京楽が卍解を習得させようとした死神は、隼人の他に勇音もいた。
修兵や吉良など、より戦闘に特化した形で実力を持っている死神を差し置いて彼女を選んだ理由は、純粋に死神として務めた期間が七緒の次に長かったからだ。
そもそも七緒は八鏡剣のこともあってそもそも卍解を習得出来るかどうかが分からないことや、京楽の心もあって選択肢から外れていた。
そこに来て、卯ノ花烈が更木剣八に斬術を教えることになり、京楽の脳内では彼女が命を落とすことまで読んでいたのだ。
四番隊の新隊長は、勇音以外には務まらない。
彼女はどうも優しさのあまり引っ込み思案な所があるものの、京楽の目で見れば、資質は十分に備わっていた。
しかし、隼人とは違い、勇音は卍解習得に難航した。
隼人が使うことの無かった八番隊の施設を使って鍛錬を行っていたものの、苦戦した結果習得前に滅却師によって世界が塗り替えられてしまう。
中途半端な段階で終わらせてしまうと、体内の霊力が不調を起こす可能性もあったのだ。
最悪、二度と卍解を習得出来なくなるかもしれない。
そんな困った状況に手を差し伸べたのは、山田清之介だった。
貴族の避難場所としていた清浄塔居林に彼女を招き入れ、何者からの干渉を受けないだだっ広い空間でただ一人斬魄刀と向き合う姿を清之介は横目で見ていた。
自分の後任となった死神には特別興味など湧かなかったが、長い時間を掛けて卍解を習得した後の勇音の顔を見て、卯ノ花の後任には勇音以外考えられなくなったのだ。
四番隊の未来を創り上げていく中でトップに立つのにふさわしい存在となった勇音を見て、危機的状況にもかかわらず安心したのだ。
お礼を告げてから行ってきますと言う勇音を見送る。
(彼女がどう隊を創り上げるのか・・・楽しみだね)
そして行く当てもなく走る中でたまたま見つけた施設が、技術開発局だった。
卍解習得直後だったこともあり、そこにいた浦原はすぐに勇音の力に気付いた。
『虎徹サンも卍解を・・・』
『はい・・・一応・・・』
『いやいやいや!すんごい事っスよ!!敵に情報の無い卍解はこちらにとってかなり有利に進められますからね!』
侵影薬を渡して略奪防止をしっかり行い、浦原が話を聞こうとした所で、ローズが負傷した更木剣八を運んできた。
『あっ、じゃあ、私は更木隊長の治療に行って参ります!』
それから次に勇音が浦原と出会ったのは、現世組の面々と真世界城へと向かっている時だった。
丁度巨人の滅却師が圧倒的な力を振るっていた時だ。
『黒崎サン!皆サン!』
『浦原さん!グリムジョー見なかったか!?捜してんだがどこにもいなくてよ・・・』
『いや・・・見てないっスねぇ・・・』
と考えながら告げた浦原は、すぐさま頭の中で策を考える。
『なら、アタシが捜します。黒崎サン達はユーハバッハの所へ向かって下さい。それと、六車サンはあの大きい滅却師相手に護廷十三隊の皆サンと戦って頂けますか?』
『おう・・・って、マジか』
『あと、虎徹サンはアタシについてきて下さい。恐らくグリムジョーさんは倒れているので治療して頂けないかと』
『えっ、わ、分かりました』
そうして勇音が浦原の後ろにつく形で移動を進めると、ある地点で一体の男性破面が地に伏していた。
虚圏で見たことがあるようなないような気がしたが、そこまで深く考えずに治療に専念する。相手が覚えている訳ないので、こちらが変に何か言う必要もない。
回道でちょっと毒を取り除いただけで、すぐに動けるようになった。
『もう大丈夫そうっスね』
『当たり
そこから浦原は、現在隼人が戦っている敵との戦い方について自身が考えていることを伝える。
録霊蟲などの映像から、体内を流れる血液や体外から接種する物質を致死性のある毒物に変化させるようなものだと推測した浦原は、更に敵には免疫力もあると考え、短期決着を目論んでいた。
夜一をかなり強化しても上手くいかなかった場合は自分が出て、油断した隙を縫ってグリムジョーが仕留めるという手筈だ。
『虎徹サン、アナタはグリムジョーさんが戦って、1分経っても決着がつかなかった場合に卍解して下さい』
『1分ですか・・・』
『お2人の力が頼りっス。よろしく頼むっスよ!じゃあアタシは先に行ってきます!』
『えっ、ちょっと!』
浦原は瞬歩で消えてしまい、グリムジョーと一緒に取り残される。
今は一時的に味方となっているが、藍染と戦う時には敵となった男と、会話のネタがある筈もない。
気まずさから思わず俯いてしまったが、意外にもグリムジョーから口を開く。
『・・・悪りィな、助けてもらってよ』
『いっいえ!それが仕事なんで・・・必要、無かったですか?』
『ンなわけねーだろ。爪みてぇな小さい球の毒だけで動けなくなってんだぞ?
