ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

179 / 182
兵主部一兵衛

「裏縛道・八の道 (しゅう)

 

 

一兵衛が術名を唱えた瞬間から、隼人は最後の力を振り絞って彼の力を増幅させる。

外の様子が分からないため実感は湧かないが、一兵衛と浦原からの伝令神機で詳細は伝わってきた。

 

 

「今にも霊子は此処の真下に集まり、霊脈の力も寄せ集められておる筈じゃ」

【危うく落とされるトコだったっスよ・・・】

 

 

外にいた死神は全員中央の城近辺に避難したため、霊王宮から落ちてしまった死神はいない。

肉体保護瓶の中にいるマユリも眠ってはいるが無事だ。

 

だが肝心なのは、瀞霊廷の様子だった。

 

 

「下はどうなっておるか聞いとくれ!」

 

 

七緒が浦原に伝言すると、花太郎が繋いでいた伝令神機に持ち替えて彼の兄と繋ぐ。

 

 

【やあ、浦原君。遠くから見ているけれど、今は藍染惣右介と黒崎一護、阿散井恋次がユーハバッハと戦っているよ】

「石田サンの霊圧は感じますか?」

【まだ感じない・・・かな】

「そうっスか。ありがとうございます。引き続き偵察お願いします!」

 

 

花太郎に伝令神機を渡してから、暫しの間浦原は策をブラッシュアップさせていく。

成功する確率はより低くなるだろうが、効果を強く引き出すには時間も正確に合わせる必要があった。

次に浦原が通話したのは、門の中を移動中の石田雨竜だった。

 

 

 

*****

 

 

 

「浦原さんから返事来ないっすね・・・」

「アイツの事だからどうせまた何か考えてんだ。俺達は待つしかねえよ」

「左様。今出来る事は、儂がありとあらゆる霊王宮の材料をかき集めるに過ぎん。下では・・・一護と恋次が戦っておるのは分かるが、まだ儂の目もはっきりせん。どうなる事やら・・・」

 

 

手を合わせて祈りを捧げる一兵衛の身体から溢れ出る霊圧は、恐ろしい程に静謐なものだ。

真世界城にあった祭壇は地下に眠る墓室のように小さいものだったため、一兵衛を中心に作られた陣は室内の壁を覆い尽くしている。

近代的な壁に漢字、梵字で施された意匠が張り巡らされるのは何ともアンバランスだった。

 

そして、待ち望んでいた浦原からの伝令神機が掛かってくる。

受け取り役の修兵が、伝令神機をスピーカーモードにして全員が聞き取れるようにした。

 

 

【石田サンに電話した所、あと少しで瀞霊廷に辿り着くそうです。準備は大丈夫っスか?】

「え、もう!?」

「まだ待てぬか?材料が足りん」

【あぁ、すみません!少しだけなら時間はあります】

「少しか・・・・・・」

 

 

切羽詰まった様子を見せる浦原に、京楽が事情を問い質す。

 

 

「君の頭の中のパズルを、ボク達にも聞かせてくれ」

【・・・石田サンが矢を撃つ瞬間とタイミングを、合わせようと思います】

 

 

その場にいる一兵衛と京楽以外の面々が、無理だと思わず表情に浮かべてしまう。

そもそも霊王宮からぶつける霊圧の砲撃の弾速も分からない中、速度と時間の計算をやったとしても、無茶苦茶で現実にそぐわない結果が出てしまうだろう。

タイミングがズレてしまったら元も子もない。

 

 

【ですが、正確にユーハバッハに霊王宮からの攻撃を当てるのであれば、石田サンの矢が当たった直後にこの攻撃が届くようにすべきっス】

「ふむ・・・・・・、」

 

 

「分かった、おんしの考えに乗ってやろう」

「「「!!」」」

 

 

あっさり承諾した一兵衛に、隣で支えていた隼人が問い詰める。

 

 

「おじさん、本当にいいんですか・・・!?」

「何、構わん。霊脈なんて絶えず滔々と流れておるし、他の材料も元は滅却師の持ち分、“こすぱ”が抜群じゃ!儂らが失うものは最悪瀞霊廷の一部じゃが、そんな物は涅マユリがおれば数年で何とかなるじゃろう」

