嫌な予感しかしない・・・。
その男は、横開きの体育館のドアを盛大に鳴らして入ってきた。
「よい子の皆さんさぁさぁここでヒーローの登場だぁ!ボォ―――――イズエンドガァ――――――ルズ!!」
「スピリッツ!!ア~~~~~~~~~~オ――――――――ルウェイッ!!ウィズ!!」
「ィィィユ――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!」
「お待たせしました!お待たせし過ぎたかもしれません!!読者の皆さん!!あなたのドン・観音寺!わたしのドン・観音寺!みんなのドン・観音寺がついーーーに初登場!!!!!これから私のマーーーーーーベラスでエッッッッッックセレントな活躍を楽しみにしていてくれよ!!」
彼の野太いにもかかわらずキンキンした声が体育館内に響き渡る。
「誰こいつ。」
「むぅぅぅ!!!この私を知らぬとは無知なボーイだ!!!イマドキボーイのイケメンな顔をしてTVはあまり見ないのかねっ!?」
「えっ僕ってイケメンなの?その部類に入るの?初めて言われたんだけど。」
「いいだろう!!名乗ってみせよう!私こそ「何しに来たのよドン・観音寺。」
「No―――――――――!!!!今から私が自分でスペシャルな名乗りを上げようとしていたというのに!!鬼かねガールは!?」
「いや貴方の名前はさっき聞いたよ。その意味で誰って聞いてんだけど。」
「Damn――――――――――――――――――!!!!!!!!!!」
「いや話聞けよ。」
全然話を聞かない男が乱入してきた。華美な服装に自己主張の激しすぎる言動は、何というか今までに会ったことのない人間であり、対応に困る。
たつきが物凄く嫌そうな顔をしており、全て知っていそうなので全部彼女に聞くことにする。
「ねぇこのおっさん誰なの?」
「ドン・観音寺。霊媒師で芸能人やってる人です。本名は観音寺
「アンッッッッビリ――――――――――――――バボ――――――――!!!何でガールは私の真の名前を口にするんだい!?!?悪魔か!?悪魔かね!?」
「・・・・・・色々大変な人だね。」
「Damn―――――――――――――――!!!!!!!」
「またそれかよ。」
このおじさんもあのボンバーマンと共にどっか遠くにやらないと面倒なことになる。というか、精神衛生上もう持たない。
なんでこんな色物が霊媒師なんてことをやっているのか理解の範疇を超えている。
「霊媒師なら、さっき北の方に幽霊感じたんですけど、対処してくれたりします?」
「何を言っているんだねボーイ?嘘はいけない。
(!)
この一瞬で、隼人は目の前の強烈な個性を持つ男の評価を一変させざるをえなかった。
おそらくこの男は、
霊圧知覚が飛びぬけて高い隼人ですら、始解せずにこの場に虚がまったくいないときっぱり言い切れる霊圧知覚を持っていない。
現世の人間が何故こんな飛び抜けた力を持っているのかも理解できないし、よくそんな力を持っていながら虚に殺されることもなく生き延びたものだと感心すらする。
だが、いかんせんうるさい。
「私は空座町がこのようなアブノ―――――――マルになっているのをヒーローとして見過ごせないのだよ!!ユーは夏に私の一番弟子になったオレンジ髪のボーイと同じ服装をしている。是非ともこのイマージャンシーを打開するため、私と手を組もうではないか!!!」
「一護くんを一番弟子って、アンタの霊圧如きでよくそんなこと言えるな・・・。」
「ユーの甘いマスクでカワイ子ちゃん達も一網打尽!!視聴率うなぎ上りも間違いなし!!空座ハイパーエキセントリックコンビの結成だ―――――――!!!!!」
「・・・・・・・・・。」
もう、ついていくのすら疲れる。
というか、甘いマスクとかイケメンとか今まで言われたことがないので、その点だけでも面食らってしまう。地味しか言われたことがないので本当とは思えない。
そもそもこんな得体の知れないおっさんと手を組むなんて、御免蒙る。
気疲れのせいか最初からおっさん相手にタメ口で喋っていた。
介護している気分だ。
「あのね、万が一の事態があったらアンタは死んじゃう可能性があるんだよ?アンタにだって人生あるんだよ?悪いことは言わないから逃げてよ。コンビなんて組んでられないよ。」
