ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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野心!

せっかくセットした髪を崩さないようにうまいこと隼人の頭をソファの端に置いて寝かしつけ、大体できた夕食の仕上げのために再び手を動かし始めた。

 

 

「何や色々作っておるなァ。」

「一応快気祝いだしな。ここで作ってる奴の他にハッチと夜一にピザ取りに行かせてるぞ。」

「何であんな凸凹コンビに行かせんねん。つーか、夜一もおるんか。」

「あいつはほとんど食いモン目当てだぞ。あと、あの話するために来てもらった。」

「・・・もうするんか。」

 

 

まだ見通しの立っていない話ではあるが、どうせなら隊長復帰に関しては自分たちの口から直接伝えてやりたかった。

急に尸魂界に死覇装を着て目の前に現れて驚かせてやろうとも考えていたのだが、現実的でない上、多分どっかでバレる確率も高い。

夜一と京楽の働きかけもあって仮面の軍勢三名の隊長復帰の話は席官以下の人間には機密事項とされており、隼人はその話を毛程も知らない。

 

 

「まだ確実やないやろ。あんま期待させんのもどうかと思うで。」

「夜一がうるせぇんだよ。早く話してやれって。ったく、席官以下には広めるなとか言っといて矛盾してるだろ。」

「ボクはもう話してもいいと思うよ。」

「あたしも構へんよ。」

 

 

拳西の料理を手伝っていたローズとリサも賛成の意見を示す。

と言うものの、二人には相応の野心があるのだが。

 

 

「尸魂界だと楽器の演奏しやすいからね。僕の狂おしいメロディを聴いて涙する隊士が出るといいな~。」

「あたし、死神相手に商売しようと思っとるんや。あんたらがはよ復帰してくれればあたしもすぐ動けるからはよ復帰せえや!」

「何でオメーのために復帰早めなきゃいけねぇんだよ!」

 

 

ローズはさらに三番隊でオーケストラを作りたいとかいう野心をベラベラと喋っている。

射場母が副隊長でなくなったのをいいことに、以前にも増して隊を私物化しようとしているのを堂々と喋っているのだ。

浦原みたいな私物化の仕方ならまだしも、護廷十三隊にとって何の役にも立たない私物化は、感心しない。

 

一方リサは、書籍販売会社を立ち上げようとしているが、実態はエロ本仲介人でしかない。

顧客の秘密は絶対に守り、届ける際にも絶対に外にはバレない特殊なやり方で運搬を行うらしい。

結局浦原の秘密道具頼りなのだが。

 

 

「現世は本だけやない!動画もあるからな!尸魂界の若い童貞死神共が刺激の強いエロ動画観たら興奮してすぐ股に手「ピザ届いたみたいやでぇ~~。」

 

 

リサの少々危険な言葉を断ち切るかのようにハッチと夜一がピザを届けに来た。

といっても、ほとんどハッチが持っていたが。

 

 

「後で喜助達も来ると言っておったぞ。そんなことより隼坊はどこじゃ!!」

「あっちで寝てるで。」

「何?眠っておるじゃと!?」

 

 

ソファで眠っていた隼人の許に駆け寄り、大声で呼びかけながら強引に肩を揺さぶって起こした。

 

 

「おい!起きろ隼坊!!」

「ん~~ちょっと揺さぶんないでって・・・夜一さん!?」

「何呑気に眠っておるのじゃ!!そこまでおぬしはわしの顔を見たくないのか!」

「いやその論理破綻し過ぎてツッコミどころ逆にないですよ・・・。」

 

 

寝ぼけ眼の隼人をぺちぺちと軽い往復ビンタで覚醒させ、食事が並べられたテーブルに連れて行く。

 

 

「えっ!何これ!!すっげぇ!!!」

「隼人の快気祝いや!オレ達みんな頑張って作ったんやで!!まァ、九割拳西が作ったんやけどなァ!!」

 

 

