ヒーローに助けられた者のお話   作:気まぐれプリンセス

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この慰安旅行は数話続きます。
誤字報告もありがとうございます!


夏の慰安旅行!①

「おぉお~~~~!海だ~~!!!」

「羽目外しすぎんじゃねぇぞ。」

「わかってますよ!」

 

 

7月末。

女性死神協会と数人の男性死神は、慰安旅行という名目で現世の海にやって来た。

久し振りの瀞霊廷通信とのコラボ企画であり、写真撮影用員としてまた拳西が連れられた次第である。女性陣の肌の露出が多いため、スケベ修兵(語呂がいい)は松本から断固拒否され、全く瀞霊廷通信に関わるつもりのない拳西が逆に呼ばれた。

ついでに暴走気味の隼人のお目付け役としての役回りもあるのだが。

他に来た男性陣は、白哉、浮竹、小椿、日番谷、吉良だった。

日番谷はすぐに海の家に行ってしまった。

 

快晴の青空に、照りつける太陽。

爽やかな風と穏やかな海の様子から、今日が海水浴日和なのは言うまでもない。

 

 

「わ~~!僕ずっと海行ってみたかったんですよ!」

「じゃあ海背景にして写真撮っとくか。」

 

 

そう決めて満面の笑みで写った隼人の写真が次号の瀞霊廷通信の表紙になったのは、後の話である。

 

 

「では皆さん、水着に着替えてきましょうか。」

 

 

相変わらず卯ノ花の号令で事が進む。

 

 

更衣室で水着と夏用の薄手パーカーに着替えて準備万端!さて出よう!と足を踏み出した所で、吉良に肩を叩かれる。

 

 

「今日こそ、いっちゃって下さいよ。これ以上ない絶好のチャンスですよ。」

「そりゃわかってるよ!・・・そのつもりでいるけど・・・。」

「松本さんが色々根回ししてくれてますから。」

 

 

その二人の会話を聞いた浮竹もノリノリで隼人を応援する。

 

 

「夏の海で告白か~~!青春だな~!頑張れよ、隼人君!」

「そんなープレッシャーかけないで下さいよ・・・。」

「しかし、この場に京楽がいなくて良かったな。いたら隼人君は邪魔しかされなかったかもな!」

「あの人は来たくても無理ですよ。矢胴丸さんがいる時点で。」

 

 

七緒から慰安旅行のために休暇を取ると聞いた瞬間、京楽は「ボクも行く!」と駄々をこね始めた。

水着美女に囲まれることしか考えていなかった京楽は、さらに男性陣で浮竹と隼人が行くと聞かされた瞬間、本気モードに入ってしまう。

荷物に紛れてまで行こうとしたが、リサに見つかりボコボコにやられ、結局京楽は来ることはなかった。

 

 

「確かにあの人、気強そうですよね。鳳橋隊長が値切り交渉をなさってる時も、頑として受け入れませんでしたし。」

「ローズがあんな性格だからリサが強く出るのも仕方ねぇよ。」

「六車隊長!」

 

 

どこで手に入れたのか分からない黄色のアロハシャツを素肌の上に着ていたが、無駄に似合っているのが少し羨ましい。こんな派手な柄、絶対に着こなせないと下っ端二人は慄く。

手には折り畳み式のでかいパラソルを持っていた。

 

 

「先出てこれ立てるぞ。浮竹さんがずっと陽射し浴びんのまずいだろ。」

「済まんな。今日は俺も元気一杯なんだが・・・。」

「隊長!!ご無理なさらないで下さいよ!!」

 

 

小椿の過剰な浮竹への気遣いに、浮竹本人も呆れながら苦笑を漏らす。

レジャーシートを持った白哉の先導でいい場所を見つけてシートとパラソルを設置し、先に男連中は日陰でのんびり海を見て休憩する。

男六人全員が入っても問題ない程の広さを覆っているため、パラソルもシートも相当でかい。

そんな平和な空間を邪魔する甲高い声が響き渡る。

 

 

