藍染によって中央四十六室全員が暗殺された後、山本総隊長が四十六室の代わりを務めていたこともあり、総隊長、ひいては死神側の意見も以前よりは通りやすくなっていた。
それに加え、狛村以外誰も知らない隼人の暗躍があった影響で、本来の予定よりも早く復帰が決定となった。
浦原や平子を毛嫌いしていた砕蜂に対しては、夜一が上手い具合に唆していい方向に持って行ったようだ。大前田はかなり不満たらたらで余所者がと文句を言っていたが、唆された砕蜂によって従わざるをえなかった。
日番谷も雛森による慣れない色仕掛けで弱みを握られ、「お願い?」と小首を傾げた雛森に従ってしまったようだ。陰で松本が大爆笑し、女性死神協会に言いふらしていた。
他にも彼らを詳しく知らない若い隊士はあまりいい気はしておらず不満げにしていたが、護廷の面子のために彼らの復隊を決めた、と見るべきだろう。
「良かったな、隼人。お前が休暇の間何をやっていたのかは知らぬが、彼らの復帰は無くした百年を取り戻すきっかけになるだろう。」
「お気遣いありがとうございます!・・・決して褒められる行為ではないんですけどね。」
一旦落ち着いてから自分の行いを振り返ってみると、中々に自分が異常な振る舞いをしていたことを思い出し、少々落ち込んだ。一週間ビッチリあの調子でいたら、多分闇堕ちしていた。
夜一が止めてくれたおかげで何とか今までの自分に戻れたのである。
ぶっちゃけ楽しかったけどね。
その時撮った写真は日頃いじられてばっかの仕返しとして嫌がらせ目的で浦原に送り付け、自分の伝令神機からは削除した。
行為中の盗撮写真など持っているだけで胸が悪くなりそうだ。
他にもジジイの邪悪な笑みの写真など、持っているだけで刺客共から狙われそうなのでとにかく目に入らないように消した。
「一週間後、新隊長就任式が行われる。」
「結構早いですね。」
「前からずっと話をしていたからな。ここまで来た以上早急に復帰してもらう方がよいとの結論が四十六室でもまとまったそうだ。それに彼らは元隊長だ。式もあってないような物だ。」
「へぇ~いいなぁ僕もその場にいれたら良かったですよ~・・・。」
新隊長就任などの儀式は、各隊隊長と副隊長以外の出席は許可されていない。
もっともマユリなどは研究熱心のため隊首会にすら来ないことも度々あったのだが、最近は丸くなったのか出席することが増えた。
相変わらず更木剣八とは仲が悪いが。
「儂がお前の出席を許可するよう総隊長に進言でもしようか?」
「いえ!!そんな、そこまでは大丈夫です。でも―――――――。」
その考えに、狛村は強く共感してくれた。
「じゃあ、久々の仕事、頑張ります!射場ちゃん大丈夫っかな~~。」
走って執務室を出て行った隼人は、心配こそしているものの今まで見たことの無い楽しそうな表情をしており、余程復帰が嬉しかったことだと狛村も喜ばしくなった。
狛村も、新たな人物が隊長復帰すれば護廷十三隊にいい雰囲気が出ることを確信していた。
目の前にいた部下も等身大の振る舞いをするようになり、安心できるようになった。
新しい一歩を踏み出したような気分で、狛村は未来の護廷十三隊に思いを馳せていた。
「射場ちゃ~~ん、お久し・・・ってうわっ!!!大丈夫!?」
「お・・・遅いわ・・・口囃子・・・。」
「ごめんな~~ほんと。今日は僕が仕事やるから寝てていいよ!」
「今度はおどれが儂の分の仕事せぇ!!!」
「はいはいゆっくり休んでなさいよ。」
隊士休憩室に連れて行き横にならせたところ、三秒も経たずに高いびきをかいて寝てしまった。
書類仕事が得意では無い射場にしては、かなり頑張ったと思われる程仕事をこなしていた。
まだ隼人が入院していた頃も、残業を増やして二人分の仕事を頑張って対処していたのだ。
とりあえず今日は射場の分の仕事もやってあげることにした。
昼休みは、これまた修兵、吉良、阿散井のいつもの後輩達に飯を誘われて外に出たのだが、現世から戻って来て一度も会っていなかったからか、その見た目の変貌に皆開いた口が塞がらなくなっていた。
