夕暮時は黄昏時。黄昏時は逢魔時ともいう。
現世ではあの世とこの世との境目が曖昧になり、この世ならざる者に出会いやすいと言われている。
霊の見えない子どもが面白半分で幽霊探しをする時間でもあり、幽霊が出したわけでもない些細な物音が、勝手に幽霊のせいにさせられたりもする。
実際は違う。
霊の見える子どもにとって、逢魔時に霊が出やすい、なんて迷信を信じている子どもは酷く滑稽に映るだろう。
だって、日中だろうとそこら中に霊はいるのだから。
黒崎真咲は小学校の頃から幽霊の噂をして怖がる子ども達を見て、馬鹿馬鹿しいと思っていた。
噂をしている小学生のすぐ近くに、幽霊がいるのに気づかないから。
そして真咲は滅却師なので、死神とは違い
虚の滅却。それが自分達滅却師に与えられた役目。
・・・・・・のはずだが。
真咲は
虚の討伐など
しきたり。
だから何だ。
力をみだりに使うなと石田家の母から言いつけられているものの、聖練の調子がボチボチというと厳しく怒られる。矛盾している。
石田家の息子であり、真咲の将来の結婚相手でもある
今までに何度も怒られているが、最近はわざと夜の街をぶらついて数体虚を倒してから帰っている。
聖練にはこれが一番うってつけだ。実力も日に日に上がっている。
なのに家に帰るとまた力をみだりに使ってと毎日怒られる。
竜弦に心配されるが、空元気でやり過ごすのももう疲れた。
そんな中。
今日も虚討伐をして実力が上がっているのを感じたが、今まで感じる霊圧とは一風変わった霊圧が近づいてくるのを感じた。
慌てて
そして、青年は自分の正体を一発で当てた。
「あの・・・・・・。あなたってもしかして滅却師ですか?」
振り返ると、青年の着ている衣服が死神のそれとわかった。
自分達を滅ぼした一族。まさか滅却師の生き残りである自分を殺しに差し向けた尸魂界からの刺客か。
警戒を決して崩さずに真咲は言葉を紡ぐ。
「そうですが。その服・・・・・・
あえて死神と認識していることを向こうに示し、出方を窺った。
霊圧量から見るに、万が一戦うとなったら実力はほぼ同等だろう。
戦い方を工夫すれば勝てる。
掌に力を籠めて弓を形成しようとしたところで、死神の青年は何やら挙動不審な様子で口から言葉を発し始めた。
「いっいや・・・・・・ただ単純にすごいなって思って・・・・・・別に僕は滅却師が嫌いとか、尸魂界に言っちゃおうとか、思ってないんで、えっと、その・・・・・・。」
この反応、見たことがある。
あれだ。普段かかわりのない眼鏡をかけた男子生徒に話しかけた時の反応と同じだ。
いかにも女の子慣れしてなさそうな喋り方。そのくせ意地っ張りでプライドが高く、自分がおちょくると顔を真っ赤にして怒ってくる。
あまりにも反応がそのままで耐えられず吹き出して腹を抱えてしまった。
「ぷふっ。」
「は?」
死神の中にもこういう人っているんだ。みんなこんな感じだったらいいのに。
「あっははははははははは!!!!!!!!!!何その反応!君絶対童貞でしょ!あっはははは!!初心な男の子って面白いね!!カワイイ!!」
「どっどどど・・・!!!!!!童貞って!!誰が童貞だ!!!アンタ初対面のヤツに何てこと言うんだよ!!」
「へぇ~事実なんだ~~!!顔真っ赤!めっちゃカワイイ!!」
「うるせぇ!!!!!」
反応もそのまんまだ。しかも変に知識のあるタイプではなく、どうやらまだまだあっち方面の知識力が浅いと見る。
自分の周りにはあまりいないタイプの人間だ。面白い。これはいいおもちゃになりそう。
と思っていると、どうやら死神は気を取り直したみたいだ。
「そんなことは置いといてですね、僕は貴女の元へ向かっている最中に少し貴女の戦いを見ていたのですが・・・。その防御の術凄いですね。死神でもここまで防御に特性のある者はいませんよ。」
「あぁこれね。
「そうなんですか・・・。僕は鬼道が得意で、破道って攻撃中心の術が得意なんですよ。」
「その術で好きな女の子も攻略できればいいのにね。出来ないんでしょ?だから童貞なんだよ死神さん。」
「ねぇ貴女は何でそんなに童貞イジリしてくるの?やるか?いっちょやるか?え?」
何だろう、この死神は冷静でいることで本来の自分を塞ぎ込んでいるように見える。
