「隊長ーー!!京楽隊長ーー!!!・・・全く、何処にいるのかしら。」
朝いつものように出勤して隊主室に行くと、
『ちょっと出掛けてくるから、用があったら探してね。七緒ちゃん大好き♡』
と、いつも通りの置き手紙が机の上に置いてあった。
グシャグシャに丸めてゴミ箱に捨てていつも通り自分の仕事を行うが、その途中で裏挺隊の伝令が入り、どうしても京楽に伝えないといけない事項が生まれた。
浦原喜助の作業に遅れが生じていること。そして、想像以上に破面側の戦力が整っていること。
涅マユリが虚圏の霊圧を確認し、敵側の準備がかなり早いことも尸魂界に伝えられた。
こういう時、気まぐれな隊長を持つと本当に困る。
勝手にサボるわ、いたらいたでセクハラされかけるわ、毎日忙しくて大変だ。
それでも長年の上官である京楽をしっかり信頼しているため、松本からイジられるのも仕方がないことだ。
「今日も仕事をサボってどこほっつき歩いて・・・!ってあら?」
双殛の丘にもいなかったため戻ろうとしたところ、地下から京楽の霊圧を感じる。
何故地下に・・・?と訝しみ、麓を探索してみると、洞穴のような空間を見つけた。
入ってみると、部屋の中央に穴が開いている。
そしてその先に京楽の霊圧を感じた。
他にも握菱鉄裁、口囃子隼人の霊圧を感じる。
降りてみると、あまりにも広大な地下空間に明るい人工的な空が眩しく、眩暈がするほどだった。
「京楽隊長ーー!!伝令が・・・あれ、温泉?こんな地下空間があるだけでも眉唾物なのに・・・。」
地面から湯気が出ており、周囲一帯が暖かく感じる。
秋なのでこの暖かさが心地よく感じて、手だけでも温めようと温泉に近づいたら。
風呂上りの口囃子隼人が一糸纏わぬ姿で体を拭いていた。
「え・・・ちょ、七緒さん何でここに!!!」
異性の裸を生でまともに見たことの無かった七緒は、その刺激的な光景に耐えられる筈もない。
ワナワナと口を震わせた七緒は茹でタコのように顔を真っ赤にしている。
手近にあった岩を全力で隼人に投げつけてしまった。
「いい加減に・・・して下さーーい!!!!!!」
「いやちょっとそれは理不尽ではぶふっ!!」
七緒の投げた岩は見事に顔面にクリーンヒットし、隼人はお湯の中に落とされてしまった。
身体を拭いた意味が無いではないか。
その光景を見ていたのか見ていないのか、七緒が岩を投げた後に京楽は温泉の方に向かってきた。
「あれ、七緒ちゃんどうしたの?霊圧感じたから来たけど。」
「ご報告がございます。」
先ほどの真っ赤な顔からいつもの平常運転に何とか戻し、仕事モードに入る。
しかし、無神経かつ洞察力に優れた京楽は事情に気付いてしまった。
「もしかして七緒ちゃん、隼人クンの裸見てコーフンしちゃった?」
「してません。というか、私は何も見ていません。」
「鼻血、出てるよ。」
「ええええっっっ!!!!」
そんな馬鹿な、いくら何でもベタすぎる。
まさかと思い鼻を手の甲で擦ってみたが、血は一切ついていない。
騙された。京楽の顔を見ると、したり顔でニヤニヤしている。
「七緒ちゃんったら、免疫なくてカワイイ♡」
「隊長ーーーーー!!!!!」
先ほどのように顔を真っ赤にして京楽にもブチ切れる。
吉良と修兵のそういう写真なら松本が女性死神協会の写真のために撮った写真で見てしまったことがある。あれもびっくりはしたが、所詮写真だ。「雑誌に載せられるかーー!!」と怒るだけでどうにかなった。
しかし、今回は生だったので衝撃度が半端ない。
しばらく隼人と面と向かって話すことは出来なさそうだ。
「いいから!報告しますよ。」
「隼人クンも呼んだ方が「後で隊長から伝えてもらってもいいですか。」
「あ・・・わかったよ・・・。」
それでも七緒は岩陰に隠れて体を拭いている隼人にも聞こえる位の声の大きさで報告文書を朗読した。
「なるほどね、ありがとう七緒ちゃん。もう戻っていいよ。」
「えっ隊長は戻られないのですか?」
