翌日。
綜合救護詰所に戻ると、尸魂界にいると知ったひよ里が早朝から大騒ぎしていた。
早く帰らせろだの虫唾が走るだのここにいたら口が臭くなるだの、終いには論理すら破綻している理由でとにかくひよ里は喚いていた。
お世話係の平子とラブはキンキンと鳴り響くモスキート音のような金切り声に辟易とする。
「朝から騒ぐなひよ里。」
「ハァァァァァァァァァアァァァァァ!?!?!?!?ええ加減にせえよハゲが!!ウチが死神嫌いなの知っててこんなマネするんかアホ!!」
「オマエが嫌う死神がおらんかったら死んでたんやぞ!!」
「ウチは助けろなんて言っとらんわ!!死神共の勝手やろ!!」
「その勝手でオマエは命繋いどるのわからんのかい!!」
何だ何だと四番隊中心にギャラリーが集結してきたため、ラブは病室のドアを閉めて音漏れを最小限に抑える。
状況を理解すれば静かになるかと思ったら、ひよ里はむしろ更に怒ってふて寝してしまった。
「ウチは誰とも口きかん!!お前らも出てけ!!!」
「ひよ里・・・。」
「しゃァない。出てって一人にするしかないわ。」
「二度と顔見せんなハゲ!」
「あーそーですね!!!失礼しましたひよ里サマ~~!!!」
お馴染みの喧嘩にラブは額に手をついてため息をこぼし、仕方なく病室から平子と共に出て行った。
まだギャラリーがいるかと身構えるが、いたのはいつもの面子だった。
「ひよりん、すっごい怒ってたね。」
「アイツの死神嫌いは筋金入りやしなァ。」
「そういえば、白サンはニコサンに会いマシタか?」
「うん!ニコのこと久々にぎゅ~~ってできて嬉しかったよ!」
なんてノリでいつも通り喋っていると、昨日大号泣していた八番隊副隊長に声を掛けられた。
「皆さん、ちょっとよろしいですか?こちらをお渡ししたくて・・・。」
「これは・・・。」
七緒が渡したのは、八人分の伝令神機だった。
ローズがその質感に惚れ惚れし、顔に擦りつけている。
行動原理すら読めない意味不明すぎる行動に、七緒は当然の如くドン引きしていた。
後からついてきた京楽は、八匹分の地獄蝶が入ったカゴを持っていた。
「これで皆断界を経由しなくても尸魂界に来れるよ。」
「おおきにな、京楽さん。」
「アドレスには、ボクと浮竹と山じいと卯ノ花隊長と七緒ちゃんをあらかじめ入れといたよ。」
「あのジーさん携帯使えるんか!!」
年齢にそぐわず、意外と現代の機械も使いこなす総隊長には驚きである。
電話どころか電子書簡も器用に使いこなすらしい。
「でも山じい暇だから電子書簡多いんだよね。ちょっとしつこい。」
「隊長。それは総隊長の御前では禁句です。そもそも総隊長は忙しいですよ。」
「やばっ。皆内緒だよ。」
「あたしがチクるわ。」
「リサちゃんいけずぅ~~。」
京楽を睨みつけた後新品の伝令神機の電源を点けてみたが、リサのだけ何故かおかしい。
「何で待ち受けがあんたのドアップのキメ顔なんや!!!」
「リサちゃんだけは特別仕様♡開く度にボクの顔が出てきてボクの事を思い出して欲しいなァって思ってさ♡ちょっとだけ細工しちゃったよ。ちなみにその伝令神機だけはボクのアドレスしか入ってないから。毎日書簡送ってあげるよ♡」
「死ねエロオヤジ!!!!あぁあぁぁぁぁ!!何で壁紙変えられないんや!!」
何度設定を変えても京楽のキメ顔が待ち受けに残る粗悪品の伝令神機にブチギレるリサを拳西は遠目で見ていたが、拳西の手元にある伝令神機の中には追加でもう一人のアドレスが入っていた。
粋な計らいに感謝する。早速ポケットに入れて預かっていた隼人の伝令神機にメールを送り、隼人の伝令神機の設定をいじくってちゃっかり自分のアドレスを設定した。
「後で私も書簡送りますから・・・。」
「頼むで七緒!」
「えぇ~リサちゃんはボクだけ特別扱いしてくれないの?」
「あんたは七緒に特別扱いしてもらい!」
「しませんから。」
「ショック・・・・・・。」
もはや夫婦漫才だ。息ピッタリ過ぎて恐ろしい。
七緒は完全にリサの味方になってしまったのでリサが二人になったようなものだ。
七緒の言動がさらにリサの影響を強く受けるのも、そう遠くない未来の話である。
「矢胴丸さん。もし時間があれば八番隊に是非来てください。・・・色々、お礼を言いたいので。」
「そんなお礼なんかいらんわ。・・・でもあんたには付き合ってやる。少し待っとき。」
「はい!ありがとうございます!」
ぱぁっと笑顔になった七緒は、いつになく生き生きとしている。
それだけでも京楽は幸せな気持ちで胸がいっぱいになった。
他の仮面の軍勢達にいつまで滞在するのかを聞いた所、意外にもすぐに帰ると告げられた。
「ひよ里がもう我慢ならんって暴れとるからな。今日帰るわ。」
「俺もついていくぜ。」
「ボクも少し散歩したらすぐ帰るよ。」
「ワタシも帰りマス。猫ちゃんが心配なので・・・。」
拳西以外の男四人は皆すぐ帰るつもりだ。
白は残ると言い出しかねないので不安だったが、意外にも帰る気でいた。
「白も帰ろっかなぁ。拳西といてもヒマだし。」
「おう、帰った帰った。俺は少しだけ残るぞ。」
「結局残るんか。」
「急に隼人が目覚めるかもしれねぇだろ。」
