鬼道の試験後。
実力を隠していた隼人は皆からもみくちゃにされつつ賞賛を受けることとなった。
「すっげぇなお前!六十番台扱えるのかよ!つーか何でそんな実力隠してたんだよ!」
「私あんなに迫力ある戦い初めて見たわ!!しかも藍染副隊長から褒められていたじゃない!羨ましいわぁ~~!」
「いつも本気だしてたら演習場何回も壊しちゃうから抑えてたんだよ。今日だって多分後で先生に怒られるよ・・・。ほら先生来たよ・・・。」
案の定先生から呼び出されたが、ちょっとした注意程度で済んだ。
それどころか、先生の間では抑えきれなかった問題児を潰したことを感謝された。
いいのかよ真央霊術院・・・。プライド無いのかよ・・・。
その後の皆の試験も容赦なく貴族達に攻撃し、直接対決は特進学級側の勝利に終わった。
試験が終わり数日経ったあたりで夏休みに入り、成績が配られた。
特進学級にいるため皆の成績は軒並み高かったが、隼人の鬼道の評価は破格のものだ。
『真央霊術院鬼道全課程の修了を認める。』
えっさすがにやりすぎじゃね?と焦ったが、それが院の決めた処置だ。
鬼道衆に入る場合は入隊試験を受けることが出来ると書かれていたが、言うまでもなく隼人は護廷十三隊に入るため、残りは斬拳走の三つに注力できる。
「何じゃとぉ!!!!!お主は鬼道をもうやらんでもええんか!!」
「まぁそうなるけど一番得意だし練習はするつもりだよ?」
「羨ましいのう・・・。じゃが斬術は相変わらずじゃのう!」
「余計なこと言うな!」
そうなのだ。たとえ鬼道で高評価を得たとしても、斬拳は到底この学級で見せれるものではない。
平均以下の実力のため、そこには触れてほしくない。
それにもっと危険な事が待ち構えているのだ。
(これはまずい・・・明日帰省したらまず真っ先に成績って言われる・・・。こんなの見られたら間違いなく頭ぐりぐりの刑だよ・・・。)
試験後から今日までの間たまたま拳西に会い、試験はどうだと聞かれた際、
「ばっちりです!!期待してて下さい!!」
と満面の笑みで言ってしまったのだ。
その時は完全に斬拳の二つを忘れていたため、今になってとんでもなく後悔するハメになってしまった。
青ざめた顔でどうしようどうしようと教室内で一人必死に苦悩したが、悪戯に時間を無駄にするだけだ。
こんな時はあそこに行こう!
そして隼人は授業後に外出届をまた提出し、院の外に出かけた。
寮のオバちゃんから「最近外出多いね~夜遊びはダメだよ。火遊びも♡」と言われ何だこのクソババァと言いそうになったがこらえてとある場所へ向かった。
八番図書館。
瀞霊廷の中では一番図書館に次ぐ蔵書量を誇り、隼人も院に入る前は勉強場所としてよく使っていた。
そして最近は図書館で蔵書整理を任されている女性死神(といっても隼人より小さい)に色々お世話になっていたのだ。
「こんにちは七緒さん!」
「図書館ではお静かに!教室じゃないんですよ!」
「すみません・・・。」
彼女も鬼道で優秀な成績を収め、特例で六年かからずに入隊試験を受けることが出来たのだ。
鬼道衆配属希望だったが、八番隊に所属となり最初は戸惑いを隠せなかったものの、今では蔵書整理の仕事をてきぱきこなす『デキる女』となっていた。
また、リサのお気に入りの隊員らしく、読書会を毎月初めに開いており、門限まで隼人も参加したことがある。
その縁もあって、それなりに相談するくらいには仲良くなっていた。
「・・・それで今日は何の用ですか。」
「えーーーっと・・・実は相談に乗ってもらいたくて・・・。」
「また六車隊長絡みですか。」
「・・・・・・はい・・・そうです・・・・・・。」
「何でも私に相談すれば解決すると思ったら大間違いですよ!いっつもどうでもいいことで相談してくるじゃないですか!!」
「今日は真面目です!大真面目ですから!!」
院に入る前は勉強の相談ならまだしも、今日は拳西が遅くに帰ってくるからご飯何を作ってあげたらいいか、拳西が今度誕生日らしいからお礼に何をしたらいいか、など別に七緒に相談しなくてもいいことばかり相談してくるため、いつもいつも小言を言っていたのだ。
しかしそれでもちゃんと相談に乗るあたり七緒も七緒であるが。
もちろん今回も。
「それで、一体何があったんですか。」
「実は・・・成績のことでちょっと・・・。」
と言い、七緒に自分の中間試験の成績を見せると、やはり七緒も鬼道の欄を見て非常に驚いていた。