「それは、そうですけど、」

「案ずるな、おんしはただ儂の力を手助けしとるだけじゃ。責任は儂と京楽と浦原喜助が持つ。余計な事を考えず、おんしは儂に力をくれ」

 

 

それでもモヤモヤしていたが、時間は刻一刻と迫っていく。

 

 

【石田サンが瀞霊廷に到着したようです!】

「よし!悩んどるヒマなど無い!倍速じゃあ~~~!!」

 

 

一兵衛の静謐な霊圧は情熱を増していき、霊子が砕かれ、結合する影響で僅かながら地震が発生する。

言葉通りに倍速で材料が集められ、力を振り絞って霊王宮そのものを攻撃要塞へと変化させていく。

隼人の力も、とうに限界を超えていた。

 

 

「ッ・・・!まだ、まだなのおじさん!!」

「もう少しじゃ、気ィ張って踏ん張れ隼人ォ!!」

 

 

それでも言われるがままに、一兵衛の漲る活力に押されて力のその先へと超えていく。

地震の揺れが強くなっていくと同時に、浦原からの伝令神機による情報も伝わってきた。

 

 

【あと1分で矢を撃つそうっス!】

「なら儂らは30秒後に撃つぞ!!」

「はい!!!」

 

 

一兵衛の脳内で正確な秒数が刻まれる中で、集められた素材が霊圧の膜で覆われていく。

立つこともままならない程に地震が強くなり、一兵衛の肩にしがみつくようにして隼人は隣で立っている。

真世界城の構造がしっかりしているからか、これぐらいの地震で倒壊しないでいてくれたのが敵ながら有難かった。

 

 

「あと10秒じゃ!!行くぞ!」

 

 

一兵衛の声で、遂に霊圧を発射する態勢を整える。

カラカラの隼人の霊圧も、最後の一滴まで絞り込む思いで一兵衛の身体に供給する。

同じ空間にいた死神達は、固唾を呑んで見守るしか無かった。

 

 

「・・・・・・4,3,2,1」

「発射じゃ!!!」

 

 

一兵衛が床に両手を叩き込むと同時に、2人の霊圧も一気に地面から霊王宮の真下に溜まっていた霊圧が瀞霊廷に向かって放出された。

一兵衛の思っていたビームとは違い、巨大な霊子の弾が地上へと豪速で向かって行った。

 

また、一兵衛が霊圧を発射した瞬間に、巨大な霊子体を撃った反射で身体が吹っ飛び、盛大に壁に激突する。

 

 

「ぬうっ!」

「あ゛ッ!!!!」

 

 

瞬時に受け身を取った一兵衛とは逆に、何も出来なかった隼人は壁に背中を強打する。

当たった感触として骨までは折れてないと思うが、しばらく立てそうにない。

 

 

「痛ッてぇ~~!」

「口囃子隊長!」

「きつい~・・・」

 

 

すぐに七緒が背中を治療してくれたお陰で座っている時の痛みは治まったが、それでも立とうとすると盛大に打ち付けた背中に激痛が走る。

瀞霊廷を吹き飛ばしかねない砲撃を発射した代償としては軽いものだが。

 

 

「オイ!一護たちはどうなった!」

 

 

拳西の声と時を同じくして、発射された霊圧が地面に衝突する音が聞こえてきた。

 

 

 

*****

 

 

 

「―――――何だ、これは・・・、!!!!」

「石田・・・・・・!?」

 

 

石田竜弦が託したのは、聖別(アウスヴェーレン)によって心臓に現れる銀を集めた鏃だ。

“静止の銀”と呼ばれるこの物体が、一度でも聖別(アウスヴェーレン)をした者の血液と混ざったその時。

 

 

 

その者の聖文字(シュリフト)が、完全に失われる効果を持っていた。

 

 

「黒崎!!斬魄刀を持って逃げろ!!!」

「!!」

 

 

