半月程経ち、虚圏に行く組の中で、まずは朽木ルキアと阿散井恋次が先鋒として向かうようお達しが来た。長期戦により苦戦が考えられる現世の人間達のフォローに向かわせる予定だ。
その後であまり時間を空けずに白哉達隊長と、四番隊の副隊長、七席が向かう手筈になっている。
空座町組はまだ浦原の準備が整っていないため、暫くは瀞霊廷で戦力強化のため各自色々と鍛錬を行っている。
無論、隼人も鍛錬を行っている。むしろ、一番鍛錬を行っているぐらいだ。
今の実力は副隊長を平気で凌ぐ程の実力であり、鬼道だけでいえば護廷十三隊随一の腕前といえるレベルに達した。
別に自慢するつもりもないので特に誰にも言うつもりはないが、あの時の藍染にも少しは粘れる程の力はついたと思っている。
九十番台の詠唱破棄を可能にした他、その他の鬼道も鉄裁指折りの実力にまで強化することが出来た。
ただし、術だけで藍染に対抗するためにはこれ以上の力が無いと厳しいかもしれない。
隼人自身の成長と共に、藍染も実力をつけて護廷十三隊と戦うことは目に見えている。
最終的に彼らは零番隊と戦うつもりでいる以上、恐らく藍染に勝つことは不可能だ。
藍染を足止めするために力をつける。それと同時に、藍染の注意を引きつけながら撒くほどの足も持たねばならない。
「では両手それぞれに石を五つお持ち下さい。100メートル・・・失礼。現世の数え方で数えてしまいました。」
「いえ、大丈夫です。一応勉強はしているので、現世の数え方でも問題ないです。」
「そうで御座いますか。では、100メートル先の岩に手に持った石を転移してもらいます。まず左手に持つ石を一つずつ連続で打ち込んで下さい。次に右手に持つ五つの石を同時かつそれぞれ位置をずらして打ち込んでください。」
鉄裁に伝えられた手順をかみ砕いて理解し、近くに置いてある石を手に取る。
指令された二つの技をクリアすれば、次は手に触れない物の転移の練習に移る手筈となっていた。
これだけで三日ほど浪費してしまった。それ程に難しい。
片方だけなら出来るようになったが、両方を連続で行うとなると、自身の体内にある霊力の流れが乱れてしまうような感じがして、集中が削がれてしまうのだ。
昨日の夜に伝令神機で浦原に電話して珍しく出てくれたので聞いてみると、『体内の力の流れに身を委ねてみたらどうでしょう!』と何とも雑なアドバイスを貰った。
(力の流れか・・・考えたこともなかったなぁ。)
今まで力の乱れを感じた時は無理やりにでも律して改善してきたので、その方法を取ったことは無かった。
あんまり信用ならないけれど、とにかくやるだけやってみよう。
「では、参りましょう!」
「はい!」
いつものように手に石を持ち、物体を目的の場所に置くような感覚で転移させる。
まずは左手にある石から。
手に力を籠めると、一つ一つが綺麗な横並びかつ岩に突き刺さった状態で転移させることが出来た。
鉄裁が転移の最初から最後までの時間を現世の計測器具で測る。
次は右手の石だ。
同時転移を行おうとした途端、やはり今回も体内で力の流れが乱れるような感覚が生まれる。
(うっ気持ち悪っ・・・!!)
