ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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女たらし

慌ただしく一般隊士達が左へ、右へと移動するのをぼんやりと眺める。

その様子を見ても、何の感慨も無いため息しか出ない。

気が向かないのか、無意識に痛みを庇っているのか、座ったまま立ち上がる気力も湧かずにいた。

 

 

「口囃子隊長。治療の為に四番隊へと向かって頂けますでしょうか」

「・・・・・・」

「口囃子殿・・・?」

「・・・! あ、」

 

 

声を掛けられても気付くことも出来ず、しかもどうして急に生気を失ったのかが分からない。

歩けますか?と言われてもぼや~んとした顔のままで、傍からは耳に届いていないように思える。

 

 

「極度に反応が薄いわりに怪我が少ない。力を使い切って動けないようだな。車椅子で運ぼう」

「承知しました」

「少しだけお待ち下さい。その間に傷の手当を致します」

 

 

程なくして手伝いに駆り出された霊術院生が車椅子を運んできて、なすがままに乗せられて運ばれていく。

手当てをした四番隊の死神は別の隊長格に声かけしに行ったようだ。

移動の最中もボロボロになった瀞霊廷の現状が目に映し出されていたものの、その時の記憶は曖昧だった。

そういった事情を分かっていたのか、はたまた緊張していたのか、院生の男の子は何も話しかけることは無かった。

 

 

だが、気の抜けた炭酸状態になっていた隼人の意識は、綜合救護詰所に入った瞬間に元に戻ることとなる。

 

 

「あ・・・あぁぁ~~~~!!!!!!」

 

 

卍解は瀞霊廷に来る前に解いてしまったため、今の隼人に霊圧を感知する能力こそ無いものの、女性の声が聞こえた瞬間、その声の主がこちらに近付いてくるような気配を感じ取る。

そちらに目を向けた瞬間、思わず隼人も「あ・・・!」と声を漏らす。

 

 

「あんた、何でこんな所に・・・!って、隊長だったの!?信じられない・・・!」

 

 

びっくりして場所を考えず大声を上げたのは、現世の焼きそば事件で助けてくれたツインテールの女性だった。

あの時隣にいた金髪の小学生は今回はいないようだ。

 

 

「でも納得したわ・・・そりゃあ死神なら、現世の小銭の使い方が分からなくても仕方ないわよね・・・!」

「何だよリルカ、知り合いいたのか?・・・って、何だ口囃子さんかよ・・・」

 

 

遅れてやってきた一護が声をかけ、がっかりしたような目をこちらに向けてくる。

いやお前めっちゃ失礼だぞと言いたいが、そうツッコむ前に毒ヶ峰リルカは何だか数年越しの恨みがあったようで、彼女の声が物理的に通ってしまった。

 

 

「あんたがあそこでもたついたせいでね・・・!!限定発売のドーナツに間に合わなかったのよ!!私の直前の人で売り切れて、雪緒にまで来てもらったのに結局買えなかったのよ!!!」

「「え~~・・・」」

「どうしてくれるワケ!!!」

「いや・・・その節はどうも・・・あとごめんなさい・・・」

「バッカじゃないの!?謝られたいワケじゃないの!!」

 

 

リルカがその時欲しかった限定販売のドーナツは、普段期間を置いて再販されることがあるものの、食べたかった味だけが対象外になってしまったらしく、余計にその怒りをぶつけている。

じゃあ作ればいいんじゃ・・・?とか、同じ味を他の店で探せばいいんじゃ・・・?とか色々考えて怒りを落ち着かせようとしたが、予期せぬ形でリルカの怒りは収まった。

 

 

「あんた本当に・・・!」

「分かったから一旦落ち着けって、そんなんアンケートでも書いて出しゃいいだろ?」

 

 

と、一護がリルカの肩をポンと触れた瞬間に、百面相のようにリルカの顔が赤くなったり青くなったりした。

 

 

「はっ!!ちょと、ちょ、ちょっと!!バッカじゃないの!?!?気安く私に触らないでよっ!!」

「おぉ、そうか、悪い」

「えっ、あ、違、べっ、別にそういう、訳じゃ・・・!~~~~~~~!!」

「??」

 

 

天然の女たらしとは、こうまで恐ろしい存在なのか。いくら何でもオトしすぎではないか。

リルカはそのままどこかへと走って行ってしまったが、状況を分かっていない一護はそれを見送るだけだった。

 

