藍染と市丸は、住宅地を抜けて大通りに出た。
空中から百歩欄干が飛来し、藍染目がけて向かってきた。
並の百歩欄干よりも速度や威力は高いものの、藍染にとっては児戯にすぎない。
手を払うだけで全ての光柱が跡形もなく四散した。
次は、金色の鎖が藍染と市丸に襲い掛かる。
蛇のようにうねりながら二人を拘束しようと動いているため、神槍で射抜くことも難しい。
だが、それも藍染に近付いた途端跡形もなく消え去った。
藍染が無意識に放つ霊圧で鬼道が形を留められなくなったのだ。
「さっすが、藍染隊長。この程度のことは造作もないんとちゃいますか?」
「そうだな、ギン。私も崩玉も、より大きな力を打ち払うために戦いたいものだ。」
軽く二人で会話した後に、霊圧知覚を持たない一般人のサラリーマンの男がこちらに近付いてくるのを見た。
「ああ・・・あんた・・・よかった、起きてる人がいて・・・。」
意識がもうろうとしているからか、藍染の衣服、見た目が現世の人間と全く違うものだと気付いていないようだ。
そして藍染は、彼に最大限の警告をする。
「近づくな。」
え?と疑問を率直に口にしたが最後。
その男は、一瞬で身体を縦に真っ二つにされ、痛みを感じることもなく絶命した。
「・・・霊圧知覚を持たぬ人間は私の力を感じないが、霊体そのものが私の力に耐えられないのだ。」
その後上空から降り注いだ鬼道の刃を、自身が放つ霊圧だけで全て打ち消す。
「藍染隊長、どうしはりますか?」
「そうだな。」
正面を見据えた藍染は、虚空に向かって語り掛けた。
「今からそっちに向かうよ。」
その言葉が終わると同時に、霊圧の波動を生み出して隼人が仕掛けていた策そのもの全てを、木っ端微塵に叩き潰す。
遠距離から鬼道を遠隔操作するだけでもかなりの実力を持っていることが推察できるが、設置されていた罠の膨大な数からも相手の実力が計り知れる。
遠くから、何かが割れる音がした。
「・・・そこか。」
斬魄刀を発動し、瞬歩で空座第一高等学校にいる獲物を喰らいに藍染は移動した。
その背後をきっちりついていく市丸も、大したものである。
「ごきげんよう。」
「・・・・・・・・・。」
おかしい。何故ここに藍染がいる?
藍染が機械に干渉することはどんな手を使っても不可能。
それでも、藍染は確かに今ここにいる。
視覚でしっかりと認識しているのだ。
理解が出来ない。
「何故私が此処にいると考えているようだね。先に答えを言おう。機械には干渉出来なくとも、
(!!!)
つまり、画面上に実際に映っている映像では、藍染はもちろん存在しない。
その映っていない映像を、鏡花水月を使って隼人の目には藍染が映っているように視覚を催眠させられたという事だ。
「やられた・・・!!!!」
「理解が早くて助かるよ。」
そして藍染と市丸は、隼人の隣にいる人間達に目を向ける。
「あら、この子達は誰ですかねぇ。」
「ウルキオラの眼で観た覚えがある。彼らは黒崎一護の仲間だ。」
舌打ちをし、眼光を鋭くした隼人を見た藍染は、隼人がこの場にいる理由を理解した。
「・・・成程。君は黒崎一護の仲間を守るために此処にいるのか。」
「・・・人間達を殺すつもりか・・・?」
「だとしたらどうする?」
「護るに決まってるでしょ。何としても。指一本あんたには触れさせない。」
「・・・・・・面白い。今までの君とは大違いだ。」
藍染の言葉に乗せられてはいけない。長く会話すれば向こうの間合いに持ち込まれかねない。
口を閉じた隼人に、藍染は口を無理に開かせるような真似はしない。
狙いを人間達に変更する。
「黒崎一護は必ずここへ現れるだろう。新たな力を携えて。私はその力を更に完璧へと近付けたい。君達の死がその助けになるだろう。」
「させっかよ!!!縛道の八十三「遅い。」
(!!!)
術番号を唱えている最中に、藍染は現世の人間達に触れる。
パキッという音と共に、彼らの体はあらゆる方向に二つに割れた。
「マジかよ・・・!!」
「さあ、次は君を喰らうと・・・。」
藍染が触れた人間達は、確かに死んだ。
直接触れたのだ。先ほどの男性のように近づいたのではない。粉々になってもおかしくない。
だが、振り返って実際に見た人間達は、
奥にいる隼人に視点を変える。
「なーんってね。」
隼人が今まで使っていた力を解除する。
その瞬間、藍染が殺した人間達は、
((!))
