ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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未来は白紙

「おや・・・一心サン?はい、もしもし?」

【――――、だか、―――――】

「?もしもーし」

 

 

黒崎一心から電話が掛かってきたものの、声がはっきりと聞こえない。

霊王宮にいるため霊子の波長が悪いのかと思ったが、何故か部分的にははっきりと聞こえる。

 

(これは・・・、あぁ・・・)

 

電話を掛けたものの、向こうで何か問題があったのか、石田竜弦と黒崎一心が一悶着を起こしているようだった。

 

 

【オメーはいいって!俺が伝えるからさ!!】

【貴様に任せると何かと私を扱き下ろすに決まっている!死神の前で私を悪く言うなど断じて認められん!!】

【息子に散々悪く言われるからって気にしすぎだコラ!】

【黙れ!!】

【あっ、オイ!!】

 

 

どうやら伝令神機を石田が取り上げたようで、浦原の言葉に返答した声は電話の主では無かった。

 

 

【私だ。手短に用件を伝える】

「竜弦サン!息子サンには会え【霊子地点は既に私が見つけた。今からその場所を伝えるから二手に分かれて向かえ。あとの二つは私達で処理する】

「本当っスか!」

 

 

後ろでギャーギャー騒ぐ一心の声も聞こえるが、早口な石田の言葉を一言一句聞き漏らさず、情報を整理する。

枝の二つには石田と一心が向かい、死神達はもう一つの枝と、真世界城最深部に向かうこととなった。

 

 

【全く以て不本意だが・・・頼んだぞ、死神共】

 

 

一心に取り上げられそうになったのか、それだけ言うと石田からの電話は切れてしまう。

黒崎真咲を助けられず、何も出来なかった時の石田竜弦の姿が一瞬脳裡に蘇った。

あの出来事があったからこそ、石田は自責とやり場のない怒りで死神を強く敵視するようになったようにも思えるが、ユーハバッハへの復讐を決めた滅却師のように、利害が一致して手を組むのは、昔の石田では考えられなかっただろう。

これも一護が世界を変えた影響か。

 

生粋の死神嫌いから託された策を、浦原は死神と共に遂行する。

 

 

「では皆サン、一発逆転といきましょうか・・・!」

 

 

 

*****

 

 

 

「ちょ、ちょっと・・・待って・・・速すぎ・・・」

「君が遅すぎるんだ!速力を上げる訓練をしていないのか!」

「筋肉つけようとしたら動き鈍っちゃったんだよ~」

 

 

一護達の許に向かい治療しようとしていた隼人だったが、真世界城の内部は想像通りどころか、それ以上に複雑で緻密な構造をしており、入ってすぐに道に迷い、出ることも出来なくなっていた。

この空間の霊子は未だ敵の手の内なので外を跳んでいくことも出来ず、ちんたら中を走って上に行くしかない。

右往左往していた時にたまたま道を知っている石田雨竜に出会いついて行ったのだが、完全反立の力で傷一つない石田と、消耗の激しい隼人では軽く走るだけで速度差が異常に出てしまい、情けない運動不足のおじさんみたいになっていた。

 

 

「一回、休まん?・・・つーか何で跳んで行けないんだよ~~!!」

「文句を言う暇も無いぞ!あと少しだから我慢するんだ!」

「うへぇ~辛い・・・」

 

 

息も切れ切れで辛かったが、完全に置いて行かれて石田を見失うという事は無く、必死の形相で最上部へと上っていく。

石田の“あと少し”は果てしない長さだったが、茶渡と岩鷲が頑張っている所を横目にすり抜け、何とか辿り着くことが出来た。

 

 

「なっ・・・何だアレ・・・」

 

 

階段を上った先には、黒紫色の霊圧で出来た円形の物体が浮かんでいる。

不気味すぎるため少し距離を取ってから霊圧を探ろうとしたが、隣にいる石田はそのまま前に歩き出す。

 

 

「ちょっと、大丈夫かよ!?」

「これは・・・門だ。瀞霊廷へと繋がっている」

「門・・・?」

 

 

イマイチ状況を掴めずにいると、後ろからルキアの声が聞こえてきた。

 

 

「ユーハバッハは中へ入って行きました。一護と恋次もその後を追って・・・」

「そうか」

 

 

ルキアの言葉を聞いた石田は、それだけで臆することなく門を通り抜けていく。

 

 

「行っちゃった・・・」

「・・・石田、くん・・・?」

「井上!!」

「ッ・・・!」

 

 

門から少し離れた位置で横臥していた井上が起き上がろうとしたが、腕で身体を支えることも出来ずに倒れてしまう。

ルキアと共に彼女の許へ隼人も向かい、回道をかけて傷を癒していく。

彼女自身の霊圧も弱まっていたため、いつものように自力回復も出来なかったのだろう。

 

 

