ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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現世!

リハビリ(肉体改造)は、地獄のように思えた。

最初は拳西鬼の指導に何度も泣かされることになったが、途中から白が尸魂界にやって来たことでリハビリはもはや修行と化してしまい、何度も花太郎のストップと共に彼の覇気のない逆鱗に触れてきた。

結局強引にも程があるリハビリで一ヶ月もかからずに死神として復帰できるようになったが。

 

隼人が退院する時には既に拳西も白も現世に帰っていた。

 

 

「花太郎!今までありがとな!」

「いえ。・・・・・・今までで一番手を焼いた患者でしたけど・・・。」

「じゃあ久々に七番隊行ってくるよ。今度お礼に何かあげるよ!」

 

 

駆け出して行った姿は、完全に以前の姿と変わらない。

何度も約束違反をして怒ってきたが、合計でかなり長い期間入院していたので退院する姿は感慨深い。

一時はこのまま目を覚まさないかと思ったが、本当に回復してくれて良かったと花太郎は喜びを噛みしめ、再び自分の仕事に戻っていった。

 

 

 

 

七番隊隊首室に挨拶に向かうと、とんでもない知らせを事後報告された。

 

 

「済まん。実は、6月まで隼人の仕事は全て有給休暇にしたのだ。」

「えっ。ほんとですか!?」

「お前はずっと休んでいない。残業こそしていないが、いくら何でも休まなさすぎだ。毎年夏休みも取っていないのは儂としては感心しないぞ。これを機に暫く休め。」

「は、はぁ・・・。」

「現世にでも行って羽を伸ばしてこい。今の隼人には仕事よりもその方が良い。案ずるな、仕事は鉄左衛門にでもやらす。」

 

 

最後のはちょっとまずいのではないかと心配になるが、ここまで狛村にまくし立てられるとむしろ仕事すると言えば怒られそうだ。

ご厚意に甘えるとしよう。

今までも休んできたようなものなので、何だか更に休んでしまえば仕事に戻るのが大変そうだ。

 

 

「穿界門の準備はもうしてある。今すぐ行ってこい。」

「今すぐですか!?」

「せっかく準備した穿界門を無駄にする気か。浦原殿のことも考えろ。」

「わ、分かりました!では、すぐ準備して行ってきます!」

 

 

退院してから七番隊で狛村から事後報告され、大慌てで荷物を準備し穿界門の場所に向かい現世に降り立つまで、僅か一時間の出来事だった。

 

 

 

穿界門を抜けた先は、広大な空間だった。

足元には多数の配線が張り巡らされており、何やら研究を重ねている様子だ。

 

 

「どぉ~~もぉ~~!お久し振りっス!!」

 

 

少し離れた所から、家主の声が聞こえた。

この気の抜けた声は、間違いようもない。

 

 

「浦原さん!」

 

 

駆け出していった隼人は、すぐさま張り巡らされた配線に足を取られ、ビターーーーン!!と転んでしまった。

顔を思いっきり打ったので、鼻が折れていてもおかしくない程だ。

 

 

「ジン太よりも清々しいコケ方でしたね・・・。大丈夫っスか?」

 

 

だが、そんな痛みなど久々の再会に比べればへっちゃらだ。

ケロっとした様子で隼人は顔を上げて笑顔を見せる。

顔面血まみれだったが。

 

 

「全然大丈夫じゃないっスよそれ!手当てしましょう手当て!」

「これぐらい大丈・・・わっ!たしかにこれはヤバイ!」

 

 

手鏡で顔を見た隼人も、血まみれの顔をみて驚きを禁じ得ない。

浦原の歩いた所を正確についていきながらようやく地下空間から出て地上の商店に辿り着いた。

 

 

 

 

 

いたって普通の和室の部屋に、不釣り合いな金髪のおかっぱ頭の人間がいた。

 

 

「久々やなァ!元気しとったか!?」

「わ!平子さん!!お久し振りです!」

「オレのこと覚えてたか!嬉しいわァ!」

 

 

血まみれの顔を一切気にせず、髪型の変わった平子は顔に喜色を浮かべて再会を楽しむ。

二人が会話しているところに鉄裁が割って入り、回道を使って隼人の傷を回復させた。

血まみれではあったが、実際にできた傷は小さいのですぐに治った。

 

 

「髪の毛切ったんですね。めっちゃ短いじゃないですか。」

「現世にいる時はこっちの方が色々とええしなァ。拳西から聞いとったけど、オマエホント髪伸びたな。今のオレより長いやん。」

「聞いてくださいよ!僕女の子に間違えられたんですよ!」

 

 