石田の指示通りに剣を持って離れたその瞬間に、上空から霊圧の砲撃がユーハバッハに激突した。

浦原の策は成功し、ユーハバッハは霊王宮の持つ極大な霊子のエネルギーをその身に受ける。

一点集約型の砲撃になったため、瀞霊廷の被害は思ったより少なく済んでいたが、聖文字を失って静血装(ブルート・ヴェーネ)だけで全て防ぎきるのはユーハバッハでも不可能だろう。

凄まじい力だと感じざるを得なかった。

 

石田が携帯を取り出して浦原に電話する。

 

 

「浦原さん、成功はした」

【本当っスか!】

「だが、これだけであのユーハバッハが消えるとは思えない」

【アタシもすぐにそちらへ向かいます】

「お願いしま―――――」

 

 

言葉を言い終わる前に、石田の腹は背中から霊子の剣によって貫かれた。

それに反応して振り向こうとする前に、腹に刺さった剣は左方向に斬り払われ、身体を蹴り飛ばされて受け身も取れずに吹っ飛ばされて倒れ込む。

 

 

「あ゛ッ・・・!!」

「石田!!」

「私の聖文字を消したから何だ!!!霊王宮の力を使おうが、私を止めることなど不可能だ!!」

「ッ!!」

「死神の力を結集した所で、今のお前達には聖文字の力など無くとも関係ない!!私には、霊王の力があるのだ!!!この力で、全てを一つに!!」

 

 

斬りかかった一護は吹き飛ばされ、漆黒の霊圧が再び各地から湧き出てくる。

 

 

「ッ・・・黒崎・・・駄目だ・・・もう・・・!」

 

 

再び正面から斬りかかろうとする一護に石田は止めるよう声を上げようとするが、腹の深い傷のせいで何もせずとも激痛に苛まれる。

 

(止められない・・・!逃げろ黒崎!)

 

だが諦めかけたその瞬間、二つの影が石田の横を通り過ぎた。

黒い死覇装と白いブーツ。真世界城の頂上で見たルキアと井上だった。

 

 

「井上さ・・・」

 

 

止められるものなら止めたかったが、今の石田にそんな力は残っていない。

一体何を・・・と思いつつ必死に頭を上げて目の前の光景をその目に入れた石田は、腹の痛みを忘れる程の驚きの顔を浮かべることとなった。

 

 

 

*****

 

 

石田の隣を走って通り過ぎると、ルキアは懐からある物を取り出した。

何の変哲もない、小さい手で簡単に握ることのできる瓦礫の欠片だ。真世界城の頂上のものだった。

それにルキアは霊圧を籠め、ユーハバッハに向けて投擲する。

 

“これは、ルキアちゃんが使うべき。敵に向かって投げれば、何かの役に立つ筈だ!”

 

瀞霊廷へと繋がる門に入る前に隼人から託された石ころみたいな瓦礫が、何故自分が使うべきなのか、何故役に立つのかは、その時のお楽しみと言われて説明されなかったが、この瓦礫を投げた瞬間に気付いてしまった。

霊圧を籠めて瓦礫が手から離れた直後、小さな瓦礫は弾けて中から黒い霊圧が飛び出る。

 

 

そこから出てきたのは、()()()()()()()()()()()()だった。

 

 

「これは・・・!!」

 

 

霊圧は右腕の形へと変貌を遂げ、ユーハバッハの剣を親指と人差し指でへし折り、身体を握り潰そうとする。

 

 

「黒崎くん!!!!」

「一護!!!」

 

 

井上とルキアの声を聞いてから、斬魄刀を両手で持ち、ユーハバッハへと全速力で距離を詰める。

その風圧に耐え切れず、一護の斬魄刀に入ったヒビは深い亀裂となって自然に砕けていった。

 

 

最後に残ったのは、一護のルーツである斬月だった。

 

両手に斬月を持った一護は、浮竹の霊圧ごとユーハバッハを横に一閃する。

眼を開いていた浮竹の霊圧は、一護に斬られる寸前に、眠りにつくように眼を閉じた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。