「あ~~!!!拳西達ずるい~~~!!白も入る!!やちるんも入ろ!」

「うん!!びゃっくんの膝の上~~!!!」

 

 

精神年齢がお子ちゃまな二人が乱入し、場は一気に混乱に包まれる。

白哉は慣れているためすました顔のままだった。

白は小椿を押しのけて強引に入り込み、日焼け止めクリームを塗っている。

 

 

「白テメェ、そんぐらいあっちで済ませろ。」

「だってこっちに置いてった方が便利だもん!拳西そんなこともわからないの!?バ~~カ!」

「んだと!!!」

「喧嘩しないで下さいよ。白さんもそんな意地汚い顔しないで下さい!」

「会長が日焼け止めも塗らずに外に飛び出していったのを、慌てて追いかけてくれたんですよ。ほら、塗りますよ!会長!いくら子どもとはいえ、日焼けしたら大変です!私だって何度後悔したことか・・・!」

 

 

後から来た七緒が白哉の膝の上に乗っているやちるの体に、白から貰った日焼け止めを塗ってあげている。なにやら昔の自分の行いにひどく後悔していたのだが、隼人にとってはそんなことなどどうでもいい。

違和感を抱いた。

 

 

 

あれ、そんなに胸、あったっけ?

 

 

ピンクのビキニを着た七緒の胸にしっかりできた谷間を見てしまった隼人は、すぐにそっぽを向いて顔を赤くする。

着やせするタイプなのか、思ったより胸がある。

松本みたいな爆乳ではないが、夜一と同じ位にはしっかり胸がある。

危うくスケベ修兵みたいになりかけたが、そこまで変態でもないので一回見たら耐性がついた。

その姿を横目で見ていた拳西はカメラを向けようとしたが、後で泣かれそうなのでやめておく。

 

 

「では皆さん、最初の行事を行いましょう。」

 

 

またも卯ノ花の号令で、最初の海水浴行事が始まる。

 

 

「ドキッ!死神だらけのビーチバレー大会~~!」

「イェーーーーーーイ!!!!!」

「「「「「「――――――・・・。」」」」」」

 

 

雄叫びを上げた小椿に、全員からの凍てついた視線が刺さる。

 

 

「これだから小椿は・・・だから口が臭いのよ。」

「清音!そうやって浮竹隊長に取り入るつもりだな!」

「どんな論理関係よ!」

 

 

清音を筆頭に他のギャラリー(何故か主に男)からも軽蔑の声が流れる。

 

 

「済まない、小椿三席。さすがに引くかな・・・。」

「吉良副隊長まで!?」

「あのね、修兵だってそこまであからさまな反応しないよ。」

「そうだな。修兵なら静かに鼻血出してるな。」

「口囃子三席に六車隊長も!?」

「さりげなく檜佐木さんの悪口言わないであげて下さい。」

 

 

 

 

「へぶしっ。」

「何じゃ?おどれも吉良と口囃子が羨ましいんか?」

「べっべべべ別に・・・・・・。」

 

(乱菊さんのふしだらな水着姿を見れて羨ましいなんて、全ッ然思ってないんだからねっ!)

 

 

 

選考に敗北した男達はさておき。

 

これからやるのは総隊長からの金一封を賭けた一つ目の催し物である。

ネムが中心になって、この中では席次の低い隼人やその後輩の吉良、清音、小椿が中心になってコートの準備を行う。

 

三人でチームを作りトーナメント方式で行われ、最終的に優勝した三名に金一封が送られる。

金遣いの荒い一部の副隊長や三席は金一封に目を輝かせていたが、無趣味な隼人はそこまで金一封に惹かれることはなかった。

 

そして重要なのは、基本的にバレーのルールに則る。これだけだ。

つまり。

 

 

特段違反行為に関しては言及されなかったため、何でもありのバレー大会だったのだ。

 

 

「ではチームを発表致します。」

 

 

