夜一の瞬歩講習会で体力不足がわかり、勉強のほか鍛錬も初めてから5年ほど経った。
だが、字の読み書きのように上手くはいかず、歯がゆい思いをする日々が続いていた。
たまたまこの日は現世でいう日曜日の日で、どの隊も名目上休日となっていた(もちろん有事の際はすぐ出られるよう気を抜いてはいないが)ため、いつまでも体力面で成長が見られない隼人の改善に隊長など数名が駆けつけてくれた。
いつも鍛錬に付き添っている拳西、白、夜一の他、白哉、浦原、鉄裁、ハッチ、京楽、浮竹が朽木邸に集まっていた。数名は完全に面白い物見たさで来ているが、錚々たる顔ぶれである。
「いやーーー。子ども二人の鍛錬にこんなに隊長格の方々がいらっしゃるなんてねぇ。口囃子サン、朽木サン、相当幸せ者ッスよ。」
「・・・正直何されるかわからなくて怖いんですけど・・・。」
「皆サンすごく血気盛んデスね・・・。ワタシついていけないデス・・・。」
いつも鍛錬相手をしている拳西、白、夜一、が今日こそ成長させてやるぞと燃えている中、
「ボクと浮竹はただ見てるだけだから気にしなくていいよ。いい酒の肴になるだろうし。」
「京楽!休みの日だからって昼前から酒を呑むのはよくないぞ。どうせ聞いてないだろうけど・・・。」
「いいじゃん別に。浮竹も修行風景楽しそうに見てるのボク知ってるんだから~。」
「俺はこういう鍛錬を見るのが元々好きだからな。」
どうやらこの中で最も先達の方々はただのギャラリーらしい。正直彼ら相手に数秒も持つ気がしないので隼人は安心した。笑顔で容赦無いことしそうだし。
そして、隼人には今日集まったメンツの中にまだ会ったことの無い者がいた。
錫杖を持ち、眼鏡をかけた長身の男、
「あの・・・。この人って・・・。」
「鬼道衆総帥の握菱鉄裁サンッス。夜一サンの屋敷にたまたま来ていたので一緒に来てもらいましたよ。」
「そっそんなすごい方がわざわざ!?ひぃえええありがとうございます!!口囃子隼人です!よろしくお願いします!!!」
「よろしくお願いしますぞ。隼人殿。」
相変わらずの過剰な表現でお礼と挨拶を言った後に、最初は拳西と白を相手に斬術の鍛錬を始めることにした。
基本的にはまず剣道の練習を行っており、剣の扱い方、相手との間合いの詰め方、素振りなどを中心に行ってきたが、どうも普通の子どもよりも成長が遅いのが悩みであった。
今日は、10分以内に武器を一切持たない拳西に木刀を当てることを目標にした。
もちろん今まで掠りもしたことがないのだが。
「おらっ始めるぞ!今日こそ当てるんだぞ。」
「今まで頑張ってきましたもん!それに皆さん見てますし!こんな所で恥ずかしい思いはしませんよ!」
「へっその意気だ。よしこい!!」
「よーーーーい、はじめーーーーっ!!!」
白の甲高いハイテンションな声で10分の鍛錬は幕を開けた。
案の定今日も掠りもせず、隼人の木刀は振るっても振るっても拳西に全て躱されていた。
だが、拳西はここ最近の隼人の成長を躱しながらも明確に感じ取っていた。
「(大分動きが良くなってるな・・・。それに太刀一つ一つも重くなってやがる。)」
鍛錬を何度か見に行っていた夜一や浮竹なども同様に感じていた。
「隼人君、前よりだいぶ動き良くなってるね。」
「ああ。六車も最初は大分手加減しておったがちょっとずつ加減せんようにしておる。」
「えっあれで六車サン手加減してたんスか?本気出したら凄そうッスね・・・。」
「ま、さすがに隊長が本気出したら大人げないしね。俺でも普通に躱せるよ。」
「最初の頃の隼人は本当にお粗末だったしのう。よう頑張っておるわ。」
などと観客達が分析しているところで、
「10分経過ー!しゅーーーーーりょーーーーー!」
白の掛け声とともにひとまず拳西との一回目の対決は終わった。
その後も白と拳西二人が交代で相手をしてくれたが、一回も掠りもしなかった。
約一時間半ぶっ通しで斬術の鍛錬を終えた時には、かなり体力を使っていた。
別の区画で鍛錬していた白哉も休憩で戻ってきたので、一緒に休憩することにした。
「あぁ~お腹空いた~~~。白哉さんは鍛錬の方どうですか?」
「素晴らしい経験だ!大鬼道長と副鬼道長二人が直接鬼道を教えて下さるなんて若輩者の私には恐れ多いものだ!」
