世間話!
かれこれ数時間は泣いていた。
その途中で数人の隊長格が見舞いに来た霊圧を感じたが、病室の前で立ち止まり、そのまま帰っていったようだった。
「現世に行っても、霊圧見つからないし!!浦原さんには尸魂界から出禁喰らうし!!」
「そうだな・・・。」
「海燕さんがいなくなっちゃった時も、拳西さんがいなかったから、ずっと一人で我慢するしか、なかったんですよ!!」
「あいつも死んぢまったもんな・・・。仲良くしてたし、辛かったろ。」
「尸魂界に、潜入して、僕だけに真実教えてくれたって、良かったじゃないですか!!僕だったら、迷わず信じましたよ!!何で、夜一さんと一緒に来なかったんですか!!早く会って話したかったよ!!」
「本当か?嘘だって喚き散らすかもしんねぇだろ。」
「そんな事、あるわけ無いですよ!!藍染に殺されそうになった時だって!何でもっと早く来なかったんですか!!そしたら、もっと早く会えたのに!体だって、ボロボロにならずに済んだのに!!」
「そうだな。お前は何も悪くねぇ。悪いのは全部俺だな。」
「だから、何で謝るんですか!!そっちの方が、ずっと辛かったのにぃ!!!」
その最後の言葉を吐き出してから、隼人はさらに涙を流した。
昔以上にうるさい声でわんわん泣き叫ぶ隼人を、尚も拳西は己の体で受け止め、背中をさすってやった。
言う事がどんなに支離滅裂でも決して怒ることなく、拳西は親として息子の寂しさ、恐怖、怒りを全て受け止め、昇華させてあげるよう尽力したのだった。
結局まともに話せるようになったのは、日が暮れて暫く経過し、外も真っ暗になってからだった。
「もう泣くなよ。これ以上は俺が持たん。」
「大丈夫です。体中の水分全部拳西さんに搾り取られたんで。」
「口達者になりやがって。変な言い方すんなバカ。」
そのやりとりが懐かしくて、今度は笑いが止まらなくなる。
「ふっあっはははは!!!やばっ何かおかしい!!何ででしょう!あっははははは!!」
「・・・俺は突然笑いだすお前が怖えよ・・・。」
「いやだって!面白くないですか?」
「今のどこが面白いんだよ。」
「それが面白いんですよ!!っははははは!!!」
ケラケラ笑っている隼人に手を付けられなくなりそうだったが、ここで見捨てるわけにはいかない。
拳西も再会してからやることを色々考えていたのだ。
とりあえずさっき号泣してしまったので、浦原からの手紙は今見せるのは危険だ。
また泣かれたら今度はキレそうだ。
次のプランに移る。
「お前、今食いたいモンあるか?買ってきてやるよ。やりてぇことでもいいぞ。」
「何ですか急に?どういう風の吹き回しですか?」
「・・・・・・馬鹿にしてんだろ。」
「えっ全然?」
何か、ものすごーーーく生意気になってないか?
子どもの頃の隼人はもっと、こういっちゃあ何だが可愛げがあった気がする。
子どもなりの純粋無垢な振る舞いは気にならなかったが、今の大人になった隼人の印象は、口達者で生意気な性格だ。
少し考える素振りを見せた後、隼人は今やりたい事を口にした。
「・・・お風呂に入りたいです。」
「風呂ォ?」
「・・・・・・ずっと、入ってませんし。」
小声で俯き恥ずかしそうに呟いた隼人は、実は今自分の体から発する臭いについて非常に心配していた。
泣いて俯いていた隼人を抱きしめてくれた拳西に縋り、肩のタンクトップはしわしわになってしまったが、冷静に考えてその行動はまずかったかもしれないと内心焦っていた。
自分の体は、約五ヵ月間全く洗っていないのだ。
臭くないワケが無い。
だからさっきは少し強気な言葉を発していたのだ。
内心の焦りを悟られないために、外ヅラだけでも強がっていたのだ。
結局やりたい事とか言われて本心を打ち明けてしまったため、どうしようもなくなってしまったが。
「確かにオメーの体は少し臭いな。」
「はっ・・・はぁ―――――――――!?!?!?」
「今この距離でも臭うぞ。」
左手で鼻をつまみ右手を鼻の前で振るジェスチャーをした拳西に、全力を振り絞って怒りの声を上げた。
上げざるをえなかった。
「仕方ないじゃないですか!!五ヵ月も眠って起きたら体一切動かないんですよ!!今起き上がったり寝ながら体勢変えたりしか出来ないんですよ!!手足一切動かせないのに風呂なんて一人で入れませんよ!!」
