ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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(えにし)

何もない、真っ白な場所だ。

ここはどこだ。一体どこに迷い込んだのか。

分からなかった隼人は目印を探すために歩き始めた。

 

少し歩くと、誰かがいるように見えた。

目を凝らしてみると、誰かの後ろ姿。

背中には九の文字。袖なしの羽織と死覇装。銀髪のあの男だ。

 

やっと会えた。尸魂界に戻って来れた。

一目見たい。会って話をしたい。

全力で走るが、走っても走ってもなかなか追いつかない。

あの人は歩いているのに、いくら走っても追いつかない。

 

やっとの思いで追いつき、男の肩に触れた瞬間。

 

 

 

 

煙のように跡形もなく男は消え、世界は真っ暗になってしまった。

 

 

 

 

 

 

もうこの夢を何度見ただろうか。

この夢から覚めて何度現実に絶望し、号泣しただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狛村左陣が隊長に就任してさらに二十年が経った頃。

 

 

「京楽隊長。大霊書回廊から資料を持って参りました。こちらでよろしいでしょうか。」

「ありがとう。ごめんね~ついでに持ってきてもらっちゃって。」

「いえ。狛村隊長も構わないと仰ってましたし、問題無いですよ。」

 

 

京楽が調べものをするために図書館から本を探したが、大霊書回廊にしか目当ての本が無かったため、たまたま七番隊で行く用があったこともあり、おつかいを頼まれたところだ。

公私混同であり本来なら注意すべきだが、京楽の頼みでもあるので狛村に頼み、無理を言ってもらった。

 

お礼にお茶を出されたので、少しだけ付き合うことにした。

 

 

「狛村隊長はどうだい?」

「信頼に値しますよ。むしろ今の言葉遣いが失礼に感じるくらい。」

「そうかい。それはよかった!」

 

 

狛村の就任から二十年経ち、少しずつだが彼についてさらに色んなことを知ったのだ。

 

肉が好きだが、人参は食えたものじゃないと悉く嫌っていること。

独特な絵のセンスを持っていること。

犬の四郎を飼っており、皆気に入ったため隊舎に犬小屋を作ったこと。

 

彼の人柄を知った隊の皆も隼人と同じように信頼していった。

 

そんな様子を見抜いたからこそ、京楽は隼人に何度も副隊長になることを薦める。

 

 

「本当にいいのかい?今のキミなら副隊長にもなれそうだけど・・・。」

「僕はやっぱり鬼道だけですから。斬拳できない内は僕が副隊長になるのは良くないと思うんです。最近副隊長になった市丸さんも斬拳走鬼全部揃っているじゃないですか。それに未来の三番隊隊長候補だとか。無理ですよ。」

「彼は特例だよ。天才だし。実はね・・・。」

 

 

ここで隼人を揺さぶるはずの京楽の考えを打ち明けることとなった。

 

 

「八番隊の次の副隊長は、七緒ちゃんに任せようと思っているんだ。」

(!)

 

 

七緒も隼人と同じで鬼道に非常に長けた隊士であり、現在は席官を務めている。

その七緒が副隊長になったら、隼人も副隊長になっていいのでは、と京楽は考えているのだ。

 

もちろん、揺さぶられた。

斬魄刀を持たず、鬼道に長けた七緒が副隊長になるという先例があれば、隼人自身も副隊長になるハードルが下がる。

 

だが、それは心の中で微妙に納得がいかなかった。

 

 

「七緒さんが副隊長になったら確かに僕も副隊長になりやすくなるかもしれません。ですが、七緒さんは七緒さんだから副隊長に向いていると僕は思います。普段の様子から見ても息ピッタリですよ。」

「えぇ?そうかい?ボクと七緒ちゃんが息ピッタリ?七緒ちゃんに報告しないとなァ~~♡」

「張り倒されますよ?・・・・・・だから僕は副隊長には向いてないです。他がいますよ。」

「う~ん、参ったね・・・しょうがないか・・・。」

 

