「あの・・・さっき伝令神機閉じた筈なんですけど、何でさっきのやりとり聞いてたんですか?」
『そんなのアタシがちょちょいのちょいっ!!ていじれば簡単っスよ。』
「金輪際盗聴とかしないで下さいね。」
『手厳しいっスね~。』
そんなやり取りを繰り広げつつ流魂街の外れを空中に霊子の足場を作りながら走っていると、段々と尸魂界にふさわしくない建物群が見えてきた。
実際に駐在任務で来たこともないため、見た所では何の変哲もない街だ。
そして隼人はこの街のことを全く知らないため、その情報を得るためにまずは町立図書館に向かうよう書簡で伝えられた。
書簡に書かれた座標に向かい、図書館に辿り着いた所で、ずっと電話を繋いでいた浦原から突然声が聞こえた。
『口囃子サン。始解して現世にいる藍染の霊圧を
「読み続ける・・・?」
『――――――――。こういうことっス。』
「出来るかどうか分かりませんが、やってみます。」
解号を唱え、藍染の霊圧を捕捉しいつものように霊圧を読む。
たった三ヶ月程で彼は信じられない程霊圧が強化されているのを実感し身震いしたが、立ち止まっているわけにはいかない。
「ごめんね。ちょっと今日は力たくさん使うことになるから。」
【大丈夫だよ、こばやし。】
(!!)
信じられない。
今まで具象化のために斬魄刀と対話をしたこともあったが、一度も成功したことは無かった。
だが目の前にいるのは、桃色の現世のジャージを着た、前と変わらない女性だった。
ここにきて具象化ということは、まさか卍解が・・・と思ったが、見透かした彼女は首を横に振る。
【ごめん。今私を屈服させても、こばやしはまだ卍解を使えない。】
「そっか・・・。」
【もう少し待って。力が必要だから。】
(?)
力とは一体何なのか。聞こうとしても答えてくれる雰囲気ではないので、聞くだけ無駄だ。
一先ず図書館に一緒に入り、中の様子を窺う。
図書館で本を読んでいた者や、カウンターで本を貸し出ししていた係の者など、皆揃って眠らされている。
一体此処に呼んだ理由は何かと思いつつ探索していると、新聞の立てかけられた棚の隣の机に、小さな光が点滅した掌以上の大きさの液晶画面の機械が置いてあった。
そこから僅かな霊圧の残滓を感じ取った桃明呪が隼人に伝え、手に持ってみるよう促す。
裏返すと、鉄裁のエプロンに描かれた『浦』マークが印字されていた。
浦原の置き土産だとわかり、中央下にあるボタンを押すと、電話を繋ぐ画面が点いた。
『あ、繋がった繋がった。お久しぶりっス~!』
「さっきまでずっと話してましたけどね・・・。それで何故図書館に?あと何故この機械を置いて行ったんですか?」
『これからアタシと連絡を取り合う時はそのタブレットを使って下さい。色々役立つモノを入れましたので!それと、こちらから一冊、空座町全体が見える地図の本を持ち出して下さい。』
カメラには映っていないものの、話を聞いていた桃明呪がすぐさま本を探しに行った。
最初から場所を分かっていたかどうかは分からないが、すぐに彼女は本を持ってきて頁を開いていた。
【こばやし、これで大丈夫?】
「うん・・・大丈夫!ありがとう。それで浦原さん、次にやることって・・・。」
『空座第一高等学校に印をつけて下さい。』
「わかりました・・・って、いいんですか?」
『問題ないっス。現世に戻るときに消えるようにしたペンなので。』
「分かりました。で、次は?」
『黒崎サンの友人のデータがタブレットの中に入っています。彼らを保護して運んで下さい。』
「了解しました。」
機械には慣れていなかったが、何故かやけに桃明呪が慣れた手つきで扱っていたため、その辺の心配は杞憂に終わった。
四人だけだったため、そんなに労力はかからずに保護することができるだろう。
他にも三名程別枠でリストに載っていたが、未だ幽霊すら見えないと書かれており、比較的安全な場所に連れて行けば大丈夫なはずだ。
広大な空座町で、たった四名の捜索が始まる。
一方現世の方では、藍染が丁度虚圏から出て侵攻を始めようとしている所であった。
黒腔から三名の十刃と、その
「いよいよ敵さんのお出ましって訳かい、浮竹。」
