「はいっ!夜一サ――――ン!ヨルマタですよぉーー!こっちこっち!!」
「にゃーーーーー!!!!!」
「痛い!!」
瞬霳黒猫戦姫となった夜一は1秒間に48回変化する霊圧で相手に隙を与えずに圧倒し、雷の力で見事に敵を殺した。
しかしその圧倒的な力のせいで彼女と意思疎通を図ることは不可能であり、この姿から戻るのも彼女の「気分」でしか元に戻れないのがネックだ。
浦原だけは制御できるが、思いっきり殴られているのもあって本当に制御しきれているかは甚だ疑問だが。
「はっはっはっはっ、よーしよしよしよし」
夜一が浦原の顔をペロペロ舐める様相を万が一にでも砕蜂が見たら、憤死してしまいそうだ。
というか他の死神が見てもドン引き確定だ。良からぬ噂が立ってしまう。
とりあえず普通の猫のように太腿を枕にして横にならせていると、上手いタイミングで彼女が戻る「気分」になった。
しゅしゅしゅしゅしゅ・・・と彼女の尻尾は消え、頭部のツノや雷の衣も消えていく。
こうなる事は分かっていたので、慌てて浦原は最初に着ていた衣服と全く同じものを着せた。
元に戻って全裸ならば、問答無用で殺される。
「にゃー・・・、・・・ん?」
「お帰りなさい、夜一サぶっ!!!」
「喜助・・・やりおったな・・・!!!」
鼻を押さえて距離を取ろうが、瞬神夜一にそんなものは意味をなさない。
すぐに胸倉を掴まれ、容赦のない殴打が浦原に襲い掛かる。
「痛い!痛い!ゴメンなさい!」
「わしをあんな中途半端な姿にしおって!!おぬしにもわしの心の痛みを分からせてやるわ!」
「と・・とりあえず敵サンを倒せたからいいじゃないっスか!それで終わらせましょう?ねえ?」
と言うと夜一は一瞬止まったが、煮え切らない思いは簡単には消せないため、一回浦原の身体を思いっきり蹴り飛ばして近くの建物にぶつけることで何とか溜飲を下げる。
最強の白打を喰らった浦原の身体は危険な音を立ててブッ飛ばされたが、元の霊圧などの高さも相まって大した傷は無い。
ケロっとした状態で戻ってくるのも夜一にとっては織り込み済みだ。
「いやぁ~キツイっスね・・・骨折れますよ・・・」
「どの口が言うんじゃ馬鹿者」
「まぁまぁ・・・でも、アタシの出番無かったみたいっスね。一応死体確認してきます」
「わしも行くぞ。今の姿できっちりトドメを・・・、ッ!!」
「!」
さっきまで元気だった夜一は突如苦しむように倒れ込み、二人の周囲には紫色の霊圧の壁で外界と空間を隔てられてしまう。
「夜一サン!・・・何だ、これは・・・!」
身体には一気に毒が回り、強い負荷のかかる瞬霳黒猫戦姫が出来ない程霊圧が蝕まれている。
事前情報では毒の遠隔操作が出来るということまで書かれておらず、相手の手数が情報以上である可能性が浮かんでくる。
とにかく身体に廻る毒を止める術を使い、時間のかかる毒抜きは後回しにする。
「四楓院夜一の姿が変化して襲い掛かってきたからまさかと思ったが・・・やっぱりあんたか、浦原喜助」
「こりゃまた・・・アタシの名前を御存知で」
「当たり前だろ?あんたは陛下が選んだ特記戦力だからな。警戒して畳み掛けるのがスジってもんじゃねェのか?」
完聖体・
そして、手首から大きな指輪の形をした霊圧を生み出し、浦原目がけて投擲する。
(消えた・・・!?)