『そうですか・・・』
そこまで会話が発展する訳でもなく、かといってずっと沈黙する訳でもなく、何だか不思議な会話が続いた。
好戦的で気性が荒く見えたが、話していると護廷十三隊の副隊長とそこまで変わらないように思えた。恩を忘れない性格であることも窺え、一方的に敵と見なそうとするのは良くないと悟る。
そしてナックルヴァールによる極上毒入りプールの発生で浦原が閉じ込められたことを知り、霊圧の壁の前に移動して浦原からの指示を素直に待つ。
『女、オメーが出る必要は無えよ。俺がカタつけてやるつもりだ』
『そう、ですか』
『だが、ヤベェと思ったら構わず来い。俺の言うことなんか気にすんな。迷ったら負けだ。いいな』
『勿論です。おこがましいかと思いますが、助けに行きます』
『・・・そうか』
敵だった死神に助けに行くと言われ、グリムジョーは当然面食らう。
しかし感情を整理する時間は無かった。
2人の前に、明らかに人一人入れない入口が新たに作られた。
何も言わずにグリムジョーが入っていき、敵を追い詰める。
しかし決着はすぐにつかず、中の霊圧は次第に弱まっていく。
迷わず勇音は中に入り、卍解を発動した。
*****
「卍解
ナックルヴァールが振り返る前に一瞬、凍雲が彼女の前へと現れる。
白いガウンを被った彼女は季節を問わずに寒さを耐え忍ぶような振る舞いをしていた。
しかし、卍解の名を唱えると同時に、彼女は引き被っていたガウンを取り払い、勇音の手に持っていた斬魄刀に手をかけて共に姿を変える。
凍雲と勇音の刀は様々な花へと変貌を遂げ、死覇装が花に包まれていく。
「何だ・・・?あんた、一体・・・」
寒さ厳しい冬が明けると、植物は成長し、美しい花が咲き誇る。
花の化身となった勇音の手には、鈴蘭の花が握られていた。
「八帖花伝・序
習得した技の名を唱えると同時に勇音はゆっくりと前へ歩を進める。
彼女が一歩ずつ足を動かすにつれて、踏んだ大地を中心に無数の花が一気に咲き乱れた。
花は、大地を流れる霊圧と、
ナックルヴァールが完聖体となって作り上げた毒の空間は、勇音の卍解によって浄化されつつあった。
「何だ・・・あんた、一体何をするつもりだ!!」
「”住する所なきを、まず花と知るべし”。物事は諸行無常、終わりが訪れるのは必然の理です」
「貴方の全てを、私が終わらせて見せましょう」
「!!」
「八帖花伝・破
破の段の開始が告げられると、ナックルヴァールの周囲から鳥の巣のような木の枝の囲いが生成され、そこから伸びる蔦がナックルヴァールの身体を柔らかく捕えていく。
痛みや締め付けられる感覚は全くないのに、巻き付く植物の蔦と勇音から発せられる霊圧にいつの間にかアテられてしまい、身体が動かなくなる。
歩みを進める勇音の周囲からは同じように花が成長し、ナックルヴァールの放った毒を養分にする。
(霊子兵装も作れねェ・・・!どうすりゃいいんだよォ!)
思考能力だけ生かされた状態のナックルヴァールは必死に状況把握に努めたが、解答は何時まで考えても見つからない。
「美しい花を咲かせたいのであれば、変化をし続けないといけません。止まっていたら、つまらないですよね。だからこの技も、今回限りです」
「八帖花伝・急
技を口にした瞬間に極上毒入りプールの要塞は完全に消え去り、一面見渡す限り花の世界へと変貌を遂げた。
銀色の花弁が勇音を中心に舞い散り、無機質な建築物がひしめき合う世界が、一瞬にしてファンタジーに出てくるような花畑へと姿を変える。
さらに、花の精霊がナックルヴァールの顔を囲って輪を作り、音楽も無い中で踊り始める。
それからすぐに、美しく咲き誇っていた一面の花が、恐ろしいスピードで枯れ始めた。
(!?)