「一年目で鬼道の課程修了って・・・!私でも三年はかかってますよ!!十分凄いじゃないですか!」
「いやあの・・・そこじゃなくて・・・・・・。」
皆やはり鬼道の欄に注目するが、個人的に問題なのは斬拳の方だ。
指をさし評価の芳しくない部分を七緒に見せると、あぁと察した七緒が辛辣な一言を放った。
「これはどうしようもないですね。六車隊長に正々堂々怒られてきて下さい。」
「酷い!!どうしようもないって!!!酷い!!!」
正直七緒は人のことをあまり言えるような成績ではないが、そんなことを知らない隼人には隠しておいた。
「だってこんな成績見せたら確実に頭ぐりぐりの刑執行確定ですよ・・・。」
「でも変にかくしてうじうじしていたら余計に怪しまれますよ。」
「そりゃあ本来隠すつもりはありませんでしたよ。」
「じゃあ何で隠したいのですか!!」
「えーーーっと・・・・・・・・・それは・・・・・・。」
絶対に七緒に怒られるが、もうこの際ハードルを上げた全ての理由を洗いざらい吐くことにした。
「試験終わった後にたまたま拳西さんに会って成績自信あるかって言われたんですよ。その時に斬術とかの存在忘れて『ばっちりです!』って言っちゃいました。」
「もう知りません!!六車隊長から大目玉でも食らっていなさい!!」
「そんなぁ~~~!!!助けてくださいよ~~~!!」
七緒はぷいっと顔を隼人から逸らしもう何も聞いてやるものかと憤っていたが、このまま明日怒られに帰る隼人も哀れに思えてしまった。
相談を拒絶した際にお願いしますよ~~と上目遣いで手を合わせながら(無意識)懇願してくる姿も何回も見てきた。
絆されてたまるかと思うが、年下の霊術院生が困っていて死神の自分を頼っているのだ。
結局、もう何回も言った台詞を(自覚ナシ)また七緒は言う羽目になってしまった。
「今回だけですよ・・・。」
やったーーー!と喜ぶ隼人にいっつも負けてしまった・・・と軽く後悔してしまうのだ。
だが相談に乗ってあげた後お礼を言って駆け足で帰っていく姿を見ると少し寂しく感じてしまう自分もいるのだ。
とりあえず本当に今回だけにするつもりで(これもいつもそうだが)相談の続きに乗ってあげた。
「もうこの際成績は見せます。でもどーーーーすれば拳西さんの怒りを最小限にできるかを一緒に考えてほしいんです。だからお願いします!!」
やっぱり無理だ。馬鹿馬鹿しい。
結局六車隊長絡みのどうでもいい質問に終始してるではないか!
というか何で他人様の家庭事情に関わることを自分に相談するのか。同期にでも相談してろよ!
と思いはするが結局親身になっちゃうのがいつもの伊勢七緒であった。
かなり大きなため息を吐きつつ簡単に思いついた解決策を隼人に与えた。
「はぁーーーー・・・。とりあえず最初に悪い成績を見せるのはどうでしょう。その後に鬼道の評価を見せれば後味よく終わるので最終的に隊長の機嫌をあまり損ねずに済むと思いますよ。・・・まぁ最初はとんでもなく怒られる覚悟をしないといけませんが。」
最後の言葉は眼鏡をクイッと上げて冷徹に放ったため「ひっ!」と隼人が怯えていたが、一応解決策を伝授はした。これで満足だろう。
「わかりました・・・。やってみますね!ちゃんと成果教えに行くので楽しみにしていて下さい!」
「別に来なくても・・・。」
そういう所でまだまだ子どもな隼人に対し、ついつい七緒はお姉さん風を吹かせてしまうのだ。
その後はいつもなら帰っていくが、今日は長い休暇用におすすめの本を借りたいと言われたので、七緒おすすめの本を隼人に教えることにした。
色々話をしている内に気付けば日も暮れ、いくつかの本を持ち出してきた所で八番隊隊長・京楽春水が蔵書の確認のために訪れてきた。
「こんばんは~~。今日もリサちゃんがたくさん本買ってきちゃったらしいから確認に来たけ・・・ど・・・。」
振り向いた七緒と隼人の雰囲気を見て京楽は察してしまった。(全く違う)
(こっこれは・・・いくら隼人クンでもその子に手を出すのはダメだ!!)
完璧に誤解してしまった京楽は大人の男になってしまった隼人に対し敵愾心を燃やし始めてしまった。
笠を整え、居ずまいを正してナンパ男からかわいい
「あら。お二人さん夜の図書館で密会?いやらしいことしてるね~~。」
「ちっ違いますよ!!私はただ、相談に乗ってほしいって言われて相談に乗ってその後本を借りたいと言われたので・・・。」
「そうですよ。度々こうやって相談に乗ってもらってます。」
度々!?度々だと!?!?
