ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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射場鉄左衛門

己の欲求を満たして我を忘れていた隼人は、飲み物の飲み過ぎで腹を下した瞬間、我に返ってしまった。

 

 

「はっ・・・・・・!!!!一体僕は何て真似を!!っていうか、厠厠!!」

【あっちだよ、こばやし。】

「ありがとう!おぉぉぉぉお腹が痛い・・・。」

 

 

大急ぎで駆け込み何とか粗相をしでかさずに済んだが、便器の隣にあるボタンに全て纏められている最新式のトイレのため、何を押せばいいか分からない。

 

(クソッ、何でレバー式の厠じゃねぇんだよ・・・。『おしり』でも押せばいいのか・・・?)

 

多少嫌な予感はしたが、隣の『ビデ』と書いてあるやつよりかは危険性が少なそうだ。

不退転の覚悟を決めて、全力で人差し指を動かしてボタンを押した。

 

ピッという効果音のあと、普通流れるはずの水が流れる音は聞こえなかった。

むしろ、変な機械音が便座の下から聞こえた。

 

次の瞬間。

 

謎の液体が隼人の尻に直に当たり、経験したことの無い感触に気の抜けた悲鳴をあげることとなった。

 

 

「えっちょ、何だよこれ、おうっおうっふふふふふふ!!お尻がっあひぃっ!濡れちゃう!!って、止まれ止まれ!!」

 

 

『止』の字が書いてあるボタンを見つけたので、急いで押して謎の噴射は止まった。

しかし、他のボタンを探してみたが、排泄物を流してくれるようなボタンは一つも見当たらない。

 

どこか別の場所にあるかもしれない、探してみるか。と先ほどの粗相も水に流すつもりで心を改め便座から立ち上がる。

 

次の瞬間。

 

あれだけ悩んでいたのを馬鹿にするかのように、厠の水はあっけなく流れて行った。

 

 

 

 

【こばやし、どうしたの?】

「何でもない・・・。ちょっと、現世の科学技術に打ちのめされただけ・・・。」

『口囃子サンはお尻に水をかけられたら、あんな変態じみた反応をするんですね~。』

「えっちょっと、何でまた聞いてたんですか!!」

『いや~面白そうなんでつい!アタシは強制的にアナタのタブレットと繋げるので問題ないっスよ~。』

「大ありですよ問題!!完全に盗聴じゃないですか!やるなっつってんのに!」

 

 

だからさっきはわざとらしくお茶を飲む音を流したのか、という発想は、恥ずかしさで顔を茹でタコのようにしている隼人には浮かぶはずがない。

 

 

『録音もできるんスよ~。ほら、「おうっおうっふふふふふふ!!お尻がっあひぃっ!濡れちゃう!!って、止まれ止まれ!!」』

「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!最悪だ!信じられませんよ!!消してください!」

『あ、あれっ?通信が、おかし、い、ですね・・・。』

「わざとだろーが!!」

 

 

勢いあまって通信機器を床にぶん投げたが、浦原特製の機器であるためそんなヤワな衝撃で壊れるものではない。

一体何をやっているのだろうか。現世ではシリアスに戦闘を行っている事だろうに、自分は完全に浦原とコントじみたことばっかやっている。

 

ちゃんと本来の目的に戻って探さないと。

 

 

「もうダメだダメだ!!下らないことで疲れちゃ意味ない!残った二人探さないと・・・。」

 

 

捜索再開。コンビニで英気を養った二人(?)は、形だけでも雰囲気を変え、残った男二人の捜索を始めた。

 

 

 

 

 

捜索再開から三十分後。

桃明呪が空座町の異変に気付いた。

 

 

【待って。】

「どうしたの?出来れば東の端まで探しておきたいんだけど・・・。」

【逃げよう、こばやし。こっち。】

「えっちょっと、状況が・・・。」

 

 

そして絶妙なタイミングで、浦原からも連絡が来た。

 

 