事前にくじで決めたチームを改めて発表する。

卯ノ花、浮竹は審判という名のギャラリーである。

チーム菊は、夜一、白哉、清音。嫌な予感しかしない。

チーム翁草は、リサ、吉良、白。凸凹すぎるトリオだ。

チーム金盞花は、松本、砕蜂、小椿。小椿は居心地が悪そうだ。

チーム竜胆は、やちる、勇音、(強引に連れてきた)日番谷。身長が・・・。

チーム馬酔木は、拳西、隼人、七緒。松本の取り計らいだった。

チーム椿は、雛森、ネム、ルキア。ここが一番マトモだ。

 

トーナメントはチームが決まった後に決めることとなった。

第一試合は翁草VS椿。

第二試合は金盞花VS竜胆。

第三試合は最初二つの勝者。

第四試合は最も白熱する可能性のある菊VS馬酔木。

最終試合は三つ目と四つ目の勝者だ。

ちなみに第一試合と第二試合の敗者同士で戦い、負けて最下位になった暁にはせんぶり茶の罰ゲームが控えている。

優勝チームは金一封の他、雀部特製トロピカルジュースが待ち構えている。

 

 

「では第一試合を始めましょうか。準備をして下さい。」

「頑張れよ~みんな!」

 

 

浮竹と卯ノ花の声援におされ、(元含む)副隊長たちが前に出る。

ジャンケンには吉良が勝ち、サーブは白がすることになった。

 

 

「第一試合、始め!!」

 

 

卯ノ花の号令で試合が始まり、白がボールを上げた途端から、既に戦いは始まっていた。

サーブで打った球には霊力を籠めており、人間業ではない速度のサーブが襲い掛かる。

椿の面々は誰も反応出来なかった。

 

 

「しろろん一点目ゲット~~!!!!」

「わ~~い!!」

 

 

やちると白が手を取り合って喜んでいる様子に、相手チームは皆悔しがり、味方は幸先よくでたものの気を引き締め直す。

 

 

「くっ・・・反応出来なかった!やはり九南殿の力は凄まじい・・・!」

「最初にしてはええんちゃう?アンタら覚悟しいやぁ?」

「では次からは体組織を限界にして戦う事にしましょう。」

「わっ私、鬼道使います!」

 

 

吉良は、完全に置いて行かれてしまった。

ボールの周りに炎や電流などが飛び交い、ビーチバレーがただの戦場と化している。

ポツンと隅に立っていた吉良は、一切動けずにいた。

「何やってんだよ吉良~!」と隼人が叫ぶ声が聞こえるものの、どうしようもない。

 

 

「双蓮蒼火墜!!」「廃炎!!」

「甘い!『鉄漿蜻蛉!!』」

 

 

鬼道が得意なルキアと雛森がリサと白をあらゆる搦め手で妨害しつつ、ネムが音速の速さのアタックを決める。

だが、始解をした白が風の力をおこして球の速度を落とし、難なくレシーブを行う。

リサのアタックは、鉄漿蜻蛉を使う事があるからか毎回変化球だったり無回転だったり何故か変幻自在で、レシーブ担当の雛森とルキアは対応に四苦八苦する。

三対二にもかかわらず、リサ達翁草が優勢のまま勝利した。

その間、吉良は一歩も動くことなく試合は終わった。

 

 

「情けないな~吉良!何ぼけっと突っ立ってんだよ~。」

「あの状況で僕に動けと!?無理ですよ!」

「侘助で球一時的に重くすればよかったじゃん。」

「受けた人骨折しますよ!」

「そうなった時のために卯ノ花隊長と勇音さんいるんだよ?そんな事も分からないの?」

「いや違うでしょ!」

 

 

どうせなら棄権したいというか、雛森にでも変わってもらいたいのだが、打診してチームそのものが棄権扱いになったら他の二人に殺されそうなので吉良は崖っぷちに立たされたようなものだ。

隼人なら味方してくれるかと思っていたが、変な所で好奇心旺盛なためガッツリ戦っている様子を楽しんで見ている。

がっくりうなだれつつ、次の試合も存在を消すことに徹することにした。

 

 

「それでは次は第二試合ですね。」

「みんな頑張れよ~!」

 

 