「へぇ~。そうなんですね!鬼道ってまだ何もやったことないから僕何にもわからないんですよ。今日から教えてくれるらしいですけど・・・。」
「何と!鬼道衆の長二人に一から鬼道の手ほどきを受けるとは!卿は本当に恵まれているな!」
「そうなんですか?でも僕才能あるかわからないので・・・。」
白哉とはあれから何度か共に鍛錬を重ね、隼人にとっていい鍛錬仲間になっていた。
もちろん生まれが貴族の白哉とは霊力や斬拳走鬼の能力に歴然とした差はあるが、だからといって変に驕ることもなく、合わせるところはしっかり合わせてくれる。
年の近い兄弟のような関係になったのを見て、祖父の
休憩中に談笑をしている中、隼人は若干卑屈になったものの、今まで感じることのなかった気配を感じた。
「あれっ・・・曳舟隊長って来てましたっけ?」
「いや・・・。今日屋敷の中では私は見ていないが・・・。」
「うーん何か気配を感じます・・・。白哉さんはどうですか?」
「特には感じないが・・・。隼人は分かるのか?」
「あっちの方にいると思うんです!行ってみましょう!」
池を挟んだもう一つの広い区画の庭の方に気配を感じた隼人は、白哉を連れて庭の橋を渡り、気配を辿ってみた。
すると、最初に集まった隊長たちの中に十二番隊隊長・
どうやら鍛錬の話を聞きつけた彼女が、炊き出しを行うために来てくれたようだ。
「おぅお前ら!曳舟隊長が飯作って来てくれたから飯にするぞ!ちゃんと手洗えよ。」
「はーい!ほらやっぱり曳舟隊長でしたよ!」
「すごいな!私にはまだわからなかった・・・。」
子ども二人がコソコソ喋っているのを怪訝に思った拳西は、隠し事をされるのが嫌いなので直接聞くことにした。
「何コソコソ喋ってんだ。」
「いえ。大したことではないのですが、先ほどあちらの縁側で私たちが休んでいた時に隼人が曳舟隊長の気配がすると言って・・・。」
「!!!!!」
瞬時に隊長格全員の顔色が変わった。
中でも一番驚いていたのは気配を感じられた本人である曳舟であった。
「隼人ちゃん、アタシがいるってことがわかったのかい・・・?」
「いや・・・。はっきりとではないんですけど何となく・・・?」
「参ったねえ。アタシは別に霊圧わざと出してたわけじゃないんだけどね・・・。」
「えっ・・・。何か悪いことでもしましたか!?すいません!」
「いや別にお前は悪いことは何もしてねぇぞ。」
拳西が謝る隼人を止めつつも頭の中では完全に隼人に対する評価が変わっていた。
「(霊術院に入る前から席官並みの霊圧知覚持ちかよ・・・!いや、探知が下手な副隊長よりも出来てるぐらいだぞ!このペースで育ったらとんでもねぇことになるんじゃ・・・?)」
霊圧を感じ取る感覚を『霊覚』または『霊圧知覚』といい、霊圧を以て戦う死神、虚、滅却師などは皆持っている。
しかし、この能力は個人差が非常に強く、秀でた者はかなり遠くまで知覚できるが、能力に劣る者は全く知覚できない、とバラつきが強い。
上位席官でも上手く扱うことは難しく、副隊長ですら上手く扱えない者がいるくらいの能力の成長への片鱗を見せた隼人に、居合わせた隊長格は評価を改めることとなった。
だがこの能力はかなり限定的なものなので、疑問に思う者もいた。
「しかし霊圧知覚に秀でていたとしてものう・・・。あまり実戦で役に立つとは思えぬが・・・。」
「遠くからの闇討ちには向いてるんじゃないかい?ボクなら双蓮蒼火墜を応用させて狙撃とかやってみたいな・・・前線に出ないで済むし。」
「だがそこまで鬼道を応用できるようになるには十三隊に入ってからかなり時間がかかるぞ。」
「鬼道衆に入った優秀な者でも数十年はかかりますな・・・。」
夜一、京楽、浮竹、テッサイが順に意見を述べ真剣に議論を重ねる中で議論の的となった者はお腹を空かしてしびれを切らしてしまった。
「あの・・・。ご飯食べません?もう僕お腹すいて死にそうです・・・。」
「そうだね!せっかくアタシが作ったご飯を冷ますなんて良くないよ!ほら二人ともおいでおいで!」
「アタシもお腹空いたから食べる~~~!!!」
子ども二人(+白)が曳舟の元に行きご飯を食べ始めたのを見て、真剣に議論していた隊長たちも一旦は休憩をとることにした。
「二人ともいい食べっぷりだったよ~!昼からの鍛錬も頑張ってね!」
曳舟が二人を激励しつつ去っていったあと、隼人は昼からの鍛錬で初めて鬼道を扱うこととなった。
