ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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大きな鉄橋。

いつかの鳴木市の駐在任務で歩いた覚えのある鉄橋の上で、たった一人隼人は夜空を見上げていた。

街の中心部なのに、綺麗すぎる程の星空が一面に広がっている。

 

夢だとすぐに確信した。

 

(命は留めたのかな・・・?でも結局、負けたのか・・・。)

 

 

よく倒れる前の記憶が残っていないとか、殺人をした時の記憶が残っていないという話があるが、そんなのは非常に稀なケースだ。

藍染に体を穿たれ、血を吐いてなす術もなく倒れたことを隼人は鮮明に覚えていた。

深い闇に囚われ、二度と戻ってくることは出来ないだろうと頭によぎっていたが、こうして夢を見ているということは命は助かったことになる。

 

 

『口囃子さん!帰ろうぜ。』

 

 

聞こえた声の主を確かめるために振り返ると、黒崎一護が目の前にいた。

96の数字が書かれたTシャツにカーキ色のパンツを履いていた。

 

 

『帰るって、どこにだよ。』

『え?あぁ~・・・家じゃねえの?普通家だろ。』

『まぁ、そうだけど・・・。』

 

 

若干噛み合わない話に、背中がむず痒く険しい顔を浮かべる。

だが一護についていけば、何だか安心できるような思いが沸々と湧き上がってくる。

一護についていけば、皆に再び会えるような気がしてくるのだ。

 

 

『あんたが夜に一人でいたら危なそうだしな。』

『いや女じゃないのに危ないもクソもないだろ。』

『そういう意味じゃねぇよ。あんたが誘拐なんかされるわけねぇだろ。』

 

 

『あんたが一人でいる時は、泣いてばっかだろ。』

(――・・・。)

 

 

夢だから、一護が知る筈の無い事を一護が言ってくるのだろう。

何度も自分の奥底に眠る感情を他人に指摘されてきたが、夢の中なら隠す必要もない。

 

 

『仕方ないよ。色々あったんだしさ。』

『もう一人で泣くなよ。帰ったら家族いるんだろ?心配してるぞ。』

『家族なんて・・・。』

 

 

いるけどいない。

 

 

『ほら、帰ろうぜ!!』

 

 

一護は振り向いて手を差し出してきたが、素直に掴んでいいのか分からない。

そもそも、ここから帰るにしても何処に帰るのだろうか。

右手を前に伸ばそうとするが、ためらってしまう。

 

 

『あ~もう早くしろよ!』

 

 

うじうじする隼人に我慢ならず、一護は隼人の右手を掴んで走り始めた。

思いのほか強い力で手を握られ、速いスピードで走られることに焦らずにはいられない。

 

 

『ちょ、ちょっと!速い!速いよ!あと手の力強すぎるから!』

『知るかよ!』

 

 

ついていけず、足がもつれて転びそうになったが、転ぶことはなかった。

 

 

 

 

目を開けると、知らない天井があった。

だが、暗い(もや)がかかっているようだ。

 

 

「口囃子さん?口囃子さん?」

 

 

この声は、花太郎だろうか。

覚束ない聴力を頑張ってフル活用し、誰の声かを必死に聞き分ける。

 

 

「―――、たろ、――?」

 

 

うまく声を出せず、掠れてしまう。

喉もやられたのだろうか。

 

突然暗い靄がなくなり、目の前が眩しくなった。

耐えられず、必死に目を閉じる。

 

 

「口囃子さん!意識、取り戻したんですね!よかった~~!」

 

 

再び目を開けると、目の前にはしっかり花太郎がいた。

見慣れない天井は、綜合救護詰所の病室だった。

此処を使ったのは、霊術院六回生の時以来だ。

 

 

「待っていて下さい!直ぐに卯ノ花隊長に報告してきます!」

 

 

花太郎が目の前から離れた途端、再び暗い靄がかかった。

手で取り払おうとするが、上手く腕が上がらない。

体を動かそうとしたが、何だか全く力が入らないのだ。

 

もう、死神として働くことは出来ないのだろうか。

 

