いくら流魂街の子どもを引き取るとはいえ、元々隼人がともに暮らしていた家族に何も言わず連れ出すという誘拐同然のことはする気になれなかった。
そのため、拳西はきちんと元の家族に話をすることにした。
向こうの家族を変に怯えさせるわけにもいかないので、笠城と衛島は隊舎に帰らせた。
書類仕事も特に残っていないので、拳西自身も諸々の話や手続きを終えたら直帰することにした。
最初は隼人を隣で歩かせていたが、大の大人の歩幅に小さな子どもが歩いてついていけるわけもなく、常に小走りしている状態であった。
虚に対峙した後でもあり、精神を消耗させていたため、隼人はへとへとであった。
「ちょっと待って下さいよ・・・。もう疲れた・・・。」
「あぁ!?まだちょっとしか歩いてねぇじゃねぇか!体力なさすぎだろ・・・。」
「さっきの虚から逃げる時に体力全部使っちゃいましたもん!」
「お前なぁ・・・!」
イラっときたものの、初めて虚と対峙したので、無理もないかと拳西は思った。
それにあんまり疲れた状態で家に帰らせると、家族からの印象もより悪くなるだろう。
そのため、(自覚はないが)せっかちな拳西は隼人を背負い、瞬歩で向かうこととした。
普段の拳西を知る者からしたら驚くような優しい行動であるのだが。
「乗れ。」
「えっでも・・・。」
「いいから早く乗れ!」
「そんな急に迷惑かけられません!」
さすがに我慢の限界がきた。
「だから乗れっつってんだろうが!!!あぁ!!??疲れたとか言うクセに迷惑かけられないとかふざけたこと言ってんじゃねえ!大人ぶってんじゃねぇよ!!それに俺がガキを背負って行動することのどこにお前が迷惑になる要素があるんだ!?小せぇガキ背負うことなんざ造作もねぇんだよ!」
などと怒鳴っていると、あまりの剣幕に隼人が固まってしまっていることに気付いた。
もう少し早く気付いてやればよかっただろう。
大の大人にここまで怒鳴られた経験など無かった隼人は、怒らせた申し訳なさや目の前の拳西への恐怖心などの感情がごちゃ混ぜになって耐えられなくなり、号泣してしまった。
「うええええーーーーーん!!!ごめんなさーーーーーい!!!!」
「なっ・・・!おい!泣くな!!」
さすがに言い過ぎたと拳西は思ったが、後の祭りだ。
自分が泣かせた以上放置するわけにはいかなかったのでなんとか泣き止ませようとした。
隊長になってから子どもと関わってきたことなど全くといっていいほどなかった。
子どもを上手に泣き止ませる方法など知らない拳西は、この際逃げられても仕方ないと思いつつ、近づきしゃがみ、頭を抱えてやると、意外にも逃げずに
ぎこちなく背中をさすってやると、あんなに大声で泣いていた隼人も落ち着きを見せた。
拳西自身もいったん落ち着いてから会話することにした。
「いいか隼人。お前はこれから俺と家族になるんだ。俺がお前の父親代わりになっておまえを育てる。だから俺に対して余計な遠慮はするな。」
「へっ・・・いいんですか・・・?」
「あぁ。その代わり俺も遠慮しねぇからな。さっきは言い過ぎたが叱るときはちゃんと叱るぞ。いいな。」
「えぇ・・・。」
「返事は!」
「はっはいいいいっっっ!!!!」
「よしっ!じゃあお前の家に行くぞ!瞬歩使うからすぐに着くぞ。」
「本当ですか!やったーー!」
「(案外ガキっぽいところもあるじゃねぇか。)」
変に大人びた子どもなら短気な拳西には育てるのも苦労するかもしれないが、子どもなりに喜怒哀楽のしっかりしたヤツなら、その方が拳西にとって一緒にいやすい。
隼人の性格や好きなものなどもこれから詳しく知っていけばいい。
突然泣き出したときはさすがに困ったが、何とか育てられそうだと考えていた。
もちろん元の家族が引き取ることを了承すればの話だが。
『
あまり雑貨などに興味のない拳西でも、オシャレ好きな
死神の間でも有名だと隼人に伝えたら、結構驚いていた。抜けているのか抜けていないのか・・・。
有名な店の働き手たちによって大切に育てられたのだろう。彼らが手放したくないと言えば交渉は難航するだろう。
相応の覚悟を決めて店に向かったのだが。
「別に構わねえぞぉー?」
「はっ?そんなあっさりいいのかよ・・・。」
隼人を一旦家に帰したときに、家族や町の者たちはさすがに心配していた。
連れてきたのが護廷の隊長であることもあり、隼人を叱りつける者もいた。
その際に隼人が初めて拳西が隊長であることを知り、大層驚いていたのをみて拳西は少々呆れたが。
それだけ大切に思われているのだ。急に引き取ると言えば怪訝に思われるのもやむを得ないと考えていた。
しかし、予想とは反対に快諾してくれた。
元々隼人に霊力があることを把握していた家族たちは、いつかは隼人を真央霊術院に行かせ、死神になってもらうつもりであった。ただそれが早くなっただけだ。と彼らは言っていた。