「鬼道は決まった言霊を詠唱し、それに対応した術名を叫ぶことで術が発動する、まぁ呪術のようなものですな。破道、縛道、回道の3つがありまして、簡単に言ってしまえば攻撃用、補助用、回復用と役目が分かれているのですぞ。」
「それって3つ使えるようにならないと死神になれないんですか?」
「そんなことはございマセン。回道は扱いが難しく、四番隊の方ぐらいしか上手く扱えないのでアナタが得意だと思った鬼道を極めるほうがワタシはいいと思いマス。」
まずは鬼道衆の二人から知識としての鬼道を教わった。
呪術と言われて正直ピンと来なかったが、手のひらから火の玉を出すものなのかな?白哉さんもやっていたしそれなら出来そうかもなどと漠然と考えていた。
「ではこちらが詠唱する言霊と対応した術デス。いずれは全部覚えてもらいマスヨ?」
「うえっ!!こんなに!!」
「嘘デス。個人の限界もあるので最終的には六十番台まで覚えて使いこなせると副隊長程度であれば問題ないデスヨ。」
「でも三分の二は覚えないといけないんですね・・・。」
紙で鬼道の表を渡されたが、九十九×2個もあるのをいきなり全部覚えるのは子どもの隼人には至難の業だ。
「『自壊せよ ロンダニーニの黒犬 一読し・焼き払い・・・』って何か難しい!っていうかロンダニーニの黒犬って何ですか拳西さん!」
「知らねぇ。作ったヤツに聞け。」
「えぇ~~!」
「いいから余計なこと気にすんな!とにかくやってみろ!」
(振られなくて良かった・・・。)と他の隊長格が安心している中で、ついに鬼道を初めて使うこととなった。
「自壊せよ! ロンダニーニの黒犬 一読し・焼き払い・自ら喉を掻き切るがいい!」
一息に最初の言霊を詠唱した後、隼人は集中して縛道の技名を叫んだ。
「縛道の九 撃!!!」
技名を叫んだ瞬間、対象の岩の周りに赤い光が出現し、岩を縛り付けた。
どうやら暴発も消滅もしていないようなので成功したらしい。
「おぉ~~!!できた!できましたよ!拳西さん今の見てました!?」
「初めてにしては上出来じゃねぇか。これならもっと難しいヤツも出来るかもしれねぇな。」
「なら赤火砲がいいんじゃないかな?あれなら霊術院の一年目の演習で使うし。」
三十番台の鬼道をそんな簡単に扱えるのか?と隼人は思ったが、とりあえず詠唱を覚えることにした。
また覚えている最中に「君臨者って誰ですか!?拳西さん!」などと聞いたが今度は無視された。
いい加減そんなところ気にするなよ・・・。とは誰も言えなかったのだが。
今度は遠くの的に向けて当てるようテッサイに言われ、実践してみることにした。
「――――君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠する者よ
焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ!
破道の三十一 赤火砲!!!」
びゅーーーん!!と手から火の玉を発射したが、またも周りにいた隊長格を驚かせることとなった。
初めて使う場合、手のひら大の大きさの火の玉を制御出来れば十分素質があると認められるが、隼人の場合目の前に手を重ねた状態で発動させたとはいえ、自分の体格以上の大きさの火の玉を生み出し、発射していた。
しかも、しっかり的に当てたため暴走させずに制御できており、現時点でかなり優秀な実力を持っていることが分かった。
「出来た!出来ましたよ!やったーーーー!」
「お前すげぇな!俺でも最初はこんなに上手く扱えなかったぞ!」
拳西が鬼道に成功した隼人を若干親バカ補正の入った目で褒め、頭をなでてやっている横で、他の大人たちも感心していた。
「何だか面白い育ち方しそうだね~。隼人クン。」
「ああ。護廷十三隊に入ったらかなり珍しい能力の死神になるんじゃないか?」
先達ギャラリー二人と共に、鬼道衆の二人も隼人の将来に期待していた。
「鬼道衆にも是非入ってほしいデスネ。霊圧知覚に優れた者は少ないデスシ・・・。」
「戦闘補助要員としては替えの効かない存在となるでしょうな。前線には向いてないかもしれませぬが隼人殿は将来有望ですぞ。」
初めての赤火砲を見事に決めて、まるでプレゼントを買ってもらって喜んでいる子どものようにはしゃいでいた隼人を、大人たちは期待をこめて見守っていた。