 

何とか諦めてくれたが、また薦められそうだとは思う。

狛村も「隼人のやりたいようにやれ。」と言っていたので、結局ならないだろう。

 

一番の理由は、七番隊副隊長に適した人物が他にいるからだ。

もっとも、現在は副隊長になれる程度の実力は持ってないので、機が熟すまで待つつもりだが。

 

そんな感じでごめんなさいと何回か言っていると、噂をすれば何とやら、霊圧知覚で七緒が隊主室に近づいているのが分かった。

 

 

「あ、七緒さんここに来るんじゃないですか?僕もう帰りますね。お邪魔しました。失礼します。」

「え~~もうちょっとお茶してか「僕も仕事がありますし七緒さんに怒られるので。」

「つれないなぁ~~~・・・・・・、あ!!・・・・・・さっきの話、七緒ちゃんには内緒ね?」

「言われなくとも内緒にするつもりでしたよ。それでは。」

 

 

半強行突破で八番隊隊主室を出た後、案の定七緒とすれ違ったので挨拶しておいた。

 

 

「こんにちは。」

「お疲れ様です。」

 

 

以前に比べるとお互い忙しくなったのであまりこういう場で長話することは無くなったが、個人的に相談することは相変わらず多い。

今の段階で席次はこちらの方が上だが、やっぱり七緒はお姉さんなので相変わらず敬語で接している。

髪を以前より伸ばし三つ編みにして縛っているため、見た目が何となく(というか結構?)リサに似ているのも隼人が敬語で接する要因でなくはない。

 

(七緒さんが副隊長か・・・。ますますお姉さんって感じになりそうだな・・・。)

 

 

そして七番隊に帰り、今度の十三番隊との合同演習のための準備書類を作成することにした。

 

 

 

 

きりのいい所で終わらせるために少し残業をして仕事を終わらせ、帰り支度をしていた所で、七番隊に思わぬ客が来た。

 

 

「こんばんは・・・。」

「あれ、七緒さん?こんな遅い時間に・・・。」

「やあ。ちょっと邪魔するよ。」

「京楽隊長まで!何かあったのですか?」

 

 

七番隊は基本的に狛村の方針で残業とは無縁のため、今この場にいるのは隼人だけだった。

うっかり声が大きくなってしまったが、誰もいないためホッと胸を撫で下ろした。

しかしわざわざ終業後に何の用だろうと思ったら、それぞれ相談したいことがあるとのことだった。

 

二人の相談内容は、やはり仕事時間外にするべき内容。

まずは京楽からだ。

 

 

「実は海燕クンが十三番隊三席の女の子と結婚するらしくてね。お祝いに何かあげようと思うんだけど、隼人クンも何か贈るかい?」

「えっ結婚ですか。それはおめでたいですねぇ。・・・でもあの人何あげても難癖つけてきそうですよ・・・。」

「まっさか。きっと喜んでくれるよ。可愛がってる後輩から贈り物されたら誰だって嬉しいよ。」

「そうですか・・・。じゃあ考えてみます。」

 

 

正直考えてみるという手段すら昔だったら取らなかっただろう。

絶対あげたくないだの馬鹿にされるだのわめいて、きっと結婚式当日も平子や浦原に対するひよ里みたいに散々文句ばっかぼやいていただろう。

 

大人になり、考え方が変わったのだろうか。それとも、あの人達がいなくなってそうも言ってられなくなったのだろうか。

 

後者について考え始めるとまた心の抑えが効かなくなる予感がしたので、前者の考えを取ることにした。

 

 

「何がいいですかね?」

「隼人クンが欲しい物でいいんじゃないかな?自分が結婚した時に何か欲しい物あるかい?」

 

 

自分の結婚。

考えたこともなかった。今まで仕事ばかりで家に帰っても精神がボロボロになることばかりで、プライベートを考える余裕すら無かった。

考えたこともない生活など想像もつかないので、今欲しいものを考えると。

 

 

 

