「ねぇハヤト、ヴァイオリンやってみない?とてもいい音色を響かせることができるよ~。」
「ごめんなさい!そういうのは全く興味ないです!」
「ローズ・・・もう誘うの諦めたら?」
外の定食屋に昼飯を食べに来た拳西と隼人は、先に来ていたラブとローズの二人と相席することとなった。
一緒に暮らして40年、成長自体はゆっくりだが、隼人も大人たちと一緒にご飯を食べられるほどの体格にはなっていた。
そのため、今までは隊舎で一緒に特製弁当を食べていたが最近は外の定食屋に行くことも増えていた。
焼魚定食を食べていたローズこと
「何寝ぼけたこと言ってるんだい?ラヴ。ボクは護廷十三隊でオーケストラを作りたいんだよ!西梢局の知り合いから美しい音楽の話を聞いてね、ぜひともここでも美しい音楽を響かせたいんだ!」
「へぇ~。その美しい音楽とやらにどうして隼人を巻き込む必要があるんだよ。」
ラブの質問に対し、ローズは感情を昂らせてまるで歌うように答えた。
「ハヤトを見てるとインスピレーションがすごく湧いてくるんだ!四楓院家の雅楽隊にはない活発な
「また始まっちまったよ・・・。」
こうなってしまえばもう彼の副隊長以外に止めることはできない。
隼人と会うといつもインスピレーションがどうだこうだと訳のわからない難しい言葉で一人で盛り上がってしまう。
仕事中でも食事中でも関係なく騒ぎ、いつも副隊長の
「隼人にそんな遊びさせる暇なんか無ぇよ。あと少しで霊術院に入れるかもしれねぇってのに・・・。」
「おぉっ!ついに隼人が霊術院入学か・・・!感慨深いな!」
「えっ!昨日の鍛錬の時あと30年はかかるなって言ってたじゃないですか!!あの後結構落ち込んだんですよ!」
「そうやって言えばもっとやる気になるかと思って喝を入れたつもりだったんだよ!」
「酷い!!毎日本気で鍛錬してますよ!」
「おいおいちょっとうるせぇぞーー」
隼人と拳西のちょっとした小競り合いをラブが呑気に仲裁している所で、
「・・・ねぇちょっとボクの話聞いてる?聞いてるーーーーーー?」
完全に蚊帳の外に置かれたローズは哀愁漂う表情で落ち込んでいた。
昼から七番隊と九番隊が合同演習となっていたため、拳西、ラブと一旦別れた隼人はローズのところで預かってもらうことになっていた。
「実は今日千鉄の子どもと会わせるつもりだったんだけど・・・彼が風邪引いちゃったらしくてね。だから千鉄も今日は居ないんだよ。退屈になるだろうけど我慢できるかい?」
「はい。勉強してるつもりだったので大丈夫ですよ。」
「勉強か・・・!ならボクのキャンディスをバックグラウンドミュージックに「要りませんよ?」
「つれないなぁ・・・。」
抑え役の千鉄がいない上、自己陶酔気味の性格なので怒った拳西よりも正直対処が大変だった。
こういう時は変に構うなとラブに言われたが、無視したらしたで哀愁漂う悲しさを全身で表現するため非常に面倒くさい。
もっとも自分が自己陶酔気味なところ以外はローズと似たようなヤツだと拳西に思われているのは知る由もないが。
なので、この際話題を変えてみることにした。千鉄の子どもにまだ会ったことがなく、どんな人か気になったのでローズに聞いてみることにした。
「射場さんの子どもってどんな人なんですか?」
「あぁ。名前は鉄左衛門っていってね、千鉄に負けず劣らずの強烈な子どもだよ。キミと同じくらいの背丈だったはずだね。なんでも『仁義が大切じゃ~!!!』ってこの前叫んでたなぁ。きっと仲良くなれるよ。」
「えぇ・・・。」
とりあえず相当強烈な性格をしているのはわかった。
「それにそろそろ霊術院に入れたいって千鉄が言ってたからひょっとしたら同期になるかもね。」
「同期かぁ・・・。」
年の近い友達も白哉しかいない隼人にとって、『同期』という言葉は非常に新鮮な感覚に陥らせた。
京楽と浮竹みたいに気の置けない関係を誰かと築き上げるのは非常に羨ましいと思ったが、正直そんなこと出来るのだろうかと不安である。
ただでさえ自分の周りには大人が多く、大人との会話の方が実際慣れていた。また、彼らと一緒にいるところを見られる貴族の子弟の目線から、自分が嫌われていることは容易に推測できた。
「いや~僕どうしても貴族の子どもから嫌われちゃうんですよ。色んな隊長さんと仲良くしているからだと思うんですけど。」
珍しくローズは黙って隼人の話を聞いていた。