『緊急っス。口囃子サン、今どこにいますか?』

「えっと・・・いま丁度東の端に辿り着く所だったんですけど・・・。」

『まずいっスね・・・。とにかく逆方向に移動して下さい。』

「一体何が・・・空座町で何かあったんですか?」

『斑目サンがやられました。柱も壊されています。』

「柱が壊された!?」

 

 

一つでも柱が壊されれば、転移した場所が戻り始めるということ。

つまり、その場にいたままでは、藍染に自分がここにいることがバレてしまう可能性もある。

最悪現世の空座町に残されてしまい、戻れなくなる可能性もあるのだ。

 

 

『このままでは回帰に間に合わずアナタが現世に強制的に転送されてしまいます。急いで逃げて下さい!』

「はい!!」

 

 

見ると、じわじわとだが街の端から戦いで生み出された瓦礫の山に変化しつつある。

桃明呪に連れられる形ではあるが、すぐに東側から距離を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

一方現世でも。

 

 

「斑目が・・・やられただと!?」

 

 

砕蜂と日番谷の焦りの声が漏れ出ている中、京楽と浮竹も別の意味で冷や汗を流していた。

 

 

「隼人クン、まずいんじゃないかい?」

「東の方にいなければいいんだが・・・。」

「・・・そう、祈るしかないね。」

 

 

総隊長らは十刃達が動きを見せない以上、その場で柱を守る四人の戦いを見ていた。

その中で、東の柱を守っていた斑目の霊圧が弱まっていることが分かり、柱も壊されたためやられたと判断せざるをえなかった。

 

 

「だが、()()()()()()()。見ろ、京楽。」

「・・・これで一先ず安心ってとこかな?」

 

 

しかし、柱が壊された場合の対策をみすみす怠るはずはない。

京楽と浮竹はホッと胸を撫でおろし、目の前にいる十刃を見定めし直し始めた。

 

 

破面に倒された斑目の元に訪れたのは、七番隊の二人であった。

斑目の頭を踏みつけていた破面をたった一発殴るだけで吹き飛ばす。

 

 

「鉄左衛門!」

「押忍!!!」

 

 

抱えていた大きな巾着袋から十数本もの棒を取り出し、回帰が進んでいる境目に棒を打ちこんでいく。

これにより、簡易的ではあるが柱を復活させることが出来た。

 

 

 

 

「回帰・・・止まったかな?」

【大丈夫だと思う。もう一回あっち探してみよう。】

「わかった!」

 

尸魂界にいる隼人も射場達のおかげで捜索を再開することが出来た。

 

 

 

 

「ぽはははははは!!!!」

 

 

狛村の拳打では、致命傷にはならなかったようだ。

狛村本人もとにかく斑目を救うことを最優先にしたため、殴るときの力とかは考えていなかった。

 

 

「隊長・・・ここは儂がやります。」

「・・・今の鉄左衛門なら、相手ではないな。」

 

 

射場の後ろ姿をじっと見据えつつ、狛村は斑目と十数本の棒の前に立ち戦闘の余波から守る。

 

 

「猛れ!頭詰(かしらづめ)!!」

 

 

解号を唱え、匕首の形をした斬魄刀から、広い刀身の真ん中あたりに枝の刃がついた刀に変化する。

 

 

「何だ、タダの奇妙な刀ではないカ。こんなモノ、」

 

 

「ワタシにとってはゴミでしかナイ。」

 

 

斑目を圧倒したそのパンチが射場にも襲い掛かる。

しかし射場は、その力を自身の始解で事も無げに防いだ。

 

 

「!!おマエ・・・!」

「破道の六十三 雷吼炮」

 

 

至近距離で鬼道を浴びた破面は、先ほど狛村にやられたのと全く同じように吹き飛ばされる。

斬拳走鬼全て揃った万能型が特徴の射場だが、隼人が鉄裁との鍛錬に入る前に、恥をしのんで(射場的に)鬼道を教えてもらっていた。

八十番台以上の高等鬼道はまだ手が出ないものの、七十番台以下の鬼道は詠唱破棄しても十分な力でダメージを与えることが出来るようになった。

 

