「よーし!じゃあ今日は、俺もちょっと本気を出してみようかな!」
「へぇ~浮竹がやる気になるなんて珍しいね。」
「最近俺はすこぶる体調が良いからな!」
「・・・・・・今日、死ぬかも・・・。」
この前の実戦から三日過ぎた。そしてその間に地下空間の外は、それなりに忙しくなっていた。
浦原喜助の転界結柱の準備のため握菱鉄裁は現世に帰ることになってしまった。
だが、一月で彼から得た技術はしっかりと隼人の身体に刻み込まれている。
「私は柱自体の力の維持を支援するために残念ながら戦闘に参加することは出来ませぬ。ですが私の持ちうる技術は全て貴殿が受け継いでおります。貴殿が戦うことは私が戦うことと同義!・・・・・・空座町を、黒崎殿の友人、家族を任せましたぞ。」
「!!・・・・・・はいっ!!!」
一ヶ月間ずっと修行をし、褒められることが多かったが、時にはかなり厳しいことも言われた。
夜一に対し転移の力が全く通用せず、自分の未熟さが悔しくなることもあった。
それでも、最後の鉄裁の激励は、身を奮い立たせるには十分。
ぶっちゃけ涙腺が緩みかけた。
そしてそのついでかどうかは分からないが、あれから歩法の面で再び修行に付き添ってくれた夜一も現世に帰ると伝えた。
「おぬしが壊した装甲を新たに作ってもらわねばならぬ。喜助に何を言われるか楽しみじゃのう・・・。」
「べらぼうな金額は払えませんよ・・・。」
「なら体で払え!!」
「絶対嫌です!」
結局最後もいつもの我儘ばかりの夜一だった。
もちろん鉄裁も。昔と何も変わらない。だからこそ、隼人は二人にお礼を伝えた後に、つい口走ってしまった。
「もう、突然、いなくなったり、しないで下さいね。」
「・・・、」
「・・・、」
「だってあの時は、さよならもなしに皆、突然消えちゃいましたから。だから・・・・・・、」
「戦いが終わったら、また昔みたいに皆で一緒に過ごしたいです。」
すこし詰まりながら呟いたその言葉は夜一や鉄裁よりも、100年もの間ずっと瀞霊廷で隼人を見守っていた京楽に一番驚きを感じさせるものだった。
悪夢にうなされたり、思い出すだけで今にも壊れそうな顔をしていた隼人が、今度こそ本当の本当にあの日の事件について自分からしっかり口に出せたように見えた。
この決戦に虚化した隊長格が来るかは分からないが、一種の展望を京楽は感じることができた。
いい大人がこんな子供じみた願望を口にして情けないと思われたかもしれない。
腑抜けた事を言うな馬鹿者!と怒られるかもしれない。
でも、あの頃を思い出してつい口走ってしまった。
今までは思い出しても心の中にストッパーがあった。特に夜一達現世に逃亡した者達の前では絶対にあの事件を悪い意味で思い出させるような事を言ってはいけないと思い込んでいた。
現世に帰ると聞いて本能的に怖くなったのか。
はたまた、戦いに勝ち、再び会えると確信したからか。
旅禍騒動が終わってから無自覚のうちに、少しずつ昔の感情を取り戻しつつあったのだ。
「おぬしが出るまでもない!儂と喜助が藍染を止めるに決まっておる!」
「ボク・・・っていうか、護廷十三隊を忘れちゃダメだよ夜一ちゃん。でも・・・隼人クンが戦うまでもなく、終わらせられるといいね。」
「そうですな。」
「お二人とも、今日までありがとうございます。これからは京楽隊長と修行頑張るので!」
そして、二人は現世へと帰っていった。
それから三日過ぎ、珍しくやる気満々の浮竹を京楽が連れてきて稽古をつけてやると言われ、今に至る。
だが、真央霊術院を卒業した初めての隊長二人相手に、たかが一隊の三席一人はいくら何でも厳しいのではないか。というか、こんなシチュエーション今まで何回あっただろうか。
それだけ修行に恵まれていると言えば耳の良い話だが、過重な修行になるのではないかと常日頃ビクビクしている。体を壊していないどころか、ここまで全く出血していないのは奇跡と言えるだろう。
それだけ、躱す力をつけてきた。
・・・でもあの二人は厳しいよ。それが本音だ。
それ故かどうかは分かりかねるが、、明らかにビクビクしている隼人を見かねた京楽は、救済策を出してくれた。
「でも、最初から一気に二人で戦うのも無作法だから、最初は浮竹が一人で戦いなよ。」
「何言ってるんだ京楽。二人まとめてかかった方が「そうですね!!その方向でいきましょうか!!」
「おおおぉ・・・わかった。」
普段見せない、というか初めて人に見せる覇気のある顔で、要求を呑んでもらうことに成功した。
浮竹はまだ話を聞いてくれるので他の隊長より融通効きやすいのが非常にありがたい。
「京楽と二人がかりなら始解しないで相手になろうと思っていたが、一人なら仕方ないな。」
「えっ。」
「本気でいくぞ。――波悉く我が盾となれ 雷悉く我が刃となれ 『双魚理』――」
二刀一対の浮竹の始解は、京楽の物とは違い、二刀の柄が縄で繋がれている。
ただそれだけのように見えた。
「始解の能力は一体・・・。」
「さあな。
(!)
