予想外の藍染の行動に硬直しかけたが、寸での所で藍染の刃から身を躱す。
「あっぶないなぁ!!!雷吼四陣!!」
四つの光球を隼人の周囲に浮かべ、そこから電気のビームを放つ。
勢いそのままに方向を変えてこちらに斬りかかるのを防ぐために、四つの攻撃で行動を妨げる。
公園の端まで後ろ向きに瞬歩を使い、一気に距離を取って周りを見渡す。
あるのはブランコ、鉄棒、ジャングルジム、少し長めのローラー滑り台といった遊具と公衆便所。後ろには数台の車が路上駐車されている。あとは遊具に貼られた冬季使用禁止の貼り紙だけ。
余計な力を使わないために一度始解を解く。
「私の斬撃を躱すとは。腕を上げたな。」
「ずっと鍛錬、してるからな!」
遠距離にあるブランコの踏板を手の上に転移させ、藍染に向かって高速で投げ込む。
踏板を斬り払うための予備動作に入るのを確認した後すぐに、瞬歩で藍染の懐に入る。
「破道の九十三 炎・・・!!」
瞬時に藍染に触れようとした手を引っ込めて、再び距離を取る。
自分が懐に入るのを読まれていた。
そして使おうとした鬼道も。
危うく両腕を斬られる所だった。
「行動が読めない・・・化け物が・・・!」
舌打ちして目の前の巨悪の強さを十二分に実感する。
腕を斬られてしまえば自慢の術は一切使えない。本能で避けられて何とか助かった。
そして藍染は対峙している男が新たに手に入れた術を称賛する。
「禁術の空間転移を応用させた戦闘術をここまで使いこなすとは、流石だな。握菱鉄裁が考えそうだ。」
「あんたに褒められた所で何にも嬉しくないよ。」
「そうか・・・残念だ。」
その言葉を聞き終わる前に、隼人はブランコの部品全てを一挙に解体する。
解体した部品を藍染のいる場所に転移させるが、転移のスピードを凌ぐ速さで藍染は攻撃を避けつつ、隼人との間の距離を詰めていく。
そうなることは隼人の想像通りだった。
夜一との鍛錬から、何も学ばずに改善策を考えないはずがない。
一定距離まで近付いた途端に、目の前に壁を生み出す。
「破道の八十九 磁鉄抄」
藍染の目の前に、超振動する砂鉄で作られた壁が生成される。
「こんな子どもの遊びで、私を止められるとでも?」
剣圧だけで、その壁を木っ端微塵に打ち払う。
だが、壁の先に隼人はいない。
瞬時に遠くを見回し何処に逃げたかを探す。
隼人は、藍染のすぐ後ろに転移していた。
(後ろか・・・。)
術を警戒して鬼道を防ぐのに特化した壁で防御を行う。
背後を取ったなら普通は高等鬼道で攻撃、捕縛などを行うはずだ。
しかし、隼人は
(刀か!!)
術一辺倒であった男からは想像もつかない攻撃に、ほんの一瞬たじろぐ。
その一瞬を決して見逃さず、斬魄刀で藍染を正面から斬った。
現世の人間達はずっと走っていたからか運動経験の少ない千鶴や、見た目の年齢的に初老を迎えている観音寺は既にへとへとだった。
一旦休憩し、近くのコンビニから飲み物を拝借して路地裏に身を潜める。
身を潜めても意味はないかもしれないが、やらないよりは精神的にもマシだった。
「ったく、アンタ霊媒師でしょ?もっと体力あると思ってたわ。」
「何を言うガール!私はスピリチュアルな力を用いて走っていたのだ!消耗が激しいのは仕方のないことだろう!?」
「喚く力があるならその力を逃げることに使いなよ・・・。」
「いや・・・有沢と比べるのは無理があると思うぜ・・・?」
大体スピリチュアルな力ってどんな力だよとツッコミたくなったが、物凄く長い説明が始まりそうなので深入りだけは避ける。
たつきが皆の様子を見た所、かなり疲れているのは千鶴だ。
もともと文化系の部活所属だったため、日頃運動しているようには見えない。
啓吾は何だかんだいってガタイはいいため、それなりの体力はある。
意外なのは、水色だった。
それなりの距離を走ってきたにもかかわらず全く音を上げることはなく、コンビニから非常食を拝借してくる程心に余裕があった。