「ねえ、もし井上さんの傷が少なかったら、2人も一護くんについて行った?」

「え?」

「どっち?」

 

 

考える素振りを見せたものの、ルキアはすぐに首を振った。

 

 

「敵の力に・・・私では手の打ちようが御座いません」

「打つ手無し?どういう事だよ?」

「未来を書き換える・・・って、言ってました。あたしの拒絶でも消せなくて・・・」

「・・・成程。それでも、一護くん達は向かって行った訳か・・・」

 

 

「僕が君達を治す。すぐに一護くんと阿散井くんを助けに行って」

「!! ですが、策も浮かばない状況で、私達は何も・・・!」

「折角白哉さんに気遣ってもらったのに、ここで呑気に座ってていいの?」

「そ・・・それは・・・・・・」

「駄目だよ。何もしないでこんな安全地に居座って、その結果大切な友達が負けて絶望するなんて、白哉さんが許しても僕が許さねえよ」

 

 

押し黙ったルキアの隣で、大方回復した井上が隼人に尋ねる。

 

 

「じゃあ、口囃子さんは何か策があるんですか・・・?」

「そう言われると・・・ゴメン。難しいかな」

 

 

という返答に井上は案の定ムッとしたが、自分自身が策を何も考えられない現状もあり、最後には意気消沈してしまう。

 

 

「でも」

 

 

どんなに辛い現実があっても、じたばた見苦しくもがきながら克服してきた隼人の言葉が2人を導く。

 

 

「絶対策が見つからないなんて、あり得ない。どこかに必ず穴がある。その小さい穴が見つかれば、書き換えられた未来は変わるんだよ!君達が一護くん達を助けることが、君達が敵を攻撃することが、その小さな穴かもしれない!ここで座っているより、下に行く方が、可能性は広がる!未来は白紙だから、君達が新たに書き込めばいいんだよ!」

 

 

と言って、ちょっと恥ずかしくなった隼人は少したじろぐ。

ポカーンとしているように見えるルキアと井上をほっといて、一人で盛り上がってしまった感が否めない。

他の死神がいなくて本当に良かったと思う。一体何を言っているんだ。

 

 

「あぁ~・・・ゴメン・・・」

 

 

だが、効いてくれたようだった。

 

 

「私、行きます」

「井上!!」

「こんな事言うの、おこがましいかもしれないけど・・・。もっと、黒崎くんと一緒に戦いたい。黒崎くんを護りたい。それで未来が変わったら、あたしは凄く嬉しい」

「井上さん・・・」

 

 

その言葉を聞いたルキアも、迷っていたようだが遂に心を決めたようだ。

 

 

「ならば私も行こう。一護と恋次と石田だけでは、猪突猛進しかねん」

「そうだね!皆考え無しに一気に突っ込んじゃってそうだよね・・・」

「石田も意外と熱い奴だからな・・・」

 

 

2人の雰囲気も、ここに隼人が来た時とは違い、段々と希望の色が見えてきた。

その様子に、心底安堵し、俄然隼人も力が出る。

 

 

「よしっ!じゃあ、極小の穴を突き通す策、考えようか!」

「「はい!」」

 

 

 

*****

 

 

 

「ルキアちゃん!井上さん!・・・生き残るんだぜ!行ってこい!」

 

 

2人を鼓舞して瀞霊廷へと見送ってから、隼人は伝令神機を手に取り、浦原の指示を仰ごうとするが。

 

 

「おーーう、いたいた。早く行くぞ」

「拳西さん!よく迷わずにここまで来れましたね!」

「階段適当に登ってたらここまで来た。地下に行くぞ。他の連中待たせてるぜ」

「承知しましたー!」

 

 

力を消耗している割にえらく元気だなと思ったが、深入りせずに真世界城の最深部へと向かって行く。

時間が無いため、そのままだと鈍足の隼人は拳西に担がれて運送された。

 

 

「場所分かってるんですか?」

「その辺は問題無えよ。お前は力温存しとけ」

 

 

言葉通り、隼人の案内無しにしっかりと目的地まで辿り着く。

京楽、七緒、ラブ、修兵に加え、零番隊の和尚も同席していた。

 

 

「おじさん!僕ちゃんと裏破道使えるようになりましたよ!」

「おうおう、わしの見込み通りじゃ!おんしにあの本を渡して正解じゃったわ!」

 

 

何故零番隊の頭目とこんな砕けた会話をしているのかと副隊長の二人はドン引きしているが、事情を知っている隊長二人も呆れ顔をしているため、隼人の性格からして大方の察しはついた。

 

 

「口囃子隊長、浦原さんから伝令神機っす」

「え?」

 

 

修兵から渡されて耳に近付けると、何だか賑やかな声が聞こえてきた。

【ちょっと皆サン静かに・・・って、痛い!どさくさに紛れてアタシの身体を蹴らないで!】と情けない浦原の声が聞こえたが、もしもし?浦原さん?と言うと普通に返答が来た。