 

「本当に君はさ・・・ここまできたら凄いよね・・・」

「口囃子さんよりはなー」

「オイテメェ意味わかって言ってんだろうな?」

「何だよ急に怖いな!」

 

 

ぐぬぬぬぬ・・・と犬歯剥き出しの獰猛な犬みたいな顔をしていると、伊江村から治療(といっても点滴だけだが)の準備が整ったとの報告を受けたため、車椅子に乗ったまま病室へと移動する。

何の当てつけかは知らないが、一護が院生に代わって車椅子を押してくれた。

 

 

「恋次とか剣八は皆治療中で、平子はひよ里とかと大騒ぎしてるから暇なんだよ。井上は治療手伝いで忙しそうだしな」

「聞いてないのに説明ありがとな!」

「聞きたそうな顔してたから教えてやったんだよ感謝しろ!」

「えへへへ」

 

 

暇つぶしに使われるのは釈然としないが、一護にはちゃんと別に友達や、より強い繋がりを持った仲間がいるのだ。その辺の奴みたいな扱いをされようが、文句を言う筋合いは無いし、言うつもりもない。いい友達が沢山いて、慕ってくる女の子も結構いるのは羨ましいことこの上ない。漫画の主人公みたいだ。

 

 

「そういや、ルキアから聞いたぜ。あの黒い手のやつ、口囃子さんが作ったんだろ?」

「え、ああ~・・・助けになった?」

「あれでユーハバッハの動きが抑えられたから、すげぇ助かったぜ」

「そっか。でも、アレは浮竹隊長の霊圧を・・・コピー?したやつだから、浮竹隊長にお礼言わないと」

 

 

ありがとうございます、と虚空にお辞儀する隼人を不思議そうに眺めていた一護は、意外な事を呟いた。

 

 

「・・・ひょっとしたら、こうなる事を分かって、口囃子さんに託したんじゃねえか?」

「え・・・何で?」

「浮竹さんは口囃子さんに霊圧読むよう頼んだんだろ?そうすれば、浮竹さんが上手くいかなくても、口囃子さんが霊圧を真似て使ってくれる。あの人なら全部分かっててもおかしくねえよ」

「まさかぁ!・・・卍解は見せたし能力も知っていたと思うけど・・・えっ、本当に?」

「さあな。これ以上は俺に聞かれても困る」

 

 

そりゃあ此処にいない人物の事を外から勝手にとやかく言ったところで、正解には辿り着かない。

自己都合でどうにも解釈を捻じ曲げることが出来てしまうので、浮竹について深く考えるのは得策ではない。

一護もそれを分かっていたようで、別の話題を持ちかけた。

 

 

「あんた、隊長になったんだろ?副隊長とかどうすんだ?」

「あ・・・・・・そうだった・・・」

 

 

今まで隊長になる事に関して、とにかく滅却師との戦いに足る実力をつけるため、という意味合いが置かれていたことにかまけてしまい、今後の隊の運営とか、もっと長期的な目線で隊長になる事については完全に隅に置かれていた。

咄嗟に思いついたのは、突拍子もクソも無い案だ。

 

 

「一護くん、やってみる?」

「やらねえよ!俺は高校生ってか、今年受験生だぞ!!」

「えー大学行くんだ~!いいなぁ憧れ・・・」

 

 

現世にある大学というのは、勉強をしながらも自分の時間が沢山あり、バイトやサークル、旅行、更には恋愛など、色々なことが出来る夢のような場所であり、時間だという印象を隼人は持っている。

幻想も多分に混じっているが、それならと別の提案を一護に与える。

 

 

「じゃあ、大学で暇になったら護廷十三隊にバイトしに来てよ。一護くんなら大歓迎だし、環を現世のお金に替えれば結構いいお金貰えるんじゃないかな?給料弾んでくれるよきっと~」

「・・・・・・まぁ、大学入ってから考えるぜ」

 

 

もしそうなったら、きっと京楽あたりの給料が減額されて一護の給料になるのだろう。

現実に七緒がそうしてしまうのは、これまた後の話である。

 

 

「そうじゃなくて!あんたの副隊長はどうすんだよ」

「そーだねー、うーん・・・・・・」

 

 