「ああ・・・。」
「こんな戦場に七緒ちゃんを連れてかなくて、本当に良かったよ。」
現れた破面は皆多種多様な見た目をしており、若い女もいれば年老いた老人もいる。
有象無象の破面の中でも、一体誰が最も強いのだろうか。
「誰が一番強いかな?十刃の三人の中で。」
「難しいな・・・。藍染に訊いてみない事には・・・。」
先達二人の隊長の目からしても、一体誰が最も強いのかを判断するには材料が足りない。
今まで現世に出てきた破面は誰もいないため、能力も何一つ分かっていない。
「口囃子の話から聞いとった破面は、誰もおりませんね・・・。」
「ああ。それも藍染は狙ったのだろう。隼人の解析の影響を極限まで減らすためにな。」
七番隊のトップ二人も、破面の霊圧を読んでいるが、やはり誰が強いか簡単に判断できない。
「ここは先ず、頭を叩くんがスジですかいの。」
「いや、藍染の能力は特殊だ。集中して対処する為には周りを先に倒すべきだろう。」
「ですが、隊長・・・。ヤツら、
「・・・そうだな・・・。」
「手強い相手なのは、間違いないだろう。」
元隊長が敵方にいる以上、膨大な情報は敵の手にあると考えておいた方がいい。
藍染ならそれぐらいの対策は取るはずだ。
そして、狛村の言葉の後に総隊長が始解をして藍染達を炎の中に封じ込めたことで、本格的に戦いは幕を開けることとなった。
転界結柱を狙うのは読めていたのでそこにはあの副隊長と席官達四人が守護としてついている。
彼ら四人に不測の事態が起きた時は、七番隊が救援に向かい転界結柱の保護や破面の掃討を行うよう、従属官四名が柱に向かってすぐに二人は打ち合わせをした。
射場は柱を護る四人の実力を知った上で、ある者に対してだけ不安を抱いていた。
(斑目・・・力、出し惜しみすなよ・・・・・・。)
日番谷先遣隊が戻ってきた後、射場は自隊だけでなく、古巣の十一番隊隊士に稽古をつけてあげることもあった。
その折に斑目と打ち合いすることがあったが、射場は気付いてしまったのだ。
斑目一角は、卍解を習得している。
そして、その卍解は狛村を含めた隊長に比べれば、天と地ほどの差があることも彼の霊圧から読み取った。
友人であり同僚でもある口囃子隼人の影響か、射場も霊圧知覚を鍛え、隊長並みのレベルに達することが出来た。十一番隊にいたままではこの力を伸ばすことが出来なかっただろう。
この戦いは従属官相手でも油断すれば死ぬかもしれない。
そう確信した射場は、決して力を明かそうとしない斑目に苛立ちすら感じていた。
(情けのう犬死にしおったら・・・儂はおどれを見損なうぞ・・・!)
狛村と共に空座町を巡回しつつ、射場は斑目の他に、四人の無事をがさつながらも祈った。
これも、友人の影響かもしれない。
これまた一方、尸魂界の空座町では。
「有沢たつきちゃんは道場で眠っていたのを発見して運んだはいいけど・・・他の三人どこ行ったんだよ・・・。幽霊が見える程度の僅かな霊力持ちはこの街何故か多いから探すのも大変だぞ・・・。」
黒崎一護の友人の保護を浦原から依頼されてやっているものの、かれこれ一時間程街中を探して、見つかったのはたった一人だけだった。空手をやっていると情報に書いてあったので適当に地図から道場を調べると、数人の同年代の少年少女と共に倒れて眠っているのを発見した。
しかし、他の三人はどれだけ探しても何故か見つからないのだ。
先に一護の家族を保護してもいいかと聞けば、『黒崎サンの家族にはより厳重な結界をかけて欲しいので、後にして下さい。』と、かなり真面目なトーンで『たぶれっと』の中の浦原が答えたので、渋々一護の友人数名を探すことになった。
その通話から三十分過ぎた頃、桃明呪が捜索対象の一人を見つけた。
「見つけた。あの橋の上で眠っている。」
「おっ本当だ。良かった~・・・・・・・・・、んん?」
倒れ込んで眠っていた少女――本匠千鶴は、風が吹いたせいなのか、超ミニスカートが完全にめくれており、パンツモロ出し状態で倒れ込んでいた。
現世の女の子のパンツなど見たことない隼人が反応を示さないわけがない。