だが、目の前の破面はそう簡単にはいかない。

 

 

「イイネ、キイたヨ、死神・・・。ワタシも、()()のパンチを見せてヤロウ・・・!!!」

 

 

瓦礫の中から起き上がった破面は斬魄刀を取り出し、解号を唱える。

 

 

気吹(いぶ)け 『巨腕鯨(カルデロン)』」

 

 

次の瞬間、首から上が急成長を遂げたのか、みるみるうちに巨大化していく。

いや、それだけではない。

身体全体も急成長を遂げ、信じられない大きさへと巨大化してしまった。

 

 

「な・・・何じゃあ・・・こりゃあ・・・!!」

 

 

流石の射場も目の前の光景に面食らってしまう。

現世の特撮映像で見たことのある、怪獣のような破格の大きさの破面が、射場の目の前に現実として存在していた。

 

 

「フウウウウ~~~・・・叩き潰すノモ面倒ダ・・・。」

 

 

その言葉の後、体格に見合わない俊敏な速さで、射場の立っている場所に拳打が降りてきた。

 

(!)

 

普通なら躱す。そうでもしないと圧倒的な質量にやられ、形の残らない肉塊へとあっという間に変貌してしまうだろう。

 

だが射場は、破面の()()()()()腕を見て、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

まさに射場が破面の拳に潰されそうになったところで。

自身の斬魄刀を斬り払い、破面の腕は巨大化したまま遠くに飛んでいった。

 

 

「ヌ、ヌウウウウウウウウウウウウウ!!!!!おマエ、よくもワタシの腕ヲ・・・!!ナゼだ!!ナゼワタシの腕が斬れタ!!!!」

「じゃかぁしい奴じゃ、昔の口囃子みたいじゃのう。」

「虫ケラメ!!!!ワタシが殺しテヤル!!!!」

 

 

破面は大口を開けて虚閃(セロ)の準備を始める。

しかし鍛錬を行った射場は、その隙を見逃す筈はない。

 

 

「遅いのう。口囃子が相手じゃったら、笑われとるわ。」

 

 

一瞬で巨体の股下に入った射場は破面の両脚を刀で切断する。

いくら破面の反応速度が速いとはいえ、巨体であるためタイムラグはどうしても生まれる。

 

 

「ガアアアアアア!!!!許サン許サン許サン!!!殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス!!!!」

 

 

脚を失いつつも殺意だけで胆力を保ち、最後の力を振り絞るかのように口から虚閃を射場に向けて放つ。

股下に向けて自爆覚悟で打ち込んだため、反動で破面自身もダメージを受けた。

 

 

「コレデ・・・あの虫ケラモ死ンダハズダ・・・!!」

「儂が何じゃ?」

(!!!!!)

 

 

射場は破面の両脚を斬った後に、一瞬だけ自身の霊圧を消して破面のうなじの位置に移動していた。

そして射場は、自身の斬魄刀を破面の首にかけている。

 

 

「おマエ・・・何故そこニイル・・・!」

「分からんか。おどれには。」

「一体何ナンダ、おマエハアアアアアア!!!!!!」

 

 

戦意を失い恐れをなした破面は、後ろ首元にいる男の存在に怯えるしかなかった。

 

 

「そうじゃのう・・・まだおどれに名乗っておらんかったわ。」

 

「儂は七番隊副隊長、射場鉄左衛門。おどれが何遍も言うように、」

 

 

 

 

虫螻(むしけら)の様な男じゃ。」

 

 

自身の矮小さを唱えた男は、そのまま鮮やかな動作で破面の首を刎ねる。

まるで、組の裏切り者を粛清するかのように無慈悲で冷酷な剣であった。

 

 

「鉄左衛門、成長したな。」

「いいえ、奴が巨大化したけぇ、儂は短期戦に持ち込むことができやした。」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()始解を持つ鉄左衛門なら、あいつは敵ではない。だが小さな刃も大分短くなっているな。暫くは霊圧を休ませるべきだ。」

「押忍。」

 