一つ一つの花が吸い取った霊子の養分は、勇音の手に持つ鈴蘭へと蓄積されていく。
大地に芽生えた花は全て消失し、ナックルヴァールを捕らえる蔦と、勇音の身体にまとわりつく花弁以外、彼女の残したものは何も無い。
目前まで迫った勇音は、鈴蘭の花をナックルヴァールの眼前へと掲げる。
「大地の祝福を、貴方に授けましょう」
ナックルヴァールの頭が上を向き、意思に反して口が開かれる。
(やめろ・・・やめろやめろやめろやめろやめろ!!!)
勇音は鈴蘭の花をナックルヴァールの口の上に留め、濃縮された蜜を一滴、口の中へ落とし込む。
蜜が彼の喉に触れたその瞬間。
地面から剣山のように生えた無数の剣が、ナックルヴァールの全身を串刺しにした。
*****
頭の先から手足まで全身を貫かれたのに加え、勇音がナックルヴァールの作り上げた毒と自身の卍解の力で作り上げた毒を混合し、極限まで濃縮した一滴の液体を体内に含ませたことで、10秒も経たずに身体は腐敗し尽くし、跡形も無く消え失せた。
「破道の三十一 赤火砲」
念には念を入れて腐り果てた肉体を燃やし、全てが灰になって霊子の塵となったのを見届けてから勇音は卍解を解いた。
「あっ・・・あれ?私・・・?」
「お疲れ様っス、虎徹サン」
「私、卍解して・・・、あれ、何か、上手く思い出せないですね・・・」
一種のトランス状態にでもなっていたのか、勇音の頭にはさっき卍解した時の記憶が曖昧にしか残っていないようだった。
まるで夢から覚めた後のように、記憶の断片しか残っていない。
「覚えていらっしゃらないんスか?」
「はっきりとは・・・うーん・・・」
「・・・神がかり、っスか」
「?」
「いえいえ!お気になさらず・・・」
膝をついてた浦原は立ち上がろうとするものの、身体の中の毒は抜けきれておらず、そのままへたり込んでしまう。しなびた野菜みたいだ。
「浦原さん!治療します!」
「すいませんねェ・・・夜一サンとか砕蜂サンとかの治療も、任せていいっスか?」
「はい!」
浦原のした備えの1つで無事に不死性の強い敵を倒すことができたが、今の彼にとっては別の興味が巻き起こっていた。
勇音の卍解。始解の能力と明らかに別物である点が、自分と似通っていたのだ。
どういった過程を経て卍解に辿り着いたのかが気になったが、卍解時の記憶が殆ど残っていないので、きっと卍解習得時の記憶も消えているかもしれない。
霊子吸収に長けた卍解なのか、それとも対象の時間を操る卍解なのか。
考えれば考える程謎に包まれ、俄然興味が湧いてくる。
苦しむ身体で考えていると、再び遠くから雄叫びのような轟音が響き渡ってきた。
凍雲の能力が全く分かっておらず、どうしたものかと最初は思いましたが、解号の”奔れ”と斬魄刀の凍と雲、そして趣味として挙げられる生け花という要素から、物体、時間などの移動変化→季節の移ろいを表す時間操作系の卍解にしました。
そもそも氷雪系で2人揃っている以上、勇音の卍解も完全に氷の物にするのは焼き増し感が強くなることに加え、新護廷十三隊の隊長で3人が氷雪系はちょっとな・・・と思ったので、苦心しながら作り上げました。
そして、花を纏う勇音の姿は、ミュシャの作品をイメージして描写しています。
今回勇音は、基本的にナックルヴァールの技の時間を操作して、強制的に終わらせるという事をしました。ですが、同時に大気に広まる毒の時間を操作して花に吸収させるなど、時間操作とは名ばかりの何でもかんでも強制終了させられる凄まじい応用力を持ったチート卍解です。
卯ノ花隊長の後任である以上、これ位出来てもいいのではないか・・・と考えた結果こうなりました。インフレが凄い・・・