ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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病は気から!

その日は朝からやけにだるかった。

昨日の鍛錬頑張りすぎたかな?勉強遅くまでやっていたっけ?などと隼人は考えたが、どうにも上手く思考がまとまらない。

 

だが、この異常を今拳西に相談するのは憚られた。

ここ最近拳西は瀞霊廷通信校了日が近づいている影響で間接的に自身の仕事量が増えているので、隼人は留守番することが多くなっていた。

どうせだるいのもただの気分だ。

それに子どもの「何かだるい。」で忙しい大人の時間を奪うわけにはいかないと思ったので、今日は一日寝ていよう、そうすれば何とかなると考えていた。

 

 

「じゃあ今日も行ってくる。今日は昼飯台所に置いてあるから温めて食えよ。」

「はい。食べ終わったらいつものように火消しちゃっていいですよね。」

「ああ。そんじゃあな。」

 

 

握り飯(拳西の手で握るためやけにでかい)と豚汁の残りを食べるよう言われた後、拳西はいつものように仕事に向かっていった。その時少しばかり怪訝に思った顔をしていたことに気付けないほど隼人は酷い体調だった。

 

 

 

午前中はかなり忙しかった。忙しい時に限って書類がきてないだのなくしただので余計な時間を取られ、本来終わらせるはずの半分とちょっと程度しか終わらなかった。

 

また、朝の隼人の様子も気がかりであった。明らかにいつもより調子が悪そうなのに、何も相談してくれないことに己の不甲斐なさを感じていたこともあり、今日の拳西は周りにも分かるほどイライラしていた。

 

たまたま書類を届けに来た、拳西にとって気心のしれた平子ですら雑談もせず帰っていったほどだ。

白もこういう日は察してちょっかいをかけずにいた。

 

 

「何やあいつ。えっらいイライラしおって。」

「さぁ?でもこーゆー時は変に構わないほうがいいよ~。」

「そんなん俺でもわかっとる。隼人と喧嘩でもしおったんか・・・?」

 

 

そうやってコソコソ話して気を遣われていることにも苛立ってしまうほど拳西はカリカリしていたが、必死に抑え込んで何とか今日の仕事を終えた。

 

家に帰ると、事態は想像以上に逼迫していることが分かった。

隼人は全身脂汗をかき、顔を真っ赤にして荒い呼吸をしていた。

 

 

「お前・・・!大丈夫か!?具合悪いのか!?話せるか!?」

「何か・・・。朝からだるくて・・・。昼飯も食べてなくて・・・。辛くて・・・。」

 

 

子どもの体調不良にすらしっかり気付いてやれなかった己の情けなさと、朝何も言わなかった隼人に対する怒りで、遂に我慢の限界を迎えてしまった。

 

 

「だったら何でテメェは朝俺に言わねぇんだよ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

横にあったちゃぶ台を叩き怒鳴った瞬間、あぁやっちまったな、と思った。

一緒に暮らして30年、今まで隼人は一度も体調を崩さなかったので、こういう時の対処が分からなかった。弱った子どもに苛立って当たり、怒鳴りつけるなど絶対ダメなのはさすがに分かっていたが、止められなかった。

明らかに隼人は怯えていたが、はっきりしない口調で理由を伝えた。

 

 

「拳西さん・・・仕事忙しそうだから・・・無理させたくなかったし・・・。」

 

 

最後にごめんなさいと謝罪を添えてだ。

その言葉で拳西は一層己の行いを悔いることとなった。

自分の忙しさを感じ取らせた結果、また隼人に気を遣わせてしまったのだ。

何度遠慮するなと言っても結局隼人は己に気を遣ってしまう。これは癖でやめることは出来ないのだ。

この際だ。こんなくだらない癖は無理やりにでも矯正してやる。

 

 

「そうか・・・。だったら今すぐ四番隊に行くぞ!」

「もう時間も遅いですし別にまた今度でも・・・。」

「そんな死にそうになってるヤツを四番隊に連れて行かねぇバカがどこにいやがるんだ!?あぁ!?」

 

 

こういう時は畳みかければ隼人は素直に言うことを聞くのだ。

 

 

「これは俺の我儘みてぇなもんだ。だからお前ももっと我儘言え!ただし今回は逆らったらその辺に捨てていくからな・・・!」

 

 