最後の方は声も嗄れて上手く伝わったか不安だったが、鼻をつまむジェスチャーをやめた拳西はさも当然のように行動に移した。
「車椅子持ってくる。風呂に行くぞ。」
「えっ、ちょ、話聞いてました!?」
「俺が介助してやる。色気づいて体臭なんか気にしやがって。百年早えぞ。」
「大人になったらそういうのも気にしろって海燕さんが言ってましたよ!」
「うるせぇ素直に待ってろバカ!!!!!!!」
ピシャーーーンと盛大な音を立てて引き戸が開けられ、拳西は車椅子を取りに行き、物凄い早さで戻ってきた。
部屋の隅に置いてあった大きな鞄から自分の風呂道具を取り出した拳西は、袋に適当に投げ入れて車椅子の後ろのハンドルにかけ、ベッドに座っていた隼人をお姫様抱っこで車椅子に強引に座らせる。
「・・・何で僕を抱える人は皆その持ち方なんでしょうか。」
「お前思ったより身長小せえからな。こうしたほうが運びやすいぞ。」
「―――・・・。」
釈然としないが、言い返す気力も無いので何も言わなかった。
花太郎に許可を得て一時的に点滴を外し、四番隊の隊士、入院患者共用の大浴場に入る。
あの戦いから五ヵ月も経ったので、入院している患者は誰もいなかった。
風呂に入っているのは時間が早いからかごく一部の隊士しかおらず、脱衣所もがら空きである。
混んでいたら車椅子だと移動するのも大変なので、ありがたい。
隅っこに車椅子を移動させ、風呂のための介助を始めた。
「お前、自分で服脱げるか?」
「・・・・・・無理です。」
「・・・だよな・・・。」
まず立ち上がることが出来ないので、詰所内で着る衣服の袴を下ろすことが出来ない。
下帯を外すといった複雑な作業は言わずもがな。
腕も満足に動かせないので、上半身に着ている服を脱ぐのも困難だろう。
「・・・仕方ねぇな。」
「えっ。」
「まずは上脱がすぞ。」
「あっはい。お願いします。」
まるで小さい子どもが服を脱ぐ練習をするかのように、拳西は一生懸命介助してあげた。
服を着ていた姿から予想はしていたが、体重もかなり落ちているように見える。
体はげっそりと痩せていた。
「―――・・・。」
その体を直接見た隼人も、少し落ち込んだ表情を見せる。
元気づけるのは拳西の役目だ。
「気にすんな。いつか太る。」
「いつですかそれ。」
「・・・・・・一ヶ月後か?」
「絶対適当ですよね。」
見上げる隼人の顔は、さっきと同じいつもの顔に戻っていた。
安心した拳西は次の段階に移る。
暫く隼人には、尊厳とか面目とか、色々失ってもらうことになる。
それ程までに屈辱的な辱めを受けることになるのだった。
「結局下って、どうするんですか。」
「こうするしかねぇだろ。」
「えっ、ちょっと、えっ。」
後ろから車椅子に座っていた隼人を右腕で抱え込み、腰の位置で一旦止める。
次の瞬間。
袴を一瞬でバッと下ろされ、左手で下帯を一瞬で解かれた隼人は、親とはいえ他人の手によってひん剥かれて裸にされるという経験したことの無い辱めを受けてしまった。
「ああああああああ!!!!!!!!」
「うるせぇ!!!!!」
先ほど大号泣したからか喉の調子が回復しており、叫び声も上げられるようになった。
とはいえ非常に情けないものであるが。
元怪我人に対するものとは思えないぞんざいな扱いで全裸の隼人を車椅子に再び座らせた後、拳西もようやく自分のお風呂の準備に入った。危うく子どもの頃のように尻を叩きそうになったが、寸での所で抑えた。
対する隼人は男としての何かを失ったような喪失感に苛まれ、裸で一人ズーンと落ち込んでいた。
「おらっ行くぞ。」
「ちょっと待って下さい!」
「はぁ?」
よしこれから風呂に入るぞという時に隼人は一度待ったをかける。
脱衣所で裸でいると寒くてお互い風邪を引きそうになるのであんまり好ましい行為とは言えないが、これは隼人にとって非常に大事な問題だ。
「さすがに男二人全裸でお姫様抱っこは色々まずいんじゃないでしょうか!!」
「知るか。俺の楽なやり方でやるぞ。つーか何がまずいんだよ。」
「大人としての僕の面目的にアウトです!」
「余計知るかよ。」
結局なす術もなく最も周りから見られたくない方法で洗い場に運搬されてしまった。
せめて周りから注目されないようにときゅっと目を瞑り、頑張って黙る。
