以後気を付けます・・・。
気付けばもう十月を過ぎていた。
マユリオナラ事変のあとに修兵と吉良に飲みに誘われたが、散々な目に遭った。
「いや~俺達隊長権限代行になりましてね!!そりゃあ忙しいんすよ!!!」
「そうですよね!檜佐木隊長権限代行!僕も仕事が増えて忙しいんですが、何故か充実感あるんですよね!ね!!!」
ニィッと笑いながら示し合わせたかのようにこちらを見てくるのが小憎たらしい。
まだ狛村が隊長に就いていなかった頃自分も同じ役回りを行っていたが、そんな大層な名前は付けて貰えなかった。それを知ってか知らずか、アピールしてくるのが腹立たしい。
「ふ~~ん、よかったね~~~~。」
「どうっすか!俺たちが羨ましくないんすか~~~?」
苛立ちを助長させるためか、修兵はやけに近づいて挑発的な顔を見せている。個室の一番奥の隅っこに座っているせいで逃げ場がない。一体何故こんなにこの二人は挑発的なのか。
理由は、ここ最近隼人が仕事に顔を見せず鍛錬に勤しんでいるからであった。
仕事が早い射場は鍛錬が終わると何度も修兵と吉良を打ち合いに誘うため、彼らは理由を聞いたらしい。
その際の射場の説明の仕方があまりよくなかった。
「実は、口囃子が100年前の大鬼道長直々に暫く鍛錬を行うことになってのう・・・。儂らただの副隊長は人脈ないけぇ羨ましいんじゃ!!うおおおおおおお!!!!」
「なっ・・・!」「そうだったんですか・・・!」
盛大に男泣きをする射場に
射場は単に暇しているだけだが、修兵と吉良は抜け駆けした隼人にずるいとでも思ったのだろう。あまりいい気分にならなかった。
そんな折、二人に隊長権限代行の話が来た。
これはあの先輩を見返すチャンスだ。射場の仇を打とうではないか。
仇もクソも何もないのを二人は知らず勝手にヒートアップして隼人を飲みに誘い、今に至る。
「それで?何か変わったことでもあるのかい。」
「皆さんからの見る目が変わりましたね。僕達権限代行のオーラがそう言わせているのでしょう。」
おい吉良。お前はすました顔でそういうこと言うキャラじゃないだろ。酒はこうも人を変えてしまうのか。
「俺は隊主会でいつもより半歩前に立ってますよ!他の副隊長より前に立つのが快感っす!」
「あっ!それ僕もやってますよ!!」
小っさ!!!いや見栄の張り方小さすぎるだろ!!せめて隊長と並んだって言えよ!見かけによらず小心者だなオイ!!
あまりにも残念すぎる。これでは単に仕事増やされただけではないか。
予想はしていたが、完全に乗せられて浮かれさせたついでに仕事も増やしてやった感じだろう。いいカモだ。泣けてくるわこんなの。
「へーよかったねー。」
「む。何すかその目。さては俺達に嫉妬してるんじゃないですか~?」
「やっぱ口囃子さんは何十年もず~~っと
ダメだ我慢ならん。
存外キレやすいことに無自覚な隼人は、静かに二人の目を覚まさせることにした。
「そうだね~~。隊長権限代行という字面に騙されて給料も変わらずに余計に大量の仕事を押し付けられてしまった残念な副隊長様には三席の僕の気持ちなんか分からないよね~?」
「え・・・あ、あの、」
「あと隊主会で半歩前に出ただけで有頂天になるとかガキかよ。小せぇよ喜ぶ所がよぉ。見栄張るならもっとマシなことしろよ。あとさぁ君達に対して哀れみの目を向けているのは最近外に出ていなかった僕でもわかるよ?他にもさぁ」
「「大変申し訳ございませんでした・・・。」」
これで大丈夫だ。しばらく調子に乗ることはない。
何故こんな挑発ばかりしたのかの理由も聞き、酷く驚かされることとなった。
「羨ましかったのかい?」
「そうですよ!口囃子さんだけ特訓なんて!ずるいっすよ!!」
「口囃子さんはいいですね、人脈があって。」
ジト目で吉良から言われたことは、正直否定できない。
この際使えるものは使えと浦原からも言われているので、鉄裁による鍛錬が実現しているが、たしかに隼人は昔から謎に顔が広い。