ほんのちょっとおちょくっただけですぐキレそうになるのだ。
自分と真逆だ。
自分は空元気で石田家だったり他の友達に対して本当の自分を隠している。
真逆に見えて、本質は自分と同じ。
死神だけど、仲良くなれそう。
でも今はやっぱおちょくる反応が面白いからそっち優先。
「女子高生相手にヤるかって気持ち悪っ。お下品なこと言うと女の子から逃げられちゃうよ。」
「そっそういう意味で言ってんじゃねぇ!!!!!!もう帰ります!!!!さようなら!!!」
「あっちょっと!!」
イジリすぎたか、怒って帰ってしまった。
死神って何百年も生きているんじゃなかったっけ。
それなのに二十年も生きていない自分達と全く変わらない反応をするなんて。
みんなこんな感じだったら、滅却師と死神は共存できるかもしれないのにな。
昨日は散々な目にあった。
何なんだあの滅却師。まるで志波海燕が転生したかのように痛い所ばかり突いてくる。
何かと自分を童貞だ童貞だいちいちつっかかってきて腹立たしいことこの上ない。
結局現世に行く前の射場と修兵の焦りっぷりと自分は変わらないではないか。
やけにあの滅却師の笑った顔が脳裡から離れないし、ついでに海燕の小憎たらしいあの顔も思い出されて苛立ちが抑えられない。
駐在任務の中の唯一の休日の6日目は昨日の苛立ちを吹っ飛ばすため、口囃子隼人は義骸に入り適当に街をぶらつくことにした。
どうやら自分は同期の死神よりも少し若く見えるらしい。
街をぶらついていると、おっちゃんオバちゃんに「あんた学校は!?」としきりに聞かれる。後に射場に聞くと、そんなことを言われた同期の死神は自分だけらしい。屈辱。
適当に通ってませんと言えば、「そんな優等生っぽそうな見た目してアンタ学校通ってないんかい!人は見かけによらないねぇ~。」と嫌味ったらしく言われた。悔しい。
しかし現世も変わったものだ。
院の頃に行った現世とは全くもって違う。
多くの車が道路を走り、信じられないくらい高い建物もたくさんある。
電子機器をいじって遊んでいる人間もいる。卵型のおもちゃにご執心のようだ。
そして、何やら耳に大きな機械をあてて話し込んでいる人もいる。
十二番隊が新たな通信手段として研究対象にしている物と聞いたことがある。
実物を見たのは初めてだった。
『こんびに』たる場所で現世のお金を使って昼飯を調達した。
電子機器を使ってお金の取引をしているようだ。科学の発展、凄まじい。
また適当にぶらつき、数時間経った。『かふぇ』たる場所はおしゃれ過ぎて勇気が出なくて入れなかった。
日も暮れそうだしそろそろ帰るか。
休日とはいえど見回りも兼ねているので、力をかなり制限されているものの周囲に対し警戒は怠っていない。
はずだったが。
「やっほ。」
「わっびっくり・・・・・・って貴女ですか・・・・・・。」
逢魔時にまた滅却師に出くわしてしまった。
「ふんふんふん・・・・・・ファッションセンス、60点だね。無難にいきすぎ。改善の余地ありそう。っていうか大アリ。」
「悪かったですね。義骸の時の服装なんてどうでもよくないですか?どうせ今日しか着ないし。」
現に今の隼人の服装は白無地Tシャツにジーパン、水色のシャツを腕まくりして羽織っているだけだ。
滅却師の彼女は学校帰りだからか制服を着ている。
「えーーあたしがコーディネートしてあげようと思ったのに・・・。つまんないの。」
「つまらなくて結構です。じゃあこれで「ならちょっと付き合ってよ!あたしこの街のおすすめの場所教えてあげる!」
「人の話聞いてま・・・ってちょっと腕引っ張らないで下さい!痛い!痛いから!」
彼女と出会った場所から相当な距離があったからか、ここに来た時はすでに日が暮れ、夜景がきれいな場所になっていた。
「ここはまだ竜ちゃんにしか教えてないんだ~。あたしの秘密の展望台!」
「えっ・・・すごっ・・・・・・。」
今日まで現世にいる間、空中に足場を固定していたことは何度もあったが、建物の屋上あたりばかりだったので、街の全景を見たことはなかった。
街灯や家から漏れる光が作り出す一面の輝き。
尸魂界では絶対に見ることのできない代物だ。
現世はこんな興であふれる場所だったとは・・・。
