ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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深呼吸を繰り返す。

空を見上げた。

右手で首に提げた水色のお守りを握り締める。

左手で、始解を解いた斬魄刀を握り締める。

 

藍染が断界に入ったのを確認してから、霊力の消費を抑えるために一旦始解を解いていた。

それ程までに、今は霊力の消耗が惜しい。

 

 

「ボーイ・・・大丈夫かね?」

「・・・・・・。」

 

 

さっきと同じ観音寺の言葉だが、再び深呼吸をした後、まったく違う返答をした。

 

 

「うん。大丈夫。」

「私の胸はいつでも空いている。泣きたくなったら私の胸を貸そう!」

「それは大丈夫、別の意味で。胸毛汚そうだし。」

「何と!!私に胸毛など生えておらぬ!!」

 

 

冗談を言えるくらいには心も落ち着いていた。

この戦いの後のことを考える。

誰かがきっと来てくれる。流石にこの場所で一人で戦わせるワケはない。

その誰かが来たら、その人に任せて自分は現世の空座町に行こう。

逃げるのではない。どんな形であれ一護の友人を守りきるのが隼人の任務だ。

101年ぶりに再会するのだ。何て話しかけようか。そう考えるだけで、気が楽になる。

記憶の中の拳西の姿は、がさつでぶっきらぼうで、すぐ怒るが、優しいところもあった。

 

こんなに強くなりましたよ、成長しましたよって言おうか。

喜んでくれるだろうか。成長したなって褒めてくれるだろうか。

 

穿界門が開く気配がした。

 

空座町上空で門が開いた場合は最初の策を講じることになっていたが、どうやら向こうで何らかのミスがあったようだ。

 

 

「読み取れ 『桃明呪』」

 

 

始解し直して瞬時に藍染と市丸の魂魄の位置を探査、捕捉する。

徒歩30分くらいの距離か。

これならむしろ余裕が生まれたといえる。

瞬歩で移動された場合そのアドバンテージも無くなるが、彼らは歩いて移動し始めたようだ。

パソコンに向かい、監視カメラを総動員して藍染の方向に録霊蟲を複数展開させ、二人の様子を映像越しに把握することにした。

 

 

「これが、藍染・・・・・・。」

「・・・・・・。」

 

 

画面越しから、霊圧が伝わってくるかのようだ。

水色の言葉を機に、現世の人間全員の体中に悪寒が走り、嫌な汗が流れる。

 

そして隼人も、破面のような装束であるが、装束と体が一体化したような姿、長い髪の毛、虚のような眼球に、得体の知れない物を見た恐怖を味わう。

胸の中心に埋め込まれているものは、崩玉だろうか。

 

やはり藍染はこちらの想像を遥かに超える進化をしてきた。

もし胸にあるものが本当に崩玉なら、ただでさえ危険な崩玉を体に埋め込むなど、正気の沙汰ではない。

一度霊圧が読めなくなったのも合点がいった。

崩玉と融合した藍染の霊圧は、この世界の次元を超越し、別次元の物に変貌を遂げた。

崩玉自体の霊圧を隼人が全く読めないのは、そもそも放つ霊圧の次元が違うから、ということだった。

 

どこか別世界から来た異形のように隼人の目には見えていた。

 

 

「なぁ、今すぐここに来るのか・・・?」

「それは大丈夫。藍染はまだ空座町から離れた場所にいるからすぐには来ない・・・はず。」

「はずって!口囃子さん大丈夫なんですか!?」

 

 

千鶴の問いに簡単に返答することが出来ない程、藍染の行動は全く読めない。虚圏にいる隊長格もこの街で倒すつもりでいるのか。

そうでないとしたら、すぐにこの街に降り立って王鍵創生に取り掛かってもおかしくないはずだ。

それとも何か別の存在を待っているのか。

零番隊か。

 

藍染の狙いを推測するために思考を巡らせつつ、隼人は今度こそ最初の策の準備に取り掛かり始める。

空座第一高等学校にいながら出来る策を、藍染が街に入るまでに整える必要があった。

 

 

 

 

 

 

 

一方の現世の空座町では。

 

 

黒崎親子が断界を通じた形で尸魂界の空座町に向かう最中で、藍染による攻撃で拘突がいなくなったことを利用し、最後の月牙天衝の習得のための修行に入る。

そして、市丸ギンの真意を問うために、松本乱菊は未だ治りきっていない右脇腹を抑えつつ正規ルートを辿って尸魂界の空座町へと向かっていく。

 

卯ノ花の命令で尸魂界で待機していた複数の四番隊隊士を現世の空座町に動員し、重傷を負った者から順に処置を始めていた。

 

あれだけ実力者が揃っても、誰も藍染に一矢報いることは出来なかった。

鏡花水月の策略で雛森が刺され、日番谷が我を失ってから負のスパイラルは続き、ばたばたとその凶刃に死神達は倒れていく。

 

