胎動
初めての現世駐在任務から十五年。
空位だった三番隊副隊長には
それから六年経ち、六番隊副隊長には
十三番隊以外の全隊に副隊長が揃った。
そしてこの年は魂魄消失事件が起きてから101年。
調べても調べても何も情報を得られず、空虚感に駆られていた。
何せ、あの場には虚化した隊長格、九番隊席官、浦原喜助と握菱鉄裁を除くと、
これだけで圧倒的に浦原喜助が犯人になってもおかしくない。
さらに調べてみると、当時負傷していた東仙を助けたのは五番隊副隊長を務めていた藍染だとわかった。
廷内巡回中に、必死の思いで現場から逃亡した東仙を見つけ、四番隊に運んだそうだ。
言質だけは信用ならん、ならば藍染が怪しいのではと思ったが、京楽は藍染がその日瀞霊廷内にいたのを見たらしい。
完璧なアリバイがある。実際に見ているとなれば覆しようがない。
霊覚を騙した可能性もあるが、副隊長レベルの死神が京楽ほどの実力者を欺くことは不可能。
口囃子隼人はそう結論せざるをえず、調査はいよいよ何も進まなくなっていた。
七月二十二日。
当時空座町の駐在任務を行っていた朽木ルキアが『人間への死神能力の譲渡』という重罪を犯し、尸魂界へと連行されることになった。
本来義骸は高濃度の霊子体で構成されており、尸魂界から義骸の行動を捕捉できるはずだが、彼女は数日前から行方不明となっていた。
そして、その行方不明を指摘したのは、隼人だった。
鍛錬の結果、遂に桃明呪で尸魂界・現世・虚圏を探査・捕捉可能になったため、浮竹から現世に行ったルキアの所在を確認してほしいと言われることが何回かあった。
最初は捕捉できたものの、ある日から突然一切捕捉できなくなった。
数日やっても全く捕捉出来なくなった上、桃明呪も『おかしい、霊圧が消えている。義骸に入っても私の力では追跡できるはずなのに。』と伝えてきた。
霊圧が消えているという事態を重く見た浮竹は隠密機動と十二番隊に報告し、(上手い事自分の始解の存在ははぐらかしてくれたらしい。申し訳ない。)十二番隊が発見してくれた。
そしてそこで死神への能力譲渡が発覚し、中央四十六室が六番隊に捕縛、連行を命じた。
本来は刑軍とかがやるはずだが、親族や親しい者が副隊長をやっている六番隊に任せた方が、彼女も素直に従うだろう、そう思っての処置だと隼人はみた。
数日後。
第一級重禍罪朽木ルキアを殛囚とし、二十五日後に殛刑に処す。
これが尸魂界の最終決定となった。
そして兄の白哉はこれに一切反論せず、冷静にいた。
その知らせを七番隊で聞いてから、海燕の死の時を思い出してしまった。
あの時は十三番隊の問題と受け入れた結果、海燕は死んでしまった。
今回はそれだけの問題ではない。
家族の問題とはいえないのではないか。
また十三番隊の隊士をこんな形で失うのは酷な話ではないか。
海燕の件の後数十年後、初代死神代行に絡んだ事件でも浮竹は酷く心を傷めていた。
さらに信頼する部下を失う浮竹の気持ちを考えると、惨い話だというのは誰にでもわかる。
信頼する者を失う気持ちは誰よりも分かっているつもりだ。
だからこそ、今回は白哉に進言しに行く。
「少し、六番隊に行ってきます。」
「・・・・・・、あまり長居はするなよ。向こうにも迷惑かもしれぬからな。」
「はい。」
休憩時間を見計らって隊主室に赴いた。
「休憩中失礼します。お時間取って頂いてもよろしいですか?
