小島水色が浦原の置いていったパソコンを適当に操作して監視カメラを切り替えている中、隼人は機械のセットアップを慣れない手でしていた。その間に、浅野啓吾から思わぬ質問が来た。
「そういや口囃子さんって、親とかいんの?」
「あっあたしも気になりまーす!死神さんって寿命がすっっっごく長いのは最初の話で分かったんですけど、家族とかって皆いるんですか?」
それに便乗して、本匠千鶴からも屈託のない顔で無邪気に質問を追加で投げかけられてきた。
思わぬ質問に、心の中で少し当惑する。
こういう時は一般論で答えるのが一番だ。
「いる人はいるよ。向こうで結婚する人もいるし、死後の世界だけど子どもだって現世の人間と同じで作ろうって思えば作れる。でも死神同士の結婚だったら、どっちかが虚に襲われて亡くなったりして、片親になることもあるんだけどね。だから、結婚する人は若いうちから結婚する人が多いかもな。子どもを若いうちに産んだ方が安全なのは、現世と同じだよ。」
「へぇー・・・。」
千鶴が自身の知らない世界の話を聞いて好奇心を掻き立てられていると同時に、納得した表情を見せる。
これで大丈夫かと思ったが、そうは問屋が卸さない。
「口囃子さんはどうなんだよ。親父さんとかいるのか?」
啓吾の質問に思いっきりうっとした表情を見せてしまったらしい。
有沢たつきが、「バカ!触れちゃいけない部分かもしれないだろ!」と小さい声で啓吾を非難する声が聞こえた。
よりによって『親父』なんて言われるから顔に出てしまったが、気を遣われて隠し通すのも何だか今回に限ってモヤモヤしそうな気がしたので、その質問にも率直に答えることにした。
今日限りの仲だと考えられるので、別に言っても構わないだろう。最悪記憶置換すればいいし。
「・・・・・・いるよ。お父さん。」
「そうなのか!死神やってるのか?」
「ううん。現世にいる。元死神、って言えばいいのかな。今日の敵の策略に嵌められて101年前に尸魂界を追われたんだ。突然罪人になって会えなくなった。もうずっと会えてないんだよ。」
あまりにも重苦しい話だったことを予想していなかった高校生達は、瞬時に辛そうな顔を浮かべた。
たつきが啓吾に、「バカ!もうちょっと気を使えよ!」と小声でまた怒られている。
「わ、悪い口囃子さん・・・。あんたの雰囲気からしてそんなに辛い過去あったなんて思わなくてよ・・・。本当に、すみませんでした・・・。」
「啓吾が素直に謝るなんて珍しいね。」
「うるせぇ水色!俺だってこういう時はちゃんと謝る!!」
「あぁいや、いいんだよ別に。もう乗り越えられたし。」
その後も啓吾が色々と水色につっかかっているのを横目で呆れつつ、たつきは啓吾の不手際の尻拭いをしようとしたのか励まそうとしてくれた。
「口囃子さん。今日生き抜いて、戦いに勝って、親父さんに会いましょう。それで、『何で置いてったんだバカヤローーーーー!!!』って親父さんを殴ればいいんですよ。」
空手を本気でやっている、たつきらしいアイディアだった。
今までにない新鮮な励まされ方に思わず笑ってしまった。
だが、このやり方は非常に良くない。
「・・・そんなことやったら、百倍返しされちゃうな・・・。」
101年前の頭ぐりぐりの刑を思い出し、こめかみのあたりがずきっと痛むような気がした。
これだけの間刑を受けていなくともあの地獄のような痛みを忘れないのは、もはや痛みが刻み込まれているかのようで恐ろしく感じる。
(拳西さん・・・来るのかな・・・。)
思わぬ質問から、101年前の思い出にほんの少しふけることとなった。
「久し振りやなァ。藍染。」
多種多様な反応を示す護廷十三隊の隊長格を、ひどくアンニュイな表情で平子真子は受け流す。
ある者は、現世の服装であるものの、特殊な霊圧を持つ今まで会ったことの無い彼らに、率直な困惑を示す。
またある者は、因縁を持つ者達の出現に、僅かな苛立ちを見せもする。
彼らが現世にいたことを悟っていた者もいた。
一方である者は、この瞬間を待ちわびていたかのように安心した反応を示す。
そして。
檜佐木修兵は、己を助けてくれた命の恩人と、突然の再会を果たしたのであった。
「―――・・・・・・・・・・・・!!!」
「檜佐木さん・・・・・・?」
その反応を見て瞬時に悟った狛村は、真っ先に動き始めた。