「ボクはこれから隼人クンの修行相手するから。それが今日の仕事。七緒ちゃんも自分の仕事終わったら帰っていいよ。」
「はぁ・・・。では、失礼します。」
嘘っぽかったが、変に追及してもはぐらかされそうなので、七緒は通常業務に戻ることにした。
「隼人クン、災難だったね。」
「最悪ですよ!!!!よりによって七緒さんにあんな姿見せつけるなんて!二度と話聞いてくれませんって!あぁ~~やっちまった~~・・・。」
先ほどの京楽との修行で七緒の話をされて困惑してしまったが、よりによってご本人様の心に傷を負わせかねない姿を見せてしまい、後悔しかない。
温泉でのんびりしすぎてしまった。もう少し早めに上がれば普通に話を出来ただろうに。
身体の疲れは癒せたのに心は深い傷を負ってしまった。メンタルがやられそうだ。
「ボクとしては嬉しいよ。これで七緒ちゃんはボクだけに集中して見てくれるからね~~♡」
「いっつもそうじゃないですか。」
「あら隼人クン、いじけちゃって。嫉妬かい?」
「え、いや別に思ったこと言っただけですけど・・・。」
こんな感じでイジったとしても、本心で彼女への恋愛感情が無いような振る舞いを見せるので、時々京楽は隼人の考えている事が分からなくなる。
実際隼人も恋愛感情が無いというか、無自覚で気付いていないというか、その辺りが全くよく分かっていないので誰も分からないままだ。
「って時間が無い!ご飯食べます。そして夜一さんと修行します。切り替えないと!頑張るぞーー!!」
やっぱりいつもと調子が違うため、何かに気付いているのかもしれない。
「儂を長く待たせたツケはしっかり払ってもらうぞ。」
「よろしくお願いします・・・。」
心の傷は癒えなくとも、瞬神夜一は待ってくれない。
午後の実戦は夜一相手に転移術の練習を行う。
日夜鍛錬を続け、手に触れていない物体の転移も楽々出来るようになった。
鉄裁と二人で方法を模索しつつ完成させた術は未だ前例のない術であるため、上手くいけば藍染を油断させることも可能だと思っている。夜一にタネはバレているので、相手として付き合ってもらう。
しかしやはり、手足につけている物騒な装備は怖い。
「あの、やっぱりそれ、外してもらえませんか?」
「何を言う。そんなこと・・・。」
一瞬にして夜一は姿を消す。
対鋼皮用の装備を刀で受けきれる筈もないので何としてでも躱さねばならない。
一先ず前に駆け出して後ろからの攻撃を受けないようにする。
しかし、夜一は一切移動していなかった。
「瞬歩したかと思うたか。甘いぞ!」
振りむいた後ろに夜一はおらず、前から声が聞こえる。
このままでは無防備な状態で夜一の目の前に向かうことになり殴られて一発K.O.確定。
ここで行う方法は一つ。
仮初の防御として二人の間に岩を設置し夜一の拳打の威力を弱めることには成功した。
しかし、ノーダメージとはいかない。
骨は折れなかったが、腹を思いっきり殴られた。
「うっゲホッゲホッ!!!食べた物・・・全部吐きそう・・・。」
「フン、この程度の小細工すら見抜けんとは。おぬしはさっきの京楽との実戦から何を学んだ!」
そんな、急に言われても。さっきの戦いの疲れを癒すのも大変だったのに。
それに実際、京楽の策にほとんど引っかかった上で対処することに追われ、まともに攻撃することも叶わなかった。
だからこそ、今回は戦い方を少し変えてみる。
「そんな甘ったれた考えじゃおぬしは一秒も持たずに殺されてしまうぞ!」
「そうですね、甘ったれです。・・・だから僕は昼の間に色々仕込みましたよ。」
「何・・・。」
次の瞬間、右手に嵌めていた手甲がばらばらに壊れた。
複数物体の同時転移。これにより夜一の右手の装備を集中攻撃し、使い物にならなくした。
他の装備も粉々にされるのを警戒し、夜一はすぐに瞬歩で移動する。
「ほう・・・やってくれるのう。小さき石もおぬしにとっては鋼皮をも貫く武器となるか。」
「僕の武器はこの場にある物体全てです。だからほら。」