後輩達も皆髪型を変えたりしているのだが、
「もうその反応飽きた・・・。」
「いや、これはルール違反っすよ!!!」
「なに修兵、自分だって頭いじってるじゃん。僕が頭いじって何か不都合でもあるんかい?」
「そ、そんなことはないっすよ・・・。」
吉良と阿散井は隼人のイメチェンにかなり好意的な反応をしており、地味な昔の姿より前髪あげてしっかり顔を見せた今の方が絶対にいいと褒めてくれた。
現世で自分の姿を見てあれこれ言われることに慣れた隼人は、他人の目線など全く気にしなくなっていた。その自信に満ちた姿も二人にとっては立派に見えていいと言ってくれた。
対する修兵は、護廷十三隊顔面パワーバランスが崩壊していく姿を想像し、恐怖を感じていた。
憧れの女性にはいつまでも振り向いてもらえずいいように使われてばかりだが、修兵は今まで多くの女性から好意を寄せられ、男女の仲に発展したことも多々あった。
松本への思慕を忘れられず長続きしないのだが(そこがやっぱりダメなんだよ)、経験人数を聞かれても恥ずかしくない程の人数を喋る事が出来る。
それは、周りに比べて自分の顔が整っているから、というのは自覚していた。
憧れの人に美男で手練れと言われる程のことはある。
吉良や阿散井も女性から懸想されることはある。二人も気になっている女子がいるので断ってはいるが、それは修兵ほどとはいかないまでも顔が整っているからだ。
日番谷や浮竹は陰でファンクラブがある程で、最近では昔霊術院で凄まじい人気を誇っていた浦原喜助の人気が再燃しているとかいう噂も聞いていた。
そこへきて、隼人のイメチェンだ。
まさに黒船だった。
折角モテていたのに、このままでは己の存在が霞んでしまうのではないか。
ひょっとしたら憧れの人を取られてしまうのではないか。
このような複雑な理由があるせいで、手放しで隼人のイメチェンに喜べなかった。
「ルール違反って、ルールもクソも無いじゃん!何訳わかんないこと言ってんだよ。」
「口囃子さんは、地味だからこそ味があっていいんすよ!」
「知らな~い。つーか地味だから味があるって意味わかんねぇよ!」
ケラケラ笑う隼人の姿を見て、やっぱり後輩達は慣れないでいる。
見た目の変化と共に性格も開放的になり、元気一杯の子どもみたいな振る舞いの隼人にペースを合わせることは少々大変だ。
「俺、今の口囃子さんについていけねぇ・・・。」
「僕も慣れるのに時間かかりそうだよ、阿散井くん。」
基本的に修兵で遊んでいる隼人は吉良と阿散井をいじめたりするつもりはないが、矛先を向けられた時に笑って対処できるかどうかは自信が無い。
「いいじゃん、心境の変化だよ。」
「変化しすぎっすよ!」
「結構頑張っちゃったけど、どう思う?」
「悔しいっすけど、カッコいいと思いますよ!!」
「やった~~!!!修兵お墨付きなら間違いないな!」
実際この髪型になった時にビクビクして泣いていたあの頃は遠い過去としてどっかに消し、今の隼人は自信たっぷりで笑える程になっていた。
心から喜んではしゃぐ姿も、見慣れない姿でいちいち困惑してしまう。
いつもの定食屋に入ると、京楽と浮竹が四人掛けの席に座っていたのを見つけた。
「おや、若い君達も昼ごはんか。」
「ええ、ここ気に入ってるんすよ。」
「昔から変わらない美味しい味だからね。」
魚を丁寧に食べた浮竹は、お口直しにお茶を飲んでいる。
笠を下ろした京楽は食べ終わってのんびりしているところだった。
隊長に手間をかけるわけにはいかないので、席を店員に案内してもらい向かおうとする。
「ところで・・・。」
だが。
「何隠れてんの、隼人クン。」
ビックゥゥゥゥゥ!!!!と体を一度震わせて隼人は立ち止まった。
とっさの出来事に霊圧を隠す暇もなく、体を固まらせて縮こまらせる。
逃げられるものならどうにかしてこの場から逃げたかった。
なぜなら。
二人の隊長に向かい合って座っているのは、少し髪を伸ばした七緒だったから。