「小島、あんた随分ピンピンしてるわね。」
「僕も走ることは自信あるからね。」
「へぇ~・・・。っつーか、その非常食のチョイスはどうなのよ・・・。」
ビーフジャーキーやスルメイカ、カロリー補給食品や一食の代わりになるゼリーパックなど、何とも微妙なチョイスだ。
「あ~~~~~~・・・・・・。あんたの食生活が偲ばれるわ・・・。あんたこういうのばっか食べてそうだもんね。」
だが、ここでの水色の発言は何とも微妙な空気感を生むこととなった。
「え?僕中学入ってからは手料理しか食べてないよ?」
「え?でもあんたの家って・・・。」
シングルマザーで親と仲悪いはず・・・。と言おうとしたら、恒例の水色節が炸裂した。
「まさかあ。親のじゃないよ。ちゃんと探せば料理上手い女の子なんてどこにでも居るんだから。」
「・・・・・・・・・そっか。小島ってこういう奴だったっけ・・・・・・。」
「そーなんだよ!久々に聞くとイラっとすんだろォ!?」
「うるさいケイゴ。手ぇはなせ。」
たつきはどうしてもこういう食品には気乗りしないため、少しお腹は空いているが食べないことにした。
啓吾と水色は多少慣れているからか問題なく食べており、千鶴は気味悪そうにしながらも食べてみると、意外と美味しかったらしくエネルギー補給と割り切って食べている。
観音寺のやかましい食レポは、割愛する。
「で?これから俺達どうするよ?」
「どうするも何も、逃げるしかないでしょ。あんな爆風じみたもの飛ばせる相手にあたし達が出来ることなんて何もないんだから。」
「口囃子さんに任せるしかないよ。」
観音寺も隼人の元へ向かいたそうにしていたが、今まで相手にしていた虚とは次元が違う。
今も戦っているのかもしれないが、今回ばかりは邪魔してはいけないと自制する。
だが、それでも観音寺は己の嫌な予感が当たりそうな気がしていた。
(私は胸騒ぎがするぞ・・・。何としても生き残るんだぞ、ボーイ・・・。)
その予感を口にしたら本当に起きてしまいそうで恐ろしく、饒舌な観音寺はしばらく黙っていた。
「ななちん、どーしたの?」
「京楽隊長からの命令が来ました。口囃子さんの元へ向かいます。」
「ふーん。あたしも行こっか?」
「草鹿副隊長は引き続き瀞霊廷の防衛をお願い致します。隊長格が瀞霊廷に誰もいないとなれば色々とまずいと思われるので。」
「はーい!!」
形式上はそう言っておくが、どうせやちるはお菓子を食べているだけだろう。
本格的に危機が訪れたら戦いに出るだろうが、表面上何も起こっていない瀞霊廷の状況下では、多分やちるはお菓子にご執心のままだ。
一番隊士もその旺盛な食欲に対応するのに疲れを見せている。
浦原のアドレスから伝令神機に本物の空座町の座標が送られ、七緒は急ぎ出立の準備をする。
応急救護の道具を貰いに四番隊に赴くと、そこには鉄裁もいた。
「伊勢副隊長!店長に頼まれた為、私も共に参りますぞ。」
「握菱大鬼道長!」
「それは私の過去の役職ですな。」
設備の潤沢な技術開発局内で転界結柱の力の制御を行っていた筈だが、彼も浦原に頼まれたらしい。七緒が持参しようとした救護の道具は大方既に整っている。
「すみません。昔の印象が強かったので・・・。私は京楽隊長に頼まれました。只事ではない雰囲気で仰られたので・・・。」
「・・・・・・でしょうな。私は今日、藍染が尸魂界の空座町に侵攻を始めてから言い知れぬ恐怖を感じております。貴女もそうで御座いましょう。」
「・・・・・・ええ。」
京楽から電話が来てから、七緒は全く心が落ち着かないのだ。
大切な物が壊されてしまうような恐怖がまとわりついて離れない。
「101年前、いや、私にとってはそれをも超える恐怖を感じています。」
(!)
「さあ、共に急ぎ参りましょう。口囃子殿が危ない!」
「はい!」
瀞霊廷から、二人の死神が救援に向かい始めた。
「始解もしていない斬魄刀が私に届くと思ったか?浅慮な。」
(!!)