同時に、現世のスタングレネードを模した浦原お手製の道具を発動させ、藍染と市丸の眼と耳を塞ぐ。こんな形で浦原の道具が役に立つとは思いもしなかった。
そして、義骸には爆弾を仕込んであった。体育館に影響を及ぼさない程度の威力ではあるが、藍染の目と鼻の先で爆破すれば、傷をつけることは出来る筈だ。
出入口は確認していたので腕で目を覆い耳栓をしたまま一息に体育館から離れる。
体育館から出た瞬間に、爆発音が響き渡った。
「すごいねー爆発。」
「呑気に感心してる場合じゃねぇよ水色!」
「私にあれほどの攻撃は不可能だ・・・。やるな、ボーイ。」
「いいから逃げるぞ観音寺!!」
現世の人間達は、霊圧の波動が巻き起こって一度落ち着きを見せた瞬間に、隼人の転移術によって体育館から離れた道路の上に飛ばされた。立て続けに転移されてきた紙には、『とにかく南の方に向いて逃げるように!』と書かれており、北側にある高校とは真逆の方向に逃げるよう指示された。
そして、隼人からもらった奇怪な護符も皆持っている。
これさえあれば自分達の居場所が藍染らに感知されることは無いと言う。
唯一の生命線とも言える紙を握りしめて、人間達は逃走を始めた。
現世の空座町にて。
京楽は己の副官に伝令神機で電話を掛けていた。
「七緒ちゅわ~~ん♡おひさ♡」
「京楽隊長!無事なのですか!?」
「うん。ボクは大丈夫。」
「隼人クンが危ない。」
声音から、七緒は隼人に命の危機が迫っていることを感じ取る。
「場所はどちらですか?」
「今浦原クンが送るよ。急いで向かってくれるかい?瀞霊廷の任務なんてほっといていいから今すぐ向かって。」
「了解しました。」
電話を切った後、京楽は浦原と拳西の元に歩く。
「送ってくれたかい?」
「はい。鉄裁サンも向かわせます。」
「ボクもそっちに行くよ。」
「・・・・・・悪りぃな、京楽さん。」
奇しくも現世から救援に向かうのは、隼人が小さい頃たくさんお世話になった三人の男であった。
「一護が行くまで持ちこたえられんのか・・・?」
「何とか持ちこたえてほしい所だねぇ。・・・もう一波乱ありそうだしね。」
((?))
浦原と拳西はよくわかっていないが、京楽は最後に市丸の顔を見た時に、胸騒ぎを感じていた。
一護を見ていた時のあの目は、野心を抱えた目だった。
(彼も、何か思うところがあって藍染に味方していたんだろうかね・・・。)
もう、何にとは言わないが祈るしかない。
三人は一刻も早く救援に向かいたい程であった。
穿界門の扉の前で、一護の修行の終わりを待つのは、永遠のように長い気がした。
「ひゃあ。何やえらい爆弾でしたね。ピカって光ってさらに耳もよう聞こえんなって。」
「現世の爆弾を模した物だね。浦原喜助の差し金だろう。」
義骸に仕込んだ爆弾は藍染達には全く効果が無く、むしろ浦原特製のスタングレネードの方が効果を発揮していた。
藍染は直ぐに回復したものの、市丸は未だ目と耳に違和感が残っている。
そして藍染は表情にこそ表さないものの、隼人に対して成長への称賛と、静かな怒りを湛えていた。
藍染が尸魂界で死神達を騙したやり方とほぼ同じやり方で、自らが騙されたのだ。
まさか霊覚の操作だけでここまで巧みに己の眼を欺くことができるとは、最後の砦としての実力は申し分にない。
ただ立っている人形のようではなく、
むしろ、鏡花水月を持っているからこそ生まれた、己の目に映る物は絶対だという浅はかな考えに気付かせてくれたというべきか。
体育館の外に出た藍染は、空を仰ぎ見て思いを口にする。
「私は口囃子隼人に感謝しなければならない。己の驕りに気付かせてくれたからね。そして、彼を
「次はどうしはりますか?」
「私は口囃子隼人の元へ向かい、完膚なきまでに彼を打ち砕く。ギン、君には黒崎一護の仲間を・・・。」
(!)