外出する準備を終えたリサも、八番隊に寄った後はすぐに帰ると京楽に告げた。
「皆そんなに早く帰るつもりだったならすぐに渡して正解だったね。」
「そうですね。現世との連絡手段もつきますし、何かと好都合です。」
「ほな、オレらはひよ里連れて帰るわ。」
平子の最後の言葉に、京楽はずっと言いたかった言葉をようやく伝えることができた。
「
京楽のその言葉に仮面の軍勢全員が、郷愁を感じるような、少しムズムズする気持ちを抱かずにはいられなかった。
「・・・・・・オレ達が尸魂界に歓迎される日が来るなんて、思いもせんかったわ。」
「また今度、行ってみようかな。三番隊に誰がいるのか気になるし。」
「ええんやないか?オマエのウザさが瀞霊廷に広まるだけやし。」
「とんでもねぇヤバイ奴だと思われそうだよな。」
「・・・・・・泣くよ。そろそろ。」
相変わらず扱いの悪いローズがしょんぼりしていたが、ひよ里のキレ方を見たらそうも言ってられなくなる。
また喚きそうになったので、すぐに現世に帰ってしまった。
現世に帰る仲間たちを見送ることもなく、拳西はずっと隼人の病室にいることにした。
暇つぶしに、隼人の伝令神機を適当にいじっていた。
電話帳やメールボックス等に一切セキュリティをかけていないのが物凄く不安になった。
落とした場合個人情報がダダ洩れになってしまうため、非常によろしくない。
こういう所で詰めが甘いのも、子どもの頃からの名残であった。
一向に斬術が育たなかった昔を思い出し、再び郷愁に浸る。
機械に集中していると、か細い声で誰かが入って来た。
「こんにちは・・・。」
「お前は・・・あぁ、清之介の弟か。」
「花太郎です・・・。」
様子を見に来た花太郎は、機械を使って脈拍の確認をしたり、実際に体に触れて調子を確かめたりしている。
101年前隊長をやっていた頃とはえらく異なった、科学的な処置を行っていた。
「とりあえず、異常は見られないですね。では、失れ「おい。」
「ひぃっ!!!な、ななな何でしょう・・・?」
そんなに威圧的に声をかけた覚えはないのだが、いちいちビクビクされると気を遣わざるをえない。
生来の声の低さがこの少年を怖がらせるのだろうか。だが隼人が子どもの頃にはそんなに怖がっていたようには見えない。
なるべく刺激を生まないよう、気持ち穏やかな声で対話を始めた。
「お前から見たコイツはどんな姿だった。」
「はぁ、そうですね・・・。僕はあまり関わり無かったですけど、真面目で優しい人だと思いますよ。」
「うるさくなかったか?」
「全然です。僕といる時は静かなことが多かったです。」
何というか、己の隼人像が一瞬にして崩れていくような気がする。
塞ぎ込みがちなのは聞いていたが、真面目で優しいなんて、不格好すぎて想像したら笑いそうになる。
後輩の男相手には大騒ぎして我儘を言うだろうとぼんやり考えていたが、しおらしく真面目にしているようだ。
対する花太郎は、「うるさい」という、隼人とは真逆ともいえる見方が想定外すぎて、訊かずにはいられなかった。
「あの・・・口囃子三席って、昔はうるさかったんですか?」
「そうだな・・・。」
昔の数々の蛮行を思い出し、懐古しながら口に出していった。
「俺が勉強しろっつっても海燕と遊んでたことがあってな。何回も拳骨したぜ。」
「えぇえ~~・・・。」
「霊術院の授業中に居眠りとか普通にしてたぞ。我慢出来ないってふざけた事言ってたな。隼人も昔は人並みどころかそれ以上にやんちゃだったぞ。騒ぐこともあったな。」
「―――・・・。」
尊敬していた先輩の元々のイメージとは真逆な姿を耳にした花太郎は、理想像が崩れ去っていくのを実感していた。
「霊術院の成績見せねぇで逃げようとしたこともあったな。あれは俺もブチギレて頭ぐりぐりしてやったぞ。」
「も・・・もう十分です。」
「あ?まだまだあるぞ。いいのかよ。」
「何か・・・口囃子三席が大切な物を失いそうな気がします・・・。」
どんどん昔の隼人の行動が思い起こされて言いたくなったが、確かに隼人にとってはあまり知られたくないことかもしれない。
隼人ですら忘れているような所業もポンポンと頭に浮かんできたが、これ以上言えば名誉にかかわるだろう。
怒られるのはへっちゃらだが面倒くさいので、むしろ隼人に直接言っておちょくり、その反応を楽しみに待つとしよう。
花太郎は地味仲間として隼人に少しシンパシーを感じていたことがあったが、昔の私生活は決して地味ではなく、むしろ苛烈極まる物のように見えて少しショックを受けていた。
「結局、芯から地味で冴えないのは僕だけですか・・・。はぁ・・・。」
それに対し拳西は否定など全くしないため、花太郎は再び落ち込んだ状態で定期回診を終えた。
結局この日も目を覚ますことはなかった。
真新しい伝令神機をいじるのも結局暇になり、瀞霊廷通信など四番隊に置かれた雑誌もすべて読み切ってしまったため病室にいてもすることが無くなってしまった。
日が暮れそうになり一旦隼人の家に戻る。
こうなったら少し早いが、お守り作成に取り掛かるしかない。
文机の上の引き出しから裁縫道具を見つけ、一緒に眠っていた多すぎる程の余りの材料を用いて新たなお守りを作り始めた。