六番隊隊長・朽木白哉。
彼は数年前に隊長に就任し、まだ経験は浅いものの歴代最強当主と謳われている。
そして、彼は昔の熱い性格ではなく、当主にふさわしい冷静さをもつようになった。
実は白哉とは約五十年ぶりに会う。女性死神協会の新年会以来だ。
お互いに忙しいのもあったが、隼人が精神的に不安定になっていたこともあり、彼が席官を務めている間、直接会うことは全くなかった。
貴族であるため霊術院にも入らず、入隊試験も受けずにわずか五十年ちょいで隊長に就任したこともあり、相当注目されている。
誇らしい年上の友人だ。
回覧を渡しに六番隊隊主室に赴き、ついに隊長となった白哉と対面だ。
「失礼します。七番隊第三席、口囃子です。」
「入れ。」
おぉ!声からして威厳がある。
一体どんな出で立ちなのだろうかと扉を開けたが、隼人は当惑することになってしまった。
氷のように冷たい雰囲気。こちらを射抜く眼差しは怜悧そのものだ。
十年程前に妻を亡くしたからだろうか。しかし義妹を迎え入れたはずなのにここまで冷たい雰囲気をまとっているとは。
五十年前の夜一にからかわれてその度に怒っていた男はもうここにはいない。
立派な貴族当主になったものの、寂しさを感じてしまった。
「朽木隊長、回覧届けに参りました。」
「そちらの机に置いておけ。」
「かしこまりました。」
こんな冷たい雰囲気の男と一緒にいるのは気まずい。すぐに帰ろうと決心し、失礼しますと言おうとしたら、意外にも白哉はお茶を飲んでいけと頼んできた。
今の白哉は見るからにお喋りを好まなさそうなのに、何か意外だ。
ご厚意に甘え、白哉と五十年ぶりに直接お話することとなった。
「卿の最近の仕事はどうだ。」
「えっ、あぁはい。仕事ですか・・・。まぁぼちぼちです。ずっと前に三席になってから何も昇進してないですし・・・。」
「そうか。」
「・・・・・・、」
「・・・・・・、」
話しづらい・・・非常に話しづらい・・・・・・・・・。
こちらから何か話そうかと思っていたがよりによって向こうから来るとは。
そして質問をしてきたもののまさかの返答が『そうか。』だけとは。
全く話が発展しない。
居てもたってもいられず、こちらからどんどん色々聞いていくことにした。
「朽木隊長こそ、どうですか?隊長にもなると仕事量とか増えて大変でいらっしゃるかもしれないじゃないですか。」
「私にとっては取るに足らん。」
「あぁ・・・そうですか・・・。」
こっちが質問しても向こうは何故か全く話を発展させる気が無い。
よし、次は家族のことだ。これなら色々話してくれるだろう。
「義妹さん、十三番隊に入ったんですよね?何か教えたりとかしてらっしゃるんですか?」
「ルキアはルキアの思うようにさせている。私には関係ない。」
「あ・・・はい、そうですか・・・。」
うーん・・・。やっぱり話が発展していかない。
本当は心配なんじゃないの~と昔なら言うかもしれないが、それすらも許さない雰囲気を纏っている。
気まずさに耐えられないのでまだ熱いお茶をちょっと無理して飲み、帰ろうと立ち上がりかけた所で、白哉から想定外のことを言われた。
「卿は変わったな・・・・・・。やはり、あの時からか・・・?」
「・・・・・・、」
こちらからしたら白哉の方が変わっているが、白哉も人を見る目はある。五十年前から変わったのは白哉だけだと勝手に認識していたが、よくよく考えたら自分もそうだった。
ある意味、似た者同士。
だからこそ、帰り際に決して言うはずのなかった言葉を白哉に送った。
「お互い様ですよ、
昔一緒に鍛錬していた時の呼び名。
隊長になった今この呼び方で呼んだら嫌な顔をしそうなのでさっきまで止めていたが、なんとなく自然と口からこの呼び名が出てきた。
白哉も手に持った湯呑を見ながら少し微笑んでいるように見えた。本当にほんの少しだが。
だが、隊主室を出ようとした途端、思わぬ知らせが地獄蝶で二人に届いた。
「十三番隊第三席・志波都率いる偵察隊が全滅。新たに虚討伐隊を編成し、二日以内に虚の討伐を行う。」
((!))