暫く抱えられた後に椅子に座らされる感覚があり、漸く目を開けるといたって普通の大浴場の洗い場に移っていた。
周りの声に耳をそばだてたが、特に何も言われなかったので一先ず安心。
「浴場誰もいねぇぞ。サウナでも行ってんのか?」
「・・・・・・よかった・・・。」
「頭からでいいか?」
「はい。」
髪を解かれると、一気にバサッと前髪が現れて目の前が暗くなる。
肩のあたりまで髪が伸びており、セミロングの女性みたいになっていた。
五ヵ月でここまで伸びるのかと驚くと同時に、ここまで髪を放置したことを実感し少し不潔に感じてしまう。
「あぁ~~~・・・・・・。」
「現世行ったら真子の行ってる美容室で切ってもらえ。」
「えぇ~・・・。僕美容室とか行ったことないんですけど。」
「いい大人だ。髪の毛とか気使えよ。」
「色気づきやがってとか言ってたくせに矛盾してますよ。」
わしゃわしゃと洗ってもらっている頭は、非常に気持ちがいい。
院に入る前、仕事で忙しそうにしていた拳西にねだって頭を洗って貰ったことを思い出した。
普段は我儘を抑えていたが、たまにやってもらうこれが好きでどうしてもやってもらいたかったことがあったのだ。
面倒な顔をしていたがため息をつきつつやってくれて、めちゃくちゃ嬉しかった記憶があった。
二回洗ってくれたおかげで、頭の不快感は殆どなくなった。
顔はシャワーのお湯で流すだけで終わらせ、垢擦りに石鹸をつけて泡立てて背中から洗い始めた。
「・・・でっかくなったな。」
「百年経ってますからね。現世に来た時の年齢設定は22歳ですよ。」
尸魂界と現世では人体の成長速度が圧倒的に違うので、現世に来た時に本当の年齢を言ってしまえば周りの人間は混乱してしまう。
そのため、実は現世に来た時に困らないように死神一人一人に現世換算の年齢を設定する機械が101年前に浦原によって造られたことがあった。
「俺なんかずっと義骸だったからな・・・何歳だったか。忘れちまったぜ。」
「29歳だったはずですよ。現世だったら僕と7歳しか差ないですね。」
健康診断感覚で体格と顔をスキャンして数年おきに更新するのだが、今年やった時の隼人の年齢は22歳だった。現世では大学生のようなものか。
ちなみに同期の射場は33歳と結果が出て愕然としていた。機械は決して裏切ることはない。後輩の修兵は20歳と、現世でも年の近い後輩みたいな設定でいけるのを喜んでいた。
そんな設定が役立つ機会など恐らく無いのだが。
余談だが、松本曰く、日番谷の外見年齢は11歳らしい。
「だったらあっちじゃ迂闊に親子って言えねぇな。」
「んーー、腹違いの兄弟とかどうでしょう!」
「そんなリアルすぎる設定出したら逆にボロが出るぞ。」
「え~~・・・。」
両腕を洗ってもらい、胸と腹のあたりを垢擦りで擦ってもらいながら色々設定を考え抜く姿は、平和そのものだ。
親戚、高校時代の恩師、飲み仲間など色々考えてみるが、なかなか丁度いいものが見当たらない。
「あれでいいだろ。バイト先の元先輩。」
「あぁ~!!・・・でも、辞めても交流あるって結構稀じゃないんですか?」
「大丈夫だろ別に。」
埒が明かないのでこの話は適当に済ませることにして、隼人の体を拭くことに集中した。
尻や股などはさすがに隼人に自分で垢擦りで擦ってもらったが、脚を擦った後は体も全部洗い流し、大きい風呂に運搬して一先ず一件落着。
久々にお湯に浸かった隼人は、心底幸せそうな表情をしていた。
「やっぱいいっすねぇ~お風呂は。僕毎日入らないと気が済まないんですよ。」
「だよな。俺もそうだ。俺も体洗うからちょっと待ってろ。」
「了解しました~~。」
へにゃへにゃに崩している表情を見て、こたつに気持ちよさそうにしていた子どもの時の顔を思い出した。
やっぱり、何も変わっていない。
丁度いい温度の巨大な湯舟に隼人を浸からせて放置した後は、ささっと自分の体を洗った。
ざっくりと体を洗い隼人の隣に座り様子を窺うと、何やら思い悩んでいる様子だった。
今回から初恋青春暴走篇の始まりです。
不穏な事は何も起こらないので、安心してご覧ください。
また、今回の話を作る上でボーイズラブのタグを追加しました。
主人公や、原作に出てくる周辺人物ではなく、これから出てくる単発のオリジナル人物でそういった描写があり、そこでは少々過激な描写があるため注意してご覧下さい。