そこに現れたのは、一人の死神。
しかし、隼人ではなく、まして一護でもない。
「・・・・・・ほう。」
腹に負った怪我をおして、松本乱菊が二人の元に駆け付けた。
「間に合ったわ・・・藍染・・・・・・ギン・・・・・・!!」
「・・・間に合ったというのは、口囃子隼人の応援にか?それとも、空座町を
その藍染の言葉に対し、松本は何も返事をしない。
松本の目的は藍染を止めることもそうだが、もっと別の所にある。
市丸ギンだ。
「藍染隊長。昔の知り合いがすいません。ここで話すので隊長は直ぐ口囃子隼人の元へ向かって下さい。」
「構わないよ。まだ時間はある。わざわざ移動するまでもない。」
「なら向こうへ連れてきますわ。」
「そこでゆっくり話せばいいではないか。」
「お邪魔でしょう。」
「そんな事は無い。」
藍染の言葉の後、市丸は松本を無理矢理に抱えてその場を後にする。
己の前で頑なに松本と話をしようとしない姿が青くいじらしく、飽きさせない。
「本当に、相変わらず面白い子だ。・・・ならば私は、口囃子隼人の元へ行こうか。」
瞬歩ではなく、一歩一歩しっかり地に足をつけて歩み始める。
空座町に来てから隼人が繋いだシステムのベースとなる場所はすでに爆破してしまったが、決して監視の目を失ったワケでは無い。
タブレットを掴んで逃げたため、電源さえ点ければ残った録霊蟲や元々ある街や店の監視カメラの映像を確認することは出来る。
空中を走りながら藍染の居場所をしっかりと確認し、次の戦闘可能な場所へと移る。
浦原から、空座第一高等学校の他に、二つの場所で戦闘を行ってもよいと事前に言われていたため、二つ目の場所に移る。
この二つの場所は現世の方でも一切傷付けないようお達しが来ていたので、恐らく最後に戻す際にそのままにしておくのだろう。
映像を点けた時には、市丸は藍染の隣から消えていた。
まさかと思い何処にいるか捕捉すると、何と松本と一緒にいた。
一護の友人の捜索に向かわれたら非常に厄介なことになったが、最悪の展開にならずに一先ず安心する。だが、いつの間に来ていたのかと内心びっくりした。
他にも誰か追加で来ている死神を確認したが、誰もいないようだ。
先ほど催眠されて見事に騙されたため自分の五感が信用できないが、それでも戦うしかない。
浦原から指定された戦闘可能な場所である、あおぞら公園に到着した。
視覚、霊覚で辺りを見回すが、藍染はいない。
とにかく時間稼ぎだ。さっき藍染が言ったように、いずれ一護が来る。
そこまで耐えれば、あとは一護に任せて戦線離脱しても構わない。
ここで戦っている最中に形勢不利になったら次の場所に逃げて態勢を立て直せばいい。
そこでは、奥の手を準備してある。
数十分後。
藍染はゆっくりと徒歩で歩いてきた。お付きの市丸もいない、完全に一対一で、藍染と対面する時が来た。
「随分遅いですね。社長出勤ですか?」
「消えゆく街の最後の姿を、この目に焼き付けようと思ったのだよ。」
「消えるのはあんただよ、藍染。一護くんが来たらお前は絶対に負ける。」
「確証もなしによくもそのような戯言を言う。」
会話で時間稼ぎを行いたい所だが、清浄塔居林で藍染と長く会話をして頭に血が上り、なす術もなく絶望したのが思い起こされる。
上手い具合に会話出来たらいいのだが、そんなに世渡り上手ではない隼人には巧みな話術など使えない。
それ故、次元を超えた霊圧を無理矢理読むしかなかった。
「私の霊圧を読んでいるね。」
「・・・・・・だから何だよ。」
「君が私の霊圧を今でも読めるのは、私が現世の空座町に来てからずっと霊圧を読んでいるからだ。浦原喜助にでも頼まれたのだろう?」
「!!・・・・・・そこまで見抜いてるのかよ。」
浦原が自分に頼むことなどお見通しというのは、悔しい所だ。
だが、一つ疑問に思う点があった。
相手の見えない場所で霊圧を読んでいた時には、相手に霊圧を読まれていることがバレたことは今までに一度もない。
破面の霊圧を読んでいる時も映像の向こう側で違和感を唱える者は誰もいなかった。
答えを聞こうにも、素直に告げる筈がない。
霊圧を読み続けていると、再び藍染は口を開く。
「・・・・・・いいね。優れた
その言葉をきっかけに、藍染は何とみずから隼人に斬りかかった。