「・・・構わぬ。」
白哉さん、と呼ぶときは個人的な話をする時の合図だ。
そして恐らく白哉も隼人が話すことを分かっているのだろう。
いつもなら「・・・帰れ。」とぶっきらぼうに言われるが、久々に承諾を得られた。
供の者がお茶を出した後、隼人はためらうことなく本題に入った。
「ルキアちゃんのこと、本当にいいんですか?緋真さんを失った貴方がとる行動には思えないんですが。」
「・・・卿には関係ない。」
言うと思った。
それ故、昔の白哉を知っているからこその反論を用意した。
「そんなことないですよ。僕は昔の貴方を知っています。昔の貴方なら必死に反論して減刑を望んでいたはずです。そして・・・・・・。」
あまり言いたくなかったが、ここまで言わないと白哉の心を動かせないと察し、奥の手を使う。
「101年前の僕を見ても貴方は義妹を見殺しにできますか?掟だからって・・・・・・家族として迎え入れた赤の他人の女の子を見殺しにするんですか?」
一瞬白哉の表情が揺らいだ気がした。
その一瞬を突き、さらに隼人は落ち着いた様子でまくし立てた。
「大切な者を失った時の苦しみは僕が一番といってもいいほど分かっているつもりです。貴方もわかっているはずでしょう?何でそんなに義妹に酷な反応を「自惚れるな。」
「は・・・?」
自惚れ?一体何が自惚れなのだ。意味が分からない。
熱くなり言葉の調子が強くなりかけた所で、そのまま冷静でいる白哉が水を差した。
「卿だけが知ったような口をきくな。貴族の機微が卿に理解できるはずなど無かろう。」
「貴族なんて関係ないです。一人の死神としてここにいます。」
「まだ分からぬのか。」
一切表情を崩さず、白哉はありのままの真実を告げる。
「大切な者を失った時の苦しみを一番分かっている・・・。そのような戯言を私によく言えるな。今の卿が言うよりも浮竹のほうがまだ信じられるものよ。」
(!)
戯言。一言で切り伏せられてしまった。そして次の白哉の発言は、今までの自分には考えられない不手際をしたことを気付かせるものだった。
「101年前の事件を私の説得の材料に使うとは・・・、卿も変わってしまったな。あの者達に会わせる顔は今の卿には無いぞ。」
『卿もかわってしまったな。』以前とは違い、明らかに糾弾の意を込めて放たれた重みのある言葉に、言い返す言葉が思いつかない。
そのまま立ち去る白哉をただ見続けるだけで、結局隼人は白哉の気持ちを変えてあげることなど出来なかった。
その上、何て最低なことをしたのだ。
奥の手だと思っていた言葉は、同時に虚化実験の犠牲者を傷つけるものでもあった。
これでは完全にあの人達を実験で利用した奴等と自分は同じだ。
確かに変わってしまったのかもしれない。
事件の調査でいくら調べても何も結果は出ず、終わらない螺旋のように辛かった。
まるで調べれば調べる程真相への距離が遠ざかっているように。
少し諦めもあったのかもしれない。もうあの人達は戻ってこないと心の隅で思っていたのかもしれない。
だからあの事件を道具として使ってしまった。
そして白哉は、それでもあの者達に会わせる顔は今は無いと言った。
白哉の方が戻ってくると信じているような物ではないか。
ダメだ。そんな悲観してたらダメだ、口囃子隼人。
自分に言い聞かせ、改めて白哉の考えを改められるようにしようと思い、今は六番隊を後にした。
八月二日深夜。
夜に隊主会、そして副隊長は副官章をつけて二番側臣室に待機。
そのため隼人は一時的に隊舎の守護にあたっていた。
といってもただいるだけみたいなものだが。
残っていた書類仕事を済ませ、会議の内容を聞くためこっくりこっくりと半分寝ながら狛村と射場を待っていたところ、突然大きな音が瀞霊廷中に鳴り響いた。
『緊急警報!緊急警報!瀞霊廷内に侵入者有り!各隊守護配置について下さい!繰り返します!緊急警報!緊急・・・・・・』
寝ぼけまなこの状態で外に意識を向けてみると、何やらバタバタと音がする。
一先ず部屋の外に出てみると、狛村と射場が猛ダッシュで七番隊隊舎に戻ってきたところだった。
「何・・・何かあったの・・・・・・って狛村隊長!隊主会の内容はどうで・・・」
「それどころではなくなったぞ隼人!」
「えっ隊主会どころではないって・・・」
「瀞霊廷に旅禍が侵入しててぇへんなことになっとるでぇ!!!!!」
旅禍の侵入だと?今までに聞いたことすらない。
そもそも流魂街にいる者は瀞霊廷を覆う壁で普通なら入ることすら不可能なはずだ。