少し諦めの気持ちを覚えていた所で、病室の引き戸が開けられる音が聞こえた。

暗い靄が取り払われ、目の前には卯ノ花の他、何故か白哉もいた。

 

 

「ようやく、目が覚めたようですね・・・。」

「――――、隊、長・・・。」

「御無理はなさらないように。五ヵ月も眠っていたので、全身の筋肉が衰えています。体を動かすことは勿論、声を出すことも厳しいでしょう。髪の毛も伸びきっていますね。」

 

 

成程、目の前の暗い靄は髪の毛だったのか。

確かに後ろ髪も相当に伸びている感触がある。前髪は、鼻のあたりまで伸びているだろうか。

ピンのようなもので前髪を留めてもらったため、視界は開けた。

 

花太郎がその間にベッドの形を変え、上半身を傾ける形になったので皆の顔も見やすくなった。

 

 

「無茶したな・・・口囃子。」

 

 

それは、卯ノ花と隼人が藍染離反の後に白哉にかけた言葉であった。

 

 

「白哉、さん・・・。」

「だが、兄のおかげで黒崎一護の友人は皆怪我もなく無事だった。皆、兄に感謝をしていた。」

「皆、無事・・・・・・。」

「回復には時間を掛けろ。焦る必要はない。ゆっくりだ。ゆっくり、体を元に戻せ。」

 

 

白哉の言葉に上手く声で返事出来なかったので、小さく頷いて返事の代わりにした。

 

 

それから数十分が経った頃、次は狛村と射場が病室にやってきた。

 

 

「全く・・・おどれはいつまで儂を待たせるんじゃ~~!!!!」

「鉄左衛門!!」

 

 

駆け寄った射場は隼人の左腕を掴み、大音量で号泣し始めた。

刺激が強すぎる為今はあまり近くにいてほしくないが、射場なりの重い愛を形だけでも受け取っておく。

 

 

「長く眠っていたな、隼人。五ヵ月とは・・・。」

 

 

卯ノ花にも言われたが、確かに既に陽が沈んだ外は前見た時よりも暖かそうな雰囲気を醸し出しており、しかも桜が咲いている。

季節丸々一つ分眠っていたという事だ。

 

 

「お前はよく頑張った、藍染相手に長い時間を稼いだのだからな。故にお前は世界を守ったようなものだ。胸を張っていいんだぞ、隼人。」

「世界を・・・。」

「無理に声を出さなくてよい。お前は頷いていればよい。」

 

 

狛村の言う通り、小さく頷いた。

今までに見たことの無い穏やかな表情で、狛村は隼人の頭を大きな手でポンと叩いた。

 

それからも主に射場の話を面白おかしく話すなど、三人で他愛もない話をした。

基本的に頷くか首を振ることしか出来なかったがそれでも十分楽しかった。

 

二人が帰った頃には夜も更けていたので、花太郎にベッドを直してもらい、この日は再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

口囃子隼人が目覚めたことは、勿論現世にも伝わっていた。

浦原から電話で連絡を貰った拳西は、急ぎ準備を始め、荷物を纏めていた。

 

 

「そんなに大荷物で一体何日向こうにいるつもりなんだい?」

「しばらくずっとだ。五ヵ月も眠っていた以上リハビリする必要がある。俺がサポートしねぇで誰がするんだよ。」

 

 

四番隊がいるでしょと皆総ツッコミしそうになったが、本当の意味での再会に茶々を入れるつもりは彼らには毛頭ない。

本当に、自分の子ども絡みになったら周りが見えなくなるのだ。

 

 

「白も後で行く!」

「あぁ?ったく仕方ねぇな。アイツに迷惑だけはかけんなよ!」

「うん!」

 

 

普段なら面倒くせぇと突っぱねるが、本当に周りが見えていないため珍しく白の要求を受け入れていた。

大荷物を抱えて走り出した拳西を、他の仲間たちは行ってらっしゃ~~いと呑気に見送った。

 

道中で、隼人の伝令神機に書簡を送った。

 

【今から行くから大人しく待ってろ。】

 