「久し振りのご対面や。十三隊ん中にアイサツしときたい相手がおる奴いてるか?」
平子の問いに、七人全員が拳西の方に首をぐりんと向けた。
「・・・何で全員俺の方を見んだよ。」
「バカなの拳西!!シンジがせーーーーっかく親バカキモゴリラの拳西に気使ったのに!バァ~カバァ~~カ!!あっかんべぇ~~!!」
「てんめぇ・・・!!!」
「ウチには理解できんわ!アホくさ!」
「感動の再会、素晴らしいメロディが生まれそうだよ!!インスピレーションが止まらないなあ!!」
「お前は騒いだらロクなことにならねぇから黙っとけ。あと言葉のバリエーション無さすぎだろ。」
「酷いなラヴ!」
「皆サン・・・ここにいても相変わらずデスネ・・・。」
「・・・・・・ホンマや。」
呆れた平子とハッチが盛大にため息をついている中、一人リサだけは黙っていた。
「何やリサ。お前もせっかくやし喋ったらええやん。ウチら久々の登場やぞ。」
とひよ里が誰に言っているのか分からない際どい発言をしていたが、それにツッコミを入れることなくリサは瞬歩である者の元へ向かった。
「あ!!どこいくねんリサ!!」
「ほな俺も、総隊長サンとこアイサツしてくるわ。」
「ああっ!待てコラシンジ!!」
ひよ里のシャウトなどお構いなしに平子は瞬歩で昔懐かしの総隊長の元へ向かった。
「・・・・・・いねぇな。」
「えーーーー!?はやちんに会いたかったな・・・。」
拳西の霊圧知覚をフル稼働させて忘れやしないあの頃の霊圧を探索したが、空座町内で見つけることは出来なかった。似たような霊圧も存在しない。
「もう戦闘不能・・・なワケないか。尸魂界で待機してるんじゃない?」
「隼人の実力だったらここにいても生き残ってておかしくねぇはずだしな・・・。」
「そんなに隼人って成長してたか?ジャンプの主人公みてぇだな。」
「鏡花水月を見破ったんだ。こんな所でのされてたら俺がぶん殴ってやらぁ。」
右手で作った拳を左手に当てつつここにはいない隼人の実力を純粋に評価した拳西は、101年間決して見せなかった親の顔をしていた。
「懐かしいね。ボクもあの頃を思い出すよ。・・・でも、拳西がハヤトを殴る資格、あるの?」
「・・・無ぇな。逆に隼人からぶん殴られそうだ。」
「『お前なんか親じゃないーー!!』ってアイツなら言いそうだな。」
「笑えねぇ冗談は止めろバカ。」
夢に出てきた言葉と全く同じ言葉を言ったラブに気味悪さを感じたが、いつも通りの仏頂面で何てことないように振る舞う。
正直、ここにいないことに安心した。
戦いの場で恨みつらみを吐かれても対応に困るし、逆に泣かれたらもっと困る。
ただでさえ感情表現が人一倍激しく周りの大人に引けをとっていなかった子どもの時の性格を考えると、両方やりかねないのがまた末恐ろしい。
再会は、決戦が終わるまでお預けだが、その方が好都合だ。
この場には、護廷十三隊の元隊長で隼人の親として来ているのではなく、仮面の軍勢として来ているのだから。
リサと平子が戻ってきた頃には、敵も痺れを切らしていた。
「オォオォオオオオォアアアアァァァアアアァアア!!」
「不気味やな。」
「もう少し、我慢できねぇもんか?」
ワンダーワイスの叫びに応じて、巨大な怪物も変化を見せる。
先ほど風を吹き出して炎を消した穴が、横に大きく開く。
「・・・何が出てくるんだ・・・!?」
砕蜂の言葉と同時に、穴から大量の大虚が洪水のように溢れ出てきた。
100体程のギリアンが、死神達に襲い掛かる。
「まさか、あれが全部ギリアン・・・!今の儂らでは到底・・・!!」
立ち止まって黒腔を注視していた狛村が驚愕の表情を浮かべる一方で仮面の軍勢達は余裕を崩さない。
「いくで。」
平子の合図と共に全員虚化し、大虚の大群に立ち向かっていく。
現役の隊長、副隊長が見ても仮面の軍勢による圧倒的な蹂躙と呼べるものであった。
虚閃や鬼道を使って複数体の大虚を同時に倒したり、たった一発斬る、殴る、蹴る、それだけで大虚の仮面を割るなど、普通の死神では不可能な程の破壊力で5分もかからずに全ての大虚を掃討した。
「何て力だ・・・!こんな真似、僕達には・・・。」
「滅茶苦茶じゃねぇか・・・!!」
かろうじて戦闘が行える副隊長は、その力に恐れすら覚える。
「ちっ・・・何だって、俺達に似た力を持つ奴が、こんなにいるんだかねぇ・・・。」