小さい頃は引っ込み思案のクセに好奇心旺盛という矛盾した性格だった気がするが(正直よく覚えていない)、不思議といつも大人たちに囲まれていた記憶がある。
それもこれも全て拳西のおかげであるが、その時繋がった縁がこうして今役立っているのは非常に嬉しいことでもある。
何か二人とも紹介してほしそうな顔をしているので、明日でも射場含めて連れてってみるか。
「わかったよ。明日休みでしょ、だったら一回おいで。」
「いいんすか!?」「ありがとうございます!!」
「でも覚悟はした方がいいよ。何せ僕は休日返上で毎日鍛錬してるんだよ。ついていくのも大変だよ。」
「「頑張ります!」」
そんなことになってしまい、すぐに飲み会は終わって三人とも帰り、翌日は更に射場を含めて四人で秘密の空間にやって来た。
休みの日なのに皆死覇装を着て準備万端である。電話で鉄裁に伝えて了承は得ているので、一日体験は無事に行うことが出来る。
「瀞霊廷にこんな場所があったとは・・・。」
「儂も初めて知ったぞ・・・。」
三人とも半月ほど前の自分と全く同じ反応をしたのが面白い。いや、誰だってこんな反応するか。
崖から飛び降りて下まで行き、鉄裁がいるか霊圧で確認する。
まだ来ていないようだ。朝には戻ると昨日電話で伝えられたので、何かあったのだろうか。
「ごめん、朝には戻るって聞いてたんだけど、まだ来てないや。」
「重鎮は遅れてくるモンっすよ!」「どんな人だろうな~楽しみだな~!」
後輩二人にめちゃくちゃ期待されてる気がするけど大丈夫なのだろうか。
射場は母親から鉄裁について聞いているからか何も言わない。あのキャラの強さも知っているのかもしれない。
数分後。
けたたましい音を響かせて入り口が爆発したあと、土煙を上げながら全力ダッシュで駆けてくる人影が来た。
彼こそが握菱鉄裁。
信じられないスピードで隼人の目の前まで猛ダッシュした後、慣性の法則を無視してピッタリと止まった。
「口囃子殿、緊急事態ですぞ!!」
「え!?緊急事態って「急ぎご自宅までお送り致します。」
「あ、それならこの前みたいな「問答無用!!!!」
急転直下、鉄裁に何故か自宅まで送られることになった。
以前と全く同じ方法で。
「だから何でその運搬法なんですか!」
「申し訳ございません。皆さんも一度隊舎にお戻りください。隊長権限代行のお二方は一番隊へお向かい下さいな。では暫し失礼!!!」
話を聞いて下さいよ~~~!!との叫びもむなしく、またまた恥ずかしい思いをしてしまいそうだ。
呆気に取られた三人も、とりあえず鉄裁の言葉に従い、それぞれの場所に戻ることにした。
自宅に戻ると、ピンポン玉の通信機器の電源を急いで鉄裁が点け、浦原と連絡を繋ぐ。
自分が苦戦した機械に対しいとも簡単に電源を点け、通信を繋いだのが少し解せない。
「店長!よろしいですぞ!!」
『は~~い。』
室内だろうとお構いなしに帽子を被っているこの男は今日も平常運転だ。
『お久しぶりっス!!どうですか?鍛錬の調子は?』
「ぼちぼちです。九十番台詠唱破棄は出来る時と出来ない時があるので・・・。」
『それならもう十分っスね。鉄裁サン、カリキュラムのフェーズを上げましょう。』
「承知!!」
フェーズ?何だかよく分からない言葉だ。
相変わらず横文字に弱い隼人は二人の言ってる言葉の意味がよく分からない。
その後も尸魂界にいる隼人には魔訶不思議な言葉の数々が続き、鉄裁は問題なく意思疎通している。
「あの、何を仰っているのでしょうか?」
『こうすれば、悪の組織の秘密会議みたいでかっこいいでしょ?暗号じみてていいじゃないっスか!』
「
『アッハハ。これは失敬失敬。』
こんなもの常識でも何でもなく浦原の悪戯にすぎないのだが、隼人には知る由もない。
毎度の如く何故わざわざ呼びつけたのかを浦原に尋ねると、彼ははぐらかすことなく単刀直入に真実を告げた。
『井上織姫サンが虚圏に誘拐されました。』
(!)