「隊長さんなら隼人をいじめたりはしねぇーだろーしよー。立派な死神にしてくれるんならこれ以上幸せなことはねぇーぞぉー。」
間延びした喋り方で、家族の長は快く隼人を送り出してくれた。
「頑張るんだぞぉー。」
「うん!強くて立派な死神になるよ!」
その後、地区の長にも確認を取ってもらうという名目で会いに行ったが、そこでも滞りなく手続きは済んだ。
これからは瀞霊廷の住民として暮らすこととなる。
養子にしようとは考えていないので、人別録管理局の手続きも楽に済むだろう。
瀞霊廷に入った時には、夕方になっていた。
「ここが瀞霊廷だ。デケェだろ?」
「おぉ・・・流魂街と全然違いますね・・・。見たことない建物がいっぱい・・・。」
見るもの全てに対し驚嘆したり目を輝かせたりとなかなか忙しいヤツである。
夕焼けと重なる双極の丘を肩車して見せた時には完全に目を奪われていたようだ。
人別録管理局で手続きを済ませた後、拳西の家に帰ろうとしていた道中でサングラスをかけたアフロヘアーの死神、七番隊隊長・
「おっ拳西か。珍しいなぁこんな時間に七番区にいるなんて。」
「おーう。ちっと手続きにな。今日からコイツを引き取って育てることにした。」
「ほーーん??・・・なんか地味なヤツだな。」
「ラブの髪型に比べたら大体のヤツは地味だろうがな・・・。」
と自らの銀髪を棚にあげて拳西は苦笑したが、その後ろに隠れていた隼人は見たこともない髪型に興味津々であった。
「その髪の毛ってどうなってるんですか?」
「あれっ、そこ聞いちゃう!?てっきり自己紹介する流れだと思ってたんだがなぁ・・・。」
「こいつはラブだ。愛川羅武。七番隊の隊長やってる。」
「あっ!拳西!人の大切な自己紹介奪いやがって~~!!」
「うるせぇぞ!ほらっお前もしっかり挨拶しろ。」
台詞を奪われたラブが不平不満を漏らしていたが、お構いなしに拳西が挨拶するよう促した。
挨拶も出来ない子どもを拳西が引き取ったのかと他の人に思われるのは嫌だったのでなるべく大きな声で挨拶をした。
「口囃子隼人です!死神になろうと思ってます!よろしくお願いします!」
「おーーう元気なこった。だがちっと見た目が地味だな。自己紹介するなら見た目の地味さを無くすためにもっとこう印象に残る台詞を使わないとなー。」
「おいラブ!ガキ相手に無茶言ってんじゃねぇ!」
きっとさっきの部下二人がいたら「あなたが言いますか・・・・。」とツッコミが入っただろう。
「へっ、わーってるよ。頑張れよ。死神になるために。拳西面倒見良いから頼りになるぜ。まぁいっつも怒ってばっかだがな。」
「そーなんですか!一生懸命頑張ります!!」
「へいへーい。そんじゃあな。」
と手を振りながら歩くラブを見て、
「あっ!髪の毛のこと聞くの忘れてました!」
「それは聞かねぇ方がいいぞ・・・。」
と一応釘を刺した。
自宅への道すがら、隼人は隣の隊長を何て呼べばいいか迷っていた。
六車さん?拳西さん?隊長さん?それとも家族になるからお父さん?
わからず下を向き考えていると、
「どうした。何か不安なことでもあるのか?」
と言われたので、せっかく遠慮するなと言われたのだ、この際遠慮せず聞くことにした。
「おじさんのこと何て呼べばいいですか?おじさん偉い人だから変な呼び方して恥ずかしい思いさせたら嫌ですし・・・。」
「何だそんなことかよ。普通に名前でいい。ただ何があってもおじさんとかお父さんはやめろ。確実に馬鹿にされるからな。」
「あっそうですね!わかりました!これからよろしくお願いします!拳西さん!」
「おう。さっき会ったラブとかもそんな感じでいいと思うぞ。まあ卯ノ花さんとか総隊長のジーさんとかはさすがに気を遣ったほうがいいかもしれねぇが・・・。」
この時から隼人は疑問や不安を抱いた時は大体拳西に聞くようになった。
拳西が教えてくれる世界が自分の新たな世界となっていった。
約60年後に拳西たちが尸魂界から突然いなくなるまでは。
拳西の自宅に着くと、また隼人は目を丸くして驚いていた。
「ここが俺ん家だ。まあこれからはお前の家でもあるがな。」
「でっかいですね!」
「まぁ隊長なら大体こんぐらいの大きさの家じゃねぇか?夜一のトコみてぇに貴族ともなればもっと大きいだろうが・・・。」
「もっとでっかいんですか!!凄そうだなぁ・・・。」
「おら。とりあえず飯にするぞ。腹へってんだろ。食いたいモン作ってやる。」
「えーっ!いいんですか!何にしようかな・・・。」
こうして口囃子隼人の新たな日常は始まった。
たくさんの大人たちに見守られながら、死神として成長していくこととなる。
ラブの髪型っていったいどんな当時の技術を使って作られているんでしょうね...。