ぞわぞわと体内に悪寒が走るような、非常に気持ち悪い感覚。今までは無理やりにでもその感覚を無くそうとした。
でも今回は、その感覚を受け入れる。耐え切ってやる。
非常に不快な流れを身に受けながらも力を籠めると、今までが嘘のように複数の物体の同時転移が決まった。
「おぉ・・・出来た・・・。」
「お見事!!これで次の段階に進めますぞ!!口囃子殿!!」
「ふぅ・・・何とかなった・・・。」
それにしても、電話口だけでお悩み解決をしてくれた浦原はやっぱり凄い男だと再認識した。
三日悩んでいたことをたった数秒で解決策を見つけさしてしまうのは、正直複雑だが凄いことは凄い。
とにかく次の段階へ進もう。
「次はどんなことをするつもりですか?」
「手に触れない任意の物の転移の練習をしましょう。不意打ちにはこれが最も効果を発揮します。」
「なるほど・・・。」
「しかしこちらは私ですら扱いきれない技術です。故に、是非とも貴殿に開拓してもらいたい!!」
「えっ!!」
てっきり鉄裁も余裕で出来るものだと思い、教えてもらう中で習得するものだと思っていたが、まさか自分で創り出すことになってしまうとは・・・。
鉄裁が隊長格を運ぶ際は一定空間全体を転移したため触れる必要は無かったが、それとは訳が違う。
手元から離れた武器を一瞬にして引き寄せるなど、もしこれが出来れば信じられない程の戦力増強に繋がるが、鉄裁ですら扱いきれない術を自分に出来るのか、そんな自信は隼人にはない。
でも、やらないといけない。自信が無いからと逃げてばかりいれば、今度の戦いで簡単に自分は死んでしまう。
「ではまず転移した物体そのものを転移させられるかやってみます。」
立ち止まる暇なんてない。阿散井と朽木妹は既に出発して破面と戦っているかもしれない。
そう思うと、自然と力も籠る。
いつも通り手に力を籠め石を転移させる。
次に、再び手に力を込めたが、石はただ自由落下しただけで何も変化は無かった。
(手から力を放っても何も変化が無い・・・。ということは物体に力を入れればいいのか・・・?)
頭の中で解決策を考え、実践していく。
一度転移させた物体に、手に籠めた力と全く同じものをぶつけてみる。
ヒュン、と風を切る音が鳴ると共に物体の転移自体は成功した。
ただ、コントロールはしきれなかった。
「眼鏡に石が突き刺さりましたな。」
「ああああ!!すみません・・・。」
まさかの隣にいる鉄裁の眼鏡に石が刺さってしまった。
危うく目に入ったら大惨事だ。井上織姫がいないため、暫く完治させることも不可能である。
というか、一体何回鉄裁の眼鏡を壊せば自分は気が済むのだろうか。末恐ろしい。
だが、手掛かりは得られた。物体に力をかければ、触れずとも転移可能。
恐らく触れた状態での転移という下地が無ければ出来ないだろう。そっちの能力を上げないと、物体に触れない転移の照準はめちゃくちゃな物になり実用的でないままになってしまう。両方練習をしないといけない。
それから何度かやってみたが、やはり任意の場所から任意の場所への転移の照準は酷いものだった。
10回やってまともに一度も転移できず、何故か鉄裁の眼鏡に突き刺さることが多かった。
危うく自分の腕に刺さりそうになることもあった。
「最初は誰でもこのような物ですぞ。そもそも私にはこのような転移は出来ませぬ。貴殿は私の力を超えて居られるのです。自信を持って下さい。」
「そうですか・・・。間に合うか不安です。今でこんなレベルじゃ、藍染には・・・。」
「休憩しましょう。一度弱気になれば連鎖として力も落ちてしまいかねませぬ。数日前はあんなに自信を持っていたではありませんか。」
(!)