なるほど、思っていたよりもまずい状況になってしまったようだ。
そして相談に乗ってもらうというやり口も京楽にとってはいけ好かないものだった。
自分が霊術院の頃にやって何度も失敗していたからだ。
もっとも京楽の場合はナンパがちらつく相談内容だったため敬遠されていたのは彼の知らない話であるが。
これはいつ七緒ちゃんが隼人に落とされてしまってもおかしくない。
隼人にはご退場願おうと思い少々強引なやり方を始めた。
まずは強請る材料探しだ。
一体何を相談していたのか。内容次第では簡単に退場させられるはずだ。
「それで一体隼人クンは何を相談していたのかな?」
「あ・・・えっと・・・。」
今日一日京楽の目線はどこか敵意のあるものだった。
それは何というか・・・「娘さんを僕に下さい!」と言った男に対する父親のような目であったのだ。
何か僕悪いことでもしたのかな・・・と不思議に思いつつ、とりあえず京楽にも相談してみることにした。
「どうすれば拳西さんの機嫌を損ねずに成績を見せられるかって話なんです。斬術とかからっきしなので・・・。」
「ふ~~~ん・・・。」
少し思案した後、京楽は思わぬ一言を口にした。
「七緒ちゃん。ここからは男の話だから・・・ちょっと席を外してくれるかな?」
「えっ・・・あ、はい。」
「リサちゃんが買った本追加で来たみたいだから整理ヨロシクね。」
「わかりました!」
そんな男の話って何だろう・・・。
七緒さんには思いつかなかった方法か!?ってことはもっと素晴らしいやり方で機嫌を損ねずに・・・!
と希望の光を京楽に見出していたが、彼が口にした言葉は全くもって別角度からのものだった。
「隼人クン・・・。七緒ちゃんと火遊びは良くないよ・・・。」
「は?」
「あんまり七緒ちゃんと仲良くしてたら彼女誤解するかもしれないよ・・・?隼人クンが自分に好意を持っているのかもって・・・。」
「え?いやそんなことは「普通の人が見たら隼人クンが七緒ちゃんを口説いているようにも見えるかもね。隊内でも噂になってたりして。」
「えっ?」
いまいち京楽の言うことがよくわからなかったが、ちょっとイラっとした京楽が決めにかかった。
「ボクさ・・・。明日朝一で九番隊に用があるんだよね。だから六車クンに言っちゃおっかな~~。隼人クンが自分の成績不振に絡めてボクの隊の若い女の子を口説いてるって。」
「はぁっ!?!?!?!?!?」
いやいやいや口説くつもりなんてないってば!
第一あんな聡明な女性(身長は隼人の方が高い)と院生の子どもが釣り合うわけないし!
あれ?誤解してる!?!?
とようやく自分の置かれた状況を何となく分かり始めたが、京楽は追及の手を決して緩めなかった。
「死神になるって宣言していたのに女の子にうつつを抜かしているって知ったら六車クン大激怒だよ?」
「!!!!・・・・・・じゃあ・・・・・・どうすれば・・・・・・。」
「早く本借りて院に帰りなさいな。もう門限も近いでしょ。」
「そそそそそうですね~~~ここで失礼させて頂きます・・・・・・。」
あれ~~~?京楽さんってこんな怖かったっけ~~~!?