「・・・私は、逃げるわけにはいかないんだ。」
「は?そんな悠長な事言ってたら本当に死んじゃうよ?」
突然哀愁漂う雰囲気を醸し出され、またも反応に困る。
隼人のわりかし本気の忠告を聞きつつも、観音寺は己のポリシーを崩すわけにはいかなかった。
「・・・・・・無知なボーイだ。教えておこう。私はヒーローだ。そして私の番組は日本中たくさんの子ども達が観ている。」
「番組って、それテレビの話じゃ・・・。」
「戦いから逃げるヒーローを、子ども達はヒーローとは呼ばんのだよ。」
きっぱり言い切った観音寺に対し、その場にいた高校生だけでなく、隼人も彼のスタンスを頭ごなしに否定することが出来なかった。
自分が子どもだった時に助けてくれたヒーローの男は、決して戦いから逃げるような男ではなかった。頼りになるあの背中は、戦いを恐れるような男のものではなかった。
目の前の爺さんは全然頼りになるようには見えないが、この男は自分よりも強い心を持っていた。
無理な戦いなら逃げようと思っていた己が情けない。
「分かった。じゃあアンタは、一護くんの友人を護るヒーローになってよ。」
「Non!!それではユーは何をするというんだね!?私はユーと共に戦いたいのだよ!!」
「僕が敵を足止めするから、アンタは護るためのヒーローになるんだよ。逃げるんじゃなくて、生きるためにヒーローとして戦うんだよ。それならいいでしょ?」
「MMMMMMmmmmmmm・・・・・・・・・・・。良かろう!私はガーディアンというわけだな!?素晴らしい!ヒーローでありガーディアン!!エクセレントな響きではないか!!!」
拡大解釈をしてくれたおかげで観音寺との契約は成立した。
追加で護符を作成し、観音寺にも渡す。
たつきは本気で嫌そうな顔をしたが、自分と一緒にいてのたれ死ぬよりは絶対にいい。
それに、現世の方も中々に危ない気がしてきた。
浦原と思しき人間の戦っている霊圧を感じるのだ。
一緒に戦っているのは夜一と、何の因果かは知らないが志波一心もいた。
藍染の霊圧を読み続けているが、彼の霊圧の段階が変化したことにより読み取る難易度が上昇する。それでも無理矢理藍染の霊圧を読み続けている。
斬魄刀にも相当な負荷がかかっている。
(ごめん・・・こんな、無理させちゃって・・・。)
だが、一つ決心したことがある。
逃げるものか。藍染相手に情けない真似なんてするわけにはいかない。
七緒との約束も果たさねばならない。
零番隊でも誰でもいいから、救援が来るまで持ちこたえなければならない。
観音寺との会話をきっかけに、今までのポリシーであった、「勝てない相手には堂々と逃げる」というやり方を変えることになるとは、本当にこの男はイレギュラーだ。
自分を助けてくれたあのヒーローのように、今度は自分が彼らのヒーローになれるだろうか。
「ではスピリッツのボーイ!作戦会議といこうかね!」
「えっ作戦なんてないんだけど・・・。」
「ア――――――――ユ―――――――――ナ――――――――ッツ!?!?(正気か!?)ユーはアニメや特撮を観ないのかねっ!?」
「いや知らないし。」
時々大声で挟んでくる異国の言葉が妙にイラつく。
実際作戦はあるのだが(むしろ作戦だらけなのだが)、このイレギュラー感満載の男がいた場合、綿密に立てた計画が全てご破算になりかねないので下手に話すわけにはいかない。
「ならば私が考えよう!この私のマーベラスでホーリーな頭脳を用いれば私達に襲い掛かるバッド・イーヴィルも忽ちに倒れてしまうだろう!!」
「アンタの頭のどこがマーベラスなのよ。ただ年中頭沸いてるだけでしょうが。」
「ホワッディヂュセ―――――――――――――イ!!!!(何だと!?)」
話が進まない。
ツッコミを入れたたつきはまともに話したくない雰囲気を醸し出しており、ここは啓吾に頼んだら何か変わるかもしれないと思い彼の方に視線を向けたが、テレビで見ていた芸能人の性格が余程面倒に感じたのか、水色と千鶴合わせた三人で遠くで喋っていた。
誰か収拾つけてくれよ。
「もう、無理・・・・・・。」
「ここまで対話を続けようとする口囃子さんがすごいよ・・・。」
