「隊長・・・・・・・・・何で・・・・・・・隊長・・・・・・!」
血の海と化した周囲、手にべったりとついた返り血、僅かに原型をとどめる肉体、それに反して綺麗な形を留めた骨を目の当たりにした修兵は、怒り、悲しみ、猛烈な吐き気に苛まれ、精神を大きく乱してしまった。
「う・・・あ・・・・・・・・・ああ・・・・・・・・・!!」
あまりのショックで、意識を失ってしまう。
同時に、怒りのあまり藍染に特攻をかけようとした狛村を何とか拳西は引きとどめた。
日頃感情に任せて行動しやすい拳西は、東仙との戦いがあったからか今は冷静でいることが出来た。
「一護が来てる!一旦落ち着け!」
「!・・・・・・済まない。あの時の過ちを繰り返す所だった・・・。」
「とりあえずこのガキを救護してるヤツんとこ運ぶぞ。そっから俺達も藍染と戦う。案内してくれ。」
「分かった。」
吉良の元に修兵を運んだ時には、射場も大分回復していた。
拳西を見た射場は、「・・・生きて、口囃子に会いやしょう。何としても、あいつの心からの笑顔を取り戻しやしょう!!お願いしやす!!」と涙ながらに頭を下げていた。
そしてここに、もう一つ向かってくる霊圧があった。
「け~~~ん~~~せ~~~!!遅い遅い~~!!」
「遅いってお前、ボロボロじゃねぇか・・・。」
「危なかったよ~~!刀剣解放された時はヒヤーーっとしたもん!!あたしの始解で何とか倒せたけどね!!」
白スーパーキックで最初はワンダーワイスを追い詰めたものの、理性を失った破面はただ目の前の敵を殺そうと考えただけですぐさま刀剣解放をし、虚化していながらも一時はかなり追い詰められたのだ。
「あたしの顔を思いっきり殴るなんて~~!こうなったら、あたしもいつもより頑張っちゃうよ!!」
「踊れ!! 『
大小二つの緑色の鉄扇を両手に持ち、白は『本気モード』に入った。
白スーパー虚閃で遠距離からの攻撃を行い、怯んだワンダーワイスを鉄扇で殴る。
二対の扇子を用いて風の渦を巻き起こして爆発させる、といった近接戦闘を中心に、白はワンダーワイスに辛くも勝利することができた。
「死んだのか?」
「わかんな~い。」
「あぁ!?何で確認しねぇんだよ!」
「確認したよ!!でも何度倒しても起き上がってくるんだもーん。今はずっと動いてないから多分死んでると思うよ!」
あんまりアテにならないが、ずっと動いていないなら戦闘不能と考えられるしまだいいか、と思い、今回はこれ以上責める気になれなかった。
それに、もう時間がない。
「急ぎ向かうぞ!黒崎一護の元へ!」
狛村の号令をきっかけに、拳西と白含めた三人は藍染との決戦に向かう。
「隊長・・・頼んます・・・・・・。」
回復こそしているものの、自分の実力をわかっているからこそ射場は一緒に行こうとはしなかった。
足手まといになるのは目に見えている。
藍染の言葉に動揺を隠せずにいた一護の手を、狛村が掴む。
「呑まれるな。黒崎一護。」
「狛村さん・・・!」
「コッチに来て早々挑発に乗ってんじゃねぇぞ一護。みすみす命捨てんじゃねぇ。」
「やっほーー!ベリたん久し振り!」
「拳西!!白!!」
援軍を見た藍染は、尚も表情を崩さない。
これからの戦いを、愉しみにしているかのような表情を見せている。
「・・・安心せい。虚圏へ向かった隊長達が、真っ先に貴公を此方へ送った理由は解っておる。貴公に藍染の始解は見せはせん。」
続々と集まった戦闘可能な隊長格と、仮面の軍勢が、一護の前に立つ。
「儂らが、貴公を護って戦ってやる。」
どれ程頼もしいことだろうか。
一護の前に立った護廷十三隊と仮面の軍勢は、皆傷だらけでボロボロの体であり、霊圧も十分とはいえないものだった。
「俺を護って戦う・・・・・・!?何言ってんだよ・・・!無茶だ!みんなボロボロじゃねぇか・・・!」
「何が無茶やねん。」
「オマエ一人で戦わす方が、よっぽど無茶やろ。」
その平子の言葉に先ほど藍染の言葉に惑わされそうになった一護は眼を瞑る。
悔しいが、今の精神状態では平子の言う通りだった。
「一人でやられたらハラの虫おさまれへん奴がようさんおんねん。一人で背負うな。厚かましい。これは、俺ら全員の戦いや。」
集まった隊長格の中で、まずは藍染に一番近い位置にいた日番谷と京楽が先陣を切る。
一護の横にいた狛村は、一護がいなければ斬られていた己の浅慮を恥じ、一護に感謝を告げて藍染の元に向かっていく。
一護の目の前にいた平子が、順番を待ち望んでいたかのように声をかけた。