九十番台の鬼道を詠唱破棄で行えた日。その日は非常に安心して、希望が見えたような気がしたのを忘れていた。
たしかにずっと根詰めすぎていたかもしれない。こういう時鉄裁はよく自分のことを見てくれていると思う。本当に感謝してもしきれない。
「ありがとうございます。」
「外の空気を浴びるのがよいでしょう。昼食の後から練習を再開します。十三隊の皆さんとゆっくりお話でもなさって下さいな。」
「はい。それでは少しだけ。」
めちゃくちゃ高い所にある出入り口から外に出る。
数時間前までいたはずの外が、何だか解放感に溢れているように思える。
散歩でもしようか。
ここ最近殺伐とし過ぎたので、どこか雰囲気落ち着いていそうな隊に赴こう。
こういう時の選択肢はたった一つ。
毎度お馴染み八番隊だ。
早速向かってみると、たまたま京楽も休憩しており、歓迎してくれた。
いつも休憩してそうだとは口が裂けても言えないけれど。
「久しぶりだね。修行はどうかい?」
「えーーっと・・・。ちょっと、自信無くしそうで困ってます。」
「あらら。だからボクの所に慰めてもらいに来たのかい?ボクも頼れる罪な男だなァ~~。でもボクの胸は女の子にしかあげられないから、ご免よ。」
「慰めてもらうつもりではないですよ。あと隊長の胸は七緒さん専用なので借りるつもりありませんよ。殺伐としてたので疲れちゃって・・・。」
「皆もそうだよ。でもそれに気付けるだけ一歩大人だね。」
実際瀞霊廷はかなりピリピリしている。
特に藍染への恨みが強い日番谷率いる十番隊や、破面に圧倒された十一番隊席官二人は話しかけるのもためらわれる程だ。
砕蜂も同じぐらいピリピリしている。他にも、前線に出る副隊長は皆血気盛んになっており、数か月前の雰囲気が懐かしく感じてしまう程だ。
あまり殺伐とし過ぎるのも良くないと隼人は考えていたが、止めることも不可能っぽそうだ。
「でも熱くなりやすい六番隊の二人は今回落ち着いているよ。」
「え、意外ですね・・・。」
「朽木隊長なんかは大分冷静だと思うな。出発する時見送ったけど、落ち着いていたよ。」
「へぇ~・・・って、もう出発していたんですね・・・。」
阿散井と朽木妹だけが向かったのかと思ったら、いつの間にか他の隊長も出発していたようだ。
「涅隊長だけは遅れて行くそうだよ。何か準備があるって言ってたね。」
「へぇ・・・。」
あの人なら興味がある十刃を見つけたら最大級の対策を行って参上するだろう。目を付けられた十刃が可哀想に思えてくる。
隊長三人が黒腔を経由して虚圏に向かっているので、現世の人間達も死ぬことはないだろう。
「そういえば、京楽隊長は何故七緒さんを連れて行かないのですか?」
「七緒ちゃんには傷を負わせるわけにはいかないよ。それに今回の戦いには出るべきじゃない。」
「そうですか・・・。」
「十一番隊のやちるちゃんと一緒に尸魂界の守護に専念してもらう方がいいと思ったんだ。更木隊長が置いていくって言ってたし。それにあやかっただけだよ。」
「はぁ・・・。」
確かに七緒が戦闘向きでないのは隼人にもわかる。
雰囲気からして、戦いを望むような女性には見えない。
リサのことがあったからか、京楽は己の副官をあまり前線に出したがらないのは前からもそうであった。
本人も戦いを好まない性格なので、とりあえず自分だけ空座町に向かうことにしたのか。
「まぁまぁ、このことは気にしない!浦原クンも頑張っているみたいだよ。電話掛けたらいっつもすぐ出てくれて状況教えてくれるんだ~。」
「僕は浦原さんに電話掛けても一向に出てくれないんですけどね。一、二回しか出てませんよあの人。全く何なんだよもう。」
軽い不満をぶつけたら笑ってくれる京楽の存在が、荒れた隼人の心を解してくれるかのようだ。
院に入る前から何かと頼りにしていたが、やはり隼人にとって京楽は昔から近所の頼れるおじさんみたいな感覚だ。
「今度修行見に行ってもいいかい?成長した隼人クンと戦ってみたいなァ~~。」
「えっ一方的な虐殺になりますよそれ。勘弁して下さいよ・・・。」
「そうかい?じゃあやってみよう!!」
「うぐっ・・・決定してしまった予感・・・。」
意外にも好戦的なのか?単純に修行の手伝いとして来てくれるなら嬉しいが・・・。
あんまり嬉しくない約束をした所で、七緒が京楽を無理矢理浮竹との打ち合いに向かわせたため、隼人も双殛の麓の地下空間に戻ることにした。
途中でご飯を食べにいつもの定食屋に寄ると、修兵と吉良が体力をつけるためか大盛ご飯を食べているのを見かけた。
ついでに誘われるのは御免なので、敢えて話しかけないようにする。
ご飯の後、地下空間に戻り、修行を再開する。
「御気分はどうで御座いますかな?」
「前よりすっきりしました。落ち着くことも大事ですね。」
「そうですか。それはよかった。修行、再開しても宜しいでしょうか。」
「はい!始めましょう!!」
藍染と対決するまで、約半月。