志波海燕の死から五年。そして口囃子隼人が護廷十三隊に入って七十年。
護廷十三隊はようやく空位となっていた隊長が全て埋まった。
二番隊隊長・砕蜂。
十番隊隊長・志波一心。
その数年後、四番隊副隊長・山田清之介が真央施薬院の総代を務めるため、四番隊副隊長を引退することとなった。
そのため、今の護廷十三隊は隊長はそろっているものの一番隊と十一番隊以外は副隊長が空位という、なんともバランスの悪い体制を取っていた。
ある夏の日。
口囃子隼人は現体制の打開のきっかけになればと思い、ついに狛村に進言をした。
「十一番隊第三席・射場鉄左衛門を七番隊副隊長に推薦します。」
基本的に副隊長は、席位が十席以上の死神が推薦し、同隊隊長による独自の試験を受けてもらい隊長がふさわしいと見なした場合に合格となる。
とは言うものの実際は例外の方が多く、試験無しで隊長の独断で決めたりすることの方が多い。
狛村はきっとこれから試験をして正式な形で彼を迎え入れるだろう。
と思っていたが。
「ああ。実は儂も何度か鉄左衛門に声をかけておってな。儂が課した試験は既に合格しておる。」
「えっそうなんですか!?」
寝耳に水だ。
結構覚悟を決めて進言したのに、まさか狛村自身からコンタクトをとっていたとは。
「それに隼人が鉄左衛門に副隊長の座を薦めておることは奴からも聞いた。儂もあの男に副官を任せたいと考えているぞ。」
「そうなんですね・・・。あの、いつの間に試験やったんですか?」
「丁度二番隊に砕蜂が就任した頃だ。」
えっそんな前から?五年前じゃん。何故伝えてくれなかったのか・・・。と少し落ち込んでいると射場に口止めされていたことが分かった。
「まだ覚悟がついてない故、しばらく待ってほしいと言っておった。隼人にも言わないでくれと頼まれてな・・・済まん。」
「そうですか・・・・・・。そうなんですね・・・。」
覚悟がついてないといってから五年が経った。
五年は長い。やはり自分の実力に納得がいかないのだろうか。
「もし、辞退したらどうなさるおつもりですか?」
「万が一辞退すると鉄左衛門が言えば受け入れるが・・・・・・貴公はあの男が辞退するように見えるか?」
(!)
辞退するわけがない。
昇進を望んでいた射場が副隊長の誘いを断るなんて、絶対にありえない。だからこそ自分は待ってほしいと言われるのを前提で射場を以前誘ったんじゃないか。
そして話題に上がっていた男は、隊主室にどかどかと音を立てて走りながらやってきた。
「狛村隊長・・・・・・口囃子・・・・・・。覚悟、つきやした。儂を、七番隊副隊長に任官して下さい!!!お願いしやす!!!!!!!!」
拳を床に付けて正座し、額を床に付けて頼みこむ。いかにも射場らしい。
何十年前からずっと言いたかった言葉をようやく射場にかけることができた。
「やっと決心ついたんだね。歓迎するよ。射場ちゃん!」
「歓迎するぞ、鉄左衛門。今日からよろしく頼むぞ。」
「押忍!!!!!!!!」
射場鉄左衛門の七番隊副隊長就任。
これをきっかけにさらに五年の間で続々と副隊長の枠が埋まっていった。
射場の後数か月後、十番隊副隊長に松本乱菊が就任。
入隊後すぐから三席にずっといたため、出世の速さが話題になった。
それから一年後、八番隊副隊長に伊勢七緒が就任。
四番隊副隊長に虎徹勇音。
二番隊副隊長に大前田希千代。
十二番隊副隊長に涅ネム。
そして、射場の就任から五年後、九番隊副隊長に檜佐木修兵が就任した。
射場をきっかけにした副隊長ラッシュのおかげで、三、五、六、十三番隊以外の副隊長が揃った。
羨ましいかと言われれば、そりゃあ羨ましい。
なれるものなら自分だって副隊長になりたい。
だが、自分は他隊に行ってまで副隊長になりたいわけではない。
出来ればこの隊で副隊長をやりたい。
しかし自隊には自分よりも圧倒的に人格として副隊長に向いている者がいる。
七番隊だけ副隊長を二人という特例が許されるはずはない。
それだけだ。
後輩にまで先を越された。
それに、修兵の五つ下の年には近年稀に見る程の秀才が集まっており、彼らよりも年下の松本乱菊がスカウトした少年は最年少にしてすでに三席におり、未来の隊長候補だと騒がれている。
周りから、副隊長になればいいではないか、五番隊でも三番隊でもやっていけるはずだ、と何度も言われたが、その度に副隊長に未練はないと嘘をついてきた。