「ちょっと、借りてもいいかな?」
「構わないですけど・・・。」
浮竹の言葉に、吉良が自然に答えてしまう。お前ナチュラルすぎだろと突っ込みたくなる。
「さあさあ、ここ、座っていいよ。」
京楽が指し示した場所は、言うまでもなく七緒の隣だ。
準備が出来てない。髪型を変えてからは、色々シナリオを考えた上で会おうと思っていたのだ。
いかにそつのない形で七緒の気を引くことが出来るのかを、せっかくなので綿密に考えた上で会うつもりだった。
修兵の誘いに乗らなければよかったと今更ながら後悔する。
「何頼もうか、奢ってあげるよ。」
「いっいえ、そんな訳には「現世産高級豚ロースのとんかつ定食でいいんじゃない?」
「おお!それがいいな!体力をつけるためにはそれがいい!」
話を聞かない浮竹と京楽のせいで勝手に昼飯を決められ、奢られてしまうことになる。
しかも、メニューの中でも結構お高い品だ。
ますます逃げられなくなってしまった。
少し離れた席に座る後輩共は、三人で話すフリをしながらばっちりこっちに注意を向けている。
仕方のない話だ。突然かっさらわれたのだから。
「あの・・・何故急に僕を引き留めたのですか?」
「初めてとった長期休暇はどうだったのか、是非聞きたくてな!」
「六車隊長達と過ごされたんですよね?どうでした?」
「へぇっ!?!?!?」
よりによって七緒からそんな話を持ち掛けられることも全く考えていなかったせいで、ドギマギして頭が真っ白になる。
必死に思い出すのは、到底人前では話せないお下劣な下ネタで騒いだことや、現世にやってきた当初の情けない自分の姿。
そして、七緒に関しての恋バナ。
選択肢として浮かんだものは、どれも隼人を崖っぷちに立たせる内容だった。
それでも必死に問題の無い内容を思い出そうと躍起になる。
「えーーっとですね――――・・・、あっ!漫画とか読みました!あとゲームもしました!」
「それだけですか?」
「いえっそそそそそんなわけないじゃないですかぁ~~。」
「そりゃあそうでしょ。
机に頬杖をついて隼人を見る京楽は笑みを浮かべている。
全く目が笑っていない理由が気になって仕方ない。
「どうしたのさ、もしかして、好きな子でも出来ちゃったの?」
「なっ!!!ち、違います!平子さん行きつけの美容室に行ったらこの髪型にしてもらっただけです!」
「急にオシャレになるからびっくりしたぞ。霊圧を見なければ誰だか分からないな。」
詳しいいきさつは人前であまり言いたくないので抽象度を高めて伝える。
目の前に好きな人がいるのにはい、そうです、なんで言えるわけない。
それに、浮竹は単純に興味津々でニコニコしている感じだったが、京楽は顔だけ笑顔で本当の意味で笑っているようには見えなかった。
まさか、自分の気持ちがバレているのだろうか。
その予想をしてしまった以上、隼人は絶望の淵に立たされることになる。
さらに京楽は追い打ちをかけてきた。
「七緒ちゃん、今の隼人クンどう思う?」
「え、ちょっと、」
「私ですか?そうですね・・・。」
じっくり顔を見てくる七緒に、胸の鼓動が止まらなくなる。
心臓の音が耳まで聞こえてくるかのようだ。
目を逸らそうとしても、むしろ七緒の顔から目が離せなくなってしまう。
「・・・似合ってると思います。以前の口囃子さんよりもカッコいいですよね。私は今の髪型のほうが好きですよ。」
「あ・・・・・・。」
カアァァ・・・っと顔を赤くした隼人は、俯いて七緒から言われた言葉を反芻する。
似合ってる。カッコいい。今の方が好き。
想いを寄せる女性にそんなことを言われた以上、彼女いない歴=年齢の隼人が思考停止状態に陥るのは言うまでも無かった。
浮竹が隼人の為に頼んだとんかつ定食が来ると同時に、京楽、浮竹、七緒は代金を払ってその場を後にした。
彼らが定食屋を出た後に、自分達が頼んだ料理の載ったお盆を持って後輩達が移動してきた。
「口囃子さん!伊勢副隊長のこと、好きなんスか?」
「―――――・・・。」
「ダメだ、阿散井くん。完っ全にあっちに行ってるよ。」
