ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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金沙羅舞踏団

「拳西さん!朽木隊長!これは一体どういう状況で・・・」

 

 

近くにいた二人の許へ向かい話を聞いてみると、今は日番谷が一人で何とか対処しているらしい。

大紅蓮氷輪丸の完成で少し老けた日番谷は、今までと比べても段違いの霊圧量を持っていた。

隼人が来たのを察した日番谷は皆とは逆方向へと滅却師を引きつけ、他に戦っていた死神達も一度日番谷に任せてほんの少しの休息のために此方にやって来た。

 

 

「おォ、隼人か・・・遅いやんけアホ」

「こっちに行けって浦原さんに言われて・・・こりゃあ大変ですね・・・」

 

 

全員疲弊し、身体にはそれなりに傷もある。

後方支援中心で動いていたローズと平子は体力の消耗が激しく、前線に立っていた拳西や白哉、ラブは服も破け、傷が目立っていた。

 

 

「兄が来たのであれば・・・、卍解を使って一気に仕留める他はあるまい」

「皆でやるっちゅうんか?そんなんで倒せれば困る事あらへんでホンマ・・・」

「久々に俺も卍解するのか・・・」

「・・・アレ、使うしかないかな・・・」

 

 

ラブとローズが何やらぶつぶつと考え込んでいるが、平子に関しては打開策も見つからず半信半疑のまま立ち止まっている。

一方、既に卍解していた拳西は手詰まりになってしまっていたため、霊圧干渉の力を使う隼人の助けを求めることにした。

同時並行での作業が増えるが、昔一緒に生活していたこともあり、拳西の霊圧は相性がいいのでどうにかできるだろうと踏む。

各々が心の準備を進める中、霊圧を消した日番谷がこちらに合流する。

 

 

「作戦は決まったか」

「あ、えーと、ぼちぼち――――――」

 

 

と後ろを振り返った瞬間に、言葉を失った。

 

上空で滅却師と戦っていた日番谷は、今までの子どもの姿では無くなり、大人シロちゃんになっている。よりによって、現在の隼人よりも身長が高いのだ。

開いた口が塞がらず、恐らくこの場にいる誰よりも驚いた反応をしていた。

いっつもしゃがんで目線を合わせる存在だったのに、突然見上げる形になってしまい完全に困惑している。

 

 

「そうか、お前にはまだこの姿見せてなかったな」

「・・・・・・嘘だ・・・」

 

 

182cmの日番谷に見下ろされる事が、こんなにもショックだとは。子に身長を抜かれる親の気分だ。

 

 

「信じないぞ・・・これだけは、信じられん・・・」

「これが現実だ。いい加減理解しろ口囃子」

「期間限定やけどなァ」

「どうせ縮むだろ。気にするだけムダだ」

「卍解を終えた後の兄の服は、一体どうなるのだ・・・?」

「よせよ、お前らの負け犬の遠吠えは聞いても心地よくねえ」

 

 

何だか魔法が切れた後のシンデレラみたいな扱いを受けてしまいそうな気がする。

また、白哉の疑問も尤もなものであり、サイズが合わなかったら戦闘どころの話じゃなくなるだろう。

 

 

「確かに、後々恥ずかしいことになったら大変・・・、!!」

 

 

ズドォォン!!と建物が崩壊する音が響いてきたと思えば、『神の権能(アシュトニグ)』を発動させたジェラルド・ヴァルキリーが、ミニチュア人形を見るかのように死神達を見据えていた。

 

 

「見つけたぞ!!死神共よ!!!」

「う、うるさっ!」

 

 

声を上げるだけで尋常ではない音圧が来る。ライブ会場みたいだ。

作戦会議も中途半端な状況だったが、一度見つかったらその瞬間に全員瞬歩で一度は逃げ、ルールを知らない隼人は拳西に引っ張られて一命を取り留める。

ジェラルドの巨大な剣が振り下ろされ、少しでも遅れていたら真っ二つだった。

 

 

「ひぃ~~!何て奴だ・・・」

「とにかく一気に仕掛けるぞ。気抜くなよ!」

「はい!精一杯頑張ります!」

 

 

分散した死神たちは各々が準備を始めたが、最初に攻撃を始めたのはローズからだった。

 

 

「金沙羅舞踏団・()()()()9()()

「・・・現世の曲、使うんか」

「・・・ボクの集大成に、酔いしれるといいさ」

 

 

現世にいる時に深く感動したベートーヴェンの曲を使い、ローズは初披露の演目に挑戦する。

 

 

「第一の演目・“幸福への憧れ”」

 

 

ジェラルドの大きさに合わせて形成された舞踏団は、彼に詳らかな幻覚を見せる。

BG9に見せたものとは違い、幻覚を見る者には舞踏団の姿が本物の人間のように映っていた。

 

