「真っ暗・・・なんですね。影の中ってこんな感じなんですか。でも京楽隊長の姿ははっきり見えるのが不思議ですね。」
「そうかい。ボクの作り出す影の世界は居心地いいかい?」
「それは何とも言えないですね。」
初めて入った影の世界の感想をうやむやに述べた後、遂に本題に入る。
「実は処刑現場を始解して調べたのですが・・・空間全体が霊圧で捻じ曲げられていました。」
「!・・・へぇ・・・そんなことまで見つけられるようになったのかい。さっき褒めたのは間違いじゃなかったみたいだね。」
「あっ・・・ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです。」
お世辞じゃないのに・・・と京楽は不満げだが、とにかく後を続ける。
「それと・・・ここからは僕の推測なのですが・・・、藍染隊長は殺されていないと思うんです。」
(!)
どうしても自分の中で留めることが出来なかったため京楽に伝えたが、やはり目を見開いて驚いている。一級厳令として殺されたことが広まっている以上こんなことを言ったら確実に変人扱いされるだろう。
「藍染隊長の死体の霊圧を調べたんですが、おかしいんです。まるで
とにかく勢いに任せて言葉を吐いたため、京楽を困らせてしまったかもしれない。
というかそもそもこんな話を信じてくれるのだろうか。
馬鹿馬鹿しいと突っぱねるかもしれない。死者を冒涜するなと怒られるかもしれない。
しかし、京楽は聞く者によっては荒唐無稽と言うだろう隼人の発言をしっかりと受け入れた。
「なるほどね・・・。隼人クンがそう思うならそれでいいんじゃないかな?」
「えっいや、だとしたら誰がこんな改竄をしたと言うのですか?こんな精巧な死体の人形を作って、一人の死を偽装してまで犯人がやりたいことって「それはボクにも解らないよ。」
「・・・・・・、」
「ボクは全知全能じゃないんだから。そこまで解ったら何も苦労しないさ。」
「すっ・・・すみません・・・。一人で勝手に盛り上がっちゃって。」
「でもボクにもこれだけは分かるよ。」
一体何が分かるのかと思ったが、それは隼人にとって寝耳に水という言葉で表現しきれないほど絶句する内容であった。
「恐らくだけど・・・キミが追っている事件のあらましは全て判明する可能性があるよ。」
「えっ・・・・・・何で・・・ここ最近の事件が・・・101年前の事件に繋がるんですか・・・え・・・?」
「今日まで色々事件があったけど、あらゆる処置の決定のスピードがいつもに比べてあまりにも速いんだ。まるで誰かが思い通りに事を無理矢理進めているかのようにね。そしてその速さは、
(!!)
たしかにここ最近の通達は異様な程早かった。
義骸の即時破棄、そして殛囚として懺罪宮へと移送されるのも普通より早かった。
ただ単に予定を前倒ししているだけかと思ったが、今考えると不自然だ。
京楽の言う通り誰かが影で操っているのかもしれない。
でも誰が?
藍染が?でも彼の能力ではそんな芸当は出来ないはずだ。
斬魄刀も流水系のもので、同士討ちを狙うものだと聞いている。
危ないからと彼の親切心で実際に見せてもらったのだ。たしかに近くで戦った場合視覚が攪乱されて同士討ちの危険があるように思えた。
しかしその能力から死体の偽装なんて馬鹿げたことは不可能だ。
状況を整理しよう。
まず京楽は101年前の事件のあらましが解るかもしれないと言っていた。
ならば今まで疑っていた東仙に何か関係があるのか。
目の見えない東仙が死体の偽装を行ったのか。
だとしても、理由がわからない。
うーーん、と結局いつもみたいになってしまっていたところで、急に伝令神機が鳴り始めた。
京楽のが鳴っているようだ。音が短かったので、書簡でも来たのだろう。
浮竹からの伝言のようだ。
「何か伝言でも送られてきたのですか。」
聞いたが、京楽は驚きを隠せない様子だ。
「あの・・・京楽隊長、何か・・・。」
「懐かしい来訪者が瀞霊廷にいるよ。」
そこで京楽が見せた浮竹からの書簡には、隼人の直感が当たっていたことを示した。
『旅禍の中に夜一がいた。気を引き締めたほうがいいぞ。』
(やっぱり・・・あれは夜一さん・・・!!)