 

 

今欲しい物は、やはりあの頃の生活。

ダメだ。これ以上考えてはいけない。この人達の前で情けなく泣くのはダメだ。自分が許せない。

 

適当に雑貨屋で新生活にオススメの物を買おう。

少し俯き、声を震わせかけた状態で適当に考えた物を京楽に告げた。

 

 

「・・・・・・食器とかですかね。お揃いのやつとか。」

「いいんじゃないかい!?なかなかいい考えだよ。」

「そうですか?ありがとうございます。」

 

 

京楽の顔を直視すると我慢できなくなりそうだったので、目線を逸らしたが、何となく心配そうな顔をしていた。申し訳ない。

 

 

次は七緒からの相談だった。

 

 

「実は、女性死神協会を復活させたいんです。」

「え?あ、へぇ~!いいんじゃないですか?」

「ですが、どのようにやればいいのかすら見当もつかなくて・・・。」

 

 

それなら簡単だ。卯ノ花に頼めばすぐにでも作ってくれるだろう。

基本的にあの人の道楽のためにあったようなもので、あの人が声をかければ幹部格の女性死神は皆喜んで復活に協力してくれるはず。

 

 

「卯ノ花隊長に頼めば大丈夫だと思いますが「それは京楽隊長にも言われました!」

「え?」

 

 

どうやら七緒は別の意味で情熱を燃やしていた。

 

 

「以前の女性死神協会は確かに楽しかったですよ!ええ!でもやはりもっとこの死神社会にとって役立つ組織にしたいのです!女性死神が安心して職務を全うできる、そんな社会になってほしいと思うのです!」

「あ・・・あぁ・・・はい?」

 

 

何だかやけに鼻息を荒くしている。普段の落ち着いた七緒とは大違いだ。

その後も女性が活躍できるようにしたいなどの野望を熱心に伝えている。

彼女の女性死神に対する思いは十分理解できるものだ。

女性にとってよりよい社会になってほしい、その熱意はしっかり受け取った。

 

 

「それでも卯ノ花隊長に言えばいいのではないでしょうか?」

「え?そ、そうですか?」

「その思いはしっかり卯ノ花隊長も受け取ってくれると思いますよ。男の僕でも理解できますから。」

「はぁ・・・ありがとうございます。」

 

 

正直この話題もあまり長く続くと隼人の心に響いてしまう。

紅葉狩りと新年会の行事を思い出してしまう。

あの時の楽しい思い出が瞬時に頭の中で蘇り、二度と戻らない物として黒く塗りつぶされていく。

 

自身の斬魄刀の柄を握り締め、何とかこらえることができた。

 

 

 

二人の相談も終わり、七緒を隊舎まで送った後、京楽から飲みの誘いが来た。

おそらく今日は帰ったらまた枯れるほど泣いてしまいそうなので、素直に誘いに乗ることにした。

 

浮竹も誘ったらしく、彼は部下の結婚が嬉しいからか終始幸せそうであった。

 

 

「いやー嬉しいよ!部下の結婚ほど幸せなものはないね!俺は何て幸せなんだ!」

「珍しく酒進んでるね~浮竹。」

「こんな日は久々だよ!ほら、隼人君も飲んだ飲んだ!」

「えっあ、ありがとうございます。」

 

 

いつもは京楽を窘める側なのに、今日の浮竹は海燕の結婚がよほど嬉しいのか酒の進みがえらく速い。

お元気でいらっしゃいますかとまるで総隊長にでも言うかのように聞くと、満面の笑みで「ばっちりだ!」と返ってきた。何も心配は要らないだろう。

 

 

 

あれから酒も少しは飲めるようになった。

元々弱いだろうなと思っていたが、院の卒業記念に派閥の友達と初めて酒を飲んだ際はすぐに顔が赤くなりダウンしてしまったのだ。

その当時も射場とは会話がぎこちなくなり、申し訳ない思いをさせてしまったと思っている。

 

 