 

「こんな物、我にとっては蚊に刺されるようなものだ!!」

 

 

ローズが作り上げたのは幻の黄金の騎士であり、ジェラルドが刀を振り下ろそうが、所謂幻覚なので全く効果を為さない。

 

 

希望の剣(ホーフヌング)を・・・すり抜けただと!?愚かな!!民衆の希望を受け入れぬとは何とも忌々しい!!!ならば再び力の奔流で―――」

 

 

言葉を続けようとしたが、黄金の騎士はジェラルドの喉をサーベルで貫き、声帯を潰して黙らせる。

ジェラルドから触れることは出来ないが、サーベルはしっかり喉を貫いており、痛みもしっかり伝わっている。

そして、喉を貫くサーベルは、幻であるため彼の手でどうすることも出来なかった。

 

 

「上演中はお静かに。コンサートのマナーだよ、滅却師」

 

 

「第二の演目・“敵の力”」

 

 

巨大な黄金の騎士は解体され、黒蛇を髪の毛にした3人の裸の女性へと変化する。

その後ろには、歯の欠けた巨大虚(ヒュージ・ホロウ)が佇んでいる。

翼を生やし、とぐろを巻いた蛇が体中を這っていた。

彼女達がジェラルドの前に立った瞬間に、時間は突然夜に変わり、星空といつもよりもかなり大きい月が空に浮かんだ。

 

(!? 動けない・・・!?)

 

石化してしまったかのようにジェラルドの身体は身動きが取れなくなる。

それに対応するように、耳に聴こえる音楽は次第にボリュームを上げていく。

 

 

「これは小夜曲(セレナーデ)さ。でも、君は音楽に興味無さそうだから、ボクの恋人には値しないケドね」

 

 

ローズの指揮が激しさを増していくのと同時に、2人の裸の女性が動き出す。

一人の女性は背中に生えた黄金の翼から、炎や風、黄金の矢や霊圧状の爆弾などの多種多様な攻撃を間髪入れずに行い、もう一人の女性は直接ジェラルドに白打でダメージを与える。

普通の死神と大きさは変わらないが、攻撃力は隊長格レベルを優に超えており、夜一と同等かそれ以上の力を有している。

巨体に打撲痕が多数生まれ、回復が為されないギリギリの傷ができていた。

 

そして、巨大虚が動き出す。

 

野獣のようにジェラルドに掴みかかり、背中の翼を捥ぎ取る。

ジェラルドの身体を押し倒し、そのまま骨付きチキンを食べるかのように皮膚を噛み千切り、恐ろしい速度で喰い散らかして中の肉や骨を抉り出す。

抉り出した骨は虚の身体によって粉々に圧し潰された。

虚の歯からジェラルドの身体に毒が染みわたり、更に強い麻痺を起こして少しの行動をもさせないようにしていた。

 

 

「最終演目・“歓喜の歌”」

 

 

ここまでやっても、まだ終わりでは無かった。

激しい音楽に身を委ねるローズは狂気に満ちていたが、最終演目の題目を口にすると、一度だけ落ち着きを見せる。

音楽のボリュームも下がり、緩やかな曲が流れていく。

 

巨大虚や3人の黒蛇の女性は姿を変え、茶髪に黄金のガウンを着た大勢の女性となる。

ローズの上に金沙羅でできていた巨大な手と指揮棒もシュルシュル・・・と解けていき、黒髪の裸の女性となった。

 

 

「さあ・・・ボクの楽園を見せてあげよう!!幸せなクライマックスだ!!!!」

 

 

ローズの叫びと同時に流れる曲は一気に激しくなり、大勢の女性達が歓喜の歌を歌う。

ジェラルドの大声に匹敵する音圧は、周囲の建物を軋ませ、小さいものであれば声だけで吹き飛ばしていた。

黒髪の巨大な女性は倒れたジェラルドの許へゆっくりと歩いて行き、倒れる彼の隣で介抱するかのように座り込む。

女性はジェラルドを抱きとめ、意識はあれども動かない顔を覗き込む。

2人の周囲に黄金色の花畑が生まれ、薔薇の花が華やかに咲いている。

そして、紺青色の糸が抱擁する男女を包み込んでいく。

 

慈愛に満ちた女性がジェラルドの青ざめた唇に接吻をしたその瞬間に、彼の頭が弾け飛び、交響曲第9番は終演した。

 

 

「おォ・・・久々に本気見たわ・・・」

「まだだよ!!誰か早く次の攻撃を!!」

 

 

ローズの叫び声を聞いて次に飛び出したのはラブと日番谷だ。

 