少し荒い鼻息で脱力しながら何も考えずにいると、引き戸の開く音がした。

 

 

「失礼致します。点滴を霊圧回復用の物に変えに来ました」

「「あ・・・・・・、」」

 

 

入ってきた死神を見た瞬間に、思わず一護と顔を見合わせて頷き合う。

一護も名前と席次に関しては知っており、実際に第一次侵攻の時には軽く治療でお世話にもなった人物だ。

自分の班だけでなく、時によっては隊の動きそのものを取り仕切ることもあり、中間管理職としての力はこれ以上ない程に優れた人材だった。

少し細かいのが

 

 

「ねえ伊江村~」

「・・・何でしょうか?」

 

 

まるで子供みたいな呼びかけ方で名前を呼び、案の定警戒されるが、お構いなしに言葉を続ける。

 

 

「副隊長なって」

「・・・・・・は?」

 

 

このやりとりが、新生七番隊のスタートとなった。

 

 

 

*****

 

 

 

いや・・・ちょっと・・・とは言いながら、副隊長に昇進という状況は伊江村にとっては甘い餌でしかなく。

押されつつ、満更でもない様子で、隊士の救護に目処がついてからであれば、七番隊への異動は構わないと一先ず口約束をした。

その場には一護もいたので、証人が必要であればなってくれるだろう。

退院出来るのであれば、すぐにでも京楽に伝えるつもりだ。

 

 

「良かったじゃねえか、目処ついて」

「うん、まあ・・・独りぼっちは辛いからね」

 

 

窓に映る夕日が眩しく、そろそろ日が沈んで夜になるのだろう。

戦争が終わった直後の慌ただしさは若干落ち着き、家のある者は帰路につき、そうでないものは友人の家にお世話になったり、家が壊れた者同士、キャンプみたいに外で過ごす計画を立てている。

夏なので、夜でも平気で外に出られるのは不幸中の幸いと言うべきか。

 

点滴を打ち終わった隼人は、病床確保のために追い出される(退院)する事になったが、酷い怪我を負った者が詰所のベッドを使うべきなのは分かっているため、名残惜しいが出るしかなかった。

一護は処置を終えた茶渡や石田と共に井上を待ち、志波空鶴の所に暫くの間身を寄せるそうだ。

 

隊舎も無い。家も無い。これではホームレス口囃子だ。

かといって、今自分から誰かの所に押し掛ける事は憚られてしまうのだ。

こうなったら、跡地で野宿でもするか。

地べたに寝転がるのは身体が痛くなりそうだが、星空を眺めながら眠るのはいいかもしれない。

点滴のお陰でお腹も空いていないし、お風呂も四番隊のを借りればいい。

 

 

と思っていたが。

 

 

「おーーーう、何してんだ?」

 

 

後ろからお馴染み(六車拳西)の声が聞こえてきた。

 

 

「・・・家が無いので、瓦礫を使って家を作りに行こうかと」

「なら丁度いい。俺の家は壊れてねえから来い」

「えっ!いいんですか!?やった!見捨てられるつもりでいました!!」

「そこまで自分のガキに薄情者じゃねえよ」

 

 

とは言うものの、拳西が再び隼人を自分の家に引き戻した理由は、いつの間にか出来ていた腕の怪我だった。

地味に日常生活に支障をきたすレベルの両腕の怪我では、何よりも料理が出来ないのが辛かった。

普通なら既製品や即席の料理などで代用すればいい話だが、そんな物を食えば筋肉が落ちる、体調を崩しやすくなると頑固に考えているため、何とかしてちゃんと人の手で作られた料理を摂取し、回復を早めたかった。

こういった事を頼めるのは隼人しかいない。無一文なら尚更利害も一致し好都合だ。食の好みだって合う。

しかも腕の怪我を見た隼人は、何だかノリノリになっていた。

 

 

「じゃあ僕が介護してあげますね!」

「老老介護だな」

「うるせえよジジイ」

「・・・・・・・・・」

 

 

と言っても腕のせいで拳骨が飛んでこないのは、非常に有難かった。

ブチブチブチと蟀谷が音を上げていた気がするが、聞こえない聞こえない。気のせいだ。

ある程度の節度を持ちながら、新生活を楽しむことにした。

 




一護は本当に、罪な男だと思います・・・。
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