織姫を連れて来なかったことに文句を言いつつ、戦いの場に卯ノ花を連れてきたことは正解だとひょうきんに告げた。
「リサ、ローズ、ラブ、拳西、白。行くで。」
ひよ里とハッチを除いた仮面の軍勢六名が、同時に藍染の元へ向かった。
残った砕蜂も流れに乗ったからか一護に声をかける。
生きる為、藍染からあらゆる物を護る為に戦うと自分達の戦いを一護に説明する。
死を覚悟したものではないと、一護に伝え、砕蜂も藍染の元へ向かった。
一人で何でも護ると背負い込んでいた一護は、そのおこがましい考えを改め、皆が戦っている戦況を見据えることにした。
体育館を使って映画鑑賞会を行っていた一護の友人達は、後片付けを行っていた。
「なあ、あのシーンカッコよかったよな!?キザなクセに有言実行しやがるんだぜ!?ぐわぁーーって、どわぁーーってアクションシーンもすげぇ迫力だったよな!?な、水色!!」
「そうですね。浅野さん。」
普段なら、「また敬語かよ!?そんなぁ俺を見捨てないでくれぇ~~!!」とでも返すものだが、今日はそんな雰囲気にもなれなかった。
「―――――・・・。俺達、このまま生き残れるのかなぁ・・・?」
一生懸命場を盛り上げようとした啓吾も、意気消沈せざるをえなかった。
映画の内容が鬱屈とさせられるような物ではない。むしろ子供向けに作られた、探偵モノにもかかわらず楽しいアクションストーリーであった。
今置かれている自分達の現状が、彼らの気分を沈ませるには十分すぎる程辛いものであったからだ。
遮光カーテンを開いた後に見える空は、いつもの空と何にも変わりない。
だがこの空は、毎日眺める空とは
気味が悪い程に精巧なレプリカである空間は、空すらもレプリカであり雲は全く動きが無い。
「あたしたちが見ているこの空も、いっつも見てる本物の空じゃないんだね・・・。」
「そっか・・・。」
啓吾と同じくハイテンションが売りの千鶴も、たつきの言葉にただただ同意するしかなかった。
「・・・って考えても仕方ないか!後片付けするぞケイゴーー。」
「痛って!!また俺だけ殴るのかよ!」
「アンタを殴るとスッキリする。」
「酷い!!俺インターハイ優勝の女の子にサンドバックにされてる!」
「準優勝だっつの。」
気を取り直してカーテンの後片付けを終わらせた所で、下から声が聞こえた。
「なーに辛気臭い顔してんのみんな?」
「口囃子さん!いやーー俺達映画がとっても面白くて「変に嘘言うなアホ!」
「痛い!もう俺の鼻折れてそう・・・。」
「あっちょっとそこから動かないで。」
ん?と四人は全く同じ反応をしつつ指示に従い動かないようにする。
「ほいっ。」
隼人の言葉と同時に、ギャラリー席にいた四人は一瞬で体育館の下の床に移動していた。
長い時間超常現象に巻き込まれている彼らも鬱屈としているだろうと考えた隼人は、周りに被害を及ぼさない中で術を披露したら楽しんでくれるかもしれないと安直に考えた。
鬼道だと体育館を壊しかねないため、転移術を実際に体験してもらえば、驚きで彼らも少しは気が楽になるかもしれない。
その読みは見事に当たった。
高校生であり自分と体格もあまり変わらないが、まだまだ子ども。
初めて実感する霊術に啓吾はめちゃくちゃ興奮していた。
「すげぇ!!俺達テレポートした!!」
「死神ってこんなことも出来るんですね。」
かなり特例中の特例なので皆出来るわけではないが、得意不得意があり一護みたいに剣での戦いに特化した死神や、速力に特化した死神がいることなども追加で説明する。
基本的に彼らには肯定的な情報を伝えるようにしていた。
転移術に失敗したら足がめり込むとか危険な情報は、伝えないようにする。
高校生達が不安な気持ちで意気消沈していることは隼人の目で見ても悟ってしまう程であったが、実は隼人も向こうの霊圧を読んでいて、驚き、嬉しさ、そして戸惑いを覚えていた。
突然8名の知らない霊圧が空座町に乱入してきた。
101年前の元隊長、副隊長と推測する以外の選択肢は無い。今すぐにでも向こうに行きたい程だ。
会って話をしたい。一緒に戦いたい。待ち焦がれていた瞬間が目の前に来ていた。
だが、自分のおぼろげな記憶にある彼らの霊圧とは、全く別物だった。
虚の力が混じり、元の霊圧に無理矢理上書きされたかのような不自然な霊圧をしている。
読み取ってしまったその霊圧から、自分と彼らの決定的な違いを押し付けられたような気がした。
二度と話すことが出来ないのかもしれないと怖くなった。
(いや、ダメだダメだ!悲観的になるな!)
