「・・・やれやれ、肩が凝るねぇ。気合いの入った山じいと居ると、こっちまでさ。」
「そうだな、これが片付いたら久し振りに二人で先生の肩でも揉んでやろうか。」
「いやいや、凝ってるのはボクの肩だってば。」
「何言ってるんだ。見たことないぞ。お前の肩が凝ってる所なんて。」
「そんなことないよ浮竹。七緒ちゃんに揉んでもらおうと頼んだら愛の仕返しで余計肩が凝っちゃうんだ♡」
「伊勢副隊長なら物凄い力でお前の肩を叩きそうだ。」
軽口を叩き合って落ち着きを払う年長者二人は、しっかりと相手の霊圧の波を見ている。
「強そうなのはあの気怠そうな破面か・・・。」
「やっぱ肩こっちゃうな・・・。七緒ちゃん呼ぼっかな・・・。」
「何言ってるんだ。そんなに肩が凝るなら、」
「隼人くんでも呼べばいいだろ?」
「彼はダメだよ。ボクの恋敵だから♡それに・・・、」
馬鹿なことをと言いたげな浮竹の呆れた目を流しつつ、京楽は自身の願いを浮竹に告げる。
「隼人クンは、もっと別の人を労って肩揉みさせるべきじゃないかな?」
「・・・そうだな。」
「来るかなぁ・・・みんな。」
京楽は、少し翳りのある表情で101年前の悲惨な実験に巻き込まれた元隊長格達が来るのを心中で待ち望んでいた。
先ほど下手すれば自分が現世に送還されるという危機的状況があったが、向こう側の助力のおかげで任務に大きな支障をきたすことは無くなった。
射場の魂の怒りなど露知らず、口囃子隼人は一護の友人保護のために未だ捜索を続けていた。
先ほどの危機を対処してから約三十分後、ついに三人目を見つけることが出来た。
「えっと・・・浅野啓吾くん、だね。何かいい夢でも見てるのかな・・・。」
フヘヘヘヘ・・・とでも言いたそうな顔で、公園で寝転がっているのを発見した。
「あぁっ何てファビュラスな女体・・・!ここはパラダイスか・・・!んほぉぉぉぉっっ・・・!」と寝言を喋っているのが聞こえたが、ツッコむ気にもなれないので早々に目的の場所に運ぶ。
彼を安置させた後に再び外を探していると、死覇装を着ている男が倒れているのを発見した。
空座町駐在担当の死神だろうか。名前は・・・調べたけど忘れた。
髪の毛が爆発しているため、適当にボンバーマンとでも名付けておこう。
しかし現世の人間と共に眠らされていたとは、迂闊だったのか情けないのか。
一応彼もたつき達と同じ場所に安置しておくことにした。
霊力を見る限り席官クラスは普通にある筈だが、眠らされてしまうぐらいなら任務を手伝ってほしいくらいだ。
(まぁでも・・・最悪足手まといかな・・・。)
起こすのもそれはそれで面倒なので放置して再び捜索を始める。
最後の一名は、何と既に目を覚ましていた。
コンビニの中で食料を物色しているようだった。
「小島水色くん、だよね。」
「・・・・・・。」
振りむいた黒髪の青年は無表情ながら顔には警戒の色が見える。
突然見ず知らずの男から自分の名前を呼ばれたら誰だって警戒するだろう。
そこまで考えを巡らせることが出来なかった隼人は少し後悔した。
だが、目の前の青年は
「一護の関係者ですよね?」
「!・・・知ってたの?」
「一護がその黒い服を着て、帽子を被った変わった服装の男の人と話しているのを何度か目にしました。」
「浦原さんのことも知ってるんだ・・・。ともかく、貴方を保護します。ごめんなさい、選択権は貴方にありません。」
「わかりました。」
「友達もいるから安心してね。」
道行く人皆眠らされているという異様な光景を見たからか、水色は隼人の命令に反抗することなく素直に従ってくれた。
たった四人を探すのにかなり手間取ってしまった。二、三時間は使ってしまった。
一つ目の任務を達成できただけ良しとするか。
水色を目的の場所――空座第一高等学校音楽室――に連れて行くと、何と他の三人も目を覚ましていた。
