ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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追憶

『拳西さん、そのお腹の数字って何ですか?』

『おぉこれか?これはな・・・・・・・・・・・・、』

 

 

 

 

 

 

 

 

草鹿やちると初めて会ってからさらに十年とちょっと経った頃。

 

ここ最近、斬魄刀から声が聞こえてくるのだ。

どこか気の抜けたような女の声。それでいて、自分を落ち着かせてくれるような声。

 

決してこちらの声に応えてはくれないが、時々断片的に彼女の声が脳に響き渡る。

 

そして、彼女の姿は時々夢で見る。

桃色の衣服を着た後ろ姿の女の子。年は現世で見ると、女学生あたりだろう。

肩の上あたりで切り揃えられた黒髪がぼんやりと見える。

 

そろそろ始解できるようになるのだろうか・・・。とうっすら考えている中、今日は九番隊との合同演習の日だった。

 

 

今年、九番隊には超将来有望な人物が入ったのだ。

約五十年ぶりに入隊と同時に席官の地位を与えられ、現在もめきめき頭角を表している男だという噂を聞いた。

名前までは知らないが、一体どんな強者だろうか。

 

強者のイメージは未だ拳西みたいな人をイメージしてしまうためいつもギャップに驚いてしまうのが悩みだが、何となく似たイメージだといいなと考えていた。

 

そして、この演習の中で始解を習得するぞと決意し、今日の合同演習に臨んだ。

 

 

「では儂ら七番隊と九番隊の合同演習を始める。東仙、よろしく頼むぞ。」

「ああ。口囃子三席もよろしく。」

「はい。よろしくお願いします。」

 

 

あれから独自に事件について色々調べているが、敵側のガードが堅いからか何も情報は手に入らない。

京楽や浮竹もめぼしい情報はないと言っていた。

 

東仙はもっとも黒幕の中に含まれている可能性が高いが、正直それも正しいのか揺らいでしまうこともあった。

メチャクチャ真面目だし。ザ・清廉潔白って感じだし。

 

そのため、警戒こそすれ、演習などの交流時は普通に接している。

 

三席ながら実質副隊長の役目を務めている隼人は、狛村の友である東仙とも何だかんだいって悪くはない関係を築いていた。

 

 

「済まぬな隼人。いつも演習の時は貴公に進行を任せてしまって。」

「いえ、僕は鬼道主体の戦い方なので、自力鍛錬の方が向いているんです。」

 

 

八番隊や五番隊、十三番隊との合同演習では鬼道もたくさん使った演習を行うが、九番隊や十一番隊との鍛錬では主に斬術の鍛錬をよく行っている。

 

本来なら苦手なものこそ練習しろ、という話になるが、基本戦術を鬼道にしている隼人は、特例で基本的に参加せず進行役を務めることが多いのだ。

ただ、今回は始解の習得を考えているので事情は違う。

 

 

「ですが今日は少し打ち合いの方も参加してもよろしいでしょうか。」

「む・・・、もしや隼人。」

「はい。()()()()()()()()()()。」

「おぉ、ついにか。良かったな、口囃子三席。」

「多分ですけどね。ですが僕は今日出来たら始解したいと思っています。」

 

 

狛村には何度か斬魄刀の声が聞こえてくると言っていたので、非常に喜ばしそうにしているように見えた。何となくではあるが。

もし始解習得が可能なら、習得してから打ち合いを狛村とやってもらうつもりだ。

 

 

午前中は進行役に徹し、万が一ケガを負った者の対処や、スケジュール管理を中心に行った。

 

やはり席官同士の打ち合いは見応えがあり、毎回圧倒される。

実力の均衡する者同士が押しては押され、どうなるのか分からずうずうずするのだ。

 

そしてその中に見慣れない者がいた。

 

黒髪のツンツン頭で短髪の青年。

周りの席官に比べても最も若いので、かなり目立っている。

青年から見て右側の横顔しか見えないが、見た目の年齢的には隼人より少し若いくらいか。

 

あぁ彼がひょっとして将来有望の子か。

 

果たしてどんなものかと試合を見てみると、なかなかに強いことがわかった。

 

相手は七番隊の四席で隼人の先輩であり、七番隊席官の中では全技能バランスよく備えている者だ。

 

その四席に対し、試合開始からずっと優勢を保ち続け、見事に勝利した。

会場からもどよめきが起こるほどだ。

 

そして、勝ちを得ても決して驕らず、しっかり相手に礼をしているところも好感が持てた。

 

真面目で強くていい奴とか無敵じゃん。こりゃあ将来有望だよ・・・。

 

少し怯えのある表情が気になったが、噂以上の男だと知り、未来の九番隊副隊長を選ぶなら、彼が一番適しているなと隼人は確信した。

 