その嘘が重なる度に愚かな自分を守ろうとしていることに気付き、嫌気が差した。
そんな中。
臨時であり期間は短いが、初めて現世駐在任務を引率する役割を任されることとなった。
これは皆から色々言われる中で逃げる口実として丁度いい。
実は、霊術院の現世演習で穿界門に異常が生じたことを受け、隼人は現世に赴くことを自粛してきたのだ。
また同じ目にあってしまったら、多くの死神が無駄に命を落としてしまう。
自分の霊圧のせいで虚が集まる場所にまた飛ばされてしまったら今度は救援も来ないかもしれない。
本来普通の隊士ですら現世で死神としての役目を果たすのが当たり前だが、入隊して八十年近く経って初めての現世。それも引率。
結局緊張したため、射場と修兵に相談することにした。
「そもそも儂はすでに何回も現世に行っとるが何も問題ないわ!」
「でっでもさ、入隊して八十年も経って初めての現世だよ?引率とか不安で不安で・・・。」
「俺も数年前に初めて引率しましたが何も問題なかったっスよ?」
「そういう問題じゃないんだよ~~。万が一虚が来た時に皆を護れるかどうかとか、数人だけど皆指示に従ってくれるかとか、色々考えれば考える程不安になっていく・・・。院の時だって何か全然従ってくれなかったし・・・。あぁ・・・・・・。」
「おどれは虎徹みたいにうじうじすな!」
「・・・っていうか口囃子さん、巨大虚来ても軽くあしらえるぐらいの実力あるじゃないスか・・・。」
机に頭をつけて「あ゛ーーー・・・。」と呻きながら頭を左右に揺らしているのを隣に座っている修兵が背中をさすって宥めているのを見て、射場は「先輩のおどれが後輩に慰められてどうすんじゃ!」とまた喝を入れる。
その二人が副官章を付けていて結局羨ましく感じるのにまた嫌気が差す。
後輩の修兵は副隊長になってから死覇装を袖なしに変え、いかにも副官章を見せつけている感があって何か負けた気分。
なんて心の中はこうも自分勝手なのだろう。大事な時にうじうじうじうじしてばっか。
「・・・・・・そうやって上司ヅラしといてお前ら二人ともまつもっちゃんにメロメロだもんな。」
言った瞬間二人は飲んでいた酒を吹き出してああだこうだと否定し始めた。
とりあえず二人に対する言葉にならない劣等感を今は無くすことが出来た。
数日後、約八十年ぶりに穿界門をくぐり、現世に降り立った。
場所は鳴木市。
中規模の街だそうだ。
初めての引率ということもあり、無理言って人数を減らしてもらった。本来十人くらい連れるものだが、今回は自分含め半分の五人だ。これぐらいなら非常時に周りを巻き込まずに済みそうだ。
桃明呪で探索できる霊圧範囲は、鍛錬の結果現世にも少し及ぶようになった。
始解習得前にしか関わりのない霊圧は探査・捕捉できないため、拳西らの霊圧を探すつもりはない。
それに今の隼人の実力は、尸魂界から一つの街に対象を絞った上でやっと捕捉できるレベルだ。
どこにいるのかもわからない拳西達を探すのなど、まさに針に糸を通すよりも難しい。
担当の死神の霊圧を探し、合流した後魂葬、虚討伐など日々の業務の手伝いを行った。
今回は新入りの隊員に現世での実務を体験してもらう意味合いの駐在任務なので、引率とはいうもののあまり自分が出張ることもない。
元の担当死神がメインで教えているため、ほぼ空気と化しても問題ないほどだ。
皆優秀なので、適当にアドバイスすれば技術を吸収している。
そして十日間の任務のうち半分が過ぎた。
今日も魂葬もやり普通に任務をこなしている所で、ある異常を察知した。
「何か・・・・・・いつもと違う霊圧を感じる・・・。」
「え?俺は特に感じないんですけど・・・・・・。」
周りにいる新入りの隊士だけでなく、鳴木市担当の死神も気付いてない様子だ。
隼人は始解の能力の関係上、解放していない状態でも霊圧知覚は並の隊長格を上回るレベルまで到達している。
読み取る力に長けている一方、微弱なものまで読み取ってしまうため、異常があった先に行って結局何もなかった、ということもたまにある。
しかし今回は、死神の霊圧ではない。
虚の霊圧と、得体のしれない霊圧が二体。
「ちょっと行ってみるね。皆はここで待っててくれ!」
「え、ちょっと!口囃子三席!・・・・・・行っちゃった・・・。」
何だこの霊圧・・・。今までに会ったことのない霊圧だ。
まさか虚化した死神か?だとしたら拳西達の誰かか?