あまりにも凶悪な顔で脅迫されたのでもう隼人は何も言えず、素直に拳西の我儘に従うこととなった。

 

 

四番隊・総合救護詰所は人数が多いものの、基本給が安く、主に十一番隊の隊士から雑用などを押し付けられ、残業する隊士が多くなっていた。

そのため、夜に突然の外来患者が来ても大体対応でき、今回も何とか間に合ったようだ。

しかも今回は四番隊隊長・卯ノ花(うのはな)(れつ)に見てもらうこととなった。

 

 

「あらあら。こんなになるまで放置するなんて、あまり感心しませんね。」

「俺が朝に声かけてやればよかったんです・・・!なのにこんな苦しそうにさせちまって・・・!」

「まぁ口囃子くんもあまりこういう状況に慣れていなかったのでしょう。急病でここを訪れたのは今回が初めてですし。」

「そうでしたか・・・。隼人をよろしくお願いします。」

「えぇ。とりあえず六車隊長は待合室でお待ちください。」

 

 

あくまでも診察は1対1で行うようにしていたので卯ノ花は拳西を退出させ、診察を始めた。

 

 

「いつから辛くなり始めましたか?」

「今日起きてから・・・?ご飯食べるのもちょっと辛くて・・・。」

「食欲も無いのですね?」

「はい・・・あと飲み込むときに喉のあたりが痛くて・・・。」

(・・・これはおたふく風邪でしょうかね・・・。)

 

 

熱を測ったところ、8度5分ほどあったので、おおよその症状は予想がついた。

夜も更けていたので薬を処方し、一旦帰らせることにした。

診察を終え、拳西の元に戻した後、少し拳西と話をした。

 

 

「おたふく風邪だと思われるので恐らく熱が頂点に達するのは明日でしょう。いつもたくさん体を動かしたり勉強していたようなのでしっかり休ませてあげて下さい。」

「わかりました。こんな遅い時間にありがとうございます。」

「いいえ。それと・・・あまりご自分を責めないで下さい。こうなったのは誰のせいでもありませんからね。」

「あっ・・・ありがとうございます!卯ノ花隊長!」

「薬と共に体温を測る道具も入れてあります。数日たっても熱が下がらないようでしたらまたお越し下さい。」

 

 

会話の後、すぐに帰宅し夜の分の薬を飲ませ、何とか寝かしつけることに成功した。

こんな酷い思いをさせた以上明日の仕事は全部家に持ち帰ってやろう。

家にいて安心させてやれば治るのも早いと拳西は考えたのだ。

隊士に迷惑かけるだろうが、その分いつか休ませてやればいい。

ひとまずは拳西自身も明日のために寝ることにした。

 

 

翌朝体温を測ると、卯ノ花の言った通り熱はさらに上がり40度に到達していた。

 

隼人は何も食べたくなかったが、さすがにほぼ一日何も食べねぇなら治らねぇぞ、と言われたので、出された茶碗一杯分の卵粥をほんの少し食べた。

その後薬を飲み布団に横たえられ、隼人は昼まで眠りについた。

 

 

朝の一連の看病を終えた後、拳西は大急ぎで九番隊隊舎に赴き、数日分の山のような書類を持ち帰ろうとしていた。

 

 

「拳西~~!そんなに紙持ってどうしたの?」

「隼人が熱だした。だから今日俺はウチで仕事するから笠城達に伝えといてくれ。」

「うっそ~~~~~!!!!大丈夫!?アタシ見舞い行こっか!?」

「やめとけ。アイツ信じられねぇくらい弱ってるぞ。」

「ふ~ん。じゃあ後で林檎買って持ってったげるよ!擦って食べたらいいって聞くし!」

「わりぃな。助かる。じゃあ後は任せたぞ!」

 

 

普段なら白の親切など突っぱねるところを素直に受け入れるあたり相当危ない状況なのだろう。

わざわざ仕事を家に持って帰るのも前例がなく、大変な状況なのは白にも想像ついた。

それに理由はわからないが昨日の拳西の苛立ちも無くなったように見えた。

頑張っている拳西には負けられない!今日は仕事頑張るぞ!とかなり珍しく白はやる気になっていた。

 

 

「よ~~~し!!!任されちゃったからには頑張るもんね!!かさっきーー!はやちんが熱だしたらしくて・・・・・・」

 

 