金盞花と竜胆の戦いは、殆どが勇音の意図せぬブロックで竜胆が勝利した。

跳ばずとも両手を上げるだけで丁度良い位置に手が来るため、一切の予備動作無しでブロックが出来るのだ。

試合に勝ったものの、やちるの「こてちん背高いから役立ったよ!ありがと~~!」というありがたいお言葉に勇音は再起不能になりかけた。

逆に日番谷は自分の背の低さを気にしてショックを受けていた。

 

一方金盞花では何もしていなかった(できなかった)小椿に批判の矛先が向けられる。

 

 

「アンタ、ロクな事してないじゃない!アタックもパッとしないし、ブロックすら対応できないなんて!ほんっと役立たずね!!砕蜂隊長がいなかったらボロ負けだったわよ!」

「すみませんでした・・・。」

「貴様のせいで夜一様と戦えぬではないか!覚悟は出来てるだろうな・・・!」

「ひぃ・・・お許しをぉぉぉぉ~~~!!」

 

 

浮竹の仲裁で事なきを得たが、夜一相手に戦いたかった砕蜂は未だ腹の虫が収まっていない様子だ。

そして次は、翁草と竜胆の戦いだ。

 

勝利した方のチームが決勝進出を決める。

副隊長五人と隊長一人が分かれる戦いであるため、戦いは熾烈を極めるものになる。

しっかりレシーブなどの工程を挟むくせに一秒ごとにボールがコートを移動するため、目で追うのも大変だった。

相変わらず吉良はポツンと隅っこに立っていたが。

 

 

「やちるちゃんと冬獅郎くん、小さいからかすばしっこくていいな~。僕もうそんなに速く走れないや。」

「羨ましいですよね。」

「えっ!・・・あ、そう、ですね!」

 

 

独り言を呟いていたら突然隣に来た七緒に、やっぱりドキドキしてしまう。

これが夏の効果なのか。それとも海の効果か。

何とか平静を装って会話を続ける。

せっかくのチャンスだ。向こうから話しかけてくれた以上、無駄にするものか。

 

 

「次、一緒ですよね!頑張りましょう!」

「ええ、六車隊長と口囃子さんの息の合った動きがあれば大丈夫でしょう。」

「何言ってるんですか!七緒さんもいて三人でチームなんですよ!今の吉良みたいになりたいんですか?」

 

 

そう言って指し示した吉良は、より一層ブルーなオーラを醸し出している。

仲間に入れてもらえず(というか割り込む勇気が無く)、軽く涙を流しているようにも見える。

多分修兵でも同じ目に遭っていただろう。

 

 

「ああはなりたくないですね・・・。」

「一緒に勝ちましょう!金一封は正直どうでもいいですが、やるからには勝ちたいです!」

「雀部副隊長が作ったジュース、せっかくなので飲んでみたいですしね。頑張りましょうか。」

「はい!」

 

 

会話していると、怒涛のスピードで繰り広げられた戦いが丁度終わったところだった。

あまりにも速すぎる。

ここで勝利をあげたのは、竜胆だった。

 

 

コート間のボールの移動は最初こそ度々あったものの、何かを振り切った勇音が覚醒したせいでリサと白のアタックは殆どブロックされてしまい、徒に体力を消耗したせいで短い時間なのに持久戦の意味で負けてしまった。

ちなみに一度だけ吉良が参加して点数を入れることができたが、それしか戦績はなかったため、非常に影の薄い活躍になってしまった。

 

 

「悔しい~~~!!やちるん!絶対決勝で優勝するんだよ!!」

「うん!!しろろんと一緒におはぎたくさん食べたいもん!!こてちん!最後も頑張って防いでね!」

「はい!!もう何も怖くありません!!!」

「姉さん・・・。」

 

 

目に闘志の焔を浮かべる勇音を見た妹の清音は、若干引いた目で姉の姿を見ている。

もはやネットの前が定位置と化した勇音の存在は、相手にとって威圧感が半端ではない。

 

次の戦いは、ビッグマッチ。

(元含めた)隊長三名入り乱れる地獄のビーチバレーが幕を開けようとしていた。

 


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