「前に白哉さんと甘味処に行った時も僕に対する貴族の方々の目線が卑しい者を見るかのように感じたんです。あと拳西さんと一緒にご飯食べに行った時もあの人たちは僕を見てヒソヒソ喋って笑ってました。だから・・・」
「そんなに他人の目が気になるなら瀞霊廷から出ていきなよ。」
「えっ・・・・・・。」
思いがけないローズの厳しい言葉に隼人はひるんでしまった。
「キミは入学したら必ず注目されるよ。いい意味でも悪い意味でも。だから今そんなに神経質になっていたら霊術院でやっていけないよ。他人の目が気になるなら一人で静かに暮らせばいい。」
「そんな・・・。」
ローズはさらに畳みかけた。
「きっと入学したら酷い嫌がらせも受けると思うよ。貴族は自分よりも優れた者には容赦ないから。でもね・・・。」
まるで自分の経験を語るかのように話したローズは神妙な顔をした隼人に対し、最後に希望を持たせてあげた。
「そんな時に助けになってくれるのが同期だと思うよ。貴族出身じゃない院生の方が圧倒的に多いからね。だから細かいことはこれから気にしない!周りの目を気にしないでいつも通りのハヤトでいるんだよ。」
ローズの厳しくも暖かい言葉で、隼人は同年代の子どもと向き合う覚悟がついたような気がした。
「そうですね・・・ありがとうございます!ちょっとしたもやもやが解消された気分です。」
「そうかい!だったらそのついでにキミもヴァイオリンを「興味ないです!」
「一回だけでもいいのに・・・。」
あれから何度も勉強の休憩時間にヴァイオリンをやらないか、この際琴でもいいよ、と何回も誘ってきたが、何とか断ってきた。休憩もへったくれもなかった。
だが、自分が勉強している間はローズもしっかり仕事しており、後々千鉄にちゃんと仕事していたかを聞かれても大丈夫だったと言えるだろう。
「今日は一緒にいてくれてありがとうございました。またいつか来ますね。」
「ぜひまた来てね!千鉄も子どもが増えたみたいだって前に言ってたしいつでも歓迎するよ!明日も来るかい!?」
「明日は遠慮しておきます・・・。」
二日連続で音楽をやるよう熱心に勧められるのはさすがに疲れるので、二月に一回くらいならいいかなと隼人は思っていた。
三番隊隊舎を後にし、自宅に帰っている途中で、今度は五番隊のトップ二人と十二番隊の副隊長に出会った。
「おぉ勉強の帰りか!ほんまに頑張っとるのう~~。」
「こんにちは平子さん!あと藍染さんも!ひよ里ちゃんもいたんだね!」
「だからなんでウチに対してタメ口なんや!ええ加減にせえよ!!」
「ぷぷぷ~~~~!!!ひよ里ももう完全に背ぇ隼人に抜かされてもうてるしな!妹みたいなモンやブォベラァァァァァァァァ!!!!」
「ハゲ真子は黙っとれボケェェェ!!!!」
「ひよ里ちゃんやりすぎだよちゃんと謝らないと!」
「ウチは隼人よりも何歳も年上や!!ひよ里様と呼べ言うてるやろが!!!!!ほんまにハラっ立つやっちゃなーーー!!!!!!」
「ひよ里様って!!!そんなん呼ぶなら死んだほうがマシやわ~~~!!!!!」
「クソハゲナスビ野郎がぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
ひよ里のドロップキックが平子の顔面に綺麗に命中し平子の顔面を何度も殴っている様子をあぁもう無理だと諦め横目でみていると、久々に会った藍染に話しかけられた。
「久しぶりだね。最近の鍛錬はどうかな?」
「まぁ・・・ぼちぼちです。やっぱり苦手なことは改善に時間かかりますよ。この前もあと30年はかかるぞって拳西さんに言われました!まぁ嘘でしたけど。」
「なるほど・・・。大変みたいだね。よければ僕も鍛錬を手伝いたいと思っているんだけどいいかな?」
「あぁー・・・。気持ちだけいただきますね。もう色んな人が僕のために協力してくれてるのでさすがにこれ以上は・・・。」
「いや、気にしなくていいよ。謙虚でいい子だ。六車隊長のしつけが良かったのかな?」
「まぁそれもあるかもしれないですねぇ。へへへ。」
自分が何かとイジられたときの藍染の切り返しで矛先が変わることが多く、困ったときに頼りになっていた。
もちろん今日も平子はちょっかいをかけに来た。
「何や二人でコソコソ話しおって。まさかっ!惣右介ぇ下ネタ吹き込むのはアカンやろ!」
「何も吹き込んでいませんよ。平子隊長こそ口囃子くんに悪知恵吹き込んでいるじゃないですか。」