無論、拳西も同じであった。

卍解 『鐵拳断風(てっけんたちかぜ)』は藍染の体に当てても全く通用せず、そのままなす術もなく斬られた。

己の弱さを恥じるしかない。とんでもない屈辱を味わった。

幸いにもこの卍解は攻撃力よりも耐久力に優れているため深手を負って完全に動けなくなることはなかったものの、卍解が通用しないのであれば勝ち目など無い。

卍解を斬られたのではなく、体を直接斬られたのもある意味不幸中の幸いだった。

卍解が壊れたのであれば、修復不可能なのだから。

 

だからこそ、こんな所で傷を治してもらって休んでいる暇なんて無かった。

 

知らない顔ばかりの四番隊隊士に応急処置を施してもらった後、痛む体で浦原の元に行く。

浦原は最終進化前の藍染と戦ったこともあり、拳西とは比較にならない程ボロボロであった。

まともに戦うことは出来ないだろう。だが、浦原には封印の策があったため、どんな体でも藍染が封印されるところを見届けねばならない。

そんな浦原に頼むことなど、一つしかない。

 

 

「穿界門を開けてくれねぇか。」

「・・・誰かからお聞きになったんスね。」

「当たり前だ!こんな所でうかうかしてられっかよ!!隼人を殺すなんてマネ藍染にさせるわけにはいかねぇ!だから早く・・・!!ぐっ・・・!」

 

 

頭に血が上り語気を荒げたからか、斬られた箇所が疼く。

その痛みに拳西も蹲るしかなかった。

 

 

「一心サンから連絡がありましたが、拘突が藍染によって破壊されたそうです。そこで、現在断界の時間の流れを止めて修行を行っています。なので、断界には今入れないんスよ。万が一アタシ達が入って移動することによって時間の流れが生まれた場合、修行全てがムダになってしまいます。」

「マジかよ・・・。」

「アタシ達は出来る範囲で傷を治しましょう。そして黒崎サンの修行が終わったら、すぐに空座町に向かいましょう。」

 

 

「口囃子サンの命に、間違いなく危険が迫っています。」

 

 

 

 

 

 

そして藍染は、数十分の徒歩の後、本物の空座町へと辿り着く。

 

 

「・・・成程。尸魂界には不似合いな景色だ。それも、―――――――見納めか。」

 

 

流魂街の山々から空座町へと足を踏み入れる。

刹那。

 

 

民家の外壁に張られた導火線を伝って火花が走り、炎の壁が藍染と市丸の周囲を囲うように湧き上がる。

 

 

「あら、炎の壁。さっきの流刃若火の火を思い出しますなあ。」

「・・・ああ。そうだね。だが、薄い。」

 

 

藍染が放つ霊圧によって、その炎は跡形もなく消える。

視界が開けた後周りを見た市丸は、表面上は驚きの顔を浮かべる。

 

先ほど確かに炎が存在した周囲に、火の焦げ跡は一切存在しなかった。

それどころか、霊圧の痕跡すら完全に消えている。

 

 

「これだけの技使うてまったく跡残さんとはなぁ、ひゃあ、恐ろし恐ろし。」

「・・・・・・見事な力だ。」

 

 

「口囃子隼人。」

 

 

先ほどの炎から感じ取った霊圧で、技を使った主を言い当てる。

 

 

「やはり本物の空座町に彼はいたか。・・・面白い。護廷十三隊の最後の砦を彼に務めさせるとは、浦原喜助も中々に考えたものだ。」

「どうしはりますか?藍染隊長。」

「決まっているよ。ギン。」

 

 

「黒崎一護が来る前に、彼を殺す。」

 

「肉片すら残さずに、彼を亡き者にしよう。」

 

 

一つの対象に対し明確な殺意を示した藍染に、市丸は内心驚きを隠せずにいた。

それも、完全な形での抹殺だ。

 

(へぇ~・・・。面白いことになりそうやなァ。)

 

そして、次の罠が襲い掛かる。

 

近くにある一軒家程の高さの厚い壁が突然現れ、二人を覆う。

僅かに空いた穴から謎の気体が流れ込んできた。

 

 

「毒霧か。これは、尸魂界で作られたものではないな。」

 

 

現世の薬品の臭いを感じ取り僅かに警戒を強めるものの、余裕の表情は決して崩さない。

この壁も、藍染が霊圧を放つことで跡形もなく吹き飛んでしまった。

 

 

 

 

「最初の罠を霊圧だけで吹き飛ばすとは・・・。やっぱこんな簡単にいくわけないよな・・・。」

 

 

こっちに来てから何度か空座町巡回していたが、何もただ適当に街をブラブラしている程アホではない。

空座町中に、藍染、市丸、東仙三名だけの霊圧に反応する幾つもの罠を仕掛けた。

そしてこの罠は、この三名のみにダメージを与えるものであり、空座町の街並みが壊れることは絶対にない。

 