深夜の闇の中再会を期待していたが、隼人の期待は外れることとなる。
それどころか、想定外の出会いとなった。
虚に立ち向かっていく女の子が持つのは、大きな弓矢。
霊子で作られた弓。
間違いない。滅却師だ。
生まれて初めて滅却師に会った。院の教本で存在を教わった程度の存在。
だが滅却師は180年前に死神に滅ぼされたはず。
何故ここに?とにかく話をしてみよう。
「あの・・・・・・。あなたってもしかして滅却師ですか?」
無言で振り返った彼女の顔は強い意志を感じさせる。
ただ、彼女の言葉には棘があるように感じた。
「そうですが。その服・・・・・・
「あ・・・・・・。」
迂闊だった。
180年も前の話だが、自分達は彼女達を滅ぼした存在。
敵意を向けるのも当然だ。
まずい、ここで交戦になって騒ぎを大きくしたら彼女にとっても自分にとってもよくない。
何とか雰囲気をまともなものにしないと。
「いっいや・・・・・・ただ単純にすごいなって思って・・・・・・別に僕は滅却師が嫌いとか、尸魂界に言っちゃおうとか、思ってないんで、えっと、その・・・・・・。」
「ぷふっ。」
「は?」
何て言えばいいか分からず少し下を向いて考えていたら、何か変な声が聞こえた。
前を見ると、何やら腹を抱えてうずくまっている様子。
えっちょっと大丈夫?まさかさっきの虚との戦いでケガを・・・と思ったら。
「あっははははははははは!!!!!!!!!!何その反応!君絶対童貞でしょ!あっはははは!!初心な男の子って面白いね!!カワイイ!!」
「どっどどど・・・!!!!!!」
呆れた顔をした修兵に最近教えてもらった単語を初対面の女の子から言われ、(後輩から下ネタを教わるなんてとか言うやつは死刑)実に八十年ぶりに顔を真っ赤にして声を荒げてしまった。
「童貞って!!誰が童貞だ!!!アンタ初対面のヤツに何てこと言うんだよ!!」
「へぇ~事実なんだ~~!!顔真っ赤!めっちゃカワイイ!!」
「うるせぇ!!!!!僕だって・・・・・・・・・・・・、」
んな経験ねぇよ・・・。なんで現世でたかが二十年も生きていない女の子相手にこんな惨めな思いをしなきゃいけないんだ。泣きたくなる。
ってまずいまずい。久々に動転してしまった。
「そんなことは置いといてですね、僕は貴女の元へ向かっている最中に少し貴女の戦いを見ていたのですが・・・。その防御の術凄いですね。死神でもここまで防御に特性のある者はいませんよ。」
「あぁこれね。
「そうなんですか・・・。僕は鬼道が得意で、破道って攻撃中心の術が得意なんですよ。」
初対面なのに無意識に自分のことを話してしまった。何だか話しやすく感じるのだ。
それに彼女からは最初の言葉を除いて何故か一切の敵意を感じない。
尸魂界には言えないが、滅却師と関わりを持てるのは収穫として嬉しかった。
だが、彼女も海燕と同じで、完全におちょくる材料として自分を見ている気がする。
「その術で好きな女の子も攻略できればいいのにね。出来ないんでしょ?だから童貞なんだよ死神さん。」
「ねぇ貴女は何でそんなに童貞イジリしてくるの?やるか?いっちょやるか?え?」
「女子高生相手にヤるかって気持ち悪っ。お下品なこと言うと女の子から逃げられちゃうよ。」
「そっそういう意味で言ってんじゃねぇ!!!!!!もう帰ります!!!!さようなら!!!」
これ以上この場にいたら身がもたない。
何なんだあの女は。まるで海燕みたいに自分を悉く馬鹿にしてくる。
よりによってちょっと悩みでもある自分の恋愛事情に対して。
しかも海燕よりもたちが悪い気がする。恥ずかしいネタで図星を突いてくる確率が海燕よりも高い。
いつも抑えているのに久しぶりに声を荒げた。何かもう疲れた。
二度と話すものか。一旦戻ろう。そして二度と会うことは無いだろう。
しかし翌日、彼女とまた会うこととなる。