自分が病室に来た途端に騒ぎ始めたら困るので、心の準備をしてほしいと思い書簡を送りつけたのだ。

気付いてくれるだろうか。

 

浦原商店の地下空間に着くと既に穿界門が準備されていた。

七番隊の隊花が刻まれている。

 

 

「これを口囃子サンに渡してください。」

 

 

一通の便箋を浦原が渡してきた。

前はテレビ電話で話したらしいが、今回は敢えて手紙にしたのか。

いつもの浦原らしくない、かなり丁寧な作法だ。

 

 

「何だよこれ。」

「・・・謝罪っス。夜一サンに言われたのもありますが、口囃子サンにここまでの怪我を負わせた大元の原因はアタシです。」

「アイツはお前のせいなんて思っちゃいねぇだろ。」

「そうだとしても、謝るべきです。それ程の酷い事をアタシはしてしまいました。」

 

 

確かにあの日の浦原は、いつになく後悔を残した目をしていた。

虚化の事について事後報告を受けた時に、最悪の予測となってしまったと自分たちに伝えたあの時と全く同じ顔だった。

 

 

「一応渡しとくぞ。」

「夜一サンからの手紙も入っているので、よろしくお願いします。」

「おう。」

 

 

珍しく静かで真面目な浦原がむしろ疑念を抱かせるように思えてならなかったが、そんな疑念など関係なしに浦原は地下空間で何やら開発をしているようだった。

足元の配線が作為的な広がりを見せており、注意しなければ簡単にコケてしまうだろう。何とかコケずに済んだ。

 

 

「しかしよぉ。これ、どうにかなんねぇのかよ。」

「すいませんホント。何とかしようと思っちゃいるんスけどね。」

「する気ねぇだろコレ・・・。アイツが降り立ったらすぐコケそうだ。」

「・・・心配っスか?」

「心配なものか。」

 

 

浦原の心の中の微笑みには気付いている。

 

 

「隼人が現世(コッチ)に遊びに来るときの楽しみの一つにするぜ。」

 

 

浦原商店に預けておいた地獄蝶を使い、五ヵ月ぶりに尸魂界に降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

目が覚めた後に少し喋ったりしたおかげで、声は殆ど回復した。

叫んだり怒鳴ったりは出来ないが、日常会話レベルなら間を開けながらではあるが出来るようになった。

 

 

「何か、こんなに早く回復するもんなんだね。」

「声帯が使い方を思い出したんですよ。」

 

 

と、いまいち反応に困る内容を花太郎から伝えられたが、医学的に見たらそうなのかもしれない。知らんけど。

 

 

まだ腕の力が無いためご飯を食べることは出来ず、栄養補給の点滴を打ってもらいながら窓を見ていると、朝早くに意外な人物の霊圧がこちらにやってくるのを感じた。

 

 

「失礼します。」

 

 

髪の毛越しに聞こえた声は、七緒のものだった。

 

 

「七緒さん?」

「お久し振りです。・・・髪、すごい伸びてますね。」

「切る暇、無かったんですよ。」

 

 

冗談のつもりで隼人は言ったが、七緒はそう受け取ることが出来なかった。

 

 

「本当に・・・・・・生きてて、よかった・・・。」

「七緒・・・さん・・・?」

「だからっ・・・言ったじゃないですか!無茶だって・・・!危険だって・・・!なのに、貴方はそれでも向かって行って・・・こんな重傷を負って!何ヶ月も意識が戻らないままなんて!!本当に貴方は大馬鹿者ですね!!!そうやって昔からいっつも私を心配させて困らせて!!!今日という今日は許しません!!」

「えっ、ご、ごめんなさい。」

「謝っても許しませんよ!」

 

 

泣きながら怒る七緒は、言葉を吐き捨てた後に、ベッドに座っている隼人の真横に立つ。

 

 

次の瞬間、伸び切った隼人の髪を徐に後ろに引っ張り始めた。

 

 

「い、痛い、痛い。痛い痛い痛い痛い。」

 

 

いつもなら叫んでいるが、あまり声を出せないため平気っぽく見えてしまう。

その手は隼人の顔にも伸びてきて、何と前髪まで後ろに引っ張り始めたのだ。

 

