夜一の全裸を目の当たりにして意識を失い数分後、彼女の筋肉でカチカチの膝枕から隼人は目を覚ました。
「おぉ。ようやく目を覚ましおったわ。儂の真の姿を目の当たりにして気を失う奴はおぬしが初めてじゃ。」
「・・・枕が硬い。」
「ふんっ!」「ぶえぇっ!!」
一瞬にして股を開いた夜一のせいで床にしたたかに頭を打ち付けることとなった。意識を覚まして急にこれはしんどい。
「久しぶりじゃのう。隼坊。」
「やっぱり、夜一さんなんですね!髪めっちゃ伸ばしたんですね!何か新鮮だぁ~。」
「心機一転じゃ!それよりもおぬし、さっきの反応は何じゃ!まさか百年も経って未だに女子の裸を見たこともないのか?」
「そっそんなこと!!・・・・・・、」
「全く!この百年一体おぬしは何をしておったんじゃ!!!!」
「鍛錬してきましたが!!!!!」
このぶっ飛び具合、まさしく夜一そのものだ。
そういえば旅禍騒動の初日に夜一の霊圧を感じたんだっけか。パニックでそこまで頭が回らなかった。
「そっそれであの、えっと・・・」
「逸るな。おぬしの成長は儂も知っておるぞ。おぬしが秘匿しておる始解の存在も儂は知っておる。」
「えっいつの間に知ってたんですか?」
「そうじゃのう・・・三四十年前ぐらいだったはずだ。」
「いや習得したてのころから知ってるじゃないですか。抜け目なっ・・・。」
「おぬしがちゃんと成長しておるか喜助も心配しておるぞ。」
浦原さんも無事なのか。よかった。というかそもそも夜一はなぜここに来たんだ?
「そっそうでした!何故ここにいらしたのですか?もしかして今回の騒動について何か知っていらっしゃるのですか?教えて下さい!」
「話してやりたいところじゃが・・・どうやらそんな時間も無さそうじゃの。」
「えっ?」
夜一の言葉の後霊圧知覚で周囲を探ると、隠密機動の暗殺隊が近づいているのが分かる。
「二つだけおぬしに伝える。心して聞け、そして誰にも言うんでない。わかったか。」
「はい。」
夜一の口から出てきた発言は、事前に自分が推測していた内容も含まれるが、事実として突きつけられると信じられないような内容であった。
「今回の瀞霊廷動乱の黒幕は
「護廷の・・・隊長の中に・・・?」
とんでもない事実だ。まさか護廷十三隊の中にそんな人物がいるとは。
「そして其奴らは尸魂界に対する信じられないほどの巨悪として儂らに立ち塞がることになろう。」
「そうなんですね・・・。あっあと!えーとその」
「逸るな!!」
隼人が何としても知りたかったことは彼女は当然分かっている。
「
(!!!!!!)
「おぬしのことをいつも心配しておったぞ。全く、親バカにも程があるわ!」
「よ・・・良かった・・・死んでなくて・・・良かった・・・。」
「案ずるな。六車も他の皆もおる。じゃあ儂は帰るの。適当に上手くやっておいてくれ!」
今まで心のなかにあった暗闇が晴れていくような気がする。
こんなにも温かな気持ちが自分の中にあったのか。
座り込んで嬉しさのあまり久々に泣いてしまいそうになったが、今はそれどころではない。
隠密機動がついにやってきたので、何とかして彼女の存在を誤魔化す。
「失礼する。先ほど旅禍のうち一名の霊圧を感じ現場に急行したが貴様は見たか。」
「見てませんが?仕事をしていたので・・・。」
隠密機動は十二番隊程ではないが苦手だ。
目しか見えないため相手の表情が分からず、不気味に思えてしまう。
少し声が上ずってしまった。
「貴様・・・何か隠してはいないか?」
「えっ?いえ・・・こちらでは何も見てないので、探すならどっか別の場所にさっさと移動した方がいいんじゃないですか?あと、貴方達に追えない敵を僕は追えるはずないので僕に聞いても無駄ですよ?」
目より下は全て装束で覆われているため細かな表情は見えないが、彼らは苦悶と苛立ちの混じった表情をしているだろう。目を見ただけでわかる。