【さすがに、女の子のパンツを見て妄想しちゃうこばやしは応援できない・・・。】
「うっうるさい!!とっとにかく隠してあげないと・・・。」
【そうやってこばやしは未踏の地にさりげなく踏み出そうとしているの?】
「へぇあっ!?!?み、み、未踏の地って・・・・・・・・・!」
『口囃子サン・・・ガチの童貞だったんスね・・・。』
「だから何で切ったはずなのに勝手に繋がってるんですか!!恥ずかしいなもう!!」
浦原からの通話は今度こそ確実に切る。
斬魄刀である女性からもかなり白い目で見られてしまい、眠っている少女に一歩近づくだけで殺されそうな目を向けられた。
結局、彼女が抱きかかえて目的地まで運ぶことになった。具象化していればその場の実体にも干渉できるとは思いもしなかったが、自分が抱えて通話越しと斬魄刀越しに白い目で見られるよりはましだ。
本匠千鶴を運び終わった頃にはかなり体力を消耗していた。
「ふひ~・・・疲れた・・・。ちょっと何か飲みたい。」
【だったら、ほら。】
彼女が指さしたのは7という数字が印象的な、いわゆる『こんびに』だ。
向かってみたが、従業員は例外なく皆眠っている。
「えっでも皆眠っているからお金払えないよ。そもそも僕今は現世のお金持ってないし。」
【こばやしって、馬鹿なの?】
「はぇっ!?!?何急に辛辣な一言・・・。」
【大丈夫。一本ぐらい貰ってもバレないよ。】
「それ窃盗じゃん!!いくら皆が眠ってるからってダメだよ・・・。」
と注意するものの、桃明呪はフラフラっとジュース売り場に歩いていき、おもむろにミルクティーを取ってその場で開けて飲み始めた。
自由すぎるだろ僕の斬魄刀と、隼人は開いた口が塞がらず、絶句している。
つーか斬魄刀が具象化したら飲み物とか飲むのかよ、知らなかったわ。涅隊長に報告すれば喜びそうとか考えたが、なけなしの良心を振り払って注意する。
「やっぱダメだってば!お店の人に迷惑かかるって!」
【喉乾いてるんでしょ?こばやしは飲まないの?美味しいよ?】
一向に持ち主の話を聞かない桃明呪は相変わらずゴクゴクとペットボトルを口につけてミルクティーを飲んでいる。
めちゃくちゃ美味しそうに。
一時間半程走り回っていたため、喉などカラカラ。
そして目の前には飲み物の山と、その中の一本を美味しそうに飲む我が斬魄刀。
誘惑に負けるのも時間の問題だ。
ゴクリと喉を鳴らし、身体は水分を欲している。
だが、隼人は心の中で秤にかけていた。
(すっげぇ飲み物飲みてぇ・・・!!!でも仁義を重んじる七番隊でそんな窃盗なんてマネ、あってはならんよ!!あぁでもお茶飲みてぇ・・・!!!!)
じっと目の前の斬魄刀が飲んでいるペットボトルに視線を集中させ、秋と冬の間なのに汗水を流して変な顔をしている隼人は、今や完全に変質者だ。
うぅどうしようどうしようと声にも出てしまっており、誰かに見られたらその誰かが卒倒しそうな程恐ろしい光景だ。
そしてその隼人の悩みを嘲笑うかのように、ある音が耳に入ってしまった。
ゴクゴクと液体を勢いよく飲む音。
それは誘惑の道へと誘う悪魔のような音であった。
『ぷはーー!!!やっぱお茶は美味しいっスね~~~!!!最高っス!!』
もう我慢出来なかった。
据わった目で『こんびに』のジュース売り場からほうじ茶のペットボトルを手に取り、無表情でフタを開ける。
口をつけてから数秒間。
無言でお茶を流し込み、10秒もかからずに500mlのペットボトルのお茶を飲み干し、魂の叫びを放つ。
「うんめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!何だよこれ!!!これがタダで飲み放題ってか!?!?最高じゃねぇか!!!仁義なんてモン今は忘れてやる!!!!!窃盗上等だこらぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
【さすがに、応援できない・・・。】
『・・・やりすぎましたかね?』
暫くの間、口囃子隼人は奮戦している隊長格の存在を完璧に忘れ、己の欲求を満たしていた。
次回から本格的な戦闘が始まります。