無理矢理に自らを奮い立たせ、巡回を続ける。
大丈夫だ。きっと現世で藍染は倒れる。
空座第一高等学校に戻った隼人は、職員室に寄り、数枚のメモ帳を持って体育館に向かった。
「・・・っていう訳で、ハイ!!これ!!」
「いや、どういう訳っすか・・・?」
「うるさいなぁ!少しぐらい回想挟んだっていいだろ!」
「回想なんて俺知らねぇし!つーか今日の俺ツッコミしかしてねぇ!!」と啓吾がやいのやいの文句タラタラであったが、そんなことを気にせず隼人は話を続けた。
「好きなの取ってくれ。早いもの勝ちだ!」
「え、そ、そうですか。じゃああたしはこれ。」
「僕はこれにするよ。」
「あたしはこれーー!」
「え、俺最後!?選択権ナシ!?」
そう言いつつ皆手に取ったメモ用紙には、絵心という概念を完全に放棄した絵が描かれていた。
ドン引きしている。
「有沢さんのはうさぎ。水色くんのはパンダ。本匠さんのは猫。啓吾くんのは犬。どうかな?結構上手く描けたと思うんだーー!自信作!」
「何つーか・・・。現代アートみたいですね。こう、既成概念を取っ払った感じというか・・・。」
啓吾が必死に褒めようとしたが、あまりにも絵が酷すぎて他の三名はこれが動物であることすら判らなかった。
朽木兄弟のセンスなど眼中にない程の尸魂界随一の画伯である隼人の絵は、最早常人には理解出来ないアートと化していた。
そしてそれに全く自覚が無いのが何とも罪深い。それなりに絵が描けると未だに勘違いをしているのだ。
藍染の離反の後、瀞霊廷通信の『教えて!修兵先生!』の挿絵をたまたま任されて意気揚々と提出した際には、新編集長になった修兵に『こんな物載せられないっすよ。絵ド下手なんすね。根本的におかしいっすよ。』と容赦ない酷評をされ、ブチギレて顔をタコ殴りにしたことがあった。
ちなみにその絵のせいで連載が終了したことは、隼人も知らない話だ。
そして今回はその絵が重要な訳ではない。あくまでも楽しませようという隼人の思いが生み出した遺物だ。
この紙を渡した本来の目的は別にあった。
「その紙を持っていれば、簡易的にではあるけど君達の霊圧は消えます。藍染惣右介がここに侵攻を始めた場合には、この紙を持っていれば彼に君たちの存在が遠くから気付かれることは無いでしょう。直接会うことさえなければ命は保証されます。」
「えっマジすか!!こんな下手糞もいい所の絵が描かれた紙が、そんなすごい紙だったんですね!!」
啓吾の遠慮、容赦の一切無い一言のせいで、ニコニコしていた隼人の顔色は一気に変わってしまった。
色を失い完全に据わった目が、啓吾を捕らえて逃さない。
その場にいた四人全員が隼人の表情の変化で震える。
「君、今何て言ったのかな?」
「え・・・いや、その・・・・・・。」
「『こんな下手糞もいい所の絵』って言ってましたね。」
「バカ水色!空気読めよ!口囃子さんの顔が・・・・・ああぁぁぁ・・・・・・・・・!!!!」
「誰の絵が下手糞だコラ・・・・・・!!」
「お、お上手です!展覧会にあってもおかしくない程ですよ!!個展でも開いたらどうで御座いましょうか?」
「馬鹿にしてんのかテメェ!!」
「ひぃ~~!!お許しをーー!!!」
修兵みたいにタコ殴りにするつもりは万に一つも無かったが、仕置きが必要だ。
みっちり叱って死神の恐ろしさを骨の髄まで叩き込んでやる。
だが、それ所では無くなった。
隼人の霊圧知覚が異常な物を探知した。
「!!―――――・・・何だ・・・?こっちに近付いてくる・・・。」
「俺、助かった・・・?」と啓吾が間抜けな一言を口にしたが、それすら耳に入らない程隼人は集中力を高め、始解を使って此方に近付いてくる霊圧を解析する。
(藍染ではない・・・かといって虚の霊圧を感じるわけでもない・・・誰だ・・・・・・。)
その人物が現れた瞬間、本物の空座町が色んな意味で混乱の渦に陥ることになるとは思いもしなかった。
護廷十三隊と仮面の軍勢、その他現世組の空座町での戦いは後は原作と同じような展開なので、決戦が終わった後などに誰かの言葉伝手にダイジェストで振り返るような形で書こうと思います。
千年血戦篇で藍染に言わせるかも。
そして次回、あの男が登場します。