ついに浦原喜助の策に目処がついたという報告が来たため、残った隊長は皆隊舎で報告を受けたあと、一番隊舎に集まることになった。
ただ、まだ護廷十三隊を偽物の空座町に入れるには霊子濃度が整っていないため、実際に空座町に向かうのは明日になるらしい。
というわけで、今日は解散!となったらしい。
最後の大詰めとして再び修行を行う者もいれば、何やら書類を渡され読み込んでいる副隊長達もいる。
隼人はすでに十分修行しており、これ以上やれば明日以降の行動に差し支える可能性があるため後ろめたい思いはあるが、しっかり休むことにした。
疲れ切っていたからか、狛村と射場にも休めと言われたので夕方であるがもう今日は寝よう。
と思っていたら。
自室の扉をトントンと叩く音が聞こえた。
あんまり出たくなかったが、何度もトントンされるのでちょっとイラっとしつつ扉を開けると、修兵、吉良、斑目、綾瀬川が四人揃っていた。
確か特殊任務を与えられた筈だ。
「・・・・・・何。」
「お願いします!浦原さんからもらった書類、俺達には手に負えません!!」
「はぁ?」
あの十一番隊コンビも深々と頭を下げているため、こりゃまたとんでもない文章であるかもしれない。
とりあえず四人を部屋に入れ、渡された書類を見ると、全て血文字で書かれていた。
「皆、ダイイングメッセージみたいってツッコんだだろ。」
無音で四人とも一斉にうなずいた。
頭を抱えざるを得ない。迂闊な隼人でさえ何か意図を感じると思い汚いというツッコミで留めたのだ。
そして聞くところによると、今回も皆ツッコミの才能が無いと書かれ、かなり落ち込んでここに駆け付けたらしい。
どうしても対処できないようでしたら口囃子サンの元に向かってくださ~~~い!!とも最後の頁にこれまた血文字で書かれていた。
十一番隊コンビは別の意味で怯えていたが、話す気にもなれないので放っておいた。
もうこの際、読み聞かせさせれば彼らはこの冊子を見ずに内容理解出来るので、朗読してあげることにした。
「え~~と、何々・・・。『アナタ達には
こんな大事な情報を血文字で書いた浦原の心情が理解できない。
そうなんすか!?と驚く彼らも何だか情けなく見える。
その後は柱の構造などについて書かれていたが、隼人の目で見て特に心配する要素は無いので、彼らが直接目にしても害は無いと思う。
ざっと読んだ限り隼人自身の脳では理解出来なかったので、あとは彼ら自身に頑張って理解してもらおう。
「もうあとは君達が読んでもショック受けないから大丈夫だよ。ほら、帰った帰った。僕は寝るから。おめぇら邪魔すんなよ。」
最後の言葉に意図せず凄みがこもってしまったため修兵と吉良は若干怯えていたが、帰ってくれて部屋も落ち着き、しっかり眠ることが出来た。
翌日。
残っていた隊長格全員が瀞霊廷内で準備をしていた所、再び緊急事態が起きた。
突然、虚圏との通信が途絶えた。
技術開発局の報告なので、もちろん事実。さらに黒腔も閉ざされ、両側から開けることが出来なくなってしまった。
黒腔を完璧に解析しているのは浦原喜助のみなので、向こうにいる死神は幽閉されたも同然だ。
よって、
見事に戦力の分断を図られた。
だが、それでも残った隊長は動揺することは無かった。
彼らが空座町に来れないなら、自分達で止めればいい。
最強の死神である山本総隊長もいるため、問題ない。
隼人は招集のかけられた穿界門まで隊長、副隊長達を見送りに行った。
「おう口囃子!!儂らが藍染を倒してくるけぇ、おどれの出番は無いじゃろ!!」
「気を急くな、鉄左衛門。・・・行ってくる。お前も、役目を果たしてこい。」
「はい!瀞霊廷でお待ちしております!・・・射場ちゃんも、頑張って。」
「押忍!!!」
穿界門の近くにいる総隊長の元へ向かっていく二人は、歴戦の勇士みたいでカッコいい。
仁義を重んじる七番隊のどっしりとした風格を漂わせている。
この二人と一緒に仕事をしてきて良かったと改めて実感できた。
そしてその後やってきた京楽の元にも赴き挨拶をしたが、いつもより様子がおかしい。
「あら隼人クン。悪いけどボク、ちょ~~っと今キミとは話したくないんだ。」
「えっそ、そうですか。失礼をして申し訳ございません。」
「あぁ、いや、そうじゃなくてね。」
「ボクがいない間に七緒ちゃんに手を出したら・・・・・・・・・わかってるよね。」
「は・・・?いや、え・・・?」
昨日実戦の相手をしていた時とは比べ物にならない程の、冷たく鋭い霊圧が身体全体に突き刺さる。
昨日の言葉で七緒がときめいていたことなど全く知らない隼人は、何のことだかさっぱりといった調子だ。
これでも全く気付かないとは・・・と京楽は目の前の青年を末恐ろしい物を見る目で警戒していたが、相変わらずきょとんとした顔のままで無自覚なため、ライバル心を通り越して呆れてしまった。
「あ~もういいよ、今のは忘れて。それじゃあボク達行ってくるから、
「えっあ、はい!御武運を祈っております!」
ヒラヒラと手を振りながら総隊長の元へ向かっていく京楽は、さっきの鋭い霊圧の無いいつも通りの姿だった。
昨日夕方に自宅に来たあの四人は一足先に浦原が空座町に招いたため、この場にはいない。
大前田は「俺様と射場だけが隊長達と招集されてるぜ!!っしゃ~~!!」と盛り上がっていたが、事実を伝えれば相当ショックを受けることは目に見えているため、黙っておく。
