ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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うわさのくーるぼーい!?

「あああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「大変申し訳ございません!!」

 

 

予期せぬ形で切られた前髪はばっつり斜めに切られており、子どもに悪戯で切られた髪といってもおかしくない形をしている。

あまりにも無残な前髪を見て、自然と目に涙が浮かんできた。

 

 

「こんな・・・こんな、前髪・・・。」

「すぐに修復させて頂きます!!」

「もう、何でもいいのでお願いします・・・。」

「分かりました!」

 

 

そこからの店長の手捌きは、まさにプロのような動きであり、あっという間に隼人の髪型は変わってゆく。

バリカンを使って襟足を刈り上げ、あんなに長かった髪は殆どなくなり、むしろ前よりも短髪になっていた。

 

 

その様子を横目に見ていた平子は、雑誌を見るフリをして笑っているのを隠すことに必死だった。

さっき店長の木本が平子の許に来た時、彼は非常に目を輝かせ、野心めいた顔をしていた。

 

 

「平子さん!なんであんなイケメンを今までほっといていたんですか!」

「はァ?あいつそんなイケてる部類に入るんか。」

「とんでもないポテンシャルです。短髪で前髪上げたら道行く女の子みんな振り返ってもおかしくないですよ!」

「ホンマか!」

 

 

地味だと思っていた子どもは大人になっても結局地味かと思っていたが、店長がテンションを上げる程とんでもない潜在能力をもった顔だとは意外な物だ。

 

 

「ほんなら、店長さんの好きなようにやってええで。多分アイツ無難にとか言うはずや。」

「言われなくともそのつもりでしたよ。あの作戦、やります。」

「・・・アレか。隼人どんな顔するやろなァ・・・。」

 

 

ニヤニヤと笑った平子は、そこからもチラチラと隼人の方を横目で確認し、ばっさり前髪を切られて断末魔の叫びを上げるその姿に笑いを堪えるのに必死になっていたのだった。

 

 

 

 

 

「それでは一回頭洗いますね。移動しましょうか。」

「はい。」

 

 

とんでもない失敗をされたため最初はこの美容師に少し怒りすらしていたが、信じられないような優れた腕で前髪の失敗など完璧に修復され、かなりさっぱりした髪型になっていた。

洗うと頭に残っていた髪が落ちるため、さらに短く見えるようになるらしい。

いい加減長い髪にすこしうんざりしていたのでこれは個人的に非常に嬉しかった。

 

単純な隼人は、髪を短くしてくれるというだけで、簡単に店長の評価を一変させていた。

 

 

「痒い所はございませんか~~?」

「!!!!―――大丈夫です!!!!」

 

 

美容室に行くなら聞いてみたかった言葉も無事聞くことが出来、それなりに悪くないかもと隼人は美容室に対する先入観を改めつつあった。

 

頭を乾かしてもらうまでは。

 

 

「では最後にセットしましょう!カッコよくしてみせますよ~。」

「えっ?あ、はい。」

 

 

切り終わった平子も隼人の後ろに立って様子を見ている。

正直このままでも十分なのだが、なにやら相当に自信を持った店長の顔を見ると、結構ですと言うのもためらわれる。

こんな時に自分の意見をはっきり言えないのが情けない。

 

普通に乾かすやり方とちょっと違う乾かし方をしていたので、それが何か関係があるのだろうかとぼんやり考えつつ、ワックスを馴染ませた店長の手が頭に伸びていく。

 

 

「お、おおおぉぉぉおおおぉぉぉおおおおぉぉぉ・・・・・・。」

 

 

どんどんと立ち上がっていく髪の毛を見ていくうちに、何だか嫌な予感がしてきた。

バック、トップ、サイド、前髪の順にワックスをつけて髪を立ち上げていき、それをヘアスプレーで固定していく。

何だこれは。何だこの、イケイケな髪型は。

信じられない物を見る目で、自分の姿を確認していく。

 

 

「アップバングか。たしかに印象ガラッと変わったな。」

「ですよね!元の顔が凄く整っているので、前髪は絶対に上げるべきですよ。よく、似合ってます。セットの仕方知りたければいつでも教えるので電話して下さい!」

 

 

これが本当に口囃子隼人なのか?

自分が自分でないみたいだ。全く別のカッコいい人に転生したかのようだ。

美容師って、たった一時間で人間をここまで変えてしまうのか。

 

尊敬と多少の恐ろしさを抱きつつ、隼人は今日切ってもらった店長にお礼だけは言った。

むしろ、心がプワプワしてお礼しか言えなかった。

 

 

「あ、ありがとうございます・・・。」

「また来てくださいね!もう次の日付予約しちゃいますか!」

 

 

なんてどんどん話が進んでいくのに置いて行かれて、隼人は自分の知らない内に次の散髪も現世で行うことになってしまった。

ぼーっとした隼人に代わり、前髪を斜めにカットした平子が代金を支払ってくれた。

技術の割に意外と安く、そこが人気の秘訣かもしれない。

 

 

アシスタントの女性からリュックをもらって背負い、平子の後ろについて仮面の軍勢のアジトに向かって行った。

 

 

美容室は東京の中心部にあるので、平子達のアジトへは電車で向かう。

その道中も、何だか複雑な心境にさせられた。

 

すれ違う多くの女性が、自分を見てヒソヒソ話をしているのだ。

知らない人から露骨に見られるなんて経験したことないので、恐怖しか感じない。

「めっちゃ○○に似てない!?」「あの子大学生だよね!?○○くんが若くなったみたいでめっちゃ可愛いんだけど!」と隼人を見て騒いでいる女性もいる程だ。

 

恐くなり、前を向くことすら出来なくなってしまった。

 

