ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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狙撃

先ほどの滅却師は席官を倒したようだ。

たしかあいつはウチの隊でずるして最近四席に上がった男だ。あまり実力が無いクセに驕っていたような奴だったはずだ。もはや名前も覚えてない。

それなら倒された方が頭を冷やすことになるかもしれない。

 

敵は二人。真っ白な服を着た男が滅却師だろう。なんて悪趣味な服装なんだ。

そしてもう一人は明るい茶髪の女の子だ。恐らく滅却師に守られているようなものだろう。

顔つきからして戦闘慣れしているように思えない。

 

ならば、まずは滅却師から狙う。

強い相手から打ち抜けばあの女の子は攻撃するまでもない。

 

簡易双眼鏡と始解の力で相手の位置を正確に捕捉する。

破道の白雷は本来光線状で指先から放つものだが、貫通性を活かして工夫し、弾丸状にして威力、速度を著しく上昇させることで現世のライフルを凌ぐ破壊力を生み出すことに成功した。

 

まさにスナイパーのように双眼鏡と指先を構え、狙いを定める。

こちらの存在には気付いてないようだ。

 

 

「破道の四 白雷」

 

 

まずは滅却師の男の足を狙う。三発連続で放ち、二発ほど当てることが出来た。一発は左脚のふくらはぎ、もう一発はくるぶしのあたりに当てられた。

 

激痛でうずくまっており、しばらく動くことはできないだろう。

次は腹のあたりを狙う。集中して鬼道を練り、また三発の弾丸を形成する。

照準を定め、再び鬼道を放つ。

これが当たればただでは済まないはずだ。虫の息の相手を拘束して藍染暗殺について情報が無いか聞かねばならない。

 

 

 

 

しかし茶髪の女の子が出した術で、隼人の放った鬼道の弾丸は全て防がれてしまった。

(!?)

 

それどころか、双眼鏡で詳しく様子を見てみると、滅却師の男の傷を治している。

何だあの力は。見たことが無い。

防御と回復の術か。それにしては回復スピードが速すぎる。

弾丸で作った傷だからか痛みは強いものの傷自体は小さいので、ほぼ一瞬で治されてしまった。

もう一度だ。

今度は九発分弾丸を練って盾に打ち込んだが、全く効かない。完全に打ち消された。

 

 

「ちっこうなったら撤退するしか・・・ってやばい!!!」

 

 

相手の滅却師は打ち込まれた弾丸からこちらの位置を推測したのか、何十本もの矢を打ち込んできた。

何とかこちらに矢が到達する寸前で気付けたが、危うく蜂の巣にされる所だ。

 

とにかく瞬歩で逃げなければ。というかまさかたった数発で相手に自分の居場所を見抜かれるとは。

情けない。スナイパー失格ではないか。逃げなければ勝ち目はない。

 

しかし相手は抜かりが無い。

 

 

「逃げるなんて得策だと思わないね。」

(!!)

 

 

あの一瞬で追いつかれた。

まじか。何て奴だよ。旅禍は末恐ろしい奴しかいねぇじゃねぇかよ。

 

 

「狙撃をして僕を倒そうとしたんだろうけど、井上さんがいる以上君の力は何も意味をなさない。」

「だったらその井上さんがいない今は意味をなすんじゃないのかな?」

「僕が矢を打ってのこのこ逃げようとした男にサシで負けるとは思えないけどね。」

 

 

ダメだ、見抜かれている。

鬼道中心の自分には明確な弱点がある。

詠唱の手間などがあり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

断空でも使えばよいが、正直そこに霊力を費やしていると防戦一方になり攻撃に手が回らなくなる。

 

それこそ拳西の断風なら斬魄刀を一振りするだけで何本ものワイヤー状の風が飛んでいき、矢が当たると同時に太刀筋を炸裂させることで見事に弾幕全てを爆発させて無効化できる。

対滅却師の矢の攻撃に対してはめっぽう強いのだ。

そういう意味で拳西の始解は隼人にとって非常に羨ましいのだ。

 

 

「斬魄刀を持たない君は恐らく術で戦うのだろう。」

「へぇー。そこまで見抜くなんてやるねぇ。たしかに僕は鬼道でしか戦わない。だったらその術を使ってこの場から逃げることも容易いことだって気付かないの?」

(!)

