大霊書回廊。
禁踏区域に指定されており、実際に入るのは初めてだ。
「本借りたことはあるんですが、こんな空間だったとは・・・。」
「手続きも貸し出しも今は全部隊の図書館でやることになっているからね。俺もあまり入ったことないんだ。」
「僕が初めて借りた時ですら別室で手続きやってましたよ。」
ここも不思議な空間だ。
薄暗い空間で何重にも重なる本棚が天高くまで周囲を囲っているが、ここの本来の役割はただのでかい図書館というわけではない。
尸魂界全ての事象・情報が強制集積される場所。
ここで藍染が調査した痕跡から、彼の真の目的を見つけ出すための調査を浮竹と行っている。
本来は今日も清音と小椿を連れるつもりだったらしいが、彼らには別の仕事を任せたらしい。
「何日かここで調査をしていたんだけど、清音も仙太郎も声が大きくて・・・。だったら他の隊の人間を連れて行く方がいいと思ったんだ。」
「あぁ・・・。だからわざわざ
要するに、うるさいからどっか行ってろってことだ。
あの二人は浮竹に心酔しているのに残念なものである。
「君ならあらゆる調査に慣れてるだろう。今も涅隊長と破面の霊圧調査を行っているし、何せ藍染の死の偽装を見抜いた男だからね。君を頼らない手はないよ。」
「買い被りすぎですよ。夜一さんから聞いたんですけど、僕があの間にやったことを拳西さんが聞いたら呆然としていたらしいですよ。情けないって失望されたと思います。僕もまだまだだな~・・・。」
「そっ・・・そうかな?」
夜一の言葉の意味を未だに間違った解釈で受け取っている隼人に浮竹は苦笑いするしかない。
そうこうしているうちに、大霊書回廊調査台にようやくたどり着いた。
検索履歴を参照し、藍染が何を調べていたのかを確認する。
この調査台はどんな手を使っても既読履歴を消すことは出来ないように設定されているのが一つの救いだ。
「崩玉に関する履歴ばかりが残っているね・・・。」
「浦原さんの発明って・・・そんなに危険なものだったんですね。そんな危険な代物を何故魂魄に隠したんでしょうか・・・。」
「多分、壊せなかったからだと思うな。」
壊せなかった?浦原の頭脳を使ってもか。ますます危険ではないか。
「きっと彼は、崩玉が壊せる物体ならとっくの間に壊しているよ。それができないから朽木の魂魄に崩玉を隠したのだろう。」
「なるほど・・・。」
「しかし浦原も凄い研究をしていたんだな。昔から研究熱心だったとはいえ、こんなに研究論文を残していたとは。」
藍染が死を偽装した日から、彼らが尸魂界を離れるまでの期間の検索履歴を調べたが、基本的には崩玉関連の内容しかない。
やはり今日も目的は分からないかと思ったが、
「ん、待って下さい!」
「なっ何だい!?」
崩玉関連の所ばかり見ていると目が疲れたので一瞬画面から目を外したが、外そうとしたところで崩玉とは関係ない所に既読履歴がついていたのに気づいた。
「ちょっと画面戻してもらっていいですか?おかしな点が一つ・・・。」
「ん・・・これは・・・!!」
藍染の消える二日前についていた既読履歴は、『王鍵創生法』について。
「まさか、藍染は霊王宮に乗り込むつもりですか!?」
「とにかく中身を見てみよう。話はそれからだ。」
そこに記されていたのは、王鍵創生に必要な材料は十万の魂魄と、半径一霊里に及ぶ重霊地。
そして、今の重霊地は、
「藍染は空座町を消して霊王宮に乗り込むつもりか・・・。」
「でも・・・何で・・・。」
「『
「は?・・・ってことは・・・。」
「霊王を殺すつもりだろう。」
(!!!!)