 

「平子さん・・・駅、まだですか・・・?」

「何怖がっとんねん。堂々とせんかいアホ!」

「だって、こんな噂されたことないんですよ!今まで女の人から噂されたこともなかったのに、髪型変えただけで急に色々言われたら、そりゃ怖いですよ!」

 

 

その間も「私東京一帯のイケメン大学生大体知ってるけど、あんな男らしいイケメン見たことないわ!」と驚かれたり、カップルの女子が見惚れてしまい、彼氏さんがコッチをみて露骨に嫌な顔をしたりもした。申し訳なさで一日中謝れそうだ。

 

極めつけには、逆ナンに遭ってしまった。

 

「そこのス●バでお茶しませんか?」とウェーブのかかったロングヘアーの女性数人が隼人の肩をとんとんと叩いて誘ってきたのだ。恐らく隼人の外見年齢と変わらない、女子大生集団だと思われた。

金が無いと言えば、私達が出しますと言われ、カフェに入ったことないとか細い声で言えば、むしろ可愛いと騒がれてしまう。

ニコニコ笑う女の子の笑顔が、キラキラしていて恐怖しか感じない。

ごめんなさいと言えば、「はぁ?マジ無いわ。」とガチトーンで言われ悪口を言われるかもしれない。

 

「へえええぇぇっぇぇえええぇええぇぇぇ・・・。」と半分泣きながらどうやって断ろうか思考が定まらなくなっていると、隣にいた平子がようやく助け船を出してくれた。

 

 

「済まんなァ。コイツオレの地元の知り合いでなァ。東京初めて来たさかい、緊張してまともに喋れんのや。今日はちょっとカンベンしてや。」

「ご・・・ごめんなさい・・・。」

 

 

「えぇー?せっかくお喋りしたかったのになぁ・・・。」「仕方ないよ。でも東京初めて来て緊張してるなんて可愛いよね!」などと言いつつ、女子大生集団は去って行った。

相変わらずか細い声の隼人は、緊張と恐怖で平子の背中にかじりつき、今度こそ静かに泣き出してしまった。

 

 

「・・・こんなんで泣くなや。拳西に知られたら勝手に外連れ出すことも出来んくなるやん・・・。」

「怖いですよぉ・・・。」

 

 

あまりの情けなさに、むしろ昔より子どもになっているのではないかと心配になる程だった。

あの藍染相手に一人で粘った男とは到底思えない、昔と変わらずヘタレのままの隼人に呆れが止まらなかった。

 

 

電車は昼間なので空いており椅子に座る事ができたが、数駅通り過ぎたあたりで不自然に周りが若い女性しかいなくなっており、怖くなって数回電車から降りてしまった。

幸いここは東京なので次の電車はすぐに来るため問題ないが、あまりの忍耐力の無さに平子は何度かキレてしまった。

 

 

「オマエ、もうちょっとどうにかならんの!?」

「聞こえてくるんですよ!!ヒソヒソ僕の顔を見て話している声が!!」

「そやけどなァ!!何遍も電車乗り降りすんの面倒なんやぞ!!それに降りてもムダや!!気付いとらんだろうがなァ!隼人の周りにいた女連中も次の駅で降りてるんやで!!オマエの姿電車の中に見つけたら乗り込んでるんや!!」

「ひぃぃぃぃ!!!!!!!何て執念!!」

「ええ加減受け入れろアホ!!!!」

 

 

そこからは電車から逃げようとしてもガッチリ平子に腕を掴まれ、降りることは叶わなかった。

 

 

ようやく空座町にある仮面の軍勢のアジトに着いた。

そこでの皆の反応も、やはり驚きが中心だった。

 

 

「おぉ久し振りだな隼人!ついに地味キャラから脱却か!良かったな!」

「シンジの美容室に行けば誰だって変われるからね。ボクも拳西もリサも大分変わったよ。」

「ラブさん・・・ローズさん・・・。」

 

 

ローズの髪型も何だかクラシックの巨匠みたいな髪型になっている。

ラブは星型のアフロとこれまた奇抜になっていた。

服装は現世のものだったが、中身は何も変わっていないようで安心する。

 

 

「アンタ、地味だったのに変わったな。デビューか!死神復帰デビューでもしたんか!」

「はやちん!!伸びてた髪の毛切ったんだね!」

「矢胴丸さん・・・白お姉さん・・・。」

 

 

ポニーテールで前髪を作ったリサは、三つ編みを辞めたのだろうか。相変わらず過激な本を持ち歩いているようだ。

白は、前に尸魂界に来た時と変わらず、ウェーブのかかった髪の毛ではなくストレートにし、肩の位置あたりまで髪を伸ばしていた。

 

 

「とっても清潔感があって似合っていマスよ、隼人サン。」

「・・・・・・アホらし。」

「ハッチさん・・・ひよ里ちゃん・・・。」

 

 

ハッチは、服装以外何も変わらない。だからこそ、すごく安心した。

ひよ里は、死神を憎み毛嫌いしていると聞いていたので少し不安だったが、あからさまにつっぱねようとはしておらず、受け入れてもらえたようだ。

 

 

「おう。髪切ったのか。さっぱりして似合ってるぞ。」

「・・・拳西さん・・・。」

 

 

以前尸魂界にいた時から少しずつ髪を伸ばしていたのは知っていたが、サイドを刈り上げ、前髪と頭頂部の髪を立たせている髪型は、非常に似合っていた。

 

だが、そんなことはもう正直どうでもよかった。

 

 

「・・・・・・疲れた・・・・・・。」

 

 

憔悴しきった顔をした隼人は、拳西にくたくたとしなだれかかってそのまま眠ってしまった。

 

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