「まさか夜一ちゃんが来ているなんてね・・・いよいよ本気で何か動きがあると見た方がいいかな。・・・面倒なことになったね・・・どうも。」
「だから精鋭揃いなんですね・・・。昨日の死神や今日の滅却師、あとさっきの男も人間離れしてますよ。」
「滅却師が・・・!!そうかい・・・。まだ生き残っていたとはね。」
やばい滅却師の存在言っちゃった。と焦ったが、京楽ならわざわざ討伐しろなんて言わないと思われるので下手に動揺しないようにした。
そして、最初に旅禍が来た時のあの直感が当たっていたならば、本気で何が起きてもおかしくない。
ひょっとして浦原が差し向けたのか。
だとしたら狛村から聞いた朽木ルキアを助けるという旅禍の目的から、浦原は何をしようとしているのか。
(拳西さん・・・僕はどうすればいいんだよ・・・。)
首に下げたお守りを握り、俯いて唇を噛んでいると、京楽からそろそろ出ようかとの提案があった。
「眩しいから気を付けるんだよ。」
「はい。」
と言われ気を付けたものの、やはり今現在は丁度正午のあたりなのでメチャクチャ眩しい。
適当に周りの霊圧を探ってみると、更木剣八の霊圧が弱い状態なのがわかった。
それは、更木剣八が何者かによって打ち負かされたということ。
「あの更木隊長が負けた・・・。おそらくオレンジ髪の旅禍だと思います。何て奴だよ・・・。」
「夜一ちゃんが連れてきてるから、きっと浦原クンの修行を受けているはずだよ。にしても更木隊長を倒すなんてとんでもない子だね。今の護廷じゃ山じいか朽木隊長くらいしか彼には対抗できないんじゃない?」
「失礼を承知で聞きますが、京楽隊長でも・・・厳しいのですか?」
「キミと同じでボクも得意不得意があるからね。朽木隊長あたりなら彼と戦っても勝てるんじゃないかい?そもそもボクは更木隊長に勝った化け物みたいな子と戦いたくないよ。キミだってそうでしょ?
「!!さっきうっかり口を滑らせただけでしたが・・・・・・バレてたんですね。僕は分が悪い相手と無理して直接戦うぐらいなら汚名を被っても逃げますから。それか誰かに丸投げします。」
「
「それは・・・・・・正直分からないです。そもそも今の僕はあの人が背中を預けるに値する力を持ってないですから。」
そりゃあもし拳西と一緒に戦えるなら自分が死ぬ確率が高くても一緒に戦うつもりだ。
誰にも言えないが、本心では拳西と共に戦うために力をつけてきたのだ。
でも今の実力では到底その域には達していないと思っている。
滅却師から逃げる選択肢を真っ先に使った時点で実力が無いと言うようなものだ。
自分の至らなさを感じ少ししょげていると、疲れただろうし一度隊に帰りなさいと京楽に言われたので帰ることにした。よくよく考えたら今日は一度も出勤していない。
周りを警戒しつつとぼとぼと七番隊隊舎へ帰ろうとしていると、何やらドカドカドカドカと走る音が聞こえてくる。
こんな盛大に足音立てて自分の元に走ってくる者は射場しかいない。
「な~~~~にやっとるんじゃ口囃子!!!朝の副隊長の件から一遍も隊に顔見せんで何しとったんじゃ!!」
「あぁ、ごめんね。ちょっと色々あって八番隊に寄ってたんだよ。そこでも旅禍と戦ってたりで大変だったよ~。お腹減った・・・。」
「儂は一度も旅禍に当たっとらんわ・・・。羨ましいのう口囃子・・・。」
「羨ましいって・・・疲れたわもう・・・。」
しばしの間だが日常に戻れた気がする。射場の人相の悪い顔が今となってはメチャクチャ安心する顔だ。
一日の情報量が多すぎて頭が追い付かない。
ただの旅禍騒動かと思ったら(副隊長を倒した時点でただ事ではない)隊長は暗殺されるし、その死体を調べたら違和感あるし、京楽隊長に聞いたら何だか物凄く壮大な話になってきたし、まさかのまさかで夜一さんが戻ってきたでここ二日の情報量が既に脳内で受け入れられる量を超えているのだ。