 

「ぬ、抜けちゃう。髪の毛、抜けちゃいますって。」

「そう簡単には抜けませんから!」

 

 

暫し七緒に髪を引っ張られた後、髪が強く引っ張られる感覚が突然無くなった。

 

 

「これでどうで・・・・・・。」

 

 

そう言いながら隼人の顔の前に向かった七緒は、すぐにそっぽを向いて何やら蹲り始めた。

 

 

「あの・・・七緒さん?」

「ふふ・・・ふふふふふ・・・。」

 

 

何か知らんが、笑っている。

めちゃくちゃ、笑っている。

色々と突然すぎて意味が解らない。あの七緒が、こんなに笑う姿など初めて見た。

 

蹲った七緒は、意を決して顔を上げたようだ。

だが、耐えられなかった。

 

 

「ぷっ・・・あっははははは!!!!」

「ちょっと、なに笑っ・・・・・・。」

 

 

 

その笑顔は、普段の冷静で凛とした表情にそぐわない程、可憐な笑顔だった。

こんな一面もあるんだと彼女に驚くと共に、ある気持ちが隼人の心の中に芽生えた。

 

(やばっ・・・・・・可愛いんだけど・・・。)

 

遂に、己の感情に気付いてしまった。

七緒を異性として気になっていることに、ようやく自覚した。

こんなタイミングで、隼人は人生における大きな転換点を迎えた。

誰にもこんな感情を抱いたことのなかった隼人は、一気に頭の中が混乱し始めた。

何とか平静を取り繕おうと頑張ってみる。

 

 

「そ、そんな、笑わないでくださいよ。」

「いや、でも・・・ふふっ。」

 

 

対する七緒は、この時は恋愛感情など欠片もなく、オールバックでおでこ丸出しの隼人の顔面を見ておかしくて笑いが止まらなくなっている。

普段髪を下ろしている隼人のオールバックは、彼女にとっては画的に面白い物にしか見えなかった。

自分でやっといて自分で笑うとは、普通ならはた迷惑な女である。

 

そんな事にも気付けない程、今の隼人は内心混乱が止まらなかった。

 

 

「ごめんなさい。怒らせちゃいましたか。今外しますね。」

 

 

そう言って伸びてきた手が、今の隼人には甘い毒でしかない。

 

 

「いっい、いいです別に!僕、もう、子どもじゃないんで。・・・子ども扱いしないで下さいよ。」

 

 

そっぽを向いて窓を見ている隼人は、顔が真っ赤だ。

もちろんそれに気付くワケもない。

 

 

「自分で外せるんですか?」

「外せないけどいいです。頭動かしてどうにかします。」

「いや、無理ですよね。」

「やるったらやります!」

 

 

子どもですか、と七緒はツッコミそうになったが、子ども扱いするなとさっき言われたのでそのツッコミは心の中に留めておく。

 

隼人からしたら、今七緒の手が髪に触れたら心臓が持たなくなると確信したため何としても避けたい所だった。後で花太郎に取ってもらえばいいし。

 

 

七緒は仕事があると言って帰り、結局隼人の髪は縛られたままだった。

 

昼の時間に伊江村三席がご飯を届けに(点滴を替えに)やってきたが、部屋に入って昼食を置く(点滴を替える)なり爆笑して床を転げまわったので、全快したらボッコボコにすることに決めた。

 

 

ご飯を食べた後は、やけに疲れを感じたので昼寝(シエスタ)をキメることにした。

卯ノ花の言った通り、体力も相当衰えているのだろう。

髪を縛ったまま枕に頭をつけると非常に変な感じがしたが、それ以上に眠気が勝った。

 

 

 

伊江村にコードを繋げてもらった充電中の伝令神機が書簡の着信を告げる効果音を鳴らしたのに気付いたが、後で見ようと決めて隼人はすぐに眠りについてしまった。

 




全く関係ないですけど、私の家政夫ナギサさん、いいですよね・・・。
次回、空座決戦篇最終回です。
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