もうさすがに嫌だったので、鍛錬場に戻る際は普通に歩いていくことにした。
さっきは途中で誰かに見られることは無かったが、副隊長三人に見られたのは死ぬ程恥ずかしい。
「よろしいのですか?私が送れば貴殿は疲れることも御座いませんが?」
「すみませんが、貴方に送ってもらうと精神的に疲れるので今回からは普通に自分で移動します・・・。さっきみたいな緊急の時だけで十分です。」
「畏まりました。口囃子殿。」
何だか鉄裁が執事みたいだ。
わざわざこちらが修行させてもらって、さらに十二番隊にまで送ってもらったりして、本当に何から何まで色々やってもらっている。
あとで感謝のしるしに何か渡そう。
そして、途中で七番隊に寄ったところ、日番谷先遣隊も引き上げることになった旨を教えてもらった。
こうなった以上、マユリに呼ばれることももうないだろう。
一先ず尸魂界の防衛のため、全隊長格は一旦尸魂界に集まることになった。
「いよいよ戦いですか・・・?」
「いえ、店長に電話で確認を取ったところ、崩玉の覚醒にはまだ時間が掛かる筈です。修行はまだまだこれからですぞ。」
「よかった・・・。もっと強くならないといけませんからね。」
鉄裁は度々浦原と連絡を取り合っているため、現世と尸魂界の間の伝令係のような役回りも行っている。色々忙しい浦原の代わりに、鉄裁が引き受けているらしい。
「握菱殿。隼人を宜しくお願い致します。隼人も仕事の心配は要らん。儂でさえ歯が立たなかった男に一人で立ち向かうことになるかもしれぬからな。お前の仕事は強くなることだ。励めよ。」
「はい!」
「偶には鉄左衛門に様子を見に行かせるからな。あいつも毎日暇そうにしておるからな。少しぐらい相手をしてやってくれ。」
「えへへ。分かりました。」
この場にたまたまいなかった射場の話で苦笑した後、七番隊隊舎を後にして双殛の麓に向かう。
その途中で現世から帰りたてホヤホヤの日番谷先遣隊に会った。
「冬獅郎くん!お疲れ様。」
「日番谷隊長・・・もういいや。お前も霊圧調査してたんだろ。お疲れ。」
「うん。」
松本や阿散井、朽木にも挨拶をして十一番隊の二人にも挨拶しようと思ったら、何故か鉄裁を見て信じられないくらい怯えている。
二人で何やらヒソヒソ喋っていた。
「お・・・おい!何でここにあいつがいるんだよ!昨日現世にいたばっかじゃねぇか!」
「知るかよ一角!とにかく目を合わせるな!普通通りに振る舞わないと!」
俯いて全然こっちを見ようとすらしないので、事情があるのかもしれない。
そっとしておくことにした。
ちなみに隣の鉄裁は二人の耳元で、
「昨日は大変激しい一夜でしたな・・・。」
と囁き、完全に氷の彫刻へと二人を変化させていた。
隼人には意味が分からないのでスルーすることにした。
「あ・・・結局副隊長の皆来れなさそうですね。やっぱりまずい事になってしまったので。」
「仕方ありませんな。またの機会に致しましょう。この時代の副隊長の実力が楽しみですな。矢胴丸殿程の手練れはいらっしゃいますでしょうか・・・。」
今の副隊長は101年前に比べると、正直な話強いとはいえないだろう。
最近になって判明した話だが、当時の副隊長、特に大前田希ノ進、山田清之介、矢胴丸リサ、九南白、猿柿ひよ里の五名は、戦力面としては近年稀に見る程の優秀な副隊長であったらしい。特にリサと希ノ進はかなり優秀で、隊長お墨付きの強さを持っていた程だった。京楽フィルターの話なので、リサの話はかなり盛られていそうだが。
『リサちゃんってば、並みいる敵をそりゃあ鮮やかに倒して倒して倒しまくっていたんだよ~。』
『矢胴丸さんのその御姿・・・私も見たかったです・・・。』
七緒も彼女の話になると昔を思い出しているからかいつもの凛とした調子とは違い、恍惚とした表情で思いを馳せている。
読書会ぐらいでしか二人が直接話している所を見たことは無かったが、よっぽど信頼していたようだ。
昔の副隊長達に思いを馳せていた所で、先ほどまでいた鍛錬場に戻ってきた。
「遅い!!」
「へ?」
「遅いと言っておる!いつまで儂を待たせる気じゃ!」
「こちらにいらしてたんですか!?だったら知らせてくれてもよかったのに・・・。」
突然現れてこられるとさすがにびっくりというか困る。
だが、修行のペースを上げようと考えていた中で、夜一の到来はナイスタイミングだ。というか、出来過ぎている程だ。
「喜助に頼まれてのう。儂もおぬしの修行に参戦することになったぞ。喜べ!ふはははは!」
「何だか昔を思い出しますね・・・。」
「もう昔のように生易しい修行などさせぬぞ。みっちりおぬしをいためつけてやるわ!」
「えぇ~~お手柔らかにして下さいよ・・・。」
こうして、修行第二部が始まりを告げる。
「今日から貴殿には新たな技を習得してもらいます。」
「新たな技って・・・?」
「禁術でもある、空間転移です。」
(!!!)