「皆の者。準備は出来たかの。」
穿界門の前で総隊長が何やら話をしていたが、遠くで控える隼人には聞こえない。
だが、最後にかけた号令は瀞霊廷中に木霊するかのような迫力を感じた。
「護廷十三隊の名にかけて、何としても藍染を止めるのじゃ!!行くぞ!!!!」
術者が穿界門を開け空座町に向かう予定だった隊長副隊長全員が無事突入に成功した。
穿界門が閉ざされる。
(どうか・・・ご無事で・・・。)
斬魄刀と首から提げたお守りに祈りを捧げつつ、次は一番隊隊舎に向かう。
瀞霊廷の中心に最も近い隊舎で七緒とやちるが結界の準備などをしていた。
ちなみにやちるはただの応援みたいになっている。
七緒と一番隊員が持ってきたお菓子を一人モグモグ食べていた。
「あぁっ!!こばこばだ!!」
「あだ名が変わってる・・・。」
「口囃子さん!どこ行っていたんですか!」
「ごっごめんなさい・・・。」
本来はここで七緒の手伝いをすることになっているが、極秘任務(浦原曰く)を任されているため機を見て抜け出す必要があった。
極秘なのでバレたら大変と浦原に念押しされているので、上手く消えねば。
注意こそ払うが、地味なので大丈夫だろう。
「やちるちゃん・・・お菓子ばっか食べてるとお腹いっぱいにならないの?」
「む~~~!!!お手伝いさぼったこばこばに言われたくない!!」
「そうですよ!むしろ貴方の得意分野じゃないですか!」
「そうでしたね・・・やっぱちょっと手伝わないとダメか・・・。」
こうなったら、手伝いながらじわじわと距離を取って室内から出ていくしかない。
最悪、あの方法を使えばいいし。
「頑張れ頑張れななちん!!いーけーいーけーななちん!」という応援に自身の存在も消えていきそうだ。
これ程地味であることがプラスになるとは、何たる皮肉。
しかし。
伝令神機の着信のせいで、一気に注目を集めることとなってしまった。
ワンコールで取ったが、突然鳴り響く無機質な電子音が注目を集めないワケがない。
画面も見ずにヒソヒソ声でもしもしと応答すれば、あの気の抜ける声の男からの電話だった。
『どぉ~~もぉ~~口囃子サン!!』
「う、浦原さん!!今電話はちょっと・・・。」
そして、その様子を見ていた一人は怪訝に思わずにはいられなかった。
「口囃子さん?・・・何故浦原元隊長と電話を。」
「・・・・・・やっぱり、そうなっちゃいますよね。」
こうなってしまえば隠すことも不可能だ。
伝令神機を一旦閉じて、七緒にこれから行う隼人の役目を洗いざらい伝えることにした。
「一人で、本物の空座町に!?無茶です!」
「大丈夫です。そのために今まで特訓してきましたから。それに、途中までは浦原さんのサポートも入ります。」
これは事実とも嘘とも言える。何せ、電話口でのサポートにすぎないから。
「でっですが、「あくまでも黒崎一護の家族と友人の保護です。藍染は現世の空座町で倒れると信じていますから。危険なことは無いはずです。」
「だったら私も向かいます。共に連れて行って下さい。三席の貴方と共に副隊長の私も向かえば戦力として十分ではないでしょうか。草鹿副隊長でも構いません。貴方一人で行くことは私が認めません。危険です。」
これ程までに身を案じてくれて、正直複雑な思いを感じている。
一緒に行ってくれたらどれほど心強いかは、どんな馬鹿でも分かる程だ。
「・・・ありがとうございます。」
でも、あの場に七緒を連れてゆくことは出来ない。
七緒も井上織姫程ではないが、戦闘向きとは言えない。防御に優れた鬼道の扱いに長けているため、万が一藍染が尸魂界に来てしまえば彼女が先に殺されてしまう可能性がある。
「でも、七緒さんは瀞霊廷にいる方がいいと思うんです。七緒さん程の力があれば、瀞霊廷全域を覆う結界を作ることも容易いじゃないですか。瀞霊廷の守護番人は貴女にしか務まりません。」
「・・・・・・、」
七緒は反論の材料を探したが熱くなっているせいで見つからず、押し黙ってしまう。
「だから、たくさん結界を作って備えていて下さい。」
「で・・・・・・でも「待っていて下さい。」
「僕が必ず、貴女を護ります。」
「約束します。」
それじゃあ行ってきます!と七緒に挨拶し、やちるにも軽く事情を説明して一番隊舎から出る。
一体いつから、彼をヘタレな男だと錯覚していたのだろうか。
暫し呆然として先ほどの青年から言われた言葉を心の中で反芻していた。
『僕が必ず、貴女を護ります。』
『約束します。』
いつものあの男とは違い、非常に頼もしく見えた。
心から信頼してもいい、そう思わずにはいられなかった。
「生きて帰って来なかったら・・・許しませんからね・・・。」
京楽にも伝えたことのない言葉を、初めて他人に呟いた。
『いや~~~~青春っスね~~。』
「何がですか?」
一方の隼人は、今回も全くもって自覚が無かった。京楽に殺されても知らないぞ。
『自覚ナシっスか、こりゃまた・・・黒崎サン並っスよ・・・。』
「いやだから、何がですか?」
『い~~え~!!何でも!では始めましょうか。』
『まずは、伝令神機に送った場所に向かって下さい。』
たったひとりの戦いは幕を開ける。
七緒ちゃんがだんだんとヒロイン化していってますが、やはり京楽の壁は分厚い気がします・・・。