霊王を殺す。
そんなことが一死神にできるのだろうか。
そもそも霊王を守護する零番隊は護廷十三隊全軍を超える能力を持っている。そんな相手に通用するのか。
いや、
何にせよ恐ろしい目的であることに変わりはない。
「とにかく俺は総隊長に報告する。調査協力、感謝するよ。君が藍染の真の目的を見つけたような物だ。さすが調査のプロだよ。」
「えっ、あ。はい!ありがとうございます。こちらこそいい経験をさせて頂きました。」
「それで・・・京楽に伝えてもらってもいいかな?」
「えっ何故京楽隊長に?」
「話せばわかるさ。頼んでもらってもいいかい。」
「はい。」
てなわけで今度は八番隊に向かう。
先ほどの子細を京楽に伝えると、「わかったよ。」と呟いた後に伝令神機を取り出した。
ポチポチ番号をおして電話をかけると、信じられない人物と電話を繋いでいた。
「あぁもしもし、
『お久しぶりっス、京楽サン!』
「え・・・ちょっと、はぁ?」
浦原喜助は後々電話するとか言っといて全然自分に電話を掛けてこない癖に、京楽とはまるで何度も連絡を取り合っているかのように普通に電話している。
信じられない。何か自分だけ仲間外れにされた気分だ。
「な・・・何で京楽隊長は、浦原さんと電話を・・・?え?ちょっと、え?」
「現世と繋がることは大事でしょ。藍染が虚圏に行った後からすぐに連絡体制をとっていたんだ~。」
「何それぇぇ!!!!あっあんなに、後で電話するとか僕に言っといて、全然電話掛けて来ないからどうしたんだろうなーって心配してたのに、だったら僕にも電話かけて下さいよ!!!」
『口囃子サン・・・そんな浮気性の彼氏に詰め寄る重い彼女みたいなこと言わないでくださいよ・・・。』
「電話掛けないそっちが悪いんですよ!」
『そんなぁ~毎日掛けてましたよ、真夜中に。』
「真夜中ですか!寝てたわコラ!!!」
真夜中に電話掛けられて起きている奴なんかいるわけないだろ。修兵ぐらいだよそんなのは。
京楽も抜け目ない男だ。数日前まで罪人であった男と、こうも迅速に連絡を取り合っているのは、さすがとしか言いようがない。自分も夜一と連絡を取り合っていることを忘れて、目の前の男の柔軟な姿勢を心から賞賛していた。
「それじゃあ隼人クンから説明してもらっていいかい?君が発見したんだから君が伝えるべきだ。」
「あ、わかりました。」
スピーカー状態にして机の上に置いてあった京楽の伝令神機を手に取り、浦原に先ほどの調査で手に入れた情報を伝える。
隼人が話している間浦原はずっと何も言わず、電話越しでも真剣な様子が伝わってきた。
「以上が先ほどの調査で浮竹隊長と出した結論です。総隊長にも浮竹隊長が伝えましたので、そちらにいる死神達にも直に伝令が行くでしょう。」
『わかりました。・・・やはり空座町を狙ってきましたか・・・。』
「えっ、そこまで読んでいたんですか?」
『はい。なので涅サンにあらかじめ仕事を頼んだのですが、正解だったようですね。』
「じゃあ伝える意味無かったんじゃ・・・。」
『そんな!アタシも王鍵創生のために空座町を使うとは考えもしなかったので、十分助かりました。口囃子サン、ありがとうございます。』
「あ・・・・・・。」
昔、霊術院で実験の手伝いをさせられていた時のことを思い出した。
現役の隊長からもらう最後のお礼が、ちょっぴり嬉しかった。
今でこそ立場が全く違うが、何だか101年前に戻った気分になる。
「じゃあ見返りに・・・お菓子、また食べたいです。浦原さんが作ったヤツ。」
『そうっスか!それなら現世の虫の研究もしないとな~~!!戦いが終わったら、是非現世に来て下さい。』
壷府リンのお菓子は美味しい上見た目も完璧だが、浦原と話していると彼の作るお菓子のようなゲテモノ感満載の物も恋しくなった。
戦いが終わったら、行こう。絶対。
「そういえば、何で僕は尸魂界から出ちゃダメなんですか?」
『それはですね・・・後でお話します。今日の夜、ご自宅でお話しましょう。』
「わかりました。真夜中は寝ているので早めにお願いします。現世の子どもが歯を磨く時間あたりで!」
『しょ~がないですね~。』
「よろしく頼みますよ!!!!」
念押ししたので恐らく大丈夫だろう。京楽に伝令神機を返してしばし喋っていた後、「浦原クン耳おかしくしたらしいよ。全く、気をつけないと・・・。」と京楽に呆れられたが、絶対嘘だ。夜に文句言ってやる。