これは浮竹なりのヒントだ。隼人の方から攻撃したら何かまずいことが起こる可能性がある。
範囲型の始解か。敵の攻撃動作を見て神経を操り麻痺させる能力だとしたら打つ手は無くなる。
だが、その場合の戦い方もしっかり心得ている。
周囲を見て手近な道具を探す。
次の瞬間、ヒュンと小さな音が鳴るとともに浮竹の周囲に彼の身長を優に超える岩が設置された。
(目くらましか・・・。)
こうすれば始解の力を向けられる確率は低くなる。
そして、隼人は先ほどの岩の転移で唯一穴を開けざるをえない空間を生んでしまったが、それも織り込み済みだ。
浮竹の頭上に瞬歩で移動し、破道を打ち込む。
「双蓮蒼火墜!!」
浮竹に自身の居場所を特定されたが、逃げ道が無いため、躱すことも出来ない。
それに、今の破道は急繕いの縛道で防がれる程の威力設定にしていない。
向こうが始解するならこっちもそれなりに本気で行かせてもらう。というか、本気で行かないと負けちゃうし。
だが浮竹は、隼人の破道を見て
(!?)
少し訝しんだ隼人を見ながら、浮竹は自身の斬魄刀を頭上に掲げる。
隼人の破道が斬魄刀に触れた途端、その炎は
「えっうそ!マジか!吸収されちゃった・・・。」
「俺の力、理解出来たかい?」
「その力・・・鬼道に対して強すぎません?」
「はははっ!確かに言われてみればそうだな。」
空中で足場を作り未だ岩に囲まれている浮竹と話して思考する時間を作る。
能力の吸収が力だとすれば、吸収限界がある筈だ。それを狙うか?
しかし浮竹の霊圧から考えれば吸収限界を狙う前にこちらが力尽きる。
だが、それ以上に気になることがもう一つ。
「僕のさっきの鬼道・・・どこに行ったんですか?」
「ああ、それか。実はな。」
まるで霊術院で教鞭をとっている時のような口調で呟いた後、浮竹は岩に斬魄刀を向ける。
先ほどの破道と全く同じ威力の物が浮竹の斬魄刀から放たれた。
折角目くらましのために設置した岩が台無しだ。
(吸収した攻撃を跳ね返す能力か・・・。)
だが、浮竹の能力は当初の予想をはるかに超える厄介なものであることは理解できた。
鬼道主体の隼人では、
そのため、タイマンで直接鬼道を打ち込む戦法はジリ貧と化してしまい、負け試合確定。
縛道で行動をある程度封じたとしても、斬魄刀を鬼道に向けることは出来るだろう。
ならばこれしかない。
「破道の七十八 斬華輪!!!」
手を擦り合わせて生み出す鬼道の刃は、今回は清浄塔居林の時とは違い三十程の数に減らす。
その代わり、一つ一つの刃をしっかり制御した。
浮竹の刀に当てず直接体に打ち込んでしまえば跳ね返される必要もない。
一部の刃が不自然な軌道を描いているのに気付き、浮竹は苦虫を嚙み潰したような顔をする。
今度こそダメージを与えられた筈だ。
「全く・・・。隼人クンも容赦ないね。」
「京楽!」
「え・・・ええーー!!!ここで介入してきちゃうんですか!?せっかくいい所だったのに・・・。」
浮竹の背後に瞬時に移動した京楽が、背後を狙った刃全てを斬り払ってしまったようだ。
だが、京楽は抜け目ない浮竹のやり方をしっかりと隼人に伝え自惚れを窘める。
「いい所かい・・・。浮竹は断空で身体を囲ってたからどっちにしろ全部無効だよ?」
(!!)