「小島!アンタ、起きてたの!?電話ぐらいしなよ・・・。」
「ごめん。ケータイの充電切れてた。」
「水色ーーー!!!無事で良かったーー!」
黒髪の女子生徒――有沢たつき――と、茶髪のハイテンションな男子生徒――浅野啓吾――は、友人の無事に対し真逆ともいえる反応を示した。
それと同時に隼人の存在を目にし、一気に静かになる。
奥の方で座り込んでいる女子生徒――本匠千鶴――は、一体何なのか全く事態が飲み込めておらず、ひどく混乱しているようだった。
「一護と何か関係があるんですよね?」
「うん・・・。現世の人間の君達にどこまで話せばいいかは悩んでるんだけど「教えてくれ。」
「最近空飛んだりしている怪獣みたいな奴とかと関係あるんだろ?一角さんとかが戦ってるの俺見たぜ。あと、俺達は一護の友達だ。」
「全部教えてくれ。」
啓吾は、自分の友人の無事を喜んでいた時のこの上なく嬉しそうな顔とは違い、真剣味のこもった表情、声音で、得体のしれない隼人に対峙していた。
水色、たつきも真剣な表情でこちらを見据えている。
「わかった。今の状況は全て教える。でも、今僕が言うべきではないこともあるんだ。それは、一護くんから直接聞いて。それに、えっと・・・千鶴ちゃんは多分何も知らないから、本当の最初からこれから皆に改めて説明するよ。」
理解してくれるだろうか。そして、受け入れてくれるだろうか。
魂魄を材料にするということは命を狙われていると同じ意味であることに。
一方射場は、先ほどの戦いの消耗を癒しつつ、吉良と修兵と共に地上から他隊の戦いを見物していた。
「雛森くん・・・戻ってきたのか・・・!」
「大丈夫かのう・・・前に会うた時も
「・・・・・・そっすね・・・。」
この射場の言葉を聞き、修兵は複雑な表情を浮かべていた。
修兵は今でもずっと、東仙は隊長呼びで呼んでいる。
それは中央四十六室で査問にかけられた時もそのままであり、
最年少賢者である阿万門ナユラの取り計らいにより彼らは叱責処分だけで済み、実質お咎めなしだった。
しかし、裁判でもいつも通り振る舞っていた修兵は、尊敬していた隊長が一日にして護廷を裏切り大罪人となって皆から非難されるのを、簡単に受け入れることが出来ていなかった。
だから今も『東仙隊長』と呼んでいる。
呼び捨てであの男の名を呼び、憎悪の言葉を吐き出せたらどれほど心が楽になるだろうか。
でも、真面目で義理堅い修兵に、そんな真似は出来る筈はない。
数々の教えを胸に抱き、先ほどの破面との戦いでもその教えを活かして戦った修兵に、そんな真似は出来る筈はない。
「俺は今日、
「檜佐木さん・・・。」
「・・・・・・ほうか。」
サングラスの奥の目が一瞬鋭くなったが、修兵の顔を見た射場は斑目の時とは違い、激励の言葉をかける。
「いい目じゃ。頑張れよ、檜佐木。漢っちゅうんはそうでおらんとのう!」
「射場さん、嬉しいっすけど、よく分からないっす・・・。」
「檜佐木さん、気にしちゃダメです。」
吉良の言葉の後、雛森と松本の周囲が一気に爆発した。
「雛森の鬼道か。」
「雛森くん・・・いつのまにこんなに強くなったのか・・・。」
修兵と吉良が雛森の複雑な術式に感嘆する。
その派手な戦いを自分も戦いながら察知した京楽も、感心していた。
「おっ。おぉぉぉ~~~。あちらさんはハデにやってるねぇ。どうだい、十刃さん。こっちもそろそろ、ハデにいっちゃおうじゃないの。」
笠の下から鋭い眼光で目の前の十刃を射抜くが、頑なに全力を出したくないらしく、何度も拒否する。
それでいて、十刃――コヨーテ・スターク――は、持ち前の洞察力を使い、京楽の戦い方をしっかりと分析していた。
「あんたも本気で戦ってないだろ。右に左に刀を持ち替えて戦うクセに、刀と脇差が二本差し。その上左手で振るときの方が間合いが近い。あんた、