「何ィ!!そんなんするからコイツがウチにタメ口で話しかけるとちゃうんか!?おぉ真子?さっさと白状せんかい!!」
「たしかにオレは色々生活の知恵を隼人に教えてるで。でもタメ口なのは関係あらへん!ひよ里の格が問題なんや!ほなな!!」
「誰の格が問題やとォォォォ!!!???待て真子ィ!!まだ話終わっとらんぞ!!!」
完全にこの二人のペースに置いてかれてしまった。
言いたいことだけいって去って行った二人を見た隼人は、
「大変ですね・・・。藍染さんも。」
「見ている分には楽しいよ?巻き込まれるのは御免だけどね。」
「あぁそうなんですか・・・。」
変わり者集団の三人を見て心がへとへとになっていた。
さっきの二人程ではないが、この人もこの人で変わってるなーと藍染のことを考えていた。
明らかに周りの大人とは毛色が違うのだ。
藍染はいつも親切な男ではあるが、どことなく距離感を感じることが多かった。
寂しくないのかなと思うこともあったが、平子たちと一緒にいて楽しいと言っているのであまり心配しなくてもいいかと考えていた。
「それじゃあ藍染さんも!お疲れ様です。」
「疲れてるようだからゆっくり休むといいよ。お疲れ様。」
午後からいつも以上にクセの強い人たちと会ったからか今日の隼人は精神的にへとへとだった。
家に着いた時はまだ拳西も帰っていなかったので、茶の間で大の字に横になった。
埃がつくと前に拳西に怒られたが、あまりにも気持ちいいのでこっそり何度かやっていたのだ。
勉強道具なども散らかしたまま横になり、快適な時間を過ごしていた。
「あ゛あ゛ぁ゛~~~」
ちょうど春の季節であったので、頭の中で霊術院のことを考えていた。
自分が霊術院に入った時これぐらい暖かいのかな。
友達できるかな。
どんな先生がいるんだろう。
授業は何をやるのだろうか。
新しい鬼道とかもあるのかな。
などと思いを馳せているうちに、猛烈な眠気に襲われ、誘われるがままに意識を手放してしまった。
約一時間後に拳西が帰ってくると、室内がやけに静かで奇妙に思った。灯りもついておらず、まだ帰って来てないのかと不安に思い、茶の間に入ると、道具を散らかした状態で茶の間で横になり、盛大に眠っていた。いびきをかいてないだけマシだが。
「白みてぇなことしやがって・・・。」
あまりのだらしない惨状にイラっとしたが、何とか抑えて申し訳程度に毛布をかけてやった。
ここ数年意外と腕白だったりおっちょこちょいだったりと、より子どもらしい面が出て楽しそうにしている反面、不安になることが多くなった。
自分がより信頼されているからとすれば聞こえがいいが、あまりにもだらしないのはダメだ。
おそらくあと10年ちょいで霊術院に入る。
だからこそしっかりシメるところはシメてやらねばと決心しつつ、夕飯を作ることにした。
起きた時に目の前に夕飯があり、飛びつこうとしたら拳西の突き刺さる視線が隼人を射抜いた。
「おい・・・わかってんだろうな・・・!」
「すっ・・・すいまっせんでした・・・・・・・・・。」
「散らかした道具を片付けてやったのは誰だかわかるか。」
「拳西さんです。それ以外ありえません。」
「茶の間で場所とって寝るなっつったよなぁ?」
「そっそうでしたね・・・。」
「その言いつけを破ったのは誰だ!」
「僕、口囃子隼人です!すいませんでしたーーー!!!!」
逃げようとしたものの、部屋から出ることすらできず一瞬で捕まってしまった。
「いい加減にしろーーーーーー!!!!!」
「ひぃーーーーー!お助けーーーー!!!ぎぃやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
拳西渾身の頭ぐりぐりの刑である。シャレにならないくらい痛いのだ。
数十分は使い物にならないくらいのダメージを受けるのだ。
恐らくこの断末魔の叫びはまたご近所で話題になってしまうだろう。
あぁまたあそこの子どもがわんぱくしたのねとご近所のお姉さんからの生温かい視線で見守られる最悪の恥ずかしい展開が待ち構えているのは容易に想像ついた。
でも隼人からしたらこの生活は前よりも比べ物にならないくらい楽しかった。
前より怒られることこそ増えたが、笑うことはもっと増えた。
だからこそ、今を全力で楽しみ、死神になってからは早く昇進し、拳西らと共に尸魂界を護れるよう一生懸命頑張っていこうと隼人は決心した。
ローズは人の話一番聞かなそう・・・。