観音寺が考えた計画は、よくわからないゴールデンキャノンボールとかいう観音寺の技で藍染に闇討ちを仕掛け、そこから隼人が色んな攻撃をして倒すというものだった。
結局お前他力本願じゃねぇかよと言いたくなったが、作戦を思いついて気分が良くなったのか、コンビネーション技を考えようとか言いだし始めた。
「私とボーイのタクティカルなコンビネーションが決まれば視聴率上昇も間違いナシ!!!」
「視聴率って、アンタの都合じゃん。つーか実力的にコンビネーションもクソも無いと思うんだけど・・・。」
「この技で勝利した暁には、私は是非ともユーと共に番組に出て除霊したいものだよ!!」
「また聞いてない・・・。」
「さぁさぁそうと決まれば外に出てコンビネーション技の研究だァァァァァァ!!!」
「え、ちょ、ちょっと!!」
体格の割に意外と力があり、なす術もなく引っ張られて外に出てしまった。
目の前の木相手にコンビネーション技の練習をするつもりでいるらしい。
木相手とかマジかよと嫌な予感がしたが、その予感は案の定当たる。
観音寺の持っている棒から発射された霊子の球は、木の幹をちょっぴり傷付ける程度の力でしかなかった。
予想はしていたが、霊圧知覚だけずば抜けていてそれ以外はからっきしだった。
「ほら!!ユー!!攻撃!!何をボサっとしているんだね!?!?集中力が無いとバッド・イーヴィルに反撃されてしまうよ!!!!」
「それで隙を生むことが出来ると思っているアンタの平和ボケにむしろ感心するよ・・・。」
現世の人間だからまぁ仕方ないかと考え直し、練習を強行的に止めて体育館に戻ろうとした。
藍染の放つ霊圧が再び変化の時を迎えるのを感じ取った。
(!!)
同時に夜一達の霊圧を読むと、彼らもやられているのが解析できた。
昔の記憶にある志波一心の霊圧も弱まっている。近くで弱まっている霊圧は、浦原の物だろう。
瞬時に顔色を変えた隼人を見た観音寺は、いたって真面目な様子で隼人に確認を取る。
「ユー・・・大丈夫かね・・・?もしや・・・。」
「大丈夫なわけ・・・ないよ・・・。」
他の死神の霊圧も読んだが、空座町にいる藍染と市丸以外の霊圧は皆弱まっている。
総隊長含め、全員やられたのだ。
嫌な汗が全身から噴き出てくる。
穿界門が開けられる気配を感じ取った。
(!!!)
瞬時に観音寺の体を掴んで体育館の室内に入り、体育館を覆う結界を張った。
只ならぬ隼人の様子に、高校生達も察してしまった。
「偽物の空座町で・・・藍染を止めることは出来なかったんですか・・・?」
「・・・・・・。」
たつきの言葉に対し、何も返す言葉が思いつかない。
与えられた現実は、既に隼人の予想をはるかに超えていた。
藍染の霊圧はもう一段階上がったことで、一度完全に読めなくなってしまった。
桃明呪でも読めない霊圧。理解の出来ない概念にすら感じる。
魂魄の位置から藍染の居場所を把握することはできるが、魂魄から放つ霊圧は読もうとしても、次元で隔てられた感覚がするのだ。
「俺達・・・どうなっちゃうんだよ・・・!」
啓吾の不安が千鶴に移り、完全にパニックになってしまう。
今の隼人に彼らを落ち着かせる言葉を考える余裕は無く、歯がゆい思いをする。
そんな二人を救ったのは、現世のヒーローであった。
「ボーイエンガール。大丈夫だ。私がついている。私がユーたちを護る。」
「ヒーローの私が、目の前で不安に怯える子ども達を見捨てるわけにはいかないのだよ。」
「観音寺・・・・・・。」
時々いい事を言う男に、隼人も救われたような思いがした。
棒を構えた観音寺は、意気揚々と戦前に名乗りを上げる。
「ドン・観音寺!!私のこのスピリチュアルなステッキで、高校生のユー達を護ってみせる!!」
観音寺の勇気ある振る舞いに啓吾と千鶴は元気を取り戻した。
頑張れーー!!と二人は声援を送っている。
一方水色は、隼人にいざという時の行動の確認を求めてきた。
観音寺に従っていたままの場合まずい事になりそうなので、この場で一番状況を冷静に理解している水色とたつきに万が一の行動の仕方を伝える。
今の二人はどこにも霊圧を感じられないため、恐らく断界の中におり、本物の空座町へと侵攻する道のりを歩いているのだろう。
恐くないワケが無い。
でも、護るためにはやるしかない。
藍染との本格的な戦いが、遂に始まる。