 

「卍解 鬼一僧正丸(きいちしょうじょうまる)!!」

 

 

卍解の名を唱えた瞬間に、炎を纏った巨大な龍が空から召喚され、ジェラルドの周囲をも纏めて一気に炎で焼き尽す。いくつもの巨大な火柱がせり集まって作られた巨大な炎の渦でジェラルドの身体は跡形も無くなる程に真っ黒な焦げ物になっていた。

その瞬間的熱量は、何と山本前総隊長の扱う流刃若火を超えていた。

しかし、その力強さ故に、ラブの卍解は他の隊長に比べて極端な程持続時間が短かった。

 

 

「いよっ、出オチ卍解!!」

「うるせえシンジ!!こんなんでも、出すの滅茶苦茶大変なんだぞ!」

 

 

卍解を終えたラブはさっきまでのジェラルドの戦いの消耗で疲れ切っており、立っているだけでやっとのようだ。

同じくローズも力を使い切った顔をしており、これ以上ジェラルドと戦うのは何としても避けたい所だ。

 

そんな中、次に動き出したのは日番谷だ。

といっても、数歩歩いたその先で、軽く霊圧を開放しただけだ。

 

 

「四界氷結」

 

 

大紅蓮氷輪丸を解放して、四歩のうちに踏みしめた空間の地水火風の全てを凍結する技を使い、焦げたジェラルドの身体を今度は瞬間冷却で隅々まで氷結させる。

 

 

「これでお前の身体が再生する機能は全部停止する。二度と復活出来ねえよ」

 

 

そして日番谷は白哉の方を見て準備が整ったのを確認し、すぐにその場から距離を取った。

白哉の足元には、隼人が裏破道で作り上げた梵字のような陣がある。

本来は自分の鬼道を2倍にする技だが、白哉の霊圧に干渉して繋げたことで、彼が生み出す技をも倍増させたのだ。

 

 

「殲景・千本桜景厳 奥義 “一咬千刃花”」

 

 

数億枚の刃が千本の刀へと圧し固められ、全ての刀が氷結したジェラルドの身体へと突き刺さる。

単純でありながら爆発的な破壊力を生み出し、ジェラルドの身体は瓦解する。

黒ずんだ瓦礫となった身体であっても、念には念を入れて最後の技に取り掛かった。

 

5名の隊長格に、天挺空羅が突如繋げられる。

 

 

【皆さん本当にお疲れ様です!ですが一旦そこから逃げて下さい!この辺一帯、完全に吹き飛ばします!!】

「はァ!?」

 

 

切羽詰まった雰囲気でそれだけ言い残して隼人は天挺空羅を切ってしまったので、詳しい事情は分からないが全員言われるがままに距離を取る。

合わせていた訳では無いものの、雛森、阿散井、ルキアのいた場所に何となく集合した。

 

 

「平子隊長!?それに皆さんも・・・」

「何かあったんスか?」

「“逃げろ、この辺一帯吹き飛ばすぜ!”って聞いたからここに来たぜ」

「いや物騒っスね!」

 

 

という回復した阿散井のツッコミと同時に、隣にいたルキアは場の些細な変化を感じ取った。

 

 

「風向きが・・・変わった・・・?」

 

 

更に平子は、さっきまでいた場所に光る小さな物体が落ちていくのを見た。

建物がある影響で地面に落ちた瞬間まで見る事は出来なかったが、落下点らしき場所から光がピカッと出たとほぼ同時に、ズガァァァン!!!と物凄い爆音が響き渡ってきた。

その瞬間に、平子は昔現世で見たとんでもない破壊力を持った爆弾が爆発する映像を思い出す。

 

 

「隠れろ!!お前らも吹っ飛ばされるで!!」

「「!」」

 

 

言われるがままに全員建物の陰に隠れたと同時に、空座町での藍染の攻撃の余波とそっくりな爆風が襲い掛かる。

たまたま盾にしたのが欠損箇所の無い大きな家だったのでよかったが、向かいにあった建物は部分的に壊れていたせいで亀裂が深く入り、最後には吹き飛ばされていた。

 

風が止んで外に出ると、爆心地を中心にクレーターが出来ていた。

 

 

「ホンマにけったいな事しやがったなァ・・・」

 

 

急いで爆心地に向かうと、ジェラルドの瓦解した身体は存在せず、霊圧すら感じられない更地になっていた。

まさに言葉通り全部吹っ飛ばしたのだ。

原子爆弾のような破壊力に圧倒されていると、これをやってのけた本人達が遅れてやって来た。

 




ローズの新技は、グスタフ・クリムトのベートーヴェンフリーズをモデルにして作りました。これ以上ないうってつけの題材だと思います。
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