白哉の知らせを聞いた砕蜂が死ぬ気で夜一を探しているのかもしれない。
突然消えた夜一を憎み、絶対に私が捕らえると何度も誓って鍛錬しているのを見たのだ。
魂魄消失事件で残された者達の中で、砕蜂は憎しみという、他の者とは違う方向に舵を切って気持ちを消化した。
恐らく明日は戦うことになるのだろう。
リーダーと思しき者が指示を出してこの場を離れてくれた。一先ず安心。瞬神夜一なら余裕で逃げおおせるはずだ。
翌朝。
出陣の準備をしている狛村の元を尋ね、今日の予定を確認する。
「狛村隊長。今日は双殛の丘の処刑の参列予定ですが・・・。」
「その件だが、儂と鉄左衛門の代わりに貴公が立ち会ってほしい。」
「分かりました。・・・もうお決まりなのですね。処刑の是非のお考えについては。」
「ああ。総隊長にも話を通してある。儂は・・・更木を止める。」
相当な覚悟を持っているように見える。
最強と言われる更木剣八に対し止めると断言できるのは、力の意味では狛村ぐらいしかいないだろう。更木剣八の
狛村の覚悟を身に感じていた中、今度は射場がドスドスと猛ダッシュで隊内に走ってきた。
「すいやせん隊長!!!男一匹射場鉄左衛門!便器跨いで爆睡しとりました!この上は腹かっさばいて「構わぬ。用意なら万端整っておる。」
「はぁ・・・。」
スライディング土下座で入ってきた射場の圧もなかなかのものだが、射場の魂胆など二人には見え見えである。
「狛村隊長が悩んでないか心配だったんでしょ?納得させるまで考えさせようと時間稼いでたのは分かってるから。大丈夫だよ。」
「そっそんなつもりは・・・」
「そう気を回すな、鉄左衛門。」
「・・・・・・全て、お見通しで・・・。」
そして狛村は自身の信念、思いを信頼している二人に堂々と宣言する。
「儂を動かすのは全て、元柳斎殿への恩義のみ。」
「あの方が是と云えば、死すらも是である!!!」
気魄のこもった狛村の宣言は、何度聞いても圧倒される。
そして彼の思いは友人にも共有されている。
「貴公はどうだ、東仙。」
友人の東仙もまた、彼なりの信念をこめて狛村に言葉を綴る。
「無論、僕はいつもと変わらない。この
七、九番隊の隊長格四人は旅禍と手を組み瀞霊廷を更なる混乱に陥れようとしている十一番隊を打ち倒すために動きだした。
そして隼人は、双殛で卯ノ花と合流することにした。
双殛に向かうと、処刑の主宰である一番隊を除くと、二、四、八番隊の隊長格しか揃っていない。
「五番隊、十二番隊の隊長はさておきそれ以外の隊長格は一体何をやっているんだ・・・!!」
隼人がここに来た時、砕蜂は苛立ちの表情を浮かべていた。
本来全隊長格が出席する筈のものなので、砕蜂の怒りは尤もだ。
更木剣八を止めるため、と言えばいい話だが、狛村に口止めされているため黙っていた。
卯ノ花の方を見ると、一瞬目が合った後は伏し目がちに前を見るだけだった。
その場にいた京楽に手招きされて隣に行ったが、処刑の場なので会話など全くない。
久々に見たルキアは身体もやせ細り、憔悴した見た目にも関わらず、諦めと貴族の気品の混じった出で立ちをしていた。
殛囚となっても貴族の気品漂う雰囲気が残っているのが意外だ。
もう生きることに諦めているのだろうか。
自分が壁にぶつかった時に海燕が言ってくれた『生きろ。』という言葉を彼女にもかけてやればよかった。
そうしたらこんなことにはならなかったのではないか。
無念に思い立ち尽くしていると、、朽木白哉が双殛の丘に到着した。
ルキアの表情には僅かながらの動揺が見て取れる。
総隊長が殛囚にお決まりの問いかけを始める。
「朽木ルキア。何か言い遺しておくことはあるかのう。」
ルキアは低く、諦念のこもった声で「一つだけ。」と答える。
彼女の頼みは、旅禍を無傷で帰らせること。
そんな頼みなど受け入れてもらえるはずがない。
「酷い・・・どうせ生かして帰す気なんて無い癖に・・・。」