今の一瞬で身体を囲うように断空か。相当えぐいことをする。
「それじゃあこれからは、二対一でいこうか。隼人クンも本気出してきたっぽそうだし。」
「え・・・ちょ、早すぎじゃないですか?」
「遅いよ。」
(!)
今の一言は耳元で囁かれた。
右耳に直接響いた音から京楽の存在を警戒し、左に移動しつつ後ろを警戒する。
だが、連携の恐ろしさはこんな物ではない。
何故か向かった先に浮竹が移動しており、鬼道を放とうとしているのに気付くのが遅れてしまった。
というか、放たれてしまった。
「縛道の四 這縄!!」
縄状の霊子が京楽を避けた隼人をまさに捕まえようとしたが、寸での所でこちらも同じ縛道を打ち、相殺に成功した。
(あっぶねぇ~~!!!つーかやっぱ、容赦無さすぎ・・・。)
地面に着地しようとしたが、影鬼の存在を思い出して空中に足場を作る。
二対一の線鬼は味方陣営に却って不利な状況をもたらしかねないので、今回は前より京楽の力は厄介にはならないだろう。
「二対一・・・やっぱきついですね。」
「即席の連携、上手くいったな。」
「これもボク達の長年の付き合いがあるからこそ出来る技だよね~~浮竹ぇ。」
「そんな事ないだろ、というか気持ち悪い言い方するな京楽!」と浮竹は不服そうだが、長年の付き合い故に為せる連携はピッタリすぎて、今は敵の立場であるにも関わらず、危険というよりむしろ羨ましく感じた。
自分もずっと拳西と仕事とか一緒にしていればこんな連携の練習とかしてより強くなれたかもしれないのになぁ。とつい無いものねだりをしてしまう。
いかんいかん、実戦の途中で余計な事を考えるな。
ここで頑張れば最終的な結果として、本当にさっき考えたことが実現するかもしれないのだ。
態勢を整え、次の一手に賭ける。
連携になってしまった以上、完全に動きが読めなくなってしまったため、しばらくは攻撃を躱すことに集中する。
かがんだり身体を捻ったりして躱すだけでなく、どうしても厳しい時は転移術を織り交ぜて自身と相手の間に岩を置き、攻撃そのものを弱体化させて流血しない程度にするなど柔軟なやり方で二人の猛攻を受け流す。
隠れようかと考えたが、あの二人の霊圧知覚ではすぐに見つけられてしまうため、意味がない。
かれこれ数十分はこの状態が続いていた。
「隼人君は体力があるんだな。すっと躱していても動きに乱れが無い。」
「えっ・・・初めて言われました。」
浮竹が作った隼人の油断を京楽は巧妙に使う。
空中に足場を作っていたが、どんどん高度が下がり地面に近付いていたため、
影送りの力で残像を残した京楽は、さらに影鬼を使い、ノーリスクで背後を取った。
漆黒の刃と共に京楽は姿を現し、隼人は背後からなす術もなく斬られる。
霊覚の鋭い隼人は影送りという具体的な技名までは分かっていなかったが、今浮竹の隣にいる京楽が本物でないことは推測出来た。
本来霊覚が鋭ければ鋭い程影送りの効果は上がるものだが、藍染との一件からむしろ霊覚一辺倒になってはいけないと考え、どれ程戦闘中に熱が入っても視覚で物を見ることを決して止めない訓練も行っていた。
影送りは強い霊覚で見る者ほど、強い残像を残す。だからこそ京楽はこの技を使ったが、この手の対策を取られれば効果は減少してしまう。
無意識の死神の行動を矯正することは難しく、実際今も完璧とは言えないが、京楽の巧妙すぎる策を見抜くことはギリギリ出来た。
だからこそ絶妙なタイミングで岩を隼人の背後に転移させ、
京楽の刃はただ岩を刺すだけで、隼人の身体を貫くことは出来なかった。
賭けに近い戦術だったため、実行した隼人が一番驚いていた。
「外しちゃったか・・・って、ちょっとちょっと、自分の行動に自分で驚いてどうすんのさ。」
「えっいや・・・上手くいくとは思ってなかったので・・・。っていうかやっぱ京楽隊長の力ずるですよ。
「視覚で見られちゃあボクの影意味ないじゃん。何だ損した~。」