話には聞いたことがある。
鉄裁は虚化した隊長格を助けるためにこの術と時間停止を使って四十六室に捕縛された。
だが、何故それをわざわざ教えてくれるのだろうか。そもそも許可を得たのだろうか。
「許可は得ておりますぞ。店長直々に総隊長に頼み入れていたのを私も同席しておりました。」
「儂もじゃ!今あの爺さんは四十六室の代わりを務めておるからのう。頭の堅苦しいジジイ共だったら許可は得られなかったぞ。」
「じゃあ心配せずとも練習していいわけですね。でも何故空間転移を?」
鉄裁の話を聞くと、空間転移が実はかなり攻撃性の高い技であることが分かった。
曰く、空間転移は転移先の物質を全て押しのけて転移を行うため、いかなる刃よりも殺傷力の高い攻撃を与えることができるらしい。
「ただの紙切れや瓦礫が、死神の腕をも斬る程の凶悪な武器になるのじゃ!恐ろしいのう!」
身の毛もよだつような話である。
ただ、反面リスクも大きく、自身の転移は非常に危険だと伝えられた。
間違って脚だけ地中に埋まってしまったとしたら蜂の巣にされかねない上、無理矢理抜いた場合脚の皮膚全て剥がれ落ち、激痛と共に度肝を抜く程のグロテスクな光景になってしまうそうだ。
そのため、遠距離からの攻撃目的で空間転移を使うだけに留まってほしいと鉄裁からは言われた。
「ちなみにこの術は私が簡略化した故、連続使用も可能で御座います。」
「えっじゃあ当て放題じゃないですか。」
「だから儂が来たんじゃ。おぬしの空間転移の照準力を上げるために瞬神夜一が参戦するのじゃ!」
「えっじゃあ全く当てられないじゃないですか!」
間抜けにも真逆の感想を立て続けに発した隼人を夜一は結構本気で殴る。
「痛い!結構痛い!!」
「馬鹿者!儂の瞬歩も見抜けんようでは藍染に当てることなど不可能じゃ!!」
「えぇ~~!マジですか・・・。」
「まぁそうでしょうな。ですがまずは、この術を使いこなすところから始めましょう。」
曰く、瞬歩の応用でどうにかなってしまうらしい。
瞬歩は自身の高速移動のための術だが、今回の空間転移は無機物を瞬歩で動かすイメージを持ってほしいと言われた。
まずは、手元にある小さな石を任意の場所に転移させる。
「んんんんんんん・・・・・・。」
「そうじゃ!そんな感じじゃ!いけーー!隼坊!!」
「し、集中できませ・・・って、ああぁ!!!最初からやり直しですよ・・・。」
この術はかなりの集中力が必要なため、変な応援が入られるとすぐにプツンと術が切れてしまう。
鉄裁も腕組みをしつつうなずくだけに留まっているが、やけに夜一は邪魔をしてくる。
「そんなんで集中力が切れたら藍染と渡り合える筈も無かろう!おぬしはもっと精神を鍛えろ!!」
「は~~い・・・。大変だ・・・。」
「九十番台の鬼道を扱えるようになったおぬしに何の問題があるんじゃ!とっとと儂と戦えるようになれ!」
「そんなぁ~・・・でも、頑張らないとな・・・。」
弱音を吐きそうになったが(いや実際吐いているようなものだが)、諦めてはダメだ。この戦いに負けたら一生あの人達に会えない。
残虐な実験を行った藍染に一泡吹かせないと。
再び石を持って瞬歩をイメージして力を籠める。
「んんんん・・・。」
「お、今度はどうじゃ!出来るのか?」
夜一の軽い妨害もあるが、構わず集中する。