ただ、浦原喜助が隼人を研究対象として興味深く感じるとともに、少し不安を抱いていたとわかるのは彼らが現世に追放された後の話である。
「今日の鍛錬は終わりっ!はやちんもびゃっくんもお疲れ様ーーー!!!」
「びゃっくんって・・・。すごいあだ名・・・。」
この時付けられたあだ名を、後々小さな死神がなぜか全く同じあだ名で白哉を呼び、彼女の蛮行に悩まされることになるのは誰も知らない。
「今日一日で得たモンはバカみてぇにあるはずだからしっかり忘れんなよ!」
「継続が大事じゃ。やることは増えるじゃろうが一つ一つ手を抜いたら霊術院など入れぬと思え!」
「はい!!」
拳西と夜一が二人を 咤激励し、ほぼ一日がかりの鍛錬は終わりを迎えた。
今までの鍛錬はどうも苦手分野ばかり集中してやっていたからか、自分の才能は無いのではないかと悲観的になることもあった。
でも、鬼道の腕前を褒められ、それを自分の武器にすれば死神になれると気付けた。
未来に希望が見え、ワクワクしていた中で、突然肩をつんつんと指で突かれた。
「隼人殿、少しよろしいですかな・・・?」
「!!!!!!」
鉄裁がしゃがんで肩を突いたため、振り向いた瞬間に間近で顔を見ることとなり、かなり迫力があってびっくりしたが、何とか声を出すのをこらえた。
「こちら、よろしければ霊術院で使う鬼道の教本を差し上げましょう。どうやら才能があるようなので闇雲に鬼道を打つよりはこういった本で基礎を学ぶのがよろしいかと。私が使っていたものなので少々古いですが・・・。」
鉄裁が渡したものは、彼本人が使った真央霊術院の鬼道の教本だった。6年分あり、古いものの中を見ると彼の書き込みが随所に存在し、ただの教本とは比べ物にならないくらい分かりやすいものとなっていた。
「そんな!受け取れません!こんな素晴らしいもの・・・。」
「元々貴方か朽木殿に傑出した鬼道の才があれば渡すつもりでしたぞ。朽木殿はある程度鬼道を完成なさっている故、これから本格的に学ぶ貴方に渡した方が役に立つと思いますな。」
「いやでも白哉さんの方が「受 け 取 っ て く れ ま す か な ?」
「あっ・・・。はい・・・。頂きます・・・。」
有無を言わせぬ鉄裁の表情にこれ以上粘ることもできず、二人の秘密の闇取引は成立した。
後で拳西に何を貰ったのか聞かれたが、鉄裁に口外しないよう合図されたので、
「おすすめの本です!」
と真実を交えた嘘でその場は取り繕った。
「しかし隼人に鬼道の才があるとはな。これなら最初からソッチをやらせれば良かったな。」
「拳西が見抜けないのが悪いんだよ!やーーーい視野狭い~~~!!」
「んだとぉ!!!!てめぇ!!!!」
「まぁまぁ落ち着いて下さい拳西さん!」
「子どもに止めさせるなんてダサ~~~い!!拳西の怒りんぼう!!!」
「・・・・・・・!!!!!!」
「白お姉さんもそんなに言わないで下さいよ・・・。」
隊内とは違い休日の帰り道なので拳西抑え役の男性隊士がいないため、隼人が何とか抑えていた。しかし、こめかみに青筋をビキビキと立てる拳西を抑えるのはこんなにも大変なのか、と彼らを心の中で賞賛していた。
「・・・・・・鬼道ばっかやって斬術と白打おろそかにすんじゃねぇぞ。」
「えっ・・・あ、はい!そうですね・・・。」
「どっちにしろ苦手分野は克服しねぇとな。お前の今の実力は斬術も白打も霊術院じゃ通用しねぇ段階だぞ。初めの頃よりは良いがまだ振りも遅せぇし姿勢も崩れちまってるしな。」
「そんなに言わないでくださいよ・・・。」
折角一日頑張ったのに最後にしょげた状態で終わらせるのも良くないかと思った拳西は、本人は全く気付いてないが普段決して見せない優しさを少しずつ見せるようになっていた。
「・・・まぁ時間はたくさんあるから明日からも空いてる時間で鍛錬するぞ!励めよ!」
「もちろんです!頑張りましょう!」
「アタシも応援してるよ~!おはぎ買って持ってくるね!」
相変わらずおはぎ命な白は置いといて、また明日からもいつも通りの日々が始まるのだ。
立ち止まってはいけない。
死神になるためには苦手な斬術と白打も身につけねば、と気持ちを引き締め生きていくことを決意した。
気付いたらびゃっくん完全にメインキャラ化してますね・・・。