確か数日前から彼女は尸魂界にいた筈。朽木ルキアと共に修行を行っていたのを修兵が見かけたと昨日飲み会で聞いたのだ。
それが何故誘拐されたのだ。そもそも何時誘拐されたのか。
『尸魂界から現世に移動する所を狙われました。』
「うわっマジですか・・・しかし何故彼女が狙われたのでしょうか?戦力の話なら黒崎一護を無力化するために連行する、という話なら理解できますが・・・。」
『彼女の能力っス。』
(!)
見覚えがあった。
隼人の目で見たものは、簡易的な結界?のようなものを張って、こちらの攻撃をいとも簡単に防御する術。
そして、驚異的な速さで味方の滅却師の傷を癒す力。
確かに変わった術だが、藍染は何故拐かすことを画策する程狙ったのか。
その事についても聞くと、次もはぐらかすことなく真摯に答えてくれた。
『アタシの見立てでいくと、彼女の術は
「神の領域って・・・!」
『まぁ今の彼女ではせいぜい傷を治す位の力っスよ。ですが、成長したら死者を蘇らせることも出来るかもしれない。それ程に希少かつ強大な力なんス。・・・・・・アナタの力に比べたら彼女の力もひよっこですがねぇ・・・。』
最後に浦原は何か呟いていたが、通信のため何と言っているのか正確に分からない。
「ん?何か仰いましたか?」
『い~~え~~何でも!とにかく、繰り返し伝えますが、アナタは絶対に尸魂界から出ないで下さい。尸魂界にいれば、アナタが単独で狙われることはないでしょう。相手もまだそこまでの戦力は持っていないと思われます。』
「わかりました・・・。」
『それじゃ!修行頑張って下さい!!さよ~~なら~~~!』
「えっちょ、ちょっと!」
ブチッと突然通信が切れてしまったため、掛け直すのもためらわれた。陽気に振る舞っていたが、忙しいのかもしれない。
こちらから何度かかけても出た試しがないので出てくれるなんて期待はしていないが。
「とまあ、緊急事態ですので、修行もよりハードなものに致しますぞ。」
「わかりました・・・。」
「しかし・・・貴殿の自宅もなかなか・・・。」
と言いつつ、鉄裁はあらゆる所を物色し始めた。
見られたら恥ずかしいものを何も置いてはいないが、何だか不覚を取りそうで恥ずかしい。
際どいところばかりに目線を向けているのが気まずい。
「え、ち、ちょっと!あんまり本棚の隙間とか見ないで下さい!せっかくシリアスな雰囲気出してたのに!!」
「健全な男子たるもの、破廉恥な本でも置いていないかと思いましたが、何もないようですね。残念です。」
「いいじゃないですか!!ある意味健全ですよ!!っていうか、貴方そういう事調べるような人じゃないですよね!!」
柄にもないことを始めたからには、大体その人物の裏に黒幕がいるものだ。
もちろん今回もそうである。
「さる御方から調べるよう頼まれましたので・・・」
「誰ですか、浦原さんですか!!」
「口外厳禁!黙秘します。」
「あ゛あ゛ぁーーーもう!!!・・・ってまさか!!拳西さん!?!?!?」
「・・・・・・。」
何だその顔は。なぜ冷や汗を流す。何故目線を逸らす。
当たっているのか。いやでももし拳西が今も尸魂界に普通にいたとして、さすがにそういう相談は出来ない。なんというか、これは個人の問題だ。
「信じられませんよもう!!いくら親でもそんなこと相談できないっつーの!!鉄裁さん!鍛錬に戻りましょう!」
「畏まりました・・・。」
ちなみに、真の黒幕はもちろんリサであった。