 

 

いくつかの鬼道は番号や名前を唱えずとも使えるようになった。

曲光を使い、一瞬にして自身の姿を霊圧で見えなくする。

「どこだ!!どこに逃げたんだ!!死神の名が泣くぞ!!」と滅却師は叫んでいる。どうやら相手はこの術を見抜くほどの実力は持っていないらしい。名など勝手に泣かせていればいい。

 

そして隼人は、分が悪い相手に対し無謀にも挑むような、少年漫画の主人公じみた行動を起こすつもりは毛頭ない。

今まで補助でしか戦闘には出なかったため、1対1で戦うのに慣れていない。というか方法がわからない。

その上相手が悪ければ逃げるに越したことはない。だって死にたくないし。

 

こうして逃げることに成功し、何とか相手の追跡を振り払えた。何も収穫は得られず、むしろ大怪我しかけたあたり酷い目に遭ったようなものだ。

 

かなりのアクシデントはあったが、なんとか目的地に辿り着くことができた。

 

八番隊隊舎。

困った時に頼りになるおじさん(勝手に頼ってる)、京楽春水の出番である。

ここなら戦闘もなく平和な場所だろうと思っていたが。

 

今度はまた別の旅禍を発見した。

円乗寺三席と戦っている。またここでも戦闘かよ。

霊圧を消して様子を見ていると、隙だらけの円乗寺三席は案の定ボコられていた。あれで三席は笑えてしまう。自分でも一桁の破道だけで倒せそうだし。

 

さらに様子を見ていると、何やら意味深な花吹雪が舞い降りてきた。

見覚えがあるぞこれ。

ひょっとしたらと思ったら、今回は影からではなく上空から派手な柄の羽織を纏って降臨してきた。

 

 

「八番隊隊長・京楽春水。初めまして♡」

「八番隊・・・隊長・・・・・・。」

「・・・フフフ・・・そ♡ヨロシク。」

 

 

あぁこの花ビラ・・・ひょっとして・・・・・・。と危惧していると、予想通りの展開となってしまった。

 

 

「フフフ・・・・・・フフ・・・フ?ん?あれ?うぉ~~~い七緒ちゃ~~~ん!花ビラもういいよー!・・・ってあれ?聞こえてない!?七緒ちゃんてばーー!!おーい!もう花ビラいいんだってばー!七緒ちゃーん!可愛い可愛い七緒ちゅわーーん!L・O・V・E・リーLOVEリーな七緒ちゃーーん!!まったくー聞こえてないフリする七緒ちゃんも可愛いんだから♡そんなに僕からの愛の言葉を聞きたいのかなァ七緒ちゃおおわ~~~~~~~。」

 

 

相手の旅禍も反応に困っている。霊術院生ですら反応に困ったものだったし。

 

 

「昔リサちゃんにもやってもらったけど七緒ちゃんは長くやってくれて嬉しかったなァ。リサちゃんよりも大分雑だったけど。」

 

 

七緒には聞こえない音量で独り言を言った京楽は、褐色の肌をした旅禍と対峙し始めた。

とりあえず隼人は状況を聞くために七緒の元へ急行しようとしたら、むしろ七緒がこちらに来てくれた。

瓦屋根の上で現状を聞くことにし、恐らくまだ知らないだろうと思われる藍染暗殺の報をこちらも知らせる。

 

 

「七緒さん、これは一体どういう状況で・・・。」

「八番隊周辺を旅禍が通り抜けていったのでこちらに誘導して京楽隊長が止めに入りました。」

「そうなんですね。それであんなコントじみたことを「うるさいです!大体何で私があんな花ビラ撒く係をやらされないといけないんですか!」

「演出ですよ。あの人そういうの好きですし。」

 