聞き上手の平子は隼人の上手くまとまらない話にしっかり相槌をうち、楽しそうに話を聞いてくれた。

危うく初めてを奪われそうになったことは決して明かさないようにし、線引きをしっかりしたが、それでも平子は理解してくれたようだ。

 

 

「こうやって時々かき上げないと前見えなくなっちゃうんですよ。最近いかにセクシーにできるかを研究してたんですよ。」

「そこに注意払ってどうすんねん!・・・まァ、それも今日でおサラバやけどなァ。」

「え?」

「隼人の為に美容室予約したで!!オレイチオシんトコや!数ヶ月待ちのトコ無理言うて今日空けてもろたさかい、行きたくない言うても異論は認めん!!!」

「ええぇ~~・・・。」

 

 

尸魂界にいた時も拳西に平子の美容室で切ってもらえと言われたが、冗談だと思っていた。

昔から人一倍オシャレと髪型に気を遣っていた平子のイチオシともなれば技術はそれはもう素晴らしいものだろうが、今まで床屋さんしか行ったことの無い隼人は不安しかない。

今の髪型を自力で作るのも失敗する時だって普通にあるのだ。

 

 

「とっとと義骸に入れや!はよ行くで隼人!!」

「本当に今日じゃないとダメなんですか?」

「何遍も言わすなアホ!つべこべ言わず行くで!!」

 

 

こうやって外堀を埋められては流されてしまうのが、自分でも嫌なところだ。

義骸には平子が買ってきた服を既に着せていた。

 

 

「あれ、でも義骸に入ったら髪の毛とかどうなるんですか?」

「喜助が新たな義骸開発してなァ。爪とか髪とかが霊体と共有できるようになったんや。やから現世(コッチ)で髪切っても尸魂界(向こう)でも同じ髪型でそのまま引き継げるようになったんや。」

「へぇ~・・・。」

 

 

義骸には服を着せてあったものの、今までの一人一人専用の義骸とは違い、頭部は髪の生えていないマネキンと同じような形だった。

浦原の言う通りにして義骸に入ると、髪の毛は今の隼人と同じくらい伸びていたものの、それ以外はいつも入る義骸と全く変わらない。

といっても、前に義骸に入ったのは二十年近く前の話だが。

 

 

「口囃子サン、口囃子サン。ちょっと。」

 

 

外で待っていた平子の許に向かおうとしたところで、浦原に呼び止められた。

 

 

「手紙、読んで頂けました?」

(!)

 

 

実は、この話をされた時、どう返答すればいいのか隼人は読んでからずっと悩んでいた。

拳西から手紙を渡された時、どうせ今回もふざけた物だろうと高を括っていたら、なんとガチの謝罪文だった。

 

筆遣いもかなりの達筆で、誠心誠意の気持ちがこもっていることは、字を見ただけで理解出来た。

こんな浦原は初めてすぎて、最初は手紙の内容もよく理解できなかった。

同封されていた夜一の手紙がいつも通りすぎたのでそのギャップもあったかもしれないが。

 

 

「読みました。読みましたけど・・・。すみません。正直どう返事すればいいのか今でも纏まらなくて・・・。」

「いいんスよ。これは・・・()()()けじめっスから。返事とか気にしないで下さい。読んで頂けたならそれで結構っス。」

「でも・・・。」

「さぁさぁ行ってらっしゃい!!口囃子サンが生まれ変わるのをアタシも楽しみにしてますよ~!!!」

 

 

ちょっと強めにバシッと背中を叩かれ、隼人は前につんのめる。

駄菓子屋も忙しいと真実と嘘を交えたいい加減な言葉を投げかけて、浦原は半強制的に隼人を外に出して平子に面倒を任せる。

少し後ろ髪引かれる思いはあったものの、隼人は平子について美容室に向かって行った。

 

 

「・・・いやぁ、昔みたいに元気な姿に戻ってくれて、本当に良かった・・・。」

 

 

誰にも聞こえていない浦原の独り言は、心からの安心とともに吐き出されたものだった。

 

 

 

 

 

平子に連れられてやってきた美容室は、外観からして隼人には場違いどころの問題では無い場所だった。

 

 

「む・・・無理ですよ!ここアレですよね!?一定の顔面力持たない人間はお断りですよね!?服装とかバッキバキのスーツじゃないとダメなやつですよね!?」

「何言うてんねん隼人。何も問題無いわ。」

「いやでも僕絶対ここ入ったら周りから浮いて「おじゃましまァ~す。」

「ちょっと待って下さいよ!!!」

 

 

だが平子が入った流れで自分もその神聖な地に足を踏み入れてしまい、出ることも出来ず固まってしまう。

緊張で汗が止まらず、周りで何が起きてるのかもあまりよく分からなくなっている。

 