「それじゃあ失礼します。そろそろ七番隊に戻らないと。」
「うん。七緒ちゃんにはボクから伝えておくよ。」
隼人を見送った後、京楽は嬉しそうな顔をして呟いた。
「少しずつ、隼人クンも昔みたいに元気になって安心したよ・・・。」
七番隊に戻ると、すでに総隊長からの知らせが来ていたようだ。
「霊王を殺して新たな王になるだと・・・!!藍染・・・・・・!!!」
「狛村隊長!何としても止めやしょう!!!」
「ああ。しかし東仙は何故あの男についたのだ・・・!!」
以前現世で東仙が映像に映っていたと伝えた時も、狛村は怒りと無念の二つの気持ちを表情に含ませて悩んでいるようだった。あれからずっと東仙の心を理解できず苦しんでいる。
修兵も以前より周りを頼るようになったが、やっぱり慕っていた東仙への思いを断ち切れないでいるようだ。この前酔っ払って眠った時も東仙の名を口にしていた。
この点に関してはこれ以上何か言ったら自分の心にブーメランが帰ってきそうなので、基本的に静観するつもりでいる。
藍染の話を聞いた射場はまた闘志を燃やしている。
「口囃子!!儂らも鍛錬するでぇ!!」
「よーし行くか!」
握菱鉄裁がまだこちらに来ないので射場といつも通り鍛錬を行っている。
ほぼ毎日鍛錬を行い力を高め合った結果、前より攻撃を躱したりする力はかなりついた。今の隼人ならこの前旅禍として来た石田雨竜とかいう滅却師相手にも渡り合える程の実力はあると自分で考えている。
今日も傷一つつかずに鍛錬を終わらせることができた。
そして夜。
『お前の後ろにだァァァァァ!!!!お前の後ろにだァァァァァ!!!!』
ピンポン玉の映写機から着信が鳴ったが、悪趣味にも程がある着信音だ。警戒していたためそこまで驚くことはなかったが、無駄に音量がでかいため近所迷惑になる。
あまりにも小さいスイッチを押すと、目の前に緑と白の縞々模様の帽子を被り、口元を扇子で隠した男の姿が壁にでかでかと映った。
『お久しぶりっス~~!大きくなりましたね~口囃子サン!!』
「えっ・・・浦原さん・・・?何か、凄い変わりましたね・・・。」
隊長時代とは全く違う風貌だ。何というか、うさんくささがインフレーションしている。
よくこんな男を黒崎一護らは信じたものだ。喋り始めてからは扇子をしまったが室内で帽子を被っているのか。暑くないのか。
『やだなぁ口囃子サン。今のアタシはただのしがない駄菓子屋のハンサムエロ商人ですよ?これでも、妙齢の女性から人気あるんスよ。』
「自分で言っちゃうんですね・・・。」
『そういう口囃子サンはあの頃から見た目、全然変わらないっスね。こちらの皆サンは雰囲気とか結構変わってますよ。』
「そうなんですね・・・。」
昔から皆に地味と言われ、今でも見た目が地味と言われる。イマドキ男子のオシャレな修兵から現世の美容室を教えてもらったりしたが、どうも行く気になれないのだ。
あの頃のままの見た目でいたい。そして再会した時にすぐに思い出してほしい。そういう思いで101年前から髪型は一切変えていない。
身長も現世の人間の中ではまあまあの身長だが、死神連中と比べると隼人は小さい方に含まれる。
というか皆の身長が高すぎる。ほとんどが180cm超えとかふざけてるだろ。
さらに本来の性格を抑えて落ち着いた性格でいるせいで、雀部、大前田、射場の地味っ子トリオ(やちる評)を超える地味さというか、印象の薄さを持っているが、今はそれでいいと思っている。
『・・・なーーんて、考えちゃってます?』
「えっよくわかり・・・って、ちょっと!!勝手に人の心の中読まないでくれます!?」
『いやぁ~貴方の心は相変わらず非常に読みやすいですからね~。六車サンにもよく読まれていたじゃないですか。』
「そうでしたね・・・本っ当に理解できなかったですよあの頃は。」
昔成績を見せようとして怒らせないように工夫していた策略がバレていたのは今でも納得がいかない。あれで何回気を失ったことか。
って、そういう懐かしい過去話をしに電話してるんじゃなかった。
「そうじゃなくて、何でわざわざ僕に直接電話を繋ごうとこんな物まで渡したんですか?」
『そうですね・・・それじゃあ、話しましょうか。』
『口囃子サンがこれからすべき事と、決戦の日についてもらう特別任務について。』