虚討伐で席官含め十人が全滅。
由々しき事態だ。こうなった以上、副隊長以上の死神が討伐に参加することとなる。
そして亡くなったのは志波海燕の妻。
真っ先に隼人は海燕を心配し、飛び出そうとしたが、
「卿が向かって何になる。助けなど無用だ。」
「でっ・・・でも、海燕さんの妻が虚に殺されたんですよ、心配に「これは十三番隊の問題だ。」
「・・・・・・、」
考えてみたら確かにそうだ。十三番隊の問題。
そして、冷静に考えると、海燕はこの問題を対処できる実力の持ち主である。
大丈夫だ。何も心配することはない。
「そうですね。三席の僕が行った所で、何にもならないですよね。」
「・・・・・・・・・あの男もきっと、卿を止めるだろう。」
白哉に改めて言われ考えてみると、これも確かにそうだ。
拳西なら「余計なコトに首ツッコむなバカ!」と言うはず。
嫌な予感がするが、大丈夫、大丈夫だ。と言い聞かせた。
その予感は当たることとなってしまった。
翌日朝、七番隊隊舎に出勤した際、朝礼の前に狛村から直接教えられた。
志波海燕の死亡。
本来は席官程度の人間にはこの言葉しか伝えられないが、狛村は浮竹から伝言を頼まれたと言った。
十三番隊のごく一部の人間しか知らない海燕の死の真相。
それはまず虚の特異な力の説明から始まる。
メタスタシアという名の虚の力は、その日最初に触腕に触れた者の斬魄刀を消滅させる能力。
「そんな虚がいるんですか・・・!」
「儂も聞いた時は俄に信じ難かったが、浮竹隊長が言うのだ、事実だろう。」
それからも狛村は浮竹の伝言を伝えた。
彼の妻、部下、そして彼自身の誇りのために一人で戦ったこと。
そして、海燕は虚によって強制的に融合させられ、二度と戻ることは無くなったこと。
「虚との・・・融合・・・・・・。」
「霊体同士だから永劫解けることはないだろう・・・・・・。」
「・・・・・・でも、海燕さんは誇りを守るために戦ったんですね・・・・・・。」
ここで自分が無理矢理にでも助けていたら、海燕の誇りは無くなってしまうだろう。
だが、それで命を落としてしまうのはいかがなものか。
一連の話を聞いた後、もやもやすることになってしまった。
「難しいですね・・・・・・。悩みます。」
「儂は十三番隊の副隊長とあまり関わりはないが・・・彼はどのような結果であっても一人で戦ったことを誇りに思うのではないか?」
「そうだと・・・・・・いいんですけどね。」
狛村も話を聞いて当惑している雰囲気があった。
多くの人物にこの話を広めると混乱を生み出すため、浮竹は真相をごく一部の死神にだけ明かしたのだろう。
「隊葬はいつですか?」
「明後日に行うそうだ。行ってこい。休みを取っても構わないぞ。」
「ありがとうございます。ご厚意に甘えさせて頂くかもしれません。」
二日後。
隊葬を直接見たわけではないが、会場に行き、遺体の顔だけは見た。
正直、やり切れない思いで胸がいっぱいだ。
あの時白哉に止められたが、それでも助けに行けば良かったのではないか。
白哉の判断に従った結果、海燕は死んだ。
しかし、海燕の誇りは失われることはなかった。
知り合い一人の死にここまで悩まされたのは初めてだった。
同期の友人でも今まで何人かは死んだ。そしてその死は悲しいものだったが、受け入れることが出来た。
だが、海燕の死がもたらしたものは、悲しみではなく当惑だった。
何が正しいのかが分からない。ここに来て答えが出るかと思ったが、より当惑することになった。
十三番隊に入った白哉の義妹、朽木ルキアは、ずっと泣いているからか目が真っ赤だ。
妹の清音を心配して見に来た勇音もいて話をしたが、清音に話しかけるのも気が引けたらしい。
「志波副隊長のこと、清音はアニキみたいだって慕ってたから、やっぱり辛いですよね・・・。私もなんて声かければいいか、わからなくなっちゃって・・・。」
必死に唇を噛んで涙をこらえている清音を見ていれば、誰もが言葉をかけづらくなるだろう。
浮竹も姿こそ見せていたが憔悴しきっており、身体を乗っ取られた海燕との戦いで負傷していたこともあり少し来た後すぐに帰ってしまった。
帰った後、あの時出来たこと、ではなくこれから出来ること、を考えてみることにした。
まず、海燕が自分にしてくれたことは何か。
思い出すのは、あの小憎たらしい顔。
何かと自分を出し抜き、舎弟扱いしていつも自分をイラつかせていた。
強引で、自分の話を聞かない男。
でも、あの人達がいなくなり自死すら考える程精神が壊れていた時は、殴ってでも目を覚ましてくれた。
現に海燕は多くの後輩、部下に慕われ、隊長からも信頼される程優秀な人物だった。
決して自分にはそんな慕われるような一面を見せなかったが、昔海燕といた時は悪友みたいに遊んでもらっていた。拳西にまとめて二人怒られたこともあった。
振り返ってみると、人並み以上に思い出あるじゃん。
じゃあ自分には何ができるか。
自分の後輩にも、全く同じでなくていいから、こういう大切な思い出を作ってやろう。
悩み、苦しむ後輩を自分の手で救ってあげよう。
そして、現在進行形で悩みを抱えている後輩を一人知っている。
檜佐木修兵だ。
初めて演習で会った時から実力はあるものの、模擬試合にもかかわらず恐れを抱いているように見えたのだ。
自分なら分かる。辛い気持ちをいつまでも誰にも打ち明けられずにいると、心が破滅してしまう。
数十年前のパンク寸前だった自分を見ているようだった。
「僕も・・・・・・海燕さんみたいに、人を助けてあげられるのかな・・・。」
いいや、とにかくやってみよう!