 

無傷で戦いを終えることが出来たが、思っていたよりも霊圧の消耗がはげしかったようだ。

射場は始解を解いた後、斑目の元に向かう。

射場の戦闘をただ見ることしか出来なかった斑目に、先輩として喝を入れた。

 

 

「お前が卍解を使おうともせんで勝てる相手だと思うな。」

「射場さん・・・!」

「気付いとらんと思うたんか馬鹿たれが。儂だけじゃあない。口囃子もきっと気付いておるわ。」

 

 

いつもの射場と違い、言葉尻には糾弾の意思がある。

少し離れた位置に移動した狛村は、何も言わず空を眺めていた。

 

射場は力を隠して勝てる相手に負けたこと、命令を守らず一人の意地で隊の戦いに傷をつけたことを、しっかりと言葉で斑目に実感させ、考えを改めさせようとした。

しかし、斑目も譲ろうとはしない。解っていても己の意地を優先すると言いかけた。

 

 

たまらず、射場は斑目の顔を殴りつけた。

 

 

「何が解っとるんじゃ馬鹿たれが。甘ったれとるんじゃおどれは。自分が死んでも代わりがおる。心のどっかでそう思うとるけぇ、平気なツラして負けられる。」

 

 

この言葉は、戦いにおいて死にたくないと何度も言う隼人の影響を受けていた。

 

 

「待てよ・・・黙って聞いてりゃ・・・甘ったれてるだと・・・!俺が平気なツラして負けてるだと・・・!!」

「ほうじゃろうが。何が違う?」

「口囃子隼人みてぇな腑抜けたこと言いやがって!!!てめぇ!!!」

 

 

長年の友である隼人を非難する斑目の言葉は、射場を本気で怒らせるにはあまりにも効果が強すぎた。

 

折れた三節棍の切れ端を掴んで射場に斬りかかったが、指一本であしらわれ、終いに射場の渾身の拳が腹に入り、斑目は吹き飛ばされてしまった。

 

 

「この拳は、口囃子の分も入っておるぞ・・・!!」

 

「正面からぶつかって負けりゃあ何の意味があるんじゃ!逃げても恥かいてでも勝たにゃ意味が無いんじゃ!!」

「出来るかよ!そんな口囃子隼人みてぇな腑抜けた戦い方!!」

 

 

「なら力をつけんかい(だったら力をつけろよ)!!!!!!」

(!)

 

 

斑目にとっての射場の一言は、この場にいない鬼道主体の戦い方をするあの男からも糾弾されているような気がしたが、痛々しいほど心に突き刺さるものであった。

 

 

「口囃子はどがいな手を使うてでも勝負をする男じゃ。じゃけぇ儂の何倍も強い。意地通したけりゃ力をつけぇ。敵と戦うたら死んでも勝て。」

 

 

「それが、筋を通すっちゅう事じゃ。」

 

 

その言葉は、斑目の心構えに大きな影響を及ぼすこととなった。

 

遠くにいた狛村が射場の元に歩いて声をかけた。

 

 

「隊長・・・。」

「安心せい。生憎と、今日の儂は耳が遠い。」

「・・・すんません。ありがとうございやす。」

 

 

斑目の元から立ち去った後、射場は三、九番隊の副隊長にも会った。

遠くから射場の戦闘を見ていたようだ。

 

 

「射場さん・・・お疲れ様です。」

「何言うとる。」

 

 

「これからが戦いじゃ。」

 

 

彼らの頭上では、十刃がついに戦闘態勢に入り始めた。

 




射場の始解、頭詰(かしらづめ)は、本当に単純な始解です。真っ直ぐな射場の性格に合うような始解を考えました。ネーミングの由来は、安直ですがヤクザのエンコ詰めるアレです。頭を詰める(首を刎ねる)、まるで処刑執行人のような冷酷な性格も射場の中にはあるのではと思い、このような始解にいたしました。願わくば原作で射場の始解の具体的な描写を見たかった・・・。結構好きなキャラなんですよね・・・。
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