それに合わせて二日連続で旅禍と戦っている(2回目は逃げたけどね)ため、超ハードスケジュールなのだ。普段仕事量があまり多くないため、もういっぱいいっぱい。ある意味九番隊に入らないでよかった。
そして射場が探していた理由は、吉良の様子について伝えに来るためだったらしい。
「吉良の様子じゃが・・・雛森にあんなことを言ってしもうたと何度も言って震えておったわ。」
「そっか・・・。様子、見に行ってみてもいいかな?」
「おう。場所案内しちゃるで。」
射場の案内で吉良が入っている牢に行くと、修兵が先に来ていた。
「あれ、修兵が牢に入れたんじゃなかったっけ。」
「はい、そうっスけど・・・。何か心配になったんで午後も様子見に来ちゃいました。東仙隊長にも心配なら一緒にいてやれって言われましたし。・・・つーか口囃子さん、今日も疲れてますね。昨日の夜よりすでにヘロヘロじゃないっスか。」
「気にしないでくれ・・・。」
そんなに疲れ切っているのか。とりあえず牢の中にいる吉良に声をかけると、
「あぁ口囃子さん・・・あの時は僕を止めてくれてありがとうございます。何か疲れ切ってますね。仕事でも忙しかったのですか。」
「えっそんな疲れてるように見えるの?」
牢の中にいる吉良にまで心配されてしまったよ。
一応自分が牢にぶち込んだようなものなので心配だから見に来たのに、意味がないではないか。
だがそんな吉良はいつも以上に負の情念に包まれている。
まるで浸蝕でもされそうなほどだ。修兵が心配だからと来た意味が理解できた。
「吉良くん・・・あんまり上手いことは言えないけど、そこまで気にしすぎなくていいと思うよ?きっと旅禍の騒動が決着ついたら雛森ちゃんとも和解できるって。」
「でも、僕は・・・雛森くんを・・・雛森くんを・・・!!!!」
「そんなに気にしてないと思うよ、雛森ちゃんも。」
「そっそれは逆に傷つくと思いますよ?」
「ずっとこんな調子じゃけぇ口囃子が何を言っても無駄じゃ。」
「逆にって何でさ?うーん・・・。」
修兵の言ってる言葉の意味は全く分からなかったが、吉良は余程精神にきているようだ。
何を言っても雛森くん、雛森くんとしか返答しない。
もしかして雛森のことが好きだったのか?恋愛の機微に疎い隼人は全くもってわからない。
ここまで精神的に追い詰められているのを見て101年前の自分を一瞬思い出しかけたが、考えないようにした。
そして何を言っても無駄だというのは分かったので、あとは修兵に任せて帰ることにした。今日は早寝しよう。
帰り道、すれ違う隊士は皆更木剣八が倒されたことで話題がもちきりだった。
「――木隊長を打ち倒すなぞ普通の死神でも無理だぞ!」
「俺達も旅禍に殺されて―――」
「バカ言うな!朽木隊長がいらっしゃるから―――」
「ねぇ射場ちゃん。ちょうど今僕達の目の前に更木隊長を倒した旅禍が現れたら倒せると思う?」
「儂らと旅禍には経験の差があるけぇ何とかなりそうじゃが・・・。無理かもしれんのう。」
「だよね・・・ならいっそさ、」
「旅禍に寝返っちゃう?」
質実剛健、仁義を重んじる七番隊では絶対にあってはならない叛逆行為。
そんなことをそそのかして射場が平気でいるはずはない。
「何じゃと!狛村隊長を裏切る言うんか!儂はおどれを殴ってでも止めるわ!!」
「冗談だよ。でもさ、恐らく何が起こるかわからないと思うんだ。東大聖壁で藍染隊長は暗殺されたし、今も霊圧から推測するに涅隊長が旅禍と戦ってる。もう何が起きても動じないくらいの心構えでいないと。」
「そうか、安心したぞ・・・儂はおどれと斬り合いなどしとうないわ。」
「心配しなくていいよ。まず僕は射場ちゃんを
そもそも鬼道メインで戦うため斬れないのは当然だが、射場と戦えと言われても隼人には無理だ。
朝の雛森と吉良みたいにはなりたくないし、今後身内で戦い合うなど真っ平御免。
どうせなら処刑も無かったことにしてほしいものだ。
こんな情勢で処刑などやってられるのかよ。
もうこれ以上誰かが傷つくような展開は迎えたくないと隼人は斬魄刀とお守りを握りながら祈りを捧げた。