浦原に当たる寸前で霊圧は消えたが、大きな指輪は2つに分裂し、眼球に埋め込まれるように指輪が“装着”された。
その瞬間に眼が弾け飛び、強烈な痛みに見舞われる。
「ぐ・・・ッ!」
ピアッシングされた眼球は即死し、視覚を完全に失われる。
「どうせ致死量下げたって、あんたはピンピンしてんだろ?」
「・・・買い被りすぎっスよホント・・・」
「足りねェぐらいだと俺は思うな」
用意周到に、更に綿密な対策で浦原の出口を塞いでいく。
毒を止めた夜一は暫く死なないだろうが、このまま徒に時間が経過してしまえば、いずれどちらも倒れてしまう。
「破道の八十八 飛竜撃賊震天・・・、!」
一旦攻勢に出たが、まるでその機を窺っていたかのように、突然体内の毒が強くなった。
「うッ・・・!!」
「
長期戦になっても負け、それでいて敵はすぐに決着をつけようとする。
孤立無援の状況で、どう立ち回るか。
浦原の頭の中では、莫大な策が練っては却下され、まるでスーパーコンピューターのように膨大な処理が行われていた。
*****
(あっちにいるのは・・・拳西さんと、朽木隊長、鳳橋隊長に平子隊長か。日番谷隊長と更木隊長もいるし、現世の人達もいる!)
こんなに死神がいて自分は必要ないんじゃないかと思ったが、むしろここまで隊長格がいて敵が凄まじい力を発揮しているのであれば、かなりの強敵だと言うべきなのだろうか。
副隊長もいるようだが、力の差がありすぎるからか前線には出ておらず、倒れた死神の救護などをやっているようだ。
雛森が修兵、ルキア、恋次の手当てを少し離れた場所でしており、先にそっちへ向かって状況確認をすることにした。
だがその道中に、意外な人物と出くわす。
「あれ・・・まつもっちゃん?」
「あぁ!口囃子さん!隊長になられたんですね!」
「うん、まぁ・・・。で、何してんの?」
聞くところによると、日番谷からの命を受けた松本は、戦いで生まれた瓦礫などを灰猫で小さくし、万が一霊王宮が落ちた場合に瀞霊廷の損害を最小限に留めようとしているようだった。
能力的に最適なのは言うまでも無く、まさしく影の功労者とでも言うべきだろう。本人は前線に出たいだろうが。
ただ、彼女の前にある瓦礫は、まさしく山のようだ。
途方もない作業を一人で続けるのは、じわじわと精神を疲弊させていく。
(手伝ってあげたいけど・・・僕がやったらそれこそでっかい瓦礫作っちゃうよな・・・)
申し訳ない気持ちだけは残しつつ、「頑張れよー」と励ましの言葉を送ってその場を後にする。
そうこうしてから現場に向かうと、まさに治療中、という様相だ。
ルキアと恋次は、風で思いっきり吹き飛ばされたらしく身体に打撲痕が見えた。
「口囃子さん!来てくださったんですね!」
「状況は?」
「ええっと・・・すみません、あたしもしっかりと把握出来てなくて・・・」
「それだけ訳わかんないって事か・・・。まあそうだよな・・・」
巨人と戦う複数の死神という光景は、まるでゲームのボス戦だ。
生半可な攻撃など通じず、それでいて敵の力は人智を超えている状況で、むしろよく耐えきっていた。
「何名か既に倒れていらっしゃるんですけれど、この状況だとどうにも助けにいけなくて・・・早くしないと・・・」
「えっ、マジ!?」
と、ここで改めて霊圧を探ってみると、何とびっくり更木剣八が既に倒されていた。
現世から来た仮面の軍勢も、ひよ里とリサの怪我をハッチが治している状況で、ラブ以外は戦闘不能状態だ。
とりあえず更木剣八をここに転移させ、簡単な回道の処置をかける。
切断された身体は、井上織姫の力が必要だろう。
こうして術をかけている途中にも上空から轟音が響き渡り、耳が壊れてしまいそうだ。
「きっつ・・・でも、行くしかないか・・・!」
暫定的な回道をかけ終えて、隼人は戦場のど真ん中へと足を突っ込んでいった。
*****
「仕方ないっスね」
「卍解 観音開紅姫改メ」
窮地に陥った浦原の
元護廷十三隊の隊長であった以上卍解を使える可能性に関してはしっかり考慮に入れていたが、実際に見たものはナックルヴァールにとって予想を裏切るものだった。
「何だその卍解・・・?見たことねェタイプだ。
「ここで嘘つく必要性は無いっスよ。正真正銘、アタシの卍解っス。今いるヒト達の前で使うのは初めてなんで、皆サンもきっと同じことを言うでしょうね・・・」
「・・・ナルホド、そういう事ね。で、一応訊くけどどういう能力なんだ?」
言うわけ無い、と浦原が答えた瞬間、ナックルヴァールの左腕がひとりでに裂け始めた。
(!?)