始解の読み取る力を織り交ぜた鬼道で、街を気にせずに罠を張ることが出来た。

 

(だったら・・・。)

 

次は厚い壁で二人を囲う罠だ。

そしてこの罠を発動させると、壁にくっつけていた袋が弾け、毒ガスを生み出す仕組みになっている。

 

この高校にある理科室の薬品を適当に混ぜて即席で作ったものであり、おそらく混ぜてはいけない物同士も強引に混ざっている。

尸魂界で生み出されたものではない、現世の毒物なら強い刺激でほんの僅かでも影響を及ぼせるかもしれない。

 

と思ったが、崩玉を取り込んだ藍染がそう簡単に倒れる筈はない。

 

さっきよりもわずかに強めた霊圧で、壁もろとも吹き飛ばされてしまった。

 

(ったく、やりづらいことこの上ないな!)

 

せっかく色々仕掛けたのに、ここまで簡単に霊圧だけで潰されるのは不服を申し立てたい。

罠の数を増やしたせいで一つ一つが弱くなってしまった自分のせいでもあるのだが。

 

 

「ボーイ、あのスピリッツがバッド・イーヴィルかね?」

「うん。白い服の二人がだよ。」

 

 

観音寺は髭をこすりながらフムフムと何かを思案している。

一応飛び出したりしたらまずいので釘を刺した。

 

 

「アンタ一人で勝てる相手じゃないよ。とにかく皆を守るのがアンタの仕事でしょうが。」

「わ、分かっている!ただ、敵の姿をしっかり覚えておくために私のこの目に焼き付けているのだよ!ユーの調子はどうだね?」

「どうだろうね・・・。」

 

と言いつつ、また別の罠を藍染に発動させていく。

百歩欄干で抑えようとしても手を払うだけで光の棒は四散し、鎖条鎖縛で藍染を縛ろうとしたら、何と藍染に鎖が触れようとしたところで鎖自体が消えてしまった。

 

(!!)

藍染の放つ霊圧に、鬼道そのものの力が耐えられなかった。

設置型の罠で遠隔的に鬼道を振るっているためどうしても力が弱くなってしまうのだが、術そのものを霊圧でねじ伏せられるという、経験したことの無い程の強い力に恐れを抱く。

 

だったら次はと空から斬華輪を複数散らそうかと思い力を籠めようとした所で、たつきが監視カメラに映った藍染が何かを喋っているのに気付いた。

 

 

「口囃子さん!藍染が誰かと話しています!」

 

 

一度力を籠めるのを止めて、再び始解の力を用いて周囲の探索を行う。

見た所、藍染と市丸以外に霊力の高い者は近くにいない。

なら誰と話しているのか、と疑問に思ったが、想定外の情景が監視カメラに映った。

 

一般人が、縦に体を真っ二つにされて死んでいた。

 

藍染の無意識に放つ力に耐えられず、霊体そのものが壊れてしまう。

空座町にいる霊圧知覚を持たない人間全員が、藍染が近づくことで何もせず死を迎えることとなる。

 

映像越しに起きた現実に、人間達は恐怖心を感じずにはいられない。

口を押さえて懸命に吐くのを堪える者もいる。

目の前で人が死ぬ様子を見たのだ。後で記憶置換をしないと一生もののトラウマになりかねない。

 

とにかく効果はなくとも斬華輪を放つ。

今回も藍染の体に当たる前に霊圧で押しつぶされて消えてしまう。

 

藍染と市丸の正面を浮遊していた録霊蟲の映像から、何も効果が無いことが明らかになる。

次の策は・・・と考えていた所で、藍染の口が動き出した。

監視映像であるため音声は何も聞こえないものの、口の動きから藍染が口にした言葉を理解した。

いや、理解させられたと見るべきか。

 

 

『今からそっちに向かうよ。』

(!!!!!)

 

 

その言葉が告げられた瞬間。

 

霊圧で作られた波動が藍染と市丸のいた場所から同心円状に放たれる。

現世の高校生は、風圧のようなものとして藍染の力を知覚した。

録霊蟲、そして空座町中に仕込んだ罠全てがたった一度の攻撃で簡単に破壊されていく。

そして言うまでもなく、体育館にかけていた結界も即席の結界のため強引に壊されてしまった。

 

黒崎家にかけた結界を、しっかりとした堅牢な結界にして良かったと心から思う。

だが、罠全てを壊されてはこれ以上時間稼ぎをすることは不可能。

元々設置されていた監視カメラにはまだ藍染が映っているため、恐らく結界の中にいて存在をくらませていた自分を探しているのだろうと隼人は瞬時に推測する。

 

 

(だったら結界を張り直して「ごきげんよう。」

(!!!!!!!)

 

 

この声は。まさか。

 

後ろを振り返ると、そこには紛れもなく藍染惣右介と市丸ギンがいた。

 

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