 

「平子さん!いつもお世話になってます!」

「済まんなァ予約勝手に開けてもろて。大学時代の後輩なんやけど、バッチリ切ってくれるか?」

「了解しました!」

 

 

店長の美容師さんは芸能人みたいなイケメンで、一緒の空気を吸っていることすらおこがましく思える。

鞄お預かりしますね~とこれまた美人の若々しいアシスタントさんに言われ、緊張しながらも頑張って行動に移す。

リュックを彼女に渡すと、別のこれまたおしゃれな女性アシスタントさんに案内され、大きな椅子に座らされた。

 

 

「緑茶とほうじ茶とジャスミン茶、どちらに致しますか?」

「えっあっえっと、ウーロン茶で!!」

「あっ申し訳ございません。ウーロン茶は揃えていないですね・・・。」

 

 

いきなりかましてしまった。

パニックに陥り、思考があっちこっちへ分散していくかのようだ。

隼人の気の動転を感じ取った女性は落ち着いてもらえるよう笑顔でにこやかに対応を続ける。

 

 

「あああっっ!!すみません!緑茶はありますか!?」

「ありますよ。温かいのと冷たいの、どちらに致しますか?」

「冷たいので!!!」

「了解しました。お持ちいたしますね。暫くこちらの雑誌をお読み下さい。」

 

 

そう言われて目の前の物置きに置かれた雑誌は、ヘアスタイルが一覧になって出ている本や、男性化粧品の使い方のレクチャー本など、隼人にとっては全てが未知との遭遇だ。

ケープから通した手でその雑誌をめくってみるが、どのページもキラキラ輝いていて、目に毒だ。

 

ダメだこんなもの見れたもんじゃねぇと雑誌を置き、鏡越しに色んな所を見ていると、お茶を持ってきたのは超イケメンの店長だった。

 

 

「担当の木本です。今日はよろしくお願いします!口囃子さん、ですね。」

「はっはい。」

「珍しい漢字の書き方ですね。」

「そ、そうでしょうか・・・。」

 

 

触りの会話にすら緊張している隼人を見て、店長は笑いながらリラックスして下さいねとキラキラスマイルをぶつけてくる。

その圧倒的オーラが隼人にとっては緊張の原因なのだが。

 

 

「今日はどれぐらい髪を切りますか?」

「えっと・・・伸びすぎたので、無難に切ってください。」

「無難にですね。分かりました。」

 

 

美容室に入ってからこの椅子に移動する間に完全に前髪が前に来てしまい前が見えなくなったが、緊張で放っておいたため、あまりよく前が見えない。

店長が髪をいじりながらどういう風に切ろうかと考えているのは何となく分かった。

 

 

「そうですね・・・無難になら、前髪は普通に作る感じで・・・・・・!!!!!!」

 

 

前髪をまとめて上げた途端、何故か店長の顔色が変わった。

 

 

「ちょっと、待っていて下さい。」

「え?は、はい・・・。」

 

 

隼人の前髪を両耳にかけた後、店長は少し離れた場所で前髪を切ってもらっていた平子の所に向かって行った。

何やら話し込んでいる様子で平子は一瞬びっくりした表情を浮かべたあと、こっちを見てニヤニヤしている。

鏡越しに二人が話し込んでいる様子を見ていたが、正直嫌な予感しかしなかった。

 

戻ってきた店長は、さっきと変わらない営業スマイルでハサミを持って準備を始めた。

まずは後ろから切っていくが、毛先を整える程度で丁寧に切っているようだ。

 

 

「それにしてもこの茶髪、地毛ですか?」

「まぁ、はい・・・。」

「天然の茶髪って羨ましいですね~。大学生ってよく茶色に染める人多いんですけど、正直似合ってない人も多いんですよ。」

「そうなんですね・・・。」

 

 

とっても丁寧な手捌きで髪を扱ってもらい、流石予約の取れない超人気店だと実感する。

こっちの緊張を和らげようとする努力も伝わってきて、ほんの少しだが安心出来た。

 

 

「一回前髪いきますね。」

「あ、はい。よろしくお願いします。」

「大丈夫ですよ。ゆっくり切っていきま――――やべっ。」

「え?」

 

 

手を滑らした店長は、大事な商売道具を傷付けてはいけないという思いが常日頃からあるため、落としそうになったハサミを卓越した瞬発力と反射神経を用いて左手でキャッチした。

だが、ハサミの掴み方が非常に悪かった。

 

 

ハサミをキャッチすると同時に開いた二つの刃は閉じられた。

つまり。

 

刃の間にあった隼人の長い前髪は、到底人前には見せられない形でばっさりと切られていたのだった。

 

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