 

昼休憩では今年度初めての合同演習でもあるので、初対面の者同士交流を図ったりして、和気藹々とした雰囲気の中で過ごしていた。

 

隼人は狛村の左で自家製弁当を食べており彼と世間話をしていたところ、七番隊四席の先輩が先ほど戦っていた青年を狛村の前に連れていき、挨拶させようとしていた。

 

 

「狛村隊長。コイツすげぇっすよ!今年入ったばっかなのにメチャクチャ強くて俺負けちゃったんすよ!口囃子も見てたよな!?」

「はい、凄かったですよ。僕にはあんな戦いは絶対無理ですよ。」

「なぁ何で十席にいるんだよ。もったいねぇって!」

「いっいや・・・それは、配属がそうなっただけですし・・・俺はまだまだッスよ。」

「本人がそう言ってるからいい・・・じゃ・・・・・・・・・・・・。」

 

 

青年の顔をよく見ていなかったため気付かなかったが、隼人から見て右側の頬には目を疑うものがあった。

 

『69』の刺青。

それは信頼してやまないあの人の腹に彫ってあった数字。

 

一瞬にして昔の思い出が蘇ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれはたしか、まだ隼人が瀞霊廷に来て数日しか経っていなかった頃。

 

身体が小さかった隼人は自分で背中をしっかり洗うことも出来ず、一緒にお風呂に入っていた拳西から毎日背中を流してもらっていた。

その代わり、拳西の広い背中を一生懸命石鹸で泡立った布で擦り、洗ってあげていたのだ。

 

そんな中、向かい合って湯舟に浸かっている時に、気になることがあったのだ。

 

お腹に書いてある数字。

一体その数字は何なのか。

 

好奇心旺盛だった当時の隼人はいてもたってもいられず直接聞くことにしたのだ。

 

 

『拳西さん、そのお腹の数字って何ですか?』

『おぉこれか?これはな、六車九番隊だ。』

『む・・・むぐ・・・?』

 

 

あまりよく分かっていなかった隼人に対し、院の頃では考えられないくらい丁寧に説明してくれた。

 

 

『俺と初めて会った時に二人いたろ。あいつらと六席の藤堂を合わせて特攻隊みてぇなモン作ったんだ。まぁ勝手に俺が名付けてるようなモンだがな。』

『それで何で69なんですか?』

『あぁ、お前まだ漢字読めねぇんだったよな。』

 

 

と拳西が軽く納得した後、風呂あがるぞと言われ一緒にあがり、部屋に戻った際に詳しく紙と拳西自身の腹を使って教えてもらった。

 

 

『〈六車九番隊〉の〈六〉が俺の腹の数字の6だ。んで〈九〉が俺の腹の数字の9だ。〈六車九番隊〉、略して〈69〉。これでわかったか?』

『え~~~!!!!!すっげぇ~~~~!』

『んなこと教えてこんなに盛り上がるヤツ初めて見たぞ・・・。』

 

 

 

 

 

 

 

 

その数字が今、目の前の青年の頬に彫ってある。

信じられない。一体何故?どこであの数字を知ったのか。数字の形含めて全く同じなのだ。

これは問い質せばならない。

 

 

「・・・・・・・・・ねぇ君。ちょっと来てくれないかな。」

「えっ、あの、一体何が「いいから、来てくれないかな。」

「・・・・・・分かりました。」

「ごめんなさい。ちょっとこいつ借りてきますね。」

 

 

七番隊隊舎裏の庭に青年を連れていき、順を追って訳を聞くことにした。

 

 

「何スか、急にこんな所呼び出して・・・。」

「・・・・・・その数字、いつ知ったの。」

「えっ・・・・・・俺が、ガキの頃ッスけど。」

「何年前だったか覚えてる?」

「五十年前・・・だったと思いますが。」

(!!!)

 

 

五十年前。丁度あの人達がいなくなった時。

初めて直接的な手掛かりを手に入れることが出来た。

だが同時に、ただの席官がこの数字を知り、許可も無しに勝手に身体に刻み込んでいることへの怒りが込み上げてきた。

拳西が大事にしていたこの数字を何も知らないクセに彫りやがって。侮辱にしか見えない。

 

 

「どうしてその数字を知ったんだよ!?何で君がその数字を身体に刻んでるんだよ!?・・・・・・返答次第じゃただじゃ済まさねぇぞ・・・!」

「えっちょっ口囃子先輩・・・!?」

 

 

胸倉を掴み、本気の怒りを見せつけたからか、青年は見るからに怯えている。

そんなの知るか。場合によっては本気で鬼道をぶつけてやる。

 