刮目して見入っている隼人に彼女はある助言をした。
「その顔でいた方がいいよ、死神さん。昨日会った時も無理して冷静になろうとしてたでしょ?あたしも似たようなところあるから分かっちゃった。」
「あっあれは貴女があんなこと言うから「そういうことじゃなくて。」
また話を聞かずにぶった切ったのかと思い少々イラついたが、今度は違った。
「無理して大人ぶるより、昨日あたしに怒ってた姿の方が生き生きしてたよ。向こうでもそうやって感情豊かにいればいいのに。」
「それは・・・・・・。」
会って一日の女の子にここまで見抜かれるとは。やちるといいこの滅却師といい自分の本質を見抜かれ過ぎている気がする。
そんなに自分は分かりやすいのだろうか。
「無理なんです。昔育ててくれた人達の前ではありのままでいられてたんですけど、事件に巻き込まれて尸魂界にいられなくなっちゃって。それ以来自分から昔みたいな性格でいようとすることが出来なくなったんです。」
昔みたいな性格でいることが出来なくなった。
これは最近気付いたことだ。
やちるに言われてから閉じこもりがちな自分を治し、前を向こうと思っているが、どうもうまくいかない。
それどころか、昔の自分がどんな性格だったか、その記憶すら何だか曖昧なのだ。
多分あの人達に再会でもしない限り無理だろう。
「じゃああたしが何とかしてみせようか?」
「え?いやそんな簡単な問題じゃないですよ。」
「そっか。百年以上生きてセックスもしたことのない死神には無理か。拗らせすぎて正直引くわ。」
「はぁ!?!?!?!?そんなセック・・・卑猥な言葉をかけるのどうかと思いますよ!!!」
「その顔だよ死神さん!それでいればいいんだって。」
「あ・・・。」
そういえばこんな感じだったっけ。
いつも大人達にいじられた時、こんな感じで怒っていたっけ。
う~んこんなんだっけ・・・?やっぱわからん。
でもずっと気になっていたことがある。いつまでも死神さんとよそよそしく呼ばれるのが何か嫌だった。
「口囃子隼人。僕の名前です。いい加減死神さんって何度も言われるのも何か嫌なんで。ちゃんと名前で呼んで下さい。」
「ふーん。それもある意味ナンパの手段かも。自分が名乗って相手にも名乗らせるとはなかなかの手段だね。」
「は?『なんぱ』って一体・・・?」
「あたしは黒崎真咲。女子高生滅却師です!よろしくね!口囃子くん!」
「何かよくわからないけど・・・よろしく。真咲さん。」
その後すぐ、「やばいそろそろ怒られる!じゃあね!童貞卒業できるように祈ってるよ!」と捨て台詞を吐いて行ったが、その後の駐在任務の間で彼女に再び会うことは無かった。
嵐のように現れ嵐のように去って行ったが、何だか不思議な女の子だった。
まるで太陽のように彼女が中心になり、その周りを自分が回っている感じ。
おちょくってくるが、嫌いともいえないのが何とも奇妙な体験だ。
ちなみに尸魂界に帰ってきた後、『なんぱ』とは何かを修兵に聞き(また心底呆れられた)、危うく尸魂界でブチギレそうになったが何とか抑えた。顔がやばかったらしく、修兵にメチャクチャ怯えられてしまった。ごめんよ、修兵。
その後、二月連続で鳴木市駐在任務の死神に死人が出て、それと関係があるのかは分からないが十番隊隊長が出奔することとなった。
数年後、また鳴木市でさらに長い期間駐在任務を行ったものの、彼女の霊圧を記憶し忘れていたせいで探査することも出来ず、再び彼女に会うことは二度となかった。
会わないと案外寂しく感じるものである。まさかあの子のこと・・・、いやいやありえん。絶対ありえん。というかダメだ。死神が滅却師をそういう風に思うなんて禁断のアレだ。
『あたしも似たようなところがある。』その発言が気になり、大丈夫か不安だったが、会えないのであれば仕方ない。
今頃『竜ちゃん』とでも幸せに暮らしているだろうか。呼び方からして親しそうだったし。
まさかあれから二十年後、同じ黒崎という苗字の旅禍が尸魂界に侵入してくるとは今の隼人に分かるはずはない。
そしてその事件をきっかけに、今まで何も手掛かりを得られなかったあの忌まわしき事件の真相が明かされることになるとは思いもしなかった。
次回から尸魂界篇に入ります!