思わず呟いてしまった勇音の言葉を、隣にいた卯ノ花が諫める。
「酷くなどありませんよ。勇音。慈悲です。いずれ避けられぬ終焉ならば、せめて、僅かでも迷いなく・・・安らかに。」
数人の術者が双殛の周りを囲み術を唱えている。
隼人は浮き足立ってしまいきょろきょろしていたが、隣で京楽が『大丈夫。』と落ち着かせてくれた。
右にいる白哉は変わらず表情なく目を瞑っている。
術の効果が大きくなり、総隊長の号令で双殛が解放される。
術により磔の状態にされ、身動きのとれないまま上空へ運ばれていく。
辛そうな顔しなさんな、と京楽が七緒を気遣っている。
正直隼人は見ているのも辛かった。これで本当にいいのか。何故誰も止めようとしないのか。
理解ができなかった。
所定の位置にルキアが運ばれた後、双殛の矛は焔に包まれる。
その熱量は凄まじい。周囲一帯の温度が上がったかのように思える程だ。
「これが・・・双殛の矛・・・!?」
「矛を・・・焔が包んで・・・形を変えていく・・・!」
「なっ何なんだよありゃあ!?」
「・・・・・・こいつは驚いたね・・・。」
おそらくこの解放を見たことがあるのは総隊長、雀部、卯ノ花しかいないだろう。
京楽ですら驚きの表情を浮かべていた。
それはまるで昔伝承で聞いた鳳凰のようであった。
「
彼女は跡形もなく消えてしまうだろう。
結局白哉の気持ちを変えることはできなかった。
おそらくあれ以来話すら聞いてもらうことは出来なかっただろう。
それも仕方ないのか。
双殛の矛がルキアに狙いを定める。
結局何も出来なかった。
矛がルキアを貫き、ルキアは焼かれて消え失せてしまう。
何者かが双殛の矛を止めている。
「馬鹿な・・・!奴は何者だ!!」
砕蜂が叫んでいる中、その男に隼人は見覚えがあった。
あれは旅禍騒動初日に狛村と共に追い詰めた男だ。
あの時は自分達の連携でバテていたはず。なのに今は双殛の矛を止めるほどの力を持っているのだ。
末恐ろしい成長力と潜在能力を持っている。
「隼人クン。もしかして彼がキミの戦った旅禍かい?」
「はっ・・・はい。まさかこんな化け物じみた力を持っているとは・・・。」
「そうか・・・。結局間に合ったのは彼らのほうだったってわけだね。」
「・・・・・・、」
双殛は二度目の処刑を始める。
先ほどよりも距離を取り、より殺傷力のこもった一撃になるだろう。
いくら何でも彼に防ぐことは・・・と思っていたら、
地上から投げられた縄が双殛の矛へと絡みつく。
現れたのは、浮竹ら十三番隊であった。
「うっ浮竹隊長!何で四楓院家の紋章の兵賜を!?」
そして気付いたら左にいた京楽と七緒の姿が無い。
「よぉ色男。随分待たせてくれるじゃないの。」
「えっちょ、一体何が起こって、えっえええっ!?!?」
めまぐるしい速さで状況がどんどん変化していき、完全に置いて行かれてしまった。
四楓院家の紋を見た砕蜂が二人の目論見に気付き、双殛の破壊を止めるよう大前田に叫んだ。
「止めろ!奴ら双殛を破壊するつもりだ!!止めるのだ!」
「え、うええええ!?俺がスか!?そんなこと言っても俺には・・・」
などと二番隊二人が焦っているうちに京楽と浮竹は霊圧をこめる。
あっという間に双殛は破壊され、焔が周囲に飛び散り衝撃波で術者らは全員吹き飛ばされてしまった。
「嘘・・・あの双殛が壊れた・・・。まじかよ・・・。」
今度は先ほどの旅禍に動きがあった。
磔架の上に乗り、霊圧を込めているようだ。
「まさか・・・あの磔架を破壊するとでもいうのか!?そんな無茶が通る訳・・・」
しかし、旅禍の少年が磔架に振り回していた斬魄刀を突き刺した後、爆炎に包まれて磔架も壊されてしまった。
「双殛の磔架が壊れた・・・ほんとに壊れた・・・!とんでもない力だ・・・!」
そして朽木ルキアを救った青年は、さらに信じられない程の力を護廷十三隊に見せつけることとなる。