スタークの推理を聞いた京楽は、尚それでも笑みを絶やさない。
「参ったね。左右の間合いは調節してたつもりなんだけど。流石、よく見てるねぇ。」
「こわいこわい。」
瞬時に前に踏み込んだ京楽は、左手で振るう間合いを右手の間合いに調整する。
普通なら調整した間合いと全く同じ間合いで右手でも斬りかかるはずだ。
そう推測したスタークは、その間合いギリギリを躱せる距離にスッと移動する。
しかし、京楽は右手の間合いをわざと近づけた。
「やっぱりな!!」
京楽の実力を見た上で一応予測の範囲内で躱すことができたが、驚きを隠せずにいる。
「あんたやっぱすげぇわ。今の間合いの調節はわかんなかったぜ。」
「そいつはどうも。隊長だからね。」
「そんなに強い隊長さんなら、そのまま戦ってくれればいいんだけど、ね!」
変幻自在の剣の間合いに、スタークは何度も斬られそうになるが寸での所で毎回躱す。
一方の京楽も目の前の破面の実力を心の中で賞賛していた。
(隼人クンとの修行の反省を活かして、ってことで、このやり方をやってみたけど・・・相手が強いと厳しいかな?)
即興で編み出した戦い方のため本人もまだ詰めが甘いと自覚していたが、全部躱されてしまうのは予想外だ。
(やっぱり、彼が一番さんかな?あのお爺ちゃんが一番ならよかったなぁ・・・。)
だからこそ、戦いの度合いを一段上げる。
「二本抜けば、本気でやってくれるのかい?」
「!・・・カンベンしてくれよ。そんなの願い下げだね。」
「成程。じゃあ。」
「二本抜くしかないね。」
「・・・そうなっちまうのか。」
今まで躱すことに集中していたスタークも、ついに前進し攻勢に出始めた。
戦況の変化は突然に訪れる。
三名の破面が自身の腕を斬って生み出した、
その獰猛な力は四名の副隊長を圧倒し、事も無げに打ち倒した。
スタークと一緒にいた子ども破面の相手をしていた浮竹は、事態を重く受け止める。
「今度こそやってやるぞ!!!だああああ!!!!」
「・・・済まない。ちょっと動きを止めていてくれ。」
「縛道の九 撃」
赤い光によって包まれた破面――リリネット――は、子ども扱いされて憤るが、それを放置して浮竹は激戦区に馳せ参じた。
腹を抉られた松本の治療のため、元四番隊だった吉良は久々の回道に苦心している。
そして、目の前の巨大な化け物は射場の斬魄刀の効果を存分に受けて右腕を失ったものの、左腕のみであっても圧倒的な力を振るい、射場は返り討ちにあってしまった。
修兵も全身の骨を砕かれ、瞬く間に重傷を負ってしまう。
次の獲物はお前だとでも言いたげに、その化け物は吉良のもとへと歩き始めた。
「く・・・来る・・・!!くそっ・・・あと少し・・・あと少しなのに!!!」
回道を松本にかけながら斬魄刀を持つが、先ほどの残虐さを目の当たりにした吉良は恐れをなして動けずにいた。
万事休す。そう思われたが。
浮竹の鬼道が怪物の胸を射抜き、右胸に大穴を開けた怪物は動きを止めた。
「う・・・浮竹隊長!!!」
「大丈夫か、吉良副隊長。松本副隊長の治療を続けてくれ。」
「お手を煩わせて申し訳ありません・・・!」
浮竹は、現在進行形で治療を受けている松本の他に、この怪物によって圧倒された射場、檜佐木、雛森など周りにいる死神達を見て、やり切れない思いに歯を食いしばり、拳を握る。
目の前で動きを止めている異形の怪物を見て、浮竹は海燕の妻たち調査隊全員が殺されて運ばれてきた時のこと、そして海燕を殺したあの虚の存在を思い出していた。
「・・・こんな形で、恨みを晴らすつもりはないんだけどな。」
鬼道を練る手。怪物を見据える目。纏う濃密な霊圧。
全てが京楽と総隊長以外誰も感じたことの無い程に、鋭く怒りのこもったものへと変貌を遂げていた。