 

百年ほど前に全く同じことをリサもやらされていたとは言う気になれなかった。

そして京楽の様子を見てみると、瓢箪を出して一緒に酒を飲もうと提案している。

相手が人間だとしたら見るからに未成年者だ。現世で未成年者が酒を飲むことは確かダメだったはず。

 

もちろん未成年だからダメだ、的な言葉で旅禍は断っていた。アンタ危うく犯罪するとこだったぞ・・・。

 

 

「それで、八番隊に何の用ですか?今どこの隊も忙しいのにわざわざこちらに来るなんて。」

「あ、そうでした。実は・・・藍染隊長が何者かに暗殺されました。」

「えぇっ!?!?!?」

「その件についてちょっと京楽隊長と話をしたかったんですけど、ここでも戦っているんですね・・・。」

「そんな・・・藍染隊長が・・・。」

 

 

副隊長同士、隊長同士のちょっとした小競り合いもあったことを伝え、瀞霊廷がいよいよ混乱に陥っているのが起きた事実を七緒に伝えているだけで実感した。

藍染は処刑をすべきではないと言って殺された可能性があるので、きっとこれからは処刑の是非についても意見の衝突が起きるだろう。

 

七番隊は総隊長の意思=七番隊の意思みたいな部分があるので、総隊長が処刑をすると言えば七番隊はそれに従う。

ちょっと不服だが認めるしかない。白哉の説得も上手くいかないし。

 

また、会話の途中七緒は隼人の言葉に軽い疑問を抱いた。

 

 

()()()()戦っているって・・・どこか他でも戦っている場所があるのですか?」

「さっき僕戦ってましたよ。相手が悪いのですぐ逃げましたけど。あと昨日も別の旅禍と戦いました。狛村隊長と二人でですけどね。」

「はぁっ!?口囃子さんいつの間にそんなに旅禍に出くわしていたんですか!?」

「昨日は狙ってましたが、今日はそんなつもりは元々無かったので運が悪いですよ・・・。」

 

 

まだ昼にもなっていないのに一日の情報量が多すぎるのだ。

藍染暗殺、旅禍遭遇×2。これだけでも大変だ。

 

そして向こうにも戦闘の動きがあった。

霊力による打撃からくる波動のようなものが旅禍から放たれた。

 

 

「へぇーっ、なかなか大味な技を使いますね。」

「ですが京楽隊長ならこれぐらい刀を抜く必要もないかと。」

「・・・・・・信頼しているんですね。もっと素直になればいいじゃないですか。」

「余計なコトを言うな!!何で私が素直にならないといけないんですか!」

 

 

素直じゃない七緒はさておき、京楽は最初の一撃を片手で弾いたあと、全ての旅禍の攻撃を最低消費量の霊力を使って躱している。

 

 

「さっきの奴は副官補佐と言っていたが・・・隊長格ともなるとここまで違うのか・・・!」

「伊達に何百年も隊長やってるからね。舐められてちゃあ困るよ。あぁでも副官補佐の三席でも七番隊の男の子は気を付けた方がいいよ。彼はほとんどの副隊長よりはずっと強いからね。」

 

 

褒められた・・・?京楽隊長に褒められた?

自分の存在に気付いた上でのリップサービスだと思われるが、それでもすごく嬉しかった。

 

 

「やった!僕京楽隊長に褒められましたよ!嬉しいな~。」

「そんなこと言ってる場合ですか!相手は何度も・・・」

 

 

次に戦闘中の二人を見ると、京楽が指でつんと旅禍の背中を押しただけで遠くの壁まで倒れ込み、転がっていってしまった。

 

 

「ほら、あんな旅禍に京楽隊長が負けるはずないですよ。」

「そんなことはわかってます。」

 

 