 

 

【口囃子サンっスね!あっち行けこっち来いって色々言ってすみません・・・】

「いや、それは別に・・・。それより、わざわざ改まってどうなさったんですか?」

【実は・・・】

 

 

浦原の口から告げられた最後の計略は、霊王宮を使った壮大かつ、荒唐無稽ともいえるものだった。

まず、残り3つある霊脈の楔ともいえる地点の霊圧を解き、滅却師側の手に未だ落ちている霊子を全て、死神側の手に戻す。

その瞬間に、一度は行き場を失った特大の霊子を霊王宮の中心に集め、形成された霊圧の砲撃をユーハバッハに撃ち込むというものだ。

既に残りの2つは浦原と石田竜弦の手によって解かれており、残るは霊王宮の中心である、真世界城最深部の霊圧地点だけだ。

つまり、ここの霊圧を解放すれば、霊王宮は元通りになる公算がつく。

そしてその瞬間から、ユーハバッハが作り上げた街は霊子の塵となって崩壊すると浦原は推測したのだ。

霊脈の力に加えて塵となった霊子を集めれば、恐らく藍染の力を優に超えた霊圧が地上へと向けられるだろう。

 

 

「それで・・・地上にいる死神は大丈夫なんですか?」

【吉良副隊長と九南サンが中心になって、死神と滅却師の一般兵の避難活動を進めてもらってます。下では、藍染とユーハバッハが戦っているみたいっス】

「藍染と・・・」

 

 

気を逸らすためか、京楽が別の説明を加えた。

 

 

「大理石の像の霊圧は、七緒ちゃんが解く。君は、七緒ちゃんが霊圧を解いた後に、和尚の霊圧に干渉して欲しい」

「おじさんの・・・?」

 

 

太眉をピクリと上げた和尚が、明朗な声で豪快に話す。

 

 

「霊王宮の主はわしじゃからな。儂がその、“びーむ”の発射役となる。おんしの力で儂の霊圧をギリギリまで上げられれば、ユーハバッハに掠り傷程度は付けられるやもしれん!」

「それで、掠り傷・・・」

「そもそもこれが成功する確率なぞほぼ0じゃ。やらぬよりやる方がマシと言えよう。あまり死神らしくない技じゃが、浦原喜助が提案するなら仕方なかろう。奴の操縦する舟に儂も流されてみるわ!」

 

 

きっとこの場にマユリがいたら、「そんな風情の欠片も無い技など言語道断だヨ!」と早口でまくし立て、説得に余計時間が喰っていたかもしれないが、後で知ったとしても激怒するのは目に見えている。

 

 

【タイミングは、石田サンがお父上から授かった矢を撃った直後です。あの矢にはどうやら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「! じゃあ、未来を書き換える力は消える可能性があるんですね!」

【! おぉ・・・そうっスか、未来を書き換えてしまうとは・・・石田サンの矢で射抜かれる未来すら変えられなければいいですが・・・・・・】

「あっ・・・」

 

 

ちょっとだけ間の悪い雰囲気が流れたが、すぐに浦原が気を取り直す。

 

 

【いや、ここまで来たら不安要素は考えないようにしましょう。時間の無駄っス。伊勢副隊長と代わって下さい。そろそろ始めてもらいます】

「あっ、はい!代わります!」

 

 

伝令神機を七緒に渡すと、10秒も経たないうちに浦原にやり方を教えてもらいながらてきぱきと霊圧処理を施していく。

突っ立って見ていると、一兵衛に名を呼ばれて手招きされ、彼の隣に立たされる。

 

 

「一の道を頼む」

「はっ、はいっ!」

 

 

そこまでの余力が残っていないような気もしたが、一兵衛の気迫に背中か何かを押されたからか、そんなに力を使っていない時と変わらずに難なく発動することができた。

 

 

「次は・・・」

「そう気を急くな。伊勢七緒が霊脈の封印を解いてから、おんしは儂の力を伸ばしてくれれば良い」

「そうですか・・・」

 

 

それから1分も経たないうちに、七緒は霊脈と霊子の掌握権を滅却師側から取り戻した。

 

 

「出来ました!霊王宮はこれで尸魂界に戻ります!!」

「よくやった!」

 

 

その瞬間から、地震のような振動が霊王宮中で発生する。

きょろきょろした修兵が、霊王が崩御した時の揺れを思い出して独り言ちる。

 

 

「地震・・・?」

「いや・・・、滅却師の街並みが崩れる音じゃ。これより、零番離殿と霊王様のおわした霊王大内裏を残して、元の姿に戻る為に崩壊する」

 

 

「なればこそ・・・一度は敗けた儂の力、ユーハバッハにもう一度(ひとたび)思い知らせてやるわ」

 

 

「裏縛道・八の道 (しゅう)

 

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