・・・)

 

さっき戦った夜一の可能性もあるが、彼女ならむしろ戦いやすいため、何にせよここで立ち止まるのは良くない。

迷わず決断し、ナックルヴァールはその場を後にした。

 

 

 

*****

 

 

 

灯台下暗しとはまさにこのことだ。

ダミーの霊圧を花粉のようにばら撒いた後、隼人はすぐに近くの建物に同じ霊圧のまま身を潜めた。

音を立てず、更に身体から発する霊圧の放出量をずっと均一に保つのは中々しんどかったが、思ったよりナックルヴァールがすぐに動いてくれて非常に助かったのである。

ちゃんと一定距離離れてから建物を出て、ダミー霊圧を追跡するナックルヴァールに()()()鬼道の追撃を抜かりなく放っていく。

氷の刃や雷撃、更には読み取ったナックルヴァールの霊圧を応用した毒爆弾などを、あたかも向こうにいる死神が迎撃するかのように詐術する。

 

しかし、現在の状況でも隼人は自身がじわじわと窮地に陥っていることをちゃんと理解していた。

その理由としては、自身の霊圧のストックだ。

万が一自分が殺された時に備えて現在霊王宮にいる死神の霊圧は使えないため、対象の霊圧になれる程に深く記憶している霊圧の数はかなり少ない。

浅く記憶した程度の霊圧では、そもそもその霊圧になろうとしても上手くいかない。

 

そして、自分の霊圧を完全に第三者のものに変化させることは、当然の如く身体に相当な負荷がかかる。

今まで身近にいた席官の記憶した霊圧に変化するのであれば負荷も少なくて済むが、隊長格の緻密な霊圧へと変化させるには、そりゃあ勿論大変な訳で。

脳内から記憶を引き摺り出そうとしただけで、強い頭痛が走るのだ。

 

(あと、できて3回かな・・・きついよ・・・)

 

亡くなった席官の霊圧に変化させるのは、精神的にも来るものがある。

そして、悪い出来事は立て続けに起こってしまう。

 

(・・・! 気付かれた!)

 

さっきまでダミーの霊圧を追っていた時の2倍の速さで、今度は見事に此方へ向かっているのだ。

10秒もすれば着いてしまうだろう。

白断結壁は、10秒では間に合わない。かといってただの鬼道の障壁では壁にもならない。

 

そう考えて行動が止まっている隙を、ナックルヴァールは見逃さない。

大量の神聖(ハイリッヒ)滅矢(プファイル)が空から降り注ぎ、急いで物陰に隠れたが、1本の矢が地面に突き刺さった瞬間、毒入りプール(ギフト・バート)が発動された。

じわじわとプールが地面を浸蝕し、毒の範囲が広まっていく。

正確な居場所を炙り出すためであることはすぐに分かり、案の定逃げた先でも毒入りプールの浸蝕が始まっていた。

細い路地裏を出た先では地面だけでなく建物、そして空中にもプールが施され、いよいよ逃げ場が無い。

突き刺さった矢を攻撃しても、毒の浸蝕は止まらないのだ。

空間ごと毒で包まれ、逃げることも出来ずに死んでしまうのか。

ダミーを使って騙した意趣返しなのか、ナックルヴァールの姿は見えなかった。

 

 

「あああぁぁぁもう!!やっぱ一人じゃ無理だったよ情けねえ!もう誰でもいいから助け――――」

 

 

と一人で叫んでいたら、中距離で突然雷の霊圧が炸裂し、滅却師の霊圧を凄まじく吹っ飛ばした。

 

 

「!? うぉっ!」

 

 

立ち止まった隼人の身体に糸のような細い物体が巻きつけられ、自分の意思関係無しに一気に空中へと飛ばされる。

プール浸蝕の間隙を上手く縫って毒の空間から抜け出し、まるで釣られた魚のように宙ぶらりんになっていた。

 

 

「おっ、口囃子サン、一丁上がりっスね!!」

「・・・釣られちゃいました・・・いや釣ってくれて良かったです・・・」

 

 

何だか高そうな釣り竿を持っている浦原が何をしたかったのか全く意味は理解できていないが、隼人を釣ったついでにプールの浸蝕も術で止めてくれたようだ。

そのまま釣った隼人を下ろして糸を解くと、単刀直入に告げられた。

 

 

「アナタはこの戦いを降りて、あちらの巨大化した滅却師と戦って下さい」

「・・・僕も一緒に、」

「霊圧のストック、あと1つくらいっスよね?このままじゃ足手まといになります。死にますよ?とにかく、夜一サンが時間を稼いでくれている今のうちに、すぐに行って下さい。いいっスね?」

「・・・分かりました。任せるからには倒されないで下さいよ?」

「勿論っス!後で手伝いに行きます」

 

 

言い終わって少しの間が開いてから、お互いに頷いてそれぞれ託されたことを成し遂げるため、準備に入った。

隼人が瞬歩で消えてから、同じように浦原も夜一の許へ走り出す。

瞬霳黒猫戦姫の夜一は気まぐれなため、勝手に戦闘を止めて敵に倒されるのは困ることだ。

 

(さて・・・どんな敵が、待ち構えているんでしょうね・・・)

 

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