だが、彼の告げた理由もまた、隼人のルーツに繋がるものだった。

 

 

「・・・俺、昔虚に襲われた時死神に助けてもらったんスよ。」

 

 

一瞬隼人の力が弱まったが、それに安心したからか彼は自分の過去を話し始めた。

 

 

「それであの頃の俺は怖くて泣き虫で泣いてたんスけど、その人に『泣くな、笑え!』って言われました。めちゃくちゃカッコよくて憧れたんスよ。」

「あ・・・・・・。」

 

 

間違いない。拳西だ。

子どもが泣いている時にそんなぶっきらぼうなことを言う死神は、自分の知る限りで拳西しかいない。

 

 

「それで顔を上げた時にあの人の腹に彫ってあった数字を見たんスよ。あの人と同じ数字を俺も身体に刻んで、俺もあの人みたいな強い死神になりたい。だからこの数字を刻みました。」

 

 

真っ直ぐな眼でここまで真摯に言われてしまった以上、もう隼人に怒る気力など無い。

むしろ、ここまで自分と似た経験をしている者が後々出てきたことの方が驚きだ。

 

あの人、と言う以上、名前も知らないのだろう。教えてあげねば。

胸倉から手を放して隼人は、青年が知りたかったと思われる男の名前を告げた。

 

 

「六車拳西。」

「?」

「君を助けた男の名前だよ。そして僕もあの人に助けられた。」

「そっそうなんスか!?」

「うん。助けられて、それから六十年くらいあの人に育てられたんだ。さっきはごめんね。怖がらせちゃったでしょ。」

 

 

この青年なら、自分の過去を話してもいい。

自分を深く知らない者に、初めて隼人は自分の過去の話を始めた。

 

 

「・・・・・・それで院の頃は成績が少し悪いだけで凄い怒ったんだよ。頭ぐりぐりされて気失ってたさ。」

「すごいっスね・・・。」

 

 

美談なんかほとんどなく、いつも怒られてばっかだった過去の話をしたら、青年も笑ってくれていた。

そして彼の話を聞くと、『笑え』と言った時の顔は物凄く恐いものだったとのことだ。脳内再生可能である。

 

そして、隼人は突然いなくなった時の事も彼に話した。

何度も泣き、何度も絶望したと。

以前よりだいぶマシだが、突然寂しいと感じだすと、どうしようもなく絶望してしまうと。

 

真剣に聞いてくれた。話して良かった。

 

 

「何か僕ばっかり話してごめんね。あ、そういえば名前聞いてなかったね。名前教えて。」

「はい。檜佐木(ひさぎ)修兵(しゅうへい)っていいます。これからよろしくお願いします。」

「修兵か・・・。何だか()()()()()()()()!頑張るんだよ。よろしくね。」

 

 

その隼人の言葉を聞いた修兵は驚愕の表情を見せた。

地雷でも踏んだかと思ったが、思ってもみないことが彼の口から出てきた。

 

 

「それ・・・・・・六車さんからも言われました。全く同じっスよ。」

(!!!)

 

 

拳西さんが昔この青年にかけた言葉を・・・僕も同じようにかけたとは。

久々に人前で泣きそうになり、斬魄刀を必死に握りしめていると、今度ははっきりと声が聞こえた。

 

 

『大丈夫だよ、こばやし。私はいつも辛くても我慢しているこばやしを応援してる。』

「あ。」

「?どうかしたんスか?」

 

 

今まで断片的にしか聞こえてこなかった斬魄刀の声が、遂に本格的に聞こえたのだ。

これはそろそろ習得できるに違いない。

 

 

「いや、何でもないよ。今日の演習頑張ろう!」

「はい!これからよろしくお願いします!」

 

 

それから修兵とは度々話をするようになり、数年で一番信頼している後輩になった。

 

 

 

一先ず狛村に頼み、刃禅(じんぜん)のための部屋を用意してもらうことにした。

 

 

 

 

「いくら場所が無いからって隊主室はどうなんだろう・・・。」

 

 

演習場の近くが良かったものの、どこも開けられる場所は無く結局そこから遠いいつもの隊主室で刃禅を組むことになった。

 

 

「まぁでも・・・。ぶっちゃけ静かだしその方がいいか。」

 

 

斬魄刀との対話は、ふとした瞬間に向こうから声が脳内に伝えてくることもあれば、自宅で夜に刃禅を組んで行うこともあった。

家でやる際も対話のようなものは出来るが、向こうの声がはっきりと聞こえることが今までに一度もない。

今日ふとした瞬間にはっきりと声が聞こえてきたということは、遂に本格的な対話が出来るということ。

 

心して斬魄刀との対話に踏み切った。

 

 

 




次回、遂に始解します。
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