鉄裁が「むむむ?」と言ったその瞬間、ヒュン、と小さな風を切る音と共に隼人の手元から石が離れ、虚空に転移した石はそのまま地面に落ちた。
「お、出来た。」
「それだけ時間かけても小石一つ転移させるだけか。修行はまだまだこれからじゃのう。何時になったら儂の出番が来るのか・・・。」
「が、頑張ります!!」
自覚は無いが、鬼道や術に関しては天才型の隼人が手に持ったものをポンポン転移させられるようになるのにそう時間は掛からなかった。
時々物体ではなく自分が移動してしまい呆れられることもあったが、一日フルで練習した結果、手に触れたものの転移は出来るようになった。
鉄裁の目の前に転移してしまい、バランスを崩して抱き着いてしまったときはさすがにヒヤヒヤした。
「では、今日はこれにて終了です。空は明るいままですが、もう外は夜ですぞ。」
「慣れない術を使って消耗も激しいじゃろう。明日も練習するからしっかり休むのじゃぞ。」
「はい。・・・すみません夜一さん。結局ただ見てるだけになってしまいましたね。」
「構わん。砕蜂とでも体を動かしてくるわ。あいつは面白いからのう。」
砕蜂の想いを知っているのか知らないのかは隼人には分かりかねるが、面白いという一言で砕蜂の認識が纏められてしまっており、何だか残念である。
意外と乙女な砕蜂の心を案じていたところで、今日の修行は終わりを告げた。
翌日。
鍛錬に行く前に七番隊に寄った所、藍染との戦いにおける全体の配置について聞くことになった。
四番隊、六番隊、十一番隊、十二番隊隊長と、それらの隊で十一番隊以外の副隊長、そして四番隊の山田花太郎、十三番隊の朽木ルキアは虚圏に行き、井上織姫の救援に向かうこと。
これは、浮竹による総隊長への進言で受け入れられたことだ。
黒崎一護には救援に行くことを否定していた総隊長も、実際は虚圏に何人か隊長を派遣するつもりだったらしい。
一、二、七、十番隊はトップ二人とも偽物の空座町で藍染を迎え打つ。
八、十三番隊は隊長のみが偽物の空座町に赴く。
三、九番隊副隊長と、十一番隊三席、五席は、別の任務が与えられるそうだ。
ちなみに隼人の任務は浦原商店の者と七番隊、京楽、浮竹、総隊長以外には誰にも知らせないようにした。これは浦原の意向であった。それ以外にもマユリや修兵など勘の鋭い者は気付いていたが、特に興味を示さなかった。
他にも、八番隊、十一番隊副隊長と、その他席官は尸魂界の守護を任された。
一応この流れでいくと、隼人は尸魂界の守護の役割に就くことになっていた。
実際に守るのは
「僕の任務は極秘扱いですか・・・。」
「隊主会の内容が藍染に漏れている可能性もあるからな。警戒は怠ってはならん。」
「あと二月か・・・。何としても儂らで藍染を止めにゃいかんのう!」
冬まであと二月。浦原の話によると、決戦は予定で12月になる。
今日から皆尸魂界守護の人間を除き、隊長格は皆藍染と戦うために各々修行を始めることとなった。
鍛錬が仕事。ここまでの体制を取るのは、隼人が小さい頃に瀞霊廷に来てから初めてである。
黒崎一護ら現世の人間が虚圏に向かったことで、いよいよ皆本腰を入れることになった。
鍛錬場に向かい、気を引き締め直す。
「やりましょう!!鉄裁さん!」
「承知!今日は連続転移に挑戦致しましょう!」
「よろしくお願いします!」
今日も鉄裁の鬼の鍛錬は行われる。
藍染と対決するまで、あと約一月。
とあるに出てきた座標移動を習得させます。