こんなバタバタしている時に何でまた厄介な事が起こるんだよ。
「急ぎ持ち場につくぞ!鉄左衛門!隼人!ついてこい!」
「はい(押忍)!!!!!!!!」
まず侵入者に会ったらとにかく始解だ。始解して相手の霊圧を覚えてしまえばこっちのもの。
夜中で眠たかったが何とか眠気を振り払い、配置につくことにした。
ここでつく隼人の配置は、基本的に狛村と行動することになっている。
理由は簡単。狛村の戦闘行動を補助するためだ。
狛村の始解である『
その振りの遅さをフォローするため、隼人の始解を使って相手の位置を正確に捕捉し、こちら側が膠着することなく圧倒的な攻めを展開することができるようになったのだ。
「万が一儂らの元に旅禍が出てきたら補助を頼むぞ。」
「わかりました。おそらくここまで侵入してきたら相当な手練れですよね。」
「ああ。気を引き締めてかからねばな。」
瀞霊廷内への旅禍の侵入。
まさかとは思うが一つの可能性があるのだ。
それは、虚化した隊長格が復讐として瀞霊廷を急襲しに来る可能性。
そもそも彼らが生きているのかすら分からないがあれからもう100年だ。
復讐するための準備期間にしたら十分過ぎるほどの時間が過ぎた。
彼らが死神に対して復讐しに来たら、自分はおそらく戦えない。
あの人達と敵として対峙したら、自分は斬魄刀を振るうことも、鬼道を放つことも出来なくなるだろう。
想像しただけで辛くなる。
むしろ斬り殺されても仕方ないと思っている。
それだけはあってほしくないと必死に斬魄刀に祈っていた。
明け方になり、変化が訪れた。
「何だよ・・・あれ・・・!!!」
「どうなっとるんじゃ・・・一体何が来とる言うんじゃ!!!」
周囲の雲を捻じ曲げ、とある飛行体が上空から瀞霊廷に突っ込もうとしている。
そのまま
「なんて密度の濃い霊子体・・・!遮魂膜を通り抜けるっていよいよまずいんじゃないですか?」
「いや、恐らくこのまま落ちてくることは無いだろう。」
「そんならそげな心配すること・・・」
射場が言葉を発した瞬間、上空の飛行体は変化を始めた。
「あ・・・ありゃあ・・・。」
「丸い霊子体が・・・渦を巻いてる・・・。一体どうなるんだよ・・・!」
「席位のない隊士は一旦下がれ!逃げるのだ!!」
危険だと判断した狛村の号令で平隊士は隊長達から距離をとり、七番隊舎に大急ぎで戻らせた。
だがそれでもどこに落ちるか分からない。渦を巻いてる以上どうなるのか予想がつかない。
上で爆発するか。それともそのまま突破してくるか。
誰もが上空を見て飛行体の様子を見た。
次の瞬間、空の白い塊は四つに分かれ、そのうちの一つが自分たちの元に向かっていた。
「えっちょっと、一つこっち落ちてきたって。やばいよこれ!」
「慌てるでないわ!!儂の始解でどーーーんと打ち払って「そんなこと言ってる場合じゃないよ射場ちゃん!」
「あん?」
もうあと数秒で自分達に衝突しそうになっている。
あんなものと直接ぶつかったらひとたまりもない。
焦ってしまい、効くかわからないがとにかく防御をすることにした。
「縛道の八十一 断空!!!」
焦って力の制御が上手くいかなかったため、衝突の際に壁は粉々に砕けてしまったが、射場にも自分にも傷は一つもない。
そして、周りを見ると、旅禍らしき人物は誰もいない。
「何じゃ・・・はずれか・・・。」
「ひとまず戻りましょう、副隊長。」
はずれを引いたと思った射場は落胆しており、部下に催促され戻っていったが、唯一隼人だけ違和感を抱いていた。
(ぶつかったときに感じた霊圧・・・まさか・・・・・・。)
それは百年以上前に自分に瞬歩を教えてくれた人の霊圧に、あまりにも似すぎていた。
わずかではあるが相手が鬼道を放った気がする。その鬼道の力が、昔感じたものとそっくりだった。
(夜一さん・・・?夜一さんなのか・・・?)
もし夜一だった場合、おそらく瀞霊廷を揺るがす程の出来事が起きるかもしれない。
一体これから何が起こるのか、夜一は何故今このタイミングでここに来るのか。
大きな策謀が蠢き始めている気がして急に怖くなった。
(あれは隼坊か・・・・・・。・・・・・・・・・成長したのう・・・。)
尸魂界篇が始まりましたが、あくまでも主人公視点での尸魂界篇なので騒動の裏側にずっといる感じになります。
一護とも石田とも軽く戦いますが、主人公が倒しちゃう、ということにはなりません。
あくまでも原作が軸なので・・・。