いや、開き始めたと言うべきか。というより、最早何が起きているのか分からないのだ。
急いで距離を取って態勢を立て直そうとすると、腕の異常は収まり身体に伝わる気味の悪い感覚も消えた。
「・・・冷静っスねェ。大抵の人はビックリして腕を切っちゃうんスけど・・・。読み通り、アタシの卍解の効果は”範囲”っスよ」
「ハハ・・・腕を切る度胸がねェだけさ・・・」
「折角なのでやっぱり説明しましょうか・・・。アタシの卍解 観音開き紅姫改メの能力は、触れたものを、造り変える能力っス」
「!!」
卍解の触れた顔には即死させたはずの目が再生しており、顔や身体には不自然な縫い目が施されていた。
だが、彼が驚いたのはそれにではない。
浦原の言葉と同時に、地面から霊圧の動きを感じたのだ。
しかもその霊圧は死神でも滅却師でもなく、虚の霊圧だ。
走るだけでは間に合わず、地面からくる攻撃を避けるには横に倒れて転がるしか無かったが。
「ごォッ・・・!!」
突如地面から
さっき倒したはずの破面が今動けるのは、きっと誰かが治療したからだろう。
だがナックルヴァールにとって最悪なのは、グリムジョーが
虚の霊圧は問答無用で滅却師にとっては毒だ。
抉られた腹は、夜一や隼人の攻撃を喰らった時よりも激しい痛みで疼いている。
「チッ・・・!外しちまったか!」
「グリムジョーさん!」
「分かってらァ!!」
外した時のプランも練ってある。
とにかく体内に十分量の毒が回って動けなくなる前に、
帰刃の
「とっとと死ねクソ野郎が!!」
「あんた、何でこっちに入って・・・、!!」
左に躱す動きが遅れてしまい、今度は右腋の下を抉られてしまった。
「がァッ・・・!」
決死の思いでグリムジョーの身体を蹴り飛ばし、その力を利用して後ろへと跳ぶ。
しかしその先には、身体の一部を造り変えられた浦原が立っていた。
「まず・・・ッ!」
態勢を変えるのに精一杯になってしまったため攻撃に余力を回せず、申し訳程度の神聖滅矢は弾き飛ばされた。
前に跳躍した浦原の斬魄刀で左肩をざっくりと斬られるだけでなく、更なる追撃が襲い掛かってくる。
「破道の九十一 千手皎天汰炮!!」
「
無数にある中程度の光の矢と、
余波を受けるだけでも相当なダメージを負うことは避けられず、ここまですればナックルヴァールの最低でも動きだけは止められるだろうと浦原は踏んでいた。
動けなくなった所を虚の力でグリムジョーが潰せば、漸く殺したことになるはずだ。
「あ~~~、イヤだイヤだイヤだイヤだ!」
「「!」」
だが、ここまでやってナックルヴァールを止めることは出来なかった。
身体から紫色の波導が発せられると同時に、浦原とグリムジョーが放った技は完璧に打ち消されてしまう。
そして波導が2人の許に伝わった瞬間、あっという間に猛毒で身動きすら取れなくなってしまった。
「うッ・・・」
「何だ・・・コレ・・・!!」
毒に耐性のある身体へと自身を造り変えた浦原は膝をつく程度で済んだが、グリムジョーは地に臥して立ち上がることも不可能となってしまった。
「
その状態になろうとも浦原は卍解を使って身体を造り変えようとしたが、ナックルヴァールにとっては最早意味が無かった。
「無駄だぜ!
「・・・そう・・・っスね・・・じゃあ・・・・・・」
「もう一方、来てもらいましょうか」
「・・・?」
「卍解
後ろから微かに聞こえた声の主を確かめるために振り返ったナックルヴァールは、目の前を現実として受け止めきれない表情をしていた。
卍解を唱えた死神は、
四番隊の腕章を身に着けた虎徹勇音が、大量の花を携えて立っていた。