普段使わない刃など、届く筈がない。
裏をかくことに囚われすぎて、自分の力量にまで頭が至らなかった。
藍染を斬ろうとした斬魄刀は、コツンと体に当たるだけで、斬ることなど全く出来ていなかった。
そこから藍染は左手で隼人の斬魄刀を持つ手を払い、バランスを崩させる。
狙いを悟った隼人は瞬歩で後ろに距離を取ろうとするも、バランスを崩したせいで上手くいかない。
そのため、とにかく足を藍染から引っ込めようとしたが、間に合わなかった。
左足の甲を4cm程斬られてしまった。
「ぐぅっ・・・!」
「脹脛を斬ろうとしたが、足の甲に留まってしまったか。斬れていないな。残念だ。」
藍染はそのままひどくつまらなさそうな顔で隼人を見据える。
一方隼人は、己の計算が狂い始める気配を感じ取っていた。
今までの修行では、修行相手の技をとにかく躱すことに専念していたため、大小関わらず怪我を負ったことが無かった。
一度でも、斬られた状態で修行すべきだったとひどく後悔した。
刀で斬られること、血を流すことがこんなにも痛いとは考えもしなかった。
戦闘慣れした死神なら掠り傷程度にしか感じない傷が、隼人にとっては明確な痛みに値する物であった。
「痛いか。」
「・・・・・・・・・。」
「その程度の傷で苦しむとは、修行が足りないな。」
「そうだね・・・。本当に、情けないよ。」
公園の外に駐車されていた3台の車を藍染の頭上に転移させる。
1000kgを超える物体の同時転移に、藍染も驚きと喜びを隠さない。
「いいね。頭上を狙ったのは優れた判断だ。そして頭上を狙うということは。」
「
痛む左足が気になってしまい、踏み込む速度が思うようにでない。
「百歩欄干!」
ゼロ距離からの百歩欄干で攪乱させようと思ったが、そんなに簡単な相手ではない。
最も勢いのある発射直後の光の棒が、粉々に散ってゆく。
一度足を軽く斬られただけで、こんなに上手くいかなくなるものなのか。
リスクのある自分の体の転移を行い、強引に藍染との距離を取った。
「近付こうとして離れるか。成程、面白い戦い方だな。」
「馬鹿にしてんだろ。・・・まぁ、馬鹿にされても仕方ないか。」
「ささくれのような傷に気を取られる君の考える戦法だ、興味を抱かない筈はないよ。」
「ほんっと、言ってくれるな・・・。」
尸魂界で卯ノ花と話していた時よりも、今の藍染からは強い敵意を感じる。
現世で戦っていた者が見たら、珍しいと感じる程には藍染の言葉には棘がある。
市丸もいない、完全に一対一だからこそここまで強く中傷してくるのだろうか。
「どうした、次の手はまだか。」
「次の手、か・・・。」
「私は今も君に期待をしている。君の修行の成果を「もう打ったよ。」
「何?」
音など何も聞こえなかった。聞こえるとすれば藍染と隼人の声、あとはせいぜい風の音だろう。
そのそよ風にすら紛れ込む形で、隼人は次の手を打った。
藍染の左腕は、たった一枚の紙によって切断されることとなった。
(!)
空間転移は文字通りある場所からある場所へ物体を転移させる術だ。
そして転移させた物体は、必ずその場に原型を留めて現れる。
なら、
瞬時に答を編み出した藍染は、鉄壁の微笑みを崩し苦虫を嚙み潰したような顔を見せる。
「・・・そうか。空間転移を
「そんな訳ないでしょ。この技は転移先の物体全部押しのけるんだから。どんな刃よりも強力だよ。」
「・・・・・・ならば、私も次の手を打とう。」
「させねぇよ!左腕を失ったならさっきと同じようにいかないのは足を斬られた僕が証明してるからね!」
「遅いな。」
(?)
次の手を打ったと言いつつ一切動きを見せない藍染を不審に思わない筈がない。
鬼道で障壁を前に張って十分な防御を行おうとしたら。
背後から突然斬魄刀で右肩を射抜かれた。
「っ!!!」
後ろを見ると、市丸ギンが戻ってきていたのだ。
目の前の藍染に意識を集中し過ぎたせいで、完全に市丸の存在を忘れていた。
市丸の持つ斬魄刀は、普通の刀よりも短い。
神鎗で肩を一瞬で貫かれたのだ。
右肩が弾丸で貫かれたように激痛が走る。
大量に噴き出た血で右肩を中心に死覇装が重くなっていく。
「ギンもいることを忘れてはいけないよ。君は一対一ではない。
「あら、ボクを忘れるなんて、何や寂しいことやなァ。」
このまま戦うのは危険すぎる。
賭けに出る為、隼人は自身の体を最後の戦闘可能な場所に転移させた。
たったひとつの置き土産を残して。