山のような書類を抱えて家に帰ると、隼人はそのまま寝ているようだった。

額に当てた氷嚢もあっという間に水のみになっていたので静かに変えてやった。

目を覚ましはしなかったものの、冷たい氷嚢に変わってから少し気持ちよさそうに眠っていたので一先ず安心した。

 

 

 

白からもらった信じられない量の林檎をたまに食べつつ3日経ち、耳の下の腫れは収まり酷い時よりだいぶ話せるようにはなった。

だが依然として熱は高く、食欲も回復しないので、また総合救護詰所で診てもらうことにした。

 

 

前回卯ノ花隊長に診てもらったため、今回も彼女が診ることとなった。

 

 

「あれから具合はどうですか?」

「前より楽にはなったんですけど・・・拳西さんに迷惑かけてるのがずっと辛くて・・・。」

 

 

自分の具合を淡々と話すつもりでいたが、話しているうちに不安で一杯になってしまった。

そして卯ノ花は拳西の心配に対し失礼ともとれるその発言に不快な気持ちになった。

 

 

「忙しいのに・・・寝込んでから毎日家に居てくれて・・・なのに僕全然治んなくて・・・もう不安で・・・辛くて・・・。」

 

 

耐えられず隼人は啜り泣きし始めたが、卯ノ花の一喝で止まることとなった。

 

 

「いい加減になさい!六車隊長はあなたが風邪を引いたことを何一つ迷惑だと思っていませんよ!彼とあなたは家族なのですから!むしろ己の不注意を悔いていた程です!」

 

 

最初はぽかんとしていたが、次第に意味を理解した後は、頑張って涙をこらえた。

そして彼女の言葉からようやく拳西が迷惑だと思っていないことがどういうことかを本質的に理解した。

今まで拳西本人から遠慮するなとしか言われなかったので、ある程度の節度は必要だと思い、意識していたのだ。

だが、卯ノ花は自分と拳西を家族だといってくれた。他人から家族と言われたことはほぼ初めてで、昔一緒にいた家族に対しても、ある程度の節度など意識していなかったことを思い出した。

今までずっと心のどこかにあった拳西に対するわずかな障壁が無くなっていくのを自分でも感じることができた。

そんな隼人に対し、先ほどの少し険しい表情ではなく、穏やかな表情でこう付け足した。

 

「家族なのですから困ったときはもっと頼ったり甘えたりするべきだと私は思いますよ?私はその方が六車隊長も喜んでくれると思います。」

 

最後にかけられた言葉のおかげで隼人は全ての不安が無くなった。

 

 

「ありがとうございます、卯ノ花隊長・・・!何だか体が軽くなった気分です。」

「その調子ですよ。あとは追加して渡す薬をしっかり飲んで休めば治るでしょう。」

 

 

病は気から、という言葉を京楽から聞いたことがあったが、まさか病の終わりのきっかけが『気』になるとは思いもしなかった。

 

 

診察から戻ってきた隼人は足取りが軽く見えた。

滅多に怒らない卯ノ花隊長が怒った声が聞こえ、一体どんな粗相をしでかしたのか心配したが、最近一切見せなかった笑顔を久々に見せたので、大丈夫だろうと結論づけた。

 

それからは今まで苦しんでいたのが嘘のように回復した。3日もかからず全快し、いつも通り、というよりむしろ前より活発になって復活した。

遠慮をしない、ということの意味を完全に理解したため、前よりも一層2人の絆が強まった気がした。

 

一方、我儘も言うようになり、口も達者になった。

 

 

「おい隼人!今日の午前中の分の勉強まだ終わってねぇだろうが!終わるまで昼飯抜きだ!」

「えぇ~~~!そんなこと言ったら拳西さんも時々仕事放り出して鍛錬場行ってるって白お姉さん言ってましたよ!!瀞霊廷通信の仕事も全然やってくれないって衛島さん嘆いてましたよ!!」

「・・・・・・・ほう・・・・・・なかなか言うじゃねぇか・・・・・・!!!!!」

「・・・これはまずい・・・!そういえば怒らせたらオレを呼べって平子さんに言われてたんだ!じゃあさようならー!」

「待ちやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」

 

 

ついでに白に対してよりも強烈な拳西の怒号が隊舎内に響き渡るようになったのもこの頃からであった。

 




直接的描写はほとんど無いですが話題のテレワークをやらせてみました。
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