「水臭い話じゃないっすか!色々、教えて下さいよ!」
ぽへ~~・・・っと放心している隼人は、声をかけても何も返事をしない。
隣に来た修兵に肘でこづかれた所で、やっと我に返った。
さっきまでが嘘のようにケロっとした表情に戻る。顔色もいつも通りだ。
「あれ、何で君達がここに?」
「まさか、口囃子さんにも春が来るなんてな!」
「いやこれから来るのは夏でしょ。」
そういう意味で阿散井が言っていることを全く理解していない隼人は、何を言っているんだと呆れた顔をする。
それにもっと呆れた顔を吉良と阿散井が向けた後、隣に座ってきた修兵が耳元で囁いてきた。
「伊勢副隊長と、上手くいくといいですね!」
「ふんんっっっ・・・!!!!」
一際変な声を上げて顔を真っ赤にした。
「な、ななななななな何言ってんだよ!!!!七緒さんにそんな、」
「へぇ~『七緒さん』って。そういや昔からそう呼んでましたよね。特別扱いっスか。ぶっちゃけ昔から気あったんじゃないスか?ちゃっかりしてるっスね。」
「だってそりゃあ昔から関わりあるからそう呼んだっていいだろ!!阿散井くんだってルキアちゃんのこと呼び捨てじゃん!!」
「意味合いが違うっス。」
「はぁ―――――――――!?!?」
「じゃあ正直な話、伊勢副隊長のこと好きなんですか?」
「好きに決まってんじゃん!!!!!!!」
さりげなく混ぜ込んできた吉良のストレートすぎる質問に、勢い余って大声で答えてしまった。
周りで食べていたお客さんも静まり返ってこっちを向く。
呆気なく自滅してしまった。
隠し通せると思っていた気持ちが、よりによって後輩達にバレてしまった。
あ、やっちまった。と悟った瞬間から、赤い顔をさらに赤くする。
もうこれ以上ないのではという位には顔を赤くしている。
全身の血液が顔に集中しているかのようだ。
「そうだよ・・・好きで悪いかよ。」
「何一つ浮いた噂が無かった口囃子さんが、好きな人に振り向いてもらうために思い切ったイメチェンまでするなんて、健気で可愛い所もあったんすね。」
「は、はぁっ!?!?別に髪型変えたのはそういう訳じゃないから!」
今まで悉くいじられてばっかだった修兵は、格好の材料を見つけて反撃を行っている。
一日でコロコロと目まぐるしく表情を変える隼人が後輩達にとっては非常に面白く映っていた。
特に、(恐らく初めて抱いたと考えられる)恋愛感情をつついた時の反応は男子小学生の反応そっくりであり、いじり甲斐しかない。
何か言う度に過剰な反応を示すのが子どもっぽくてまた新たな一面を見た気分だった。
「でも、口囃子さんも思い切ったよな~~。伊勢副隊長に惚れるなんて。京楽隊長が知ったらどんな顔するんスかね?」
「あの人のことだから、お二人が付き合っていると知ったら暫く仕事休みそうだよね・・・。」
「確かに、どんな顔するんだろうね~~・・・。」
あの目はもう気付いているとしか思えなかったが、やっぱり口に出したら本当になりそうなので疑問のまま流しておく。
そして若い男達の質問は、結局これしかなかった。
「いつ、告白するんすか?」
「こっここここく―――――・・・!!!」
「まさか、伊勢副隊長から好きって言われるのを待つんスか?それはさすがにナシっスよ。」
「う、うるせぇ!!こっちから、するよ・・・。する・・・絶対・・・。」
言葉尻が弱々しくなっていく隼人の姿に、後輩達はため息をつく。
自分たちも決して上から相談できる立場にいるとは言えないが、それにしても目の前の男はこと恋愛に関しては未熟すぎる。
こんな調子では告白など出来たもんじゃない。
(だったら、無理やりにでも場をセッティングしてやるか・・・。)
言葉を交わさずとも意見が一致した後輩達は、一先ず萎縮した隼人の味方であることを告げた。
「応援してますよ!口囃子さんの初恋!」
「うるせぇ!!!」
むくれた隼人は急いでご飯を食べ、気を紛らすためにすぐ仕事に戻った。
高級とんかつの味は、結局よくわからなかった。