何やら向こうで話し込んでいるような様子だったが、京楽の纏う雰囲気が一瞬にして変化した。

ついに斬魄刀に手をかけ、抜刀したのだ。

いよいよケリをつけるつもりか。

 

 

「えっ斬魄刀ついに使うんですか?」

「早期決着を図るのでしょう。私も久々に隊長が斬魄刀を抜く姿を見ました・・・。」

 

 

そこからは実に鮮やかな剣さばきだった。

 

「ご免よ。」

 

胸を一閃。それだけで相手の旅禍は倒れ込み、何も動かなくなった。

 

 

「すごい・・・。京楽隊長の戦い僕初めて見たんですけど・・・、拳西さんの言った通りでしたね。さすがとしか言いようがないというか・・・。」

「私もあまり直接は見たことは無かったですが、この程度なら造作もないかと。」

 

 

誇らしげな様子が何ともイジりがいのあるものだが、裏挺隊が来たこともありからかうのを止めた。

藍染の暗殺の報が総隊長、十番隊隊長連名による一級厳令で出されたことを報告するものだった。

 

 

「報告に向かいま・・・って七緒さん速っ!」

 

 

息を切らせて七緒は京楽に藍染の暗殺を知らせた。

 

 

「どうしたの息切らせて、らしくない。何かあったのかい?」

「藍染隊長が・・・お亡くなりになられました・・・!」

 

 

京楽は何も言わずかなり驚いている様子だ。

そこから七緒は隼人と裏挺隊が話していた死因について京楽に伝え、一級厳令であり事実だとも伝えた。

 

 

「そっか・・・惣右介くんが・・・。隼人クンもわざわざ伝えに来てくれたのかい?ありがとう。」

「あっ・・・いえ・・・。」

 

 

とうやむやな返事をした後、あることに気付いた。

さっきの旅禍はまだ死んでいない。

先ほどの一閃で死なないとはなかなかの体力を持っているが、何故打ち損じたのか。

七緒も気付いたらしく怪訝な様子をしている。

 

 

「どうかなさったんですか?京楽隊長。死んでいませんね、この旅禍。」

「意外と生命力があるのかもしれませんよ?僕達が止め刺しときますね。」

 

 

二人が右手に鬼道を練り始めたところで、京楽が二人の腕を掴み止めさせた。

 

 

「よしなさい。君たちがそういうことするもんじゃないよ。隼人クンもこんなことするために八番隊(ココ)に来たのかい。」

「しかし・・・!藍染隊長を殺したのも恐らくはこの旅禍の一味・・・!」

 

 

七緒が反論したが、京楽はさらに意味深なことを二人に伝えた。

 

 

「うん、そうだね。でも・・・そうじゃないかもしれない。」

(!!)

 

 

ここに来た本来の目的を思い出した。

先ほどの殺害現場で感じた違和感について京楽に話そうと思っていたのだ。

まさか京楽は何かに気付いているのか。

 

ただの可能性と京楽は付け足したが、やはり京楽には話すべきだろう。

 

 

「京楽隊長。」

「何だい隼人クン。そんなに畏まって。」

「その件についてお話があります。」

 

 

京楽も何かを察したのか、七緒に指示を出し退席させることにした。

 

 

「救護班を呼んでどこかの牢に入れといてもらってもいいかな?あと、ボクは少し席を外すから隊のこと頼んじゃってもいい?七緒ちゃん。」

「承知しました。」

 

 

七緒がその場を去って行った後、さてと、と呟いた京楽は先ほどとは違う真面目な顔で隼人に告げた。

 

 

「・・・場所を、移そうか。誰かに聞かれるとまずいでしょ?」

 

 

そして影の中に入っていき、未だ知らない事件の核心に少しずつ近づくこととなる。

 




石田組は時系列を少し変え、鎌鼬四席を打ち倒す日を一日後にしました。
その分同日夜にマユリ様と戦うというめちゃくちゃハードスケジュールになってしまいましたが・・・。

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