京楽は少し不満そうというか、拗ねたような顔をしていたが、対照的に浮竹は晴れ晴れとした表情を浮かべていた。
「握菱鉄裁はすごいな。三席の男の子をたった二ヶ月程で隊長格に匹敵する実力に育て上げるとは・・・。」
「お、男の子って年じゃないです、恥ずかしいですよ・・・。」
「元々才能あったよ。浦原クンと六車クンお墨付きの子だしね~。」
そう言われると嬉しいっちゃ嬉しいが、京楽と浮竹の言い方に調子を崩される。
二人ともおじさんだからか、今になって子ども扱いされると凄くこそばゆい。
彼らにとってはいつまでも子どもだと言うのか。
納得いかない表情をしていたが、そう思われても仕方ない振る舞いをしていることに無自覚なため、受け入れる筈もない。
自分が大人だと言い張るうちはまだまだ子どもだと一向に気付かない隼人は汚名返上をするために鬼道を練っていたが、二人に窘められてしまった。
「もう十分だよ。今日は終わりにしよう。」
「時間はないが、だからこそ休むことも大事だ。毎日京楽と修行しているからこそ今日は終わりでいいんじゃないかな?隼人君がこんなに強くなっているとは、俺も驚いたぞ。」
「うぅ・・・ちょっと悔しいけど仕方ないですね。」
これも大人の貫禄を見せつけられたかのようでやっぱり悔しい。
でも浮竹からフォローされてちょっと嬉しくなっているのも事実だ。
二人と一緒に修行場から出て外の空気を吸いつつ散歩していると、この前うっかり起きた事件の当事者である七緒が京楽を待ち構えていた。
「京楽隊長、浮竹隊長、至急隊舎にお戻り下さい。」
「・・・・・・そろそろかい、七緒ちゃん。」
「はい・・・。」
「わかった。俺もすぐ向かうよ。」
瞬歩でその場を離れた浮竹は消え、京楽もそのまま歩いて行った。
それじゃあ僕も隊舎に・・・と思いつつ隼人も七番隊に向かおうとしたら、七緒に呼び止められてしまった。
「口囃子さん。ちょっと・・・。」
「えっあ、はい。何でしょうか?」
「あの時は・・・あんな事してすみませんでした。私も、ちょっとやり過ぎたとは思っていたのですが・・・ちょっと・・・。」
決して目を合わせようとしない七緒は謝罪こそすれどもまだちょっと声音に棘がある。
「いえ、別に僕は怒ってないので大丈夫ですよ。無理しないで下さい。」
「むっ無理なんかしてません!」
「男の裸見て怒っちゃうのは免疫無いのかなと思いましたけどね・・・。」
「わっ私は決してそんなことは「えーっとですね、七緒さん。」
「そういう時に怒っちゃう七緒さんの方が貴女らしくて好きですよ。」
じゃ、失礼しますと言い隼人はそのまま歩いて七番隊に向かっていった。
対して七緒は、京楽以外の異性から初めて好きと言われ、経験したことの無い感情にひどく当惑していた。
「わ・・・私は、別、に・・・。」
現世のドラマみたいにキザな台詞ではない。
月並みで平凡なありふれた言葉だ。
こんな言葉をかけられても恋多き女ならまったく靡いたりしないだろう。
松本あたりには「無いわ~~無い無い!!!」としかめっ面で否定されるだろう。
見た目も地味で今まで意識すらしたことなかった。
でも、七緒はしっかりと頬を朱に染め、書類を抱えて俯くほどには先ほど気遣ってくれた青年をカッコいいと思ってしまっていた。
相談に乗ってあげていた時は、いかにもなヘタレ男子でいつも叱ったりしてお姉さん面をしていたが、ふとみせてきた彼の男の姿に誰にも感じたことの無いときめきを覚えていた。
そしてその様子を木陰から見ていた者が一人いた。
「隼人クン・・・許せないなァ。」
先ほどまで隼人を子ども扱いしていた京楽は、そういう意味で立派な男へと成長していた青年に、霊術院時代の頃と同じくライバル心剥き出しでしっかりと目に焔を浮かべていた。
ミシミシと音を鳴らしながら木の幹を掴んでいる。
藍染との決戦まで、あと一日。