一大決心し、翌日修兵を飲みにでも誘い、洗いざらいぶちまけさせてやるとまるで京楽みたいなやり方を取ることにした。
しかし。
翌日飲みに誘い久々に会った修兵は、悩みなど抱えていないいたって普通の一人の人間になっていた。
隊長である東仙に対する崇拝にも近い尊敬の言葉を並べている。
あれ・・・僕、必要なかった?
ちょっと凹みかけたが、いや心の内では深い悩みに囚われているかもしれない、と再び考え直し、変な探りを入れずストレートに聞くことにした。
「修兵ってさ、最初の演習の時模擬試合でも怖がってたように見えたけど、克服できたの?」
もし今でも悩んでいるとしたら、かなり乱暴な言い方だ。気を悪くする可能性も十分ある。海燕みたいな人物なら多少乱暴でも許容できそうだが。
少し驚いたような顔をしていたが、すぐに彼からの返答が来た。
「実は今、頑張って乗り越えようとしてるんスよ。東仙隊長が『自分の握る剣にすら怯えぬ者に、剣を握る資格は無い。戦士にとって最も大切な物は戦いを恐れる心だ。』っておっしゃってたんですよ。俺は戦いを怖がってはいけないってずっと考えてたので、そう言われて何だか安心しました。まだ怖くなる時があるんスけどね・・・。何とか受け入れようと、頑張ってます!」
恐れることを怖がってはいけない。受け入れることが大事。
あの人達との記憶が急に思い出される時、頭ごなしに恐れていた自分にとったやり方だ。
二度と戻らず辛くとも、それを時間をかけてでも受け入れる。そうやって辛い思いと自分は向き合うことができた。
それを修兵にも教えてあげようと思っていたが、自分が修兵にかけようと思っていた言葉と、似たような言葉を東仙がかけていた。
折角先輩としていいトコ見せようと思ったのに。何だかちょっぴり悔しい。
結局ただの飲み会になってしまった。
やっぱり海燕みたいな慕われる先輩になれるのはまだまだ先か。
きっとこの光景を見られたらこれ見よがしに馬鹿にしてくるだろう。
「俺とオメーは圧倒的に格が違うからな!!」と満面の笑みで笑い者にしそうだ。憎たらしい顔が鮮明に想像できる。
死んでからも尚隼人をイラっとさせてくるとは・・・。もはや才能である。
そんな憎たらしい海燕の幻影を脳内から振り払い、ひとまず目の前の男に向き合った。
「じゃあとりあえず大丈夫そうだね。何かあったら相談するんだよ。・・・・・・隊長には言えないこととか。」
「なっ・・・そんなことはありませんよ!」
「まつもっちゃんに鼻の下伸ばしてるのはどこの誰だか。」
「何で知ってんスか!?・・・・・・って、やべっ!!」
射場と全く同じ反応だ。滑稽すぎる。
大人びていて真面目に見えるが意外と年相応な部分もある。
「射場ちゃんもまつもっちゃんのこと気になってるみたいだよ・・・・・・負けられないんじゃない?」
「射場さんも・・・・・・!・・・そうっスね。乱菊さんのあのおっぱいは譲れないっス!!!!!!!!」
立ち上がってお酒を一気飲みし、堂々と変態宣言だ。
鼻息荒く興奮している様は、いつもの席官の修兵とは全く違うただのスケベな若者。
相談に乗り救ってあげることは出来なかったが、違う意味で面白いことになったのでしばらく様子を見ることにした。
やっぱり海燕さんは凄かったんだな・・・・・・・・・。