今度は右足を狙って転移させたが、瞬時に気付いた夜一によって躱されてしまった。
「ちっ躱されたか・・・。」
「甘い。だったら儂は隠れておぬしに位置を特定されなければいい話じゃ。」
「その考えも甘いですよ!!」
「何!!」
移動しながら隼人を見ると、
最初から始解していたということか。
この場合、どんなに遠くに逃げても身を隠すことは出来ない。止まってしまっては直ぐに左手の装備も壊されてしまう。
常に瞬歩を保ち絶えず移動していることなど死神には不可能。
しかし天賦の才を持つ夜一に、そんな常識は通用しない。
(やっぱりこうなっちゃったか・・・。)
瞬神夜一ともなれば、
じっくり狙いを定めることは不可能になってしまった。
そして夜一は決して隼人に余裕を与えない。
夜一の姿を一瞬でも確認すればすぐに石をぶつけようとするが、その度に硬直が生まれてしまうのを彼女は見抜いた。
そしてその硬直のタイミングを見計らって、無作為に左脚で水平に蹴る、左手で殴る、といった攻撃を加え始めた。
何とか鬼道の障壁を張ってついていくが、左脚とはいえ蹴りを入れられたら壁も毎回壊れてしまう。
そして慣れない転移術は霊力の消耗が激しいため照準も不安定になり、既に午前中の体力と同じぐらいの力を使ってしまった。
「はぁ・・・はぁ・・・やっぱ、きっついな・・・。」
「もうへたったのか。おぬしはいつまでたっても体力不足じゃのう。」
夜一相手でもいけるかと思ったが、厳しかった。
常に瞬歩という荒業で通されてしまえば正直なす術がない。
斬魄刀の力を使っても結局追跡することになってしまうため、後手に回らざるを得ないのだ。
徒に物体を転移させるだけで無駄に力を消耗してしまい、今の状態では鬼道も本調子では打てない。
悔しいが、修行は中断することにした。
「何だか凄い術だねぇ。正直キミたち二人の動きが速すぎて何やってるのか分からなかったよ。」
「それほどに強力な術ですからな。しかしやはり、夜一殿には相性が悪いとも言えます。」
「強力だが、力を消耗しやすいしのう。中心に据えるべきではないわ。儂の装備を粉々にしてやった所は褒めてやってもいいぞ。」
「あ、ありがとうございます・・・。」
ここまで転移術を使ったことは今までなかったせいで、思った以上にしんどく、戦闘の中心に据えるべきではないことが分かった。
それだけでも収穫と言えるだろう。これに気付かず藍染戦で使いまくっていたら、ガチで死んでいた。
だが、夜一にとっては別の問題が生じていた。
「儂の手甲を粉々にするとは・・・。喜助の努力も虚しいことよ。」
「えっ嘘!結構ガチでやばい感じですか!?」
「何、構わん。喜助の技術力に文句を言えばいい話じゃ。石を転移されても斬れない装備ぐらいあ奴なら容易く作れるわ!なっはっはっは!!!」
「貴女が勝手に誇らしくなってどうするんですか・・・。」
今日の実戦で課題を見つけることは出来たが、これを何とか改善することは出来るのだろうか。
七緒の報告を聞いたところでは、もうあまり時間はない。向こうの体制が整っている以上現世侵攻を今すぐ始める可能性だってある。
虚圏での護廷十三隊や現世の人間の状況もまだ報告が来ていないのでどうなっているか分からない。
俯いて不安になっていた所で、京楽が思わぬ提案をした。
「しばらくボクが相手してあげようか。ボクもあの転移術には興味あるから実際に戦ってみたいなァ。」
「えっ、いやでも・・・。」
「鬼道の途中に織り交ぜるくらいならそんなに疲れないでしょ。暇だから相手してあげるよ。」
「暇って・・・それ七緒さんの前では言っちゃダメですよ・・・。」
こちらの体力のせいで相手にならない夜一と徒に戦うより、京楽と実戦で鬼道の練習をした方がまだいいかもしれない。
隊長の嬉しい誘いを断るつもりもないので、喜んで承諾した。
「はい、わかりました!よろしくお願いします。」
藍染との決戦まで、あと五日。