二人の隊長とさっきまで戦っていた破面は、面倒な態度を示しつつしっかりと洞察力を働かせる。
「懐かしいな。101年前を思い出すよ。失敗の実験を、思い出す。」
101年前に実験を行った当事者は、昔を思い起こしつつ実験の残骸を見るような目で仮面の軍勢を目に入れていた。
一方仮面の軍勢の中で最後まで大虚処理に当たっていたのは、元九番隊の二人であった。
「あーーー!!最後の一匹あたしのだったのにィ!!」
「うるせぇぞ!!あっちのデケー奴テメーにやるからゴチャゴチャ言うな!!」
「あっちの・・・・・・デカいの・・・。」
虚化しているにも関わらず、白はおもちゃを買い与えられた子どものような表情が分かる程にはしゃいでいた。
「うっそぉーー!!やったあ♡ホントにいいの!?!?」
「いいから行けバカ!」
一目散に向かうと思われたが、しかし白は後ろを振り向いて立ち止まる。
15時間も持つ虚化をわざわざ解いて拳西に言葉を残した。
いつもの元気いっぱいな表情とは違う、どこか寂しさを漂わせた表情だった。
「あたしとはやちんの分も・・・お願いね。」
「・・・・・・行ってこい。」
「うん!」
再び虚化して異形の怪物の元へ白は向かっていき、拳西もある人物の元へ向かっていった。
「右目から上を斬り落とすつもりだった。その程度は当たっていると判断しない。」
「言うやないか三下。」
藍染に斬りかかった平子は、思考の埒外にいた東仙によって刃は防がれることとなった。
むしろ、平子は軽い刀傷を負っていた。
「アンタも昇進したみたいやしなァ。自分の上司斬ってまで掴み取った地位、捨てる気分はどやった?」
「仮初の地位など、私には必要ない。私は藍染様の部下だ。そして貴様は、この三下に斬られて死ぬ。」
突きの構えを見せて平子に斬りかかろうとしたが、とある者の腕によって阻まれることとなった。
「狛村・・・!!」
すぐに気を取り直し狛村の腕を斬り落とそうとしたが、ほんの僅かな霊圧を察知してすぐに後ろに引き下がり、東仙は態勢を立て直す。
101年前と全く同じ風を感じ、東仙は表情を曇らせる。
「久し振りだな。東仙。」
「六車・・・拳西・・・。」
「忘れねぇさ。お前が俺の腹を刺したことも、現世で何度か俺達の元に来た刺客の元を辿れば、お前に辿り着くこともな。」
拳西の話を聞いた狛村は、二重の意味で驚きを隠せなかった。
目の前の男が、己の部下が心から信頼する男であること。
一番会いたがっていただろう青年よりも先に己が会ってしまったことには少し複雑な思いを感じた。
だがそれ以上に、正義を重んずる東仙が、こんな姑息なマネを仮面の軍勢に対して行っていたことが、狛村には断じて許せなかった。
「東仙・・・!!何故そのような真似を!!!!普段のお前ならそのような下劣なことはしない筈だ!!」
「普段の私か・・・。狛村、お前の知る私など、何処にもいない。」
狛村と東仙が対話を続けている中、平子は拳西にその場を任せる。
「お前はどうすんだよ?他のヤツら皆戦い始めてるぞ。」
「市丸のヤツ、やってくるわ。アイツも昔は俺の部下やったしな。」
「藍染もだろ。」
「つまらんツッコミせんでええわ!!」
藍染の一方後ろにいる市丸に駆けていった平子を見送り、拳西は東仙の霊圧を再び見る。
嫌な予感がした。
101年も経てば力はもちろん成長するものであるが、
まさかとは思うが、警戒せねばならない。
そして、また別の霊圧がここに来ている気配が感じた。
(白か・・・?にしては霊圧が弱いな・・・。)
その霊圧が掻き消える程に東仙の霊圧が鋭くなり、再び注意を戻す。
「よもや貴公の剣から何者かを守る時が来るなどとは・・・思いもしなかった・・・。」
「・・・私は知っていたよ。私とお前はいずれ必ず刃を交え、いずれどちらかが死することになるだろうと・・・。」
そして東仙は、拳西にも部下として言葉をかけた。
「貴方の力は、虚と相性が良かった。だから私は貴方を最初に虚化させるよう藍染様に進言した。」
「だから何だ。」
「
((!))
刀を構えた東仙に、鎖が絡みつく。
感触だけでその相手を見抜いた東仙は、一瞬困惑の表情を見せた後、盲目の眼で睨みつけた。
「すみません、狛村隊長・・・・・・、
「この戦い・・・立ち会わせて下さい・・・・・・!」
「・・・・・・檜佐木・・・!!」
四者の複雑な立場が、戦場で絡み合う。