とにかく急いで(図書館なので走りはしなかったが)勧められた本を借りて一目散に寮に帰っていった。
図書館を出る前に一瞬ミニスカートの死覇装を着た死神に声をかけられた気がしたが、ごめんなさいと思いつつ無視して帰ることにした。
とにかく七緒の教えてくれた作戦で乗り切るしかない。
覚悟を決めて一旦寮に帰り、寝ることにした。
「隼人来とったんか。」
「うん。でも七緒ちゃんにつく悪い虫はボクがしっかり払わないとね。」
「悪い虫って・・・。別に隼人が七緒に気あるとは思えへんけど。」
図書館の様子を見に来たリサが、一目散に出ていった隼人に何かあったのか京楽に尋ねていた。
京楽よりも七緒と関わりが深く、その繋がりで度々隼人にも会っていたリサはきちんと誤解せず二人の関係を見ていたが、京楽の一言のせいでリサも勘違いし始めてしまった。
「度々相談してるんだって・・・。ボクが呼んで振り返った時の雰囲気がもう完全に付き合う前の男女そのもので・・・・・・。もう時間の問題だよ・・・。」
「なっ・・・・・・何やとォ!!!!信じられへん!!拳西にチクったる!!!!!」
「あっリサちゃん!!!ちょっと待って!!・・・・・・ありゃりゃ・・・・・・。」
猛ダッシュで駆けていったリサを見て、京楽は少し面白そうによく言う一言をひとりごちた。
「面倒なことになったねぇ・・・どうも。」
翌日。
拳西も仕事があるため夕方に帰るつもりでいたが、それまでの時間が長く、寮や院内を歩き回ったりして完全に気持ちが落ち着かないでいた。
友達にすれ違う度に適当な理由を付けてあしらったが、やはり緊張は収まらずにいた。
時間よ止まってくれ・・・!でもあれ禁術だからだめだよな・・・いやでも止まってくれ・・・。と必死に考えていたが。
もちろん時間が止まることも無く、夕方になってしまった。
重い足取りで自宅の前に着いたが、ここまで気が重くなる帰宅は初めてだった。
あぁやっぱ寮に戻ろうかな・・・。でも戻って今日帰ってこなかったら確実に明日拳西さんが連れ戻しに来るよ・・・・・・。でもやっぱ怖いなぁ~~・・・・・・。
と数十分考えたが、ついに入る決心をした。
「ええいままよ!!!!この際誠心誠意謝ればいいんだ!!よし行くぞ!!!」
と玄関前で威勢よく声を張り上げたものの、結局怖くなったのでこっそり家に入ることにした。
霊覚で拳西の居場所を探ったが、恐らく茶の間にいるはずだ。
気持ち目線を下に向けて、そろそろと玄関を開けて入り、そろそろと玄関を閉めた。
ここまで物音を立てずにいけた。よしこれなら気付かれてない。いける!!!
「おう。ようやく帰ってきやがったな。」
(!?!?!?!?!?!?!?!?!?)
まさかとは思ったが、やはりそのまさかだった。
ガクガク体を震わせながら後ろを振り返ると目の前に拳西が仁王立ちしていた。
あの世のものとは思えない程に凶悪な顔で。
きっと漫画の世界なら『ゴゴゴゴゴゴ』とでも擬音がつくだろう。
まさしく蛇に睨まれた蛙になってしまった。
「あっ・・・あのぉ・・・どうしてそんなにご機嫌斜めでいらっしゃるんですか?」
「リサから聞いたぜ。八番隊にいる女隊士を口説いてるってなぁ・・・・・・!!」
「ふへぇっ!!!!????何故それを・・・・・・はっ!」
「何故それをだぁ・・・・・・・・・!!テメェ・・・・・・・・・!!!!」
完全に言葉の選択ミスだ。事実でもないのに口説いたことを事実にしてしまった。
後ろ襟を掴まれて持ち上げられ、もう逃げることも出来ない。
久々にご近所から苦情が来そうなほどの怒鳴り声で拳西は叱りつけた。
「一体何しに霊術院に行ってやがるんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
「ひぃーーーーー!!!!!!!!!ごめんなさーーーーーーい!!!!!」
そしてその後もとにかく色々と怒られ、後ろ襟を引っ張られて茶の間に連行された。
もちろん成績だ。
こんな状態でさらに怒らせるかもしれないが、とにかく最初は悪い成績から見せることにした。
「こ・・・こちらからどうぞ・・・・・・。」
「ほう・・・・・・あぁ!?!?!?テメェほとんどギリギリじゃねぇか!!よくこんな成績最初に見せる気になれたな・・・・・・!!!」
「こっちも!!こっちも見て下さい!!!」
「今度こそ大丈夫なんだろうなぁ・・・・・・?」
もちろん最後は鬼道の成績を見せた。
これでどうよ!!最初の大規模な試験でもう六年間の課程修了だぞ!どうだ参ったか!!
なんて隼人は自慢げに思っていたが、
もちろんこの策も拳西には見抜かれていた。
「おぉこうすれば俺が怒らねぇとでも思ったか。」
「え・・・・・・・嘘だ・・・・・・こんな・・・・・・へ・・・・・・?」
「お前が最初に悪い成績から見せてくるのは予想ついてたんだよ!!こんな狡賢い見せ方しやがって・・・・・・!!もう我慢ならねぇ!!!!!!!!!覚悟しやがれ!!!!!!!!」
「ひぃぃぃぃぃぃ助けてーーーー!!!!!!ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
いつも以上に力の強い頭ぐりぐりの刑。しかも霊術院に入ってから少し霊圧を込め始めたのだ。
もはや激痛。頭が砕け散りそうだ。
数秒経った時点で耐えられず、今回もちーん、と意識を失ってしまった。
「ったく!どうしようもねぇな。こりゃまた明日から特訓するしかねぇぞ。浅打使ってやらせるか・・・。」
秋まで二月弱の夏休み。
今年は遊べず鍛錬で終わりそうです。