「キミはいつもチビチビ飲んでいるけど、あまり得意じゃないのかい?」

「はい。実はすぐ潰れちゃうんです。初めて院の友達と飲んだ時もでしたし、その前も・・・・・・・・・!」

「その前も?飲んだことあるのかい?」

 

 

ダメだ、思い出すな。

 

 

「いっ・・・・・・いえ・・・・・・。」

 

 

だが、酒が回っていたせいか、脳内で抑えていた思い出の復活を止めることが出来なかった。

 

 

四回生の時の新年会。

こういう機会が滅多にないせいか、酒を飲んでいないのにテンションが上がってしまい、まるで酒に酔ったかのようになってしまったのだ。

 

同席していたのは、丁度いなくなった四名の隊長。

 

 

「酒飲んでないのに・・・メチャクチャ怒って・・・メチャクチャテンション上がって・・・。ヤケ食いして・・・デコピンされて・・・泣きそうになって・・・・・・それでもすごく楽しくて・・・・・・。」

 

寝ちゃって起きた後はおんぶされて夜空を見て。

普通の会話だけど嬉しくて。

 

平凡で楽しかった思い出が蘇って止まらなくなり、やっぱり我慢出来なくなってしまった。

腿の間に手を挟んで擦り我慢していたが、もう限界だ。

 

人前でこらえていた涙がぽろぽろこぼれてしまった。

 

 

「ごめ・・・・・・なさい、ごめんなさい・・・・・・。」

 

 

泣いている顔を見られたくなくて頭を机につけた。

鼻水もとまらない。机は大変なことになっているかもしれない。

 

でも、一度泣いてしまったらこらえていた思いがどんどん溢れ出てしまった。

 

 

「ずっと、夢に・・・・・・出てくるんです・・・・・・。拳西さんの、背中が出てきて・・・・・・・・・追いかけても・・・届かなくて・・・・・・やっと追いついたと、思ったら・・・消えちゃって・・・そんなのが、ずっと夢に出てきて・・・辛くて・・・・・・寝るのも怖いんです・・・・・・。」

 

 

いつまでも拳西らの幻影を追っている自分が情けない。

でも断ち切ろうとしても断ち切れない。夢にまで何度も出てくる。

 

まるで呪いだ。

 

 

「どう付き合っていけばいいか・・・・・・分からないんです。入隊してから、ずっと・・・・・・わから、ないんです・・・・・・。」

 

 

七緒や狛村にも言えなかった苦しみをようやく打ち明けることになった。

 

 

 

 

 

ここまで辛い思いを抱えているとは思っていなかった。

普段の隼人を見ても、笑いこそするものの表情を失い、辛そうな顔をするときはまるで何かにすがるようにいつも斬魄刀を掴んでいた。

下を向き肩をわずかに震わせ、口をきつく結んで斬魄刀を掴む姿は非常に痛ましく、見ているこちらが辛く感じるほどだ。

 

特に最近はその行動が増えたので、精神的に危険だと思った京楽が飲みに誘って気持ちを吐き出させたが、まさかあの事件をここまで引き摺っているとは。

 

これは慎重な対応が必要だ。

浮竹もそれを悟り、隼人の精神を安定させるために言葉をかけた。

 

 

「変に忘れようとしたり、押し殺さなくていいんじゃないかな。ボクは何とか受け入れられたよ。」

「大丈夫だ!時間が解決してくれるさ!辛くなったら俺にいつでも打ち明けてくれて構わないよ!」

「それじゃあ今の解決になってないでしょ浮竹。・・・辛くなったら遠慮しなくていいからね。七緒ちゃんや狛村隊長には言いづらいでしょ?キミが辛くなったらボクも相談に乗るから、大丈夫。」

 

 

 

 

二人のかけてくれた『大丈夫』が、冷たくなった隼人の心には温かすぎた。

 

 

いつの間にか隣に来た二人に背中をさすられた瞬間、初めて隼人は拳西以外の人前で声をあげて泣いた。

 

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