身も蓋もないことを堂々と喜んで口に出す平子はさておき、自分の為にたくさん料理を作って出してくれるのはとっても嬉しくて、心が温かくなる。

院に合格した時に皆でどんちゃん騒ぎをしたあの日を思い出した。

あの時は海燕もいたし、白哉も生意気かつ熱い性格で夜一に何度もキレていた。

変わってしまったことももちろんあるのだが、それでも昔に戻ったようでノスタルジックな気分にさらされた。

 

テーブルを見てみると昔からの好物である肉じゃがはもちろん、見たことないような料理もたくさんテーブルの上に乗せられていた。

 

 

「おらっどけ。飲み物通るぞ。」

「みかんジュースだ!!お酒はないんですか?」

「無ぇ。お前飲んだら間違いなく荒れるだろ。」

「えぇ~残念・・・。」

 

 

しょんぼりしていると拳西にここに座れと指図され、左に夜一、右に拳西が座る。

徐にフライパンとお玉を取り出した拳西は、大きな音を響かせて叩きつけ、「飯だぞーー!!」と叫び声を上げる。

 

 

次の瞬間、血相を変えた仮面の軍勢達が猛スピードでこちらに移動し、早い者勝ちで席に着いた。

 

 

「ギャハハハハ!!!ハゲシンジが今日の皿洗いや!!量多いから死ぬ思いしてやるんやで!!このハゲ!!」

「何でよりによって今日負けるねん・・・!」

「ま、仕方ないな、頑張れよ真子。」

 

 

平子が可哀想に見えた隼人は手伝いますかと言ったが、ひよ里から殺されそうな視線を向けられたので何でもないですと言う他なかった。

 

 

「何でも食いたいモン食え。隼人のお祝いだからな。」

「ありがとうございますほんと!」

 

 

最初に手に取ったのは、近くにあった円形の食べ物だ。

 

 

「これって何ですか?」

「ピザじゃ!若いおぬしの口にならあうと思うぞ。」

 

 

赤いソースの上に、チーズのようなものがかかっている。

隣で食べている拳西を見ると、手掴みで食べる物のようだ。

ならって自分でも手掴みで食べてみる。

 

 

「ん~~!んま~~い!!!」

「そうじゃろう!わしおすすめのピザを買ってきたからにはまずいと言ったらタダでは済まさぬ!」

「さすが夜一さん!四大貴族なだけありますね!」

 

 

ちょっぴり噛み合わない会話をしつつ、隼人は初めて食べた『ぴざ』をいたく気に入った。三枚目を食べようとして拳西に止められたが、出来ることなら一枚丸々食べれるかもしれないぐらいには美味しかった。

他にもピラフやフライドポテトなど並べられたものは洋食が目立ったが、どれも拳西が作ったものは非常に美味しかった。

こんな幸せな時間が来ることを、手掛かりが掴めず自暴自棄になりかけていた去年の隼人は考えもしなかった。

休暇を作ってくれた狛村、仕事を代わりにやってもらっている射場にも感謝しなければならない。

 

そうこうしながらご飯を食べていると、浦原商店の面々が重箱を持ってやってきた。

 

 

「鉄裁サン特製のお重ですよ~~!」

「ウチこれめっちゃ好きやねん!!早よ開けろ喜助ェ!!!!」

「はいはい分かりましたよ~。」

 

 

和食中心の重箱は、随分と渋い食べ物がたくさん入っていた。

和菓子の段を独り占めしたひよ里は、かき込むように中に入っていた饅頭などを口の中に入れていく。

 

 

「ひよ里ちゃん・・・太るよ?」

「義骸やから関係ないで隼人!!残念やったなァ!!」

「体重●●(ピー)キロのどこが痩せとんねん。」

「ハゲ貴様!!乙女の体重何バラしとんねん!!」

「誰が乙女ですかーー?オレの目の前には小便臭いガキしかおらんわ!!」

「何やとォ!!」

 

 

場外乱闘が始まったため干渉を避けた隼人は、拳西の作った洋食を中心に鉄裁のお重にもたまに手を伸ばす。

ハートのフリルをつけた白いエプロンは不気味だが、修行の時にもらった弁当の味から分かるように鉄裁の料理もとっても美味しい。

 

あっという間に食べ物は無くなってしまった。

 

 

「それじゃあハゲ真子!皿洗いは任せたで!ウチらはのーーーんびり銭湯に行ってくるわ!!白!リサ!ラブ!ハッチ!早よ行くで!!」

「ついでにジン太とウルルも連れて行ってもらっていいですか?」

「しゃーないな!真子が皿洗いで気分ええから連れてくわ!!お前らも行くぞ!!」

「相変わらず平子さんのことおちょくるの好きなんだね・・・。」

 

 

ひよ里の指揮でヴァイザード女子軍団とラブ、ハッチ、そして浦原商店の子どもたちは銭湯に向かっていった。

この様子なら、銭湯でもきっと大騒ぎしていそうだ。迷惑客にならないことを祈る。

 

 

「さて、それでは本題に入りますか。」

「そうじゃな。」

「ひよ里サン、きっと気付いて銭湯に向かって行ったんでしょうね。」

 

 

夜一と浦原の話に、一体何のことやらと隼人は頭に疑問符を浮かべている。

残ったメンツの顔を見ると、一生懸命皿を洗っている平子以外は、何やら事情を分かっているように見えた。

 

 

「拳西さん、何かあったんですか?」

「実はな、」

 

 

紡ぎ出された言葉は、あまりにも破壊力のありすぎるものだった。

 

 

()()()()()()()()()。」

(!!!)

 

 

目の前が真っ白になった。

それは、一度拳西がいなくなってから切に願っていたことの一つだ。

尸魂界に再び彼らが足を踏み入れることができるようになってほしい、そして、ゆくゆくは拳西達に死神復帰してほしい、そんな思いをずっと抱えて一人で今日まで生きてきた。

その願いが叶うなんて。

 

 

「ほんとに・・・ほんとにですか・・・?」

 

 

と震えていると、事態はそこまでいい方向に向いていないことを聞かされる。

 

 

「でも向こうには反対する奴らもいてな、話は来てるが復帰の目処は立ってねぇ。」

「ボク達は虚の力が混じってるからね。死神たるもの、そんな不浄な力は持つべきではない、って思う人もいるってことさ。」

「そんな・・・!」

 

 

話を聞いた隼人は、怒りで拳を机に叩きつけた。

その怒りの顔は、ここにいる人間誰もが見たことの無い表情だった。

 

 

「そんなの横暴じゃないですか!皆さんは望んで虚化したワケじゃないのに!藍染の実験に巻き込まれただけなのに!!何で虚の力が入ってるだけでそんな侮蔑を受けないといけないんですか!理解出来ません!」

「貴族だったり、保守的な方々はどうしても一度罪人として扱われた死神の復帰を良しとは思いません。六車サン達の復帰には、尸魂界側での一致が必要です。彼らを納得させないといけないっスね・・・。」

 

 

浦原の話を聞いた隼人は決心する。

休暇が終わったら、まずは彼らの復帰のために自分が色々と動くべきだ。

 

 

「だったら僕が拳西さん達を復帰させます。そのためにはどんな手だって使ってやりますよ。拳西さん達が現世に逃げないといけなかった時、僕は何も出来なかった。藍染達の策略に、全く気付くことが出来なかった。」

 

 

「これは僕の使命です。話を聞いた以上黙ってられません。誰が何と言おうとやりますので。拳西さんに止めろと言われても聞きませんから。」

 

 

その意志をくみ取った夜一は満面の笑みを浮かべた。

 

 

「よいぞ!非常によい!!わしの見込み通りじゃ!!おぬしが向こうに帰る前に反対派の死神と貴族の死神の情報をまとめておく。あとはおぬしの()()()()()()やれ。分かったな?」

「言われなくともやりますよ。これは僕の昔からの願いですから。」

 

 

がっしりと手を組んで決意を固めた二人の様子を見た拳西はため息をつき、ローズは肩をすくめる。

夜一の言うように、隼人は本当に汚職に手を染めてしまいそうだ。

喋っていた時のあの顔は、恐ろしい程に野心に染まり、ゆらめいていた。

 

実際予想以上に恐ろしい程の